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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第23話 ローディアス大陸と鬼哭界と真なる王

 ――俺と朔耶がゲンナリとしている間に、皆はローディアス大陸――正確に言えば『紅翼』と『蒼刃』からもたらされた情報――についての話に移っていた。

 

「ローディアス大陸の状況もあまり良いとは言えないでありますね……」

「そうだね、一応姉さんが『紅翼』や『蒼刃』の方々と協力して、銀の王の動きを抑えてはいるようだけど……」

「やはり、魔法や魔煌具が使えない状況が続いているのが、厳しいでありますね」

 クラリスとエルウィンがそんな風に言った。

 

「――先週、遺物の解析状況を聞くついでに、そっちについても聞いてみたが、あと1ヶ月くらいはどうしてもかかるらしい。例の本の解析自体はほぼ済んでいるけど、それをもとにして術式を構成するのが大変だそうだ」

 俺はエルウィンとクラリスの方を見てそう告げる。

 

「ただ……その術式が完成したとしても、国内がこの状況では、ローディアスの解放を手伝う事が難しいと言わざるを得ないのも問題だね……」

 アーヴィングが難しい顔をしながらそう言い、

「ローディアスの解放のために戦力を送ったりしたら、連中――竜の御旗が一斉に動くだろうからね」

 と、エメラダが付け加えるように言う。

 

「まずは連中をどうにかするのが先か……」

「ん、たしかに。でも、うん、実際にはなかなか厳しい。拠点を叩いても叩いも、全然真なる王とかいう奴の所に辿り着けない。うん」

 俺の呟きにそう返してくるロゼ。

 

「真なる王に関しては、レンジたちも行方を追っているらしいけど、なかなか掴めないみたいよ。銀の王(しろがねのおう)以上に厄介な相手だとか言っていたわ。一応、下部組織に届いた真なる王からの映像通信――の一部を撮影したと思われる写真を手に入れたと言って、送られてきたけど……これだけじゃさすがにねぇ……」

 なんて言ってくるシャル。


「とりあえず、それ見てみたいんだが……」

「いいわよ」

 俺の言葉にシャルがそう答えながら、写真を服の収納空間から取り出すと、それを俺に手渡してくる。

 

 受け取って写真を見てみるも、そこには珠鈴が言っていた通り、宇宙――どこかの星雲が、ホログラムのように映し出されている殺風景な部屋しか写っていなかった。

 

「……なるほど、これじゃさっぱりだな」

「んー? その映像通信がー、どこから送られてきているのかー、その場所に行ってー、逆探知してみますかー?」

 俺の言葉に横から写真を覗き込んできたディアーナが、そんなとんでもない事を言って来た。

 

「えっ!? そんな事出来るんですか!?」

「多分、可能ですよー」

 驚き問うシャルと、それにさらっと言って返すディアーナ。


「さ、さすがは女神様だね……」

「うん、さすが」

 ジャックとミリアがそんな事を少し離れた場所で口にする。

 

 皆の反応に、まあそうだろうなぁ……と思いつつ、

「じゃあ、早速お願いしてもいいですか?」

 と、尋ねる俺。

 

「わかりましたー。ではとりあえずー、そこに繋ぎましょうー。写真を貸してくださいー」

 そう言ってくるので、俺はディアーナに写真を手渡す。

 

 受け取ったディアーナは、目を瞑って「むむむー」と唸った後、

「なるほど、ここですねー。えいっ!」

 なんていう声と共に、テレポータルを開いた。

 

 開かれたテレポータルの方を見ると、たしかに写真とほぼ同じ殺風景な部屋が、テレポータルの向こう側に見える。

 

「これだけでも十分驚きだね……」

「さすが女神様でありますな」

 先程のジャックとミリアみたいな会話を、今度はエルウィンとクラリスがした。

 まあ、俺は慣れているのもあるからあまり驚きを感じないが、たしかに一部のイレギュラーな状態の場所を除けば、ほぼどこへでも瞬時に行けるのだから、凄まじいといえば凄まじいよな。

 

「ではー、行ってみましょうかー」

 そう言ってテレポータルをくぐるディアーナ。

 俺たちもそれに続く。

 

 と、テレポータルをくぐった瞬間、一気に温度が下がる。――っていうか、結構な寒さだな……

 外がどんな場所なのかと思い、窓を探して部屋を見回す。

 

 かなり広い部屋だが……どこにも窓の類がないな。

 クレアボヤンスで壁の向こう側を覗いてみるも、そこには別の大部屋があるだけだった。

 ……って、四方全部が大部屋かよ……。なんとも変な構造の建物だな。

 

 外の様子を探るのは諦め、ディアーナに聞いてみる事にする。

「――なんだか随分と寒いですけど、ここはどの辺りなんです?」


「セルディスタ盆地ですねー」

「こんな辺境地域にも、奴らの拠点があったのか……」

 ディアーナの説明にそう呟くアーヴィング。


 セルディスタ盆地だのこんな辺境地域だのと言われても、聞いた事のない地名なのでさっぱりだ。

 俺と同じで、地名を言われてもどの辺りなのかさっぱりわからないらしい朔耶が、小首を傾げて問いかける。

「セルディスタ盆地? どの辺?」

 

「イルシュバーン共和国の北西部ですね。かつてはその盆地の中心に、底に灼熱のマグマが煮えたぎっているのが見える『煉獄の釜』と呼ばれる大穴があったそうですよ。まあ、長い間にすっかり冷え固まり、今では溜まった雨や雪によって湖になっていますけど」

 朔耶の方に顔を向け、そう説明するアリーセ。

 ふむ……。要するにカルデラって事か……?

 

「ほぼ毎日、北の山脈から吹き下りてくる『氷粧颪(ひょうしょうおろし)』と呼ばれる冷たい風の影響だかなんだかで、この盆地だけ気温が周囲の地域よりもかなり低いのよね。多分この建物の外は、先月行った霊峰みたいに真っ白になっているわよ」

 と、補足するように俺の方を見て言うシャル。

 どうやら、俺も朔耶と同じく、さっぱり分かってない事を理解していたようだ。

 

 うーむ、なるほど……。それでこんなに寒いんだな。

 山颪(やまおろし)ひとつでそんな現象が起きるというのは、なんとも不思議な感じだが、ファンタジー世界だからな……ここ。

 

 なんて事を思っていると、クラリスとエルウィンが、

「うーん……。ボクはそこまで寒さは感じないでありますが……」

「まあ、僕たちの祖国であるフォーリアは、国土の大半が寒冷地帯に属するから、1年を通じて寒い日の方が多いからね。寒さに慣れているのもあると思うよ」

 そんな事を言う。

 たしかにあそこは豪雪地帯って感じだったからなぁ……

 

「必要でしたらー、防寒具を用意しますよー?」

 ディアーナが俺たちの方を見回してそう言ってくる。

 

 が、そこまでの寒さではない事もあり、皆、必要ないと答えた。

 

「そうですかー? でしたらー、早速探知してみますねー。えーっとぉ……この写真の場所はーっと……」

 ディアーナが写真と周囲を交互に見ながら、部屋の一角へと移動する。

 そして「ここらへんですねー」と言って立ち止まり、どこからともなく杖を取り出した。

 

「ではではー、逆探知ー」

 そう言って杖を掲げるディアーナ。

 その直後、杖の先端に明滅する青い光球が生み出される。

 

 ――5分ほどすると、光球の明滅が止まり、青い光が一際強くなった。

 ディアーナはその青い光を見て「あれぇー?」と呟いた後、俺たちの方を向き、

「探知してみたのですがー、あの映像通信はー、グラスティア外から送られて来ていますねー。そのせいでー、正確な場所はー、特定出来ませんでしたぁ……。ごめんなさいぃ……」

 そう告げて項垂れた。

 

「いえ、むしろそれがわかっただけでも十分ですよ」

 俺がそう返すと、エメラダがそれに続く形で、

「ええ、その通りです。――にしても……グラスティアの外?」

 そう言って首を傾げる。

 

 うーん……? と思っていると、考える仕草をしていた朔耶がディアーナに問う。

「冥界の時も、座標軸がマイナスとかなんとか言っていた気がしますけど……あれと同じ様な感じですか?」

 

 ああ……そういえば、そんな事言ってたっけな、あの時。

 

「あー、そうですねー。あの時と同じマイナスですー。ただー、ローディアス大陸の中央部を中継してー、通信がー、送られてきていましてー、そのせいでー、正確な送信元の場所がー、特定出来ませんでしたー」

 朔耶の問いかけに頷いて返すディアーナ。

 

「そうなると……送信元は異界? 世界を跨いで通信してきているのか?」

 俺が呟くようにそう言うと、カリンカが頬に指を当てながら、

「となると、とんでもない通信技術ですね……」

 と、言ってきた。


「そうねぇ……。世界と世界の間を跨いで通信するだなんて、竜の座に至った者ですら、生み出せるかどうか怪しいレベルの通信技術よねぇ……。だけど……銀の王(しろがねのおう)――鬼哭界(きこくかい)の技術レベルであれば、出来てもおかしくはない感じもするわ」

「たしかに、あいつらが使う見た事もない武器や兵器に使われている技術も併せて考えると、その辺の事も普通に出来そうかも、って思えるよね」

 シャルとジャックがそんな風に言う。

 

 うーむ、たしかにあいつらならありえるな。

 ビームブレードみたいなSFチックな代物を使ってくるくらいだし、そのくらい出来てもおかしくはない。

 そう思っていると、ディアーナもまた手に持った杖を消しながら、

鬼哭界(きこくかい)からの通信……ですかー。たしかにありえますねー」

 と、そんな風に言ってきた。


 ディアーナもありえそうだと考えているのなら、最早、あいつらな可能だという前提で考えて良いかもしれないな……

 ……って、あれ? そうなると真なる王って――

鬼哭界(きこくかい)の支配者か何か……なのか?」

 

 つい口を()いて出たその言葉を耳にしたアーヴィングが、

「――銀の王(しろがねのおう)が連中の間にいる事を考えると、可能性はあるね」

 そう顎を撫でながら言ってくる。

 

「んんん? そうなると、どうやって乗り込めばいい……? うん」

 ロゼのもっともな疑問に俺は腕を組んで考える。


「んー、冥界の時と同じ――奴らと同じ方法を使うとか……か? たしか銀の王(しろがねのおう)は、特異点同士を利用してゲートを開いた……とか、そんな風な事を言っていた気がするが……」

「言ってたね。……もしかして、通信を中継していた場所が、この世界と鬼哭界(きこくかい)とのゲートがある特異点……とか?」

 俺の言葉にそう返してくる朔耶。

 

「可能性はあるな……」

 俺は朔耶にそう答えると、すぐにディアーナの方へと向き直り、問う。

「ディアーナ様、その『中継地点』の座標はわかりますか?」

 

「それがー、妙なジャミングがかかっていてー、特定が難しいですー。ローディアス大陸のどこかだとは思うのですがー」

 と、申し訳なさそうに答えるディアーナ。

 それに続く形で、朔耶が俺の方を見て、

銀の王(しろがねのおう)って、冥界での交戦中に女神様がテレポータルを開いて現れた事を知っているはずだよね? だとしたら、なんらかの対策をしていたとしてもおかしくはないかも……?」

 なんて事を言ってきた。


 ……ああ、そういえば冥界で対峙したガラの悪そうな銀の王(しろがねのおう)が、ディアーナの開いたテレポータルに驚いていたっけな……

 あの銀の王(しろがねのおう)は倒せていないし、仮に倒せていたとしても、謎の情報共有手段で、全ての銀の王(しろがねのおう)に伝わっていたであろう事は間違いない……


 ……だとすると、対策をしているのはほぼ確実……と思ったほうが良い、という事か――

別の世界との通信って、なんだ良いですよね。

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