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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第29話 レンディカへの道・峡橋

 ガザナ峡橋を渡った先で交戦する事を決めてから約10分――どうにか人形どもに追いつかれる事なく、そのガザナ峡橋まで到達する事が出来た。

 そして、シャルの言ったとおり、橋の反対側はたしかに道がつづら折りのスロープになっていた。しかも幅が広く戦闘を行うには最適な感じの場所だ。


 だが……その前に問題がひとつあった。

 

「吊り橋かぁ……しかも長いなぁ……」

「500メートルくらい?」

「そのくらいかな? 世界一かもね、これ。うーん……どうやって支えているんだろう……」

「中世時代の吊り橋のような縄製っぽい。だけど……普通に考えたら、支えきれないような?」

「そうだね。多分、魔法で補強されているのかな? なんか見た目よりも頑丈そうだし」

「100体乗っても大丈夫? 人形どもが」

「まあ、たしかに耐えそうだけど、その前に切断される可能性があるかなぁ……」


 と、ジャックとミリアが言うように、肝心の向こう側へ渡るための橋が、吊り橋だったのだ。

 また、横幅はふたりがどうにか並べる程度と結構狭い。

 ひとりしか通れない程狭いわけではないのと、木床版に隙間が開いていたりはしないのが幸いというべきだろうか。

 慎重に一歩一歩進まなければ落下の危険性があるというような代物ではないので、早く渡る事は出来なくもない。

 ただ、ジャックの言った通り、後ろから来た人形どもによって、橋を支えている縄を切断される可能性がないとは言えない。

 というより、むしろ奴らなら躊躇なく切断してくるだろう。

 

「この縄、防御魔法で強化してあるから、そんな簡単に切断されたりはしないわよ」

 そう言ってシャルが縄に向かって右手に持った刀を振るう。


 しかし、刀が縄に接触すると同時に、キィンという甲高い音が響き、縄には傷一つ付かなかった。


「ほらね」 

「たしかに頑丈だな」

 シャルに対しそう言葉を返すと、

「ですねぇ。そして、躊躇している場合じゃねぇですねぇ。先行しますねぇ」

 と告げて、真っ先に吊り橋を進み始めるティア。

 

 そのティアを見ながら、

「ソウヤも先に急いで渡った方がいいんじゃない? ソウヤが向こう側に渡れれば、最悪、例の異能で引っ張れる気がするんだけど……?」

 と、シャルが問いかけてきた。『例の』というのは、おそらくアポートの事だろう。

 

「数人なら可能だが……あまり確実ではないな。むしろ、最後の方が手はある」

 ……そう、一応最悪の場合でも『取れそうな手段』があるにはある。


 ただ、それを試すわけにはいかないから、もしそれをしなければならない状況になったら、ぶっつけ本番、出たとこ勝負といった形になるが。

 

 俺がその事を説明すると、シャルは、 

「そうなの? それじゃ、私とソウヤは最後がいいわね。こういう時にソウヤを守るのは私の役目よ」

 なんて事を言って返してきた。

 さも当然のように、俺を守る気満々のようだ。


 とりあえず俺は、シャルがいれば安心だと告げる。

 すると、横で聞いていたヴァルガスが頷き、

「ま、そうだな。んじゃ、先に行くぞ」

 と、そう言って吊り橋を渡っていく。

 そして、他の皆もそれに続いて次々に渡り始める。

 

 シャルと俺以外の全員が渡り始めたのを確認した所で、俺は振り返りクレアボヤンスを使う。

「……まだ人形どもは、クレアボヤンスで視える範囲には来ていないな」

 もっとも、鍾乳石や岩壁があるせいで、クレアボヤンスでも視えるのは、せいぜい200メートル先くらいまでだが。

 障害物がなければもっと遠くまで視えるんだが、こればっかりは仕方がない。

 

「なら、私たちも急いで渡るとしましょ」

 というシャルに促される形で、俺たちも吊り橋を渡り始める。

 

 ――そうして、ティアがちょうど吊り橋の中間地点付近に到達した所で、クレアボヤンスの視界の中に、人形どもの姿が遂に入り込んできた。

 

「人形どもが、もうすぐそこまで迫ってるぞ! もう少しだけ急いでくれ!」

 そう俺が皆に声をかける。

 

 今までよりもペースを上げて進むが、人形どもの方がやはり早い。

 遂に吊り橋へと人形が到達。

 人形どもは橋を渡る俺たちの姿を捉えるなり、躊躇なく、縄に剣や斧といった刃物を振り下ろした。

 

 が、先程のシャルと同様、キィンという甲高い音が響き、どれひとつとして、縄を切断する事はおろか、傷ひとつ付ける事が出来なかった。

 

「どうやら、今の所は大丈夫そうだな」

「ええ。接近してくる奴だけ排除しながら、急いで渡ってしまうとしましょ」

 俺の言葉にそう返し、人形どもの動きを注意深く観察するシャル。

 

 しかし、人形どもはいつまで経っても足を踏み出さない。

 ……どういう事だ?

 

 疑問に思いながらシャルと同じように観察していると、やたらとゴツいタンク付きのウォーターガンのような形状の物を持った人形が、奥――鍾乳洞の中から姿を見せた。

 あれ、水鉄砲……じゃないよな、さすがに。……火炎放射器、か?

 

「なあ、あの防御魔法って、火にも強いのか?」

「え? う、うーん……多分、強いはずだけど……」

 俺の問いかけに、自信なく答えるシャル。

 すると、前を進むエミリエルが、

「むしろ、こういう所に使われている防御魔法は、火に対する耐性の方が高いとお姉ちゃんが以前言っていましたね」

 と、そんな風に言ってきた。

 

「へぇ、そうなのか。なら、あれが火炎放射器の類でも問題ないな」

 そう俺が言うと、同じく前を行くクライヴが問いかけてくる。

「その火炎放射器というのは、どういう代物なのですか?」


 ……ああ、この世界って、火炎放射器の類もないのか。

 まあでも、炎を撒き散らすだけなら火属性の魔法の方が使い勝手がいいし、あえて作ろうと思うような人間はいないか。

 と、そんな事を思いながら、手短に火炎放射器について説明する俺。


「――なるほど、それは炎以外も放射出来るのですか?」

「一部の構造とタンクに詰める物を変えれば可能ですね……」

 クライヴの疑問に答えた所で、ふと嫌な予感を覚えた俺は、人形どもの方へと視線を向ける。

 

 と、ちょうど人形が火炎放射器のような物を構えた所だった。

 刹那、放射が開始される。炎――ではなく、紫色の液体が。

 

 ……なんだあれ? 毒……か?

 アリーセなら見ただけでわかったかもしれないが、俺じゃわからんな……

 いや、まてよ……? あれと同じ物をどこかで見たような……

 

 どこかで見たそれを思い出そうと、頭を捻りながら様子を見ていると、縄がジュワジュワと泡を立てていた。

 

 ……なっ!?


 ――そ、そうか!

 

「……思い出したぞ! あれは霊峰でキメラが使ってきた毒ブレスだ!」

「それって……もしかして、あの障壁すら破壊した奴の事かしら?」

「そうだ! あれにそっくりだ!」

「たしかにそう言われると……。……え? ちょ、ちょっと待って! それじゃあ、防御魔法ごと溶かされ――」


 シャルがそこまで口にした所で、縄が溶けて崩れ落ちた。

 ガクンと吊り橋が大きく傾く。急いで欄干代わりの縄を強く握る。

 

「「きゃあああああっ!?」」

 エミリエルとミリアの悲鳴が響いた。

 

 バランスを崩して転倒しかけたエミリエルを、クライヴがどうにか支える。

 前方のミリアの方は、落下しそうになっていたのをジャックが手を掴んで支えた。

 ふぅ……。どちらもなんとか持ちこたえたようだな。

 

「ならっ!」

 俺は即座に『取れそうな手段』を実行すべく、サイコキネシスを実行。

 傾いた釣り橋をサイコキネシスで持ち上げる。


 と、落下しかけていた吊り橋が再び浮上し、平らな状態で固定された。

 というか、固定し続けている。俺が。

 

「な、なんとか上手くいったか……。しばらくは維持出来るが、なかなかに厳しい……な! 皆、すまんが急いで渡ってくれ……っ!」

 サイコキネシスを発動させながら、そう叫び、橋の向こうを目指してジリジリとゆっくり後ろ向きに進む俺。


 前を向いて走ったりしたら、集中が乱れてサイコキネシスが解除されてしまうのは間違いないので、集中を乱さないようにするためには、こうやって進むしかない。

 

 そして、当然それを黙って見ている人形どもではない。

 橋が落ちないと判断したのか、遂に橋へと足を踏み入れてきた。それも続々と。

 

「ぬ……ぐぅ……っ!」

 人形どもの重量が加わり、サイコキネシスの維持が厳しさを増した。

 だが、なんとか耐える。

 

「とりあえず、排除するわ!」


 シャルが人形どもに向かって大きく跳躍。

 その体勢から左右の刀剣を交差させるように振るい、赤い衝撃波を放った。

 

「がっ!?」

「ぎっ!?」


 衝撃波をまともに食らった数体の人形が纏めて吹き飛び、吊り橋から落下していく。

 

 その直後、突然小さい黒雲が鍾乳洞の入口付近に出現した。

 ……いや、雲がこんな低い場所に出現するわけが……

 と、思った瞬間、黒雲がバチバチを音を立て始め……同時に、青白い雷撃が辺りに降り注いだ。

 

「ぐげっ!?」

「あばっ!?」

「ごあっ!?」


 奇声めいた断末魔の叫びと共にバタバタと倒れていく人形ども。

 まあ、そこはどうでもいいとして、あの雲、もしかして魔法かなにか……か?

 

「な、なんですか、あれ……。見たこともない魔法ですが……」

 同じように疑問に思ったらしいエミリエルがそう口にする。

 

「あれは魔法ではなく、『黒雷』の霊具ですね。ヴァルガスさんが昔、使っていました」

 クライヴがそんな風に説明した。

 

 霊具……。ああ、そういえばシャルも雨――じゃなかった、水を弾く防護膜を展開する霊具とやらを持っていたっけな。ビー玉みたいな奴。

 

 霊具って、アカツキ皇国の秘匿された技術とやらで作られているとかなんとかで、ほとんど見かける事がないから、すっかり忘れていたぞ……

 ああいや、もしかしたらギデオンたちが使っていた、紫色の障壁を生み出す杭とかは、魔煌具とは言い難いような代物だったから、霊具の類だったのかもしれないな……

 まあ、今となっては真相は闇の中、という奴だが。

 

 と、そんな事を考えている間にも、どこからともなく飛んできた複数の魔法が人形を吹き飛ばしていく。

 どうやら、先行していたティアたちの放った魔法のようだ。

 

 サイコキネシスを維持し続けている都合上、俺が迎撃に参加出来ないのが問題かつ無念だが、それでも有り余る程の戦力がこちらにはあるわけで……

 

 こちらの総攻撃の前に、人形どもはあっという間にその数を減らしていき……

 

「うぽぺぇぇぇぇぇっ!」

 最後の1体が、良くわからない断末魔の叫びをあげながら、峡谷の底へと落下していった。

 

 ヴァルガス以外の面々の戦闘能力は知っていたが、ヴァルガスもさすがは傭兵団の団長だったというだけあって強いな。

 まあ、ほとんど霊具を使っての攻撃だったので、霊具の力だと言ったらそれまでだが……個人的には、そういった強力な攻撃アイテムを所持しているというのもまた、『強さ』だと言っていいんじゃないかと思っている。

 

「うーし、次が来る前に少しでも進むぞ!」

 というヴァルガスの言葉に頷き、第二波が来る前に距離を稼ぐ俺たち。

 

 だが、100を数えるよりも先に、第二波がワラワラと鍾乳洞から飛び出してきた。

 

 橋の向こう側で交戦する予定が、橋の上で交戦する形になってしまったな。

 まあ、鍾乳洞内で戦うよりは戦いやすいからまだいいかもしれないが……

というわけで人形との戦闘ですが……集団とはいえ、そこまで何波もくるわけでも、多いわけでもないので、割とさっくり片付くと思います(予定では、ですけど……)

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