第30話 レンディカへの道・迎撃
予約投稿の設定時刻が間違っていたので、手動で投稿しました……
「それにしても……人形とはいえ、見た目は人間と変わらねぇですから、同じ顔が並んでいると不気味極まりないですねぇ」
ティアがそんな事を良いながら、鍾乳洞から出て来た直後の人形どもを火炎魔法で焼き払う。
「つーか……こんな人間そっくりなモン、どうやって作りやがったんだか、って感じだぜ。未だにさっぱりわかんねぇんだよなぁ……その辺に関しては」
ヴァルガスがそんな事を言った直後、人形共の周囲に無数の紫色の蝶が姿を現し、舞い踊り始めた。
なんだあれ? と思ったその直後、蝶の群れが一斉に紫色の粒子へと変化。
同時にその一帯を包み込む球状のプラズマが形成され、人形どもを飲み込んだ。
そして、飲み込まれた人形どもが断末魔の悲鳴を上げながら、文字通り糸の切れた操り人形の如く地面や橋の上にバタバタと倒れていき、そのまま動かなくなる。
……見た目は綺麗だが、なかなかに凶悪だな。
「残骸を橋の上に残しておいたら、邪魔よね」
というシャルの声と共に、赤い衝撃波が人形の残骸に襲いかかり、谷底へと吹き飛ばしていく。
「その一発だけで片付いたんじゃねぇか……?」
ヴァルガスが残存する敵がいない事を確認しつつ、呆れた声でため息まじりに言う。
「なんだか、常軌を逸した速度で強くなっていっていませんかねぇ?」
「そうかしら? でも……これでもミスズ――レンジの姉だか妹だかには、まだまだ及ばないのよねぇ……」
ティアの疑問にそんな風に言って返し、ため息をつくシャル。
「あれは規格外」
「たしかにねぇ。まあ、ソウヤはそんなミスズを相手に余裕気味だったけど」
ジャックがミリアの言葉に頷き、そう言いながら俺の方を見てくる。
「いや、余裕ってわけではないぞ。あれはシャルとの交戦によって珠鈴が大きく疲弊していた所を、魔法のコンボで押し切ったようなもんだからな。珠鈴の疲弊具合とスフィアの魔力残量次第では、厳しかったかもしれん。あと、俺も珠鈴も本気でやりあったわけじゃないってのもある」
と、俺。どっちも相手を殺す気満々で戦闘していたわけじゃないからなぁ……
「そういえば……あの人はソウヤの古馴染みでレンジの姉だか妹だかなのに、どうして向こう側にいるのかしらね……? なんか、あの時も無差別な攻撃をするのは気に食わなそうな事を言っていたし、奴らの活動に賛同しているっていう感じじゃなかったわ」
「そうだな……。まあ、なにを考えてなんのために行動しているのかは不明だが、シャルの感じた通り奴らの思想に共感しているというわけではなさそうだったな」
シャルの疑問にそう答えつつ、本当に何を考えているのやらと思う俺。
「っと、話の途中だが人形どもだ」
俺は視線を鍾乳洞の方へ向けつつ、そんなどこぞのゲームのセリフみたいな事を口にした。
無論、ボケでもギャグでもなく、本当に人形どもが現れた事を告げただけだが。
「3戦目の開始といきますかねぇ」
「……次から次へとキリがありませんね……」
ティアとカリンカがそんな事を言いつつ、人形どもを見据えた。
そんな感じで第三波との戦闘を開始したが、こちらの戦力が高すぎるので、これもあっさりと掃討する俺たち――いや、俺以外の皆。
そして、峡橋をもう少しで渡り終える所まで来ていた。
「あと少し……ですね」
エミリエルがそう言うと、
「ええ。ですが最後まで気をつけていきましょう」
と、クライヴが返す。
「でも、人形は打ち止めかな?」
「たしかに、もう次が来ない」
ジャックとミリアがそんな風に言う。
ふたりの言うように、人形共の第四波は今の所なかった。
だが、最後まで何があるかわからないからな……
なんて事を思っていると、キィィンという何かの駆動音が響いてきた。
……ん? なんだ?
何かと思い、音のする方をクレアボヤンスで視る。
と、峡谷を突き進んでくる飛行艇が視えた。
「……って、あれはギデオンの飛行艇を撃墜した……!?」
俺がそう口にした直後、飛行艇が大きく上空へ舞い上がり、赤い光球をこちらへ向けて発射した。
「げっ、バーストフォトン弾かよ!?」
ヴァルガスがそんな事を言う。
バーストフォトン弾って、さっきチョロっと話に出てきたな。
たしか、地面に大穴を開けるくらいとかなんとか言ってたような……
直撃したらさすがにマズいが……ま、こっちの戦力ならどうにかなるだろう。
そんな風に軽く考える俺だが、その予想通り、
「迎撃します! ――融合魔法《魔王ノ紫雲・電離セシ輝珠》っ!」
と、カリンカが言い放った。
両手に構えた小型の盾から、光球の3倍はあるバチバチとスパークする紫色の電撃球――融合魔法が放たれる。
紫色の電撃球と赤い光球が空中でぶつかりあい、双方が強烈な爆音と爆炎を引き起こしながら、消し飛ぶ。
……否、カリンカは2発目を放っていた。
2連続でも魔力切れを起こさないのか。俺のスフィアよりも魔力総量が多いみたいだな、あの盾。
なんて事を思っている間に、カリンカの放った2発目の電撃球は、爆炎を突き抜け、飛行艇へと激突した。
飛行艇の障壁に阻まれ、飛行艇自体にダメージを与えるには至らなかったものの、大きくバランスを崩す飛行艇。
「あいかわらず、融合魔法は凄まじいわね……」
シャルがそんな事を言って肩をすくめる。
「……撃墜したと思ったのですが……。あの飛行艇の障壁、硬すぎですね……」
「あれ、2発くらい撃ってようやく障壁を消せるからなぁ……」
カリンカの言葉にそんな風に返す俺。
「さすがに、ここからあと2発撃つのは厳しいですね……」
首を左右に振ってくるカリンカ。
俺が橋が落下しないようにサイコキネシスで支えていなければ、俺の方からも撃てるんだが……
融合魔法って何気に精神の集中が必要だから、あれを使おうとした瞬間、おそらく橋の方を支えられなくなるよなぁ……
なんとか急いで渡りきって、それから撃つしかないな。
と、そんな思案をした直後、オレンジ色の極太ビームが飛行艇を掠めた。……なんだ?
「この魔煌ブラスター……まさか――」
「ええ、レンジが来たみたいですねぇ」
シャルの言葉を引き継ぐように言い、ビームの放たれた方へと顔を向けるティア。
同時に、レンジの飛行艇がこちらへ接近してくるのが視界に入る。
そして、その飛行艇から、まるで帯のように絶え間なく連なる赤い楕円の魔法弾が、先に放たれたビームの後を追うようにして飛んできた。
ただし、ビームの軌道そのものを追ってきているわけではなく、少し上下左右にぶれている。おそらくそういう風に撃ち出しているのだろう。
飛行艇は魔法弾に気づいて回避しようとするも、彼我の距離と魔法弾自体の速度から考えても、さすがにそれは無理というものだ。
案の定、回避しきれずに飛行艇の側面に着弾。
頑丈な障壁と装甲ではあったが、帯状に連なった魔法弾を立て続けに食らってはさすがに耐えきれなかったようで、遂に着弾点とその周囲の装甲で、複数の爆発が起こった。
それを皮切りに、飛行艇全体で小規模な爆発が連続して起こり、そこかしこから黒煙が噴き上がり始める。
そして、一際大きな爆発と共に飛行艇が斜めに傾く。
どうやら制御を失ったらしく、峡谷の岩壁に激突しながら、谷底へと消えていった。
「今のうちに渡ってしまいましょう。ソウヤさんに負担をかけ続けるわけにはいきませんし」
というクライヴの言葉に、飛行艇を眺めていた俺とクライヴ以外の皆が、ハッとした表情を見せた後、橋を足早に渡り始める。
まあ、そこまで負担ではないのだが、サイコキネシスの維持以外、何も出来ないのが少々困り物ではあるので、早く渡り終えてしまいたいというのはたしかだ。
――そんなこんなで全員が渡り終えたの確認した俺は、サイコキネシスを解除。
直後、本来の重力に従う形で、吊り橋が落ちる。
「おっと、通信ですねぇ」
ティアがそう言って携帯通信機を耳に当てる。
「良いタイミングでしたねぇ。え? 橋が落ちやがった? ああ、あれは随分前に落ちていたんですよねぇ、実は。ソウヤさんが異能で無理矢理浮かせていた感じですねぇ」
通信機に向かってそんな事を告げるティア。
ま、レンジからしたら急に落ちたようにみえるのはたしかだよなぁ。
「んー、その辺は私に言われても良く知らねぇですからねぇ。なので、詳しくは直接聞きやがればいいんじゃないですかねぇ。代わりますかねぇ?」
俺の方を見てティアが言う。
レンジが俺に何か聞きたいようだな。
いやまあ……何かっていうか、サイコキネシスで橋を浮かせていた事についてだとは思うけど。
地球にいた頃は、あんな芸当出来なかったしな。
通信を代わるのか? と思ってティアの方を見ていると、
「ま、たしかにすぐに合流するからそれでもいいですねぇ」
と、そんな風にティアが言った。
ふむ、どうやら後でいいという感じの話になったみたいだな。
そして、ティアは別の事をレンジに問いかける。
「――ちなみに、敵の増援はどうなんですかねぇ?」
増援が来ても既に橋は落ちているから問題はないが……飛空艇が来たら面倒だな。
ああでも、レンジの飛行艇が来ているわけだし、もしそうなってもレンジに任せればいいだけか。
そう考えていると、ティアが、
「ふむふむ、なるほどなるほど。それなら問題なさそうですねぇ。この先の荒野で合流でいいですかねぇ? ――ああ、了解ですねぇ」
と、そんな事を話して通信を終了させた。
同時に、レンジの飛行艇が旋回するような動きで、スロープのある岩壁の先へと消えていく。
「――レンジとロイド支部長は、この先……レンディカ遺跡群の外縁部の手前で待っているそうですねぇ」
と、そう告げてくるティア。
「まあ、あの飛行艇なら地上にも降りられるから妥当な所ね。待たせるのもあれだし、さっさと行くとしましょうか」
というシャルの言葉に促される形で、俺たちはスロープを登っていく。
「しかし……落ちた橋は、どうしたもんかなぁ……」
橋がなくなってしまい、鍾乳洞側へ渡れなくなってしまった渓谷を見ながら、そんな事を呟くと、
「そっちは、カルカッサの人間で修復しておくから気にすんな。っていうか、どうせならもうちょい頑丈で渡りやすい橋に作り変えちまった方がいいな。アーヴィングあたりに、ちょいと話をしてみるか」
なんて事をヴァルガスが言った。
まあたしかに、吊り橋じゃ色々と都合が悪いよなぁ……
よし、俺もアーヴィングに言っておくとするか。
投稿が変な時間になってしまいました……
今週は少々予定が詰まっており、あまり執筆する時間が取れず、木曜日と土曜日の2回の更新は難しいため、間の金曜日に1回更新する形とさせていただきます……
一応、来週は平常通りにいける想定です!