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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第22話 共有されるモノ

 ――機密性が高い話をするのにバッチシな感じの、ディアーナの空間に皆が揃っているという事もあり、どうせなら……と、この場で現状の確認や今後の方針について話す事になった。


 すると、いの一番にアーヴィングが、アルベルトを殺害したであろう人物の目星がついたと俺たちに告げてきた。

 しかも、今回の襲撃にも大いに関係しているそうだ。

 俺は、そいつは一体どこのどいつなんだ? と思いつつ、アーヴィングの言葉に耳を傾ける。

 

「――その者の名はディラネスローヴァ・ベスティアード。『翠爪』に所属している潜入捜査を専門とする護民士だよ」

 

 ディラネスローヴァというその名に、ピンと来る俺。

 そう……ルクストリアに訪れた初日に、大工房前の停留所で、エクスクリス学院行きのトラムを待っている時に出会った、スーツ姿のセレリア族――ディランだ。

 そういえばあの時、横にアルベルトもいたな……


「そのディラネスローヴァという護民士の方は、今回の式典に関わっているのですか?」

 疑問を口にするアリーセに対し、アーヴィングは頷き答える。

「ああ、今回の式典の警備主任――つまり、警備の責任者だよ。更に言うと、シャルロッテ殿が情報屋と会う予定だった時間に、その地点のすぐ近くに単独で居た事も掴んでいる」


「なるほど、つまり……そやつは二重スパイだったというわけだな」

 エメラダが腕を組みながら言う。

 

「と、言いたい所だが実は違う」

 エメラダに対しそう返すアーヴィング。

 

「ん? どういう事だ? そやつはエーデルファーネだか真王戦線だかに潜入していたのではなかったのか?」

 アーヴィングの言葉の意味が理解出来ず、エメラダが首を傾げる。

 

「実はこいつだが――」

 アーヴィングはそこで言葉を切り、斜め前にいるジャックの方へと顔を向ける。

 

 ジャックはそれに気づくと、アーヴィングに対して頷いてみせてから、

「――メルレンテ。クスターナ都市同盟の北端に位置する都市ですが、そこの市長とも繋がりがある……いえ、あった事が確認されています」

 と、エメラダの顔を見ながら告げるジャック。

 

「まさかの三重スパイか……。しかし、あった……という過去形なのはどういう事だ?」

 そう俺が言うと、エメラダが同意する。

「ああ、それは私も気になった」

 

「……メルレンテの市長は、昨日、何者かに暗殺されました」

 ジャックの代わりに、ミリアがそう答えてきた。

 そして、それに続く形で補足するようにカリンカが口を開く。

「しかも、エクスクリス学院の学院長が殺された時と同じように、『スナイパーライフル』とやらが使われたようです」


「え? スナイパーライフルを使うガルシア――銀の王(しろがねのおう)のひとりは、私たちが交戦して撃破したはずだけど……?」

 シャルがそう言いながら、クラリスと朔耶を交互に見る。

 

「でありますね。間違いなく倒したはずであります」

「うん。冥界で倒した銀の王(しろがねのおう)と同じように、最後は爆散したし」

 クラリスと朔耶は、頷いてそんな風に言葉を返した。

 

「ま、他にも使える奴がいるって事だろう。銀の王(しろがねのおう)――鬼哭界の連中は、ビームタイプの武器を普通に使っているようだし、銃火器を普通に使えてもおかしくはないからな」

 俺は腕を組み、シャルの方を見てそう告げる。

 

「……ふむ。その暗殺者は未だに特定出来ていない感じか?」

「昨日の今日な事もありまして、メルレンテの方でも2キロ程離れた場所にある、時計塔から発射された……という事までは突き止めた物の、その時間、その場所に誰がいたのか……までは洗い出せていないそうです」

 エメラダの問いにジャックが答え、それにミリアが続く形で、

「なお、時計塔の管理部署の人間は、全員まったく違う場所に居た事が確認されているとの事」

 と、言った。

 

「うん、あの武器は射程が長すぎるのが厄介、うん」

「たしかにそうですね。私の使う弓とは比べ物にならないです」

 ロゼとアリーセがそう言うと、それを聞いていた朔耶が、

「うーん……。たしかに一般的に使われている魔煌弓とかソーサリークロスボウとかと比べて、アレの最大射程は桁違いだけど……さすがに2キロも離れていたら、風やら何やらの影響で、まともに当てるのは難しいような……。発射されるのは魔法じゃなくて物理的な弾丸だし」

 そんな風に思った事を口にする。

 

 たしかに朔耶の言う通り、魔法の矢やボルトを飛ばすこの世界の――現行の遠隔武器と違い、スナイパーライフルで撃ち出されるのは実体を持った弾丸だ。

 魔法の矢やボルトは風の影響とかそういうのを一切受けないから、超長距離でも最初の狙いさえ外さなければ、狙った通りの場所へ一直線に飛んでいく。

 対して普通の弾丸は、宇宙空間でもない限りは、ひたすら一直線……とはいかない。距離が遠くなればなるほどズレが生じてくる。

 特に性能限界を超えた距離を当てるのは、そういったあらゆるズレの要素を事細かに計算をしてもなお、至難の業だ。

 

「そこまでの弾道計算を完璧に出来て、なおかつその計算通りに射撃出来る奴……か」

 そんな風に呟く俺。

 

 たしかに銀の王(しろがねのおう)は銃火器を普通に扱えるかもしれないが、そこまでの超長距離狙撃が出来るような奴がそんなに複数いるものなのだろうか……? いや、まてよ……?

 

「――あいつらは、瞬時に情報を共有していた。という事は、そういった技術すらも共有可能なんじゃないか? 実際、召喚魔法はガルシアという銀の王(しろがねのおう)も使えたんだろ?」

 そう俺が推測を口にすると、シャルが頷き答えてくる。

「ええ、たしかに召喚魔法を使ってきたわね」

 

「んん? 召喚魔法だけじゃなくて、狙撃の技術まで共有出来る……? ……そういえばあいつ、ビームブレードも使ってたような……」

 朔耶がこめかみに人さし指を当て、小首を傾げながらそう呟くように言うと、シャルが再び頷き答える。

「そうね。そんな風にガルシア自身も言っていたわね。始めて見る武器だったから、いきなり伸びるとは思わなくて、最初、危ない所だったわ」


「――私たちが冥界で倒した銀の王(しろがねのおう)も、ビームブレードを使ってたよね」

「ああ、そうだな。……つまり、ガルシアという銀の王のビームブレードは――」

 俺が朔耶の方を見てそこまで言うと、

「剣を振るう技術――剣技ごと共有されていた?」

 と、俺の言葉に被せるようにして言ってくる朔耶。

 それに対し、俺は短く答える。

「――その可能性がある」


「なるほど……。情報のみならず、技や術式の類まで共有出来る存在……というわけですか。とてつもなく厄介ですね……」

 カリンカがそう言いながら、ノートに書き込んでいく。

 

「やれやれ……。情報の共有だけでも手を焼いている状態だというのに、技や術式の類までとはね……」

 そう言って肩をすくめるアーヴィングに、エメラダが疑問の言葉を投げかける。

「手を焼いている?」

 

「ん、竜の御旗に属する組織の拠点を強襲して情報を得ても、うん、その情報から別の拠点を割り出して仕掛ける頃には、すでにもぬけの殻……という事が何度かあった。うん」

 アーヴィングの代わりにそんな事を言うロゼ。

 それを聞いたアリーセが、ため息混じりに、

「リハビリ、とか言ってどこに何しに言っているのかと思ったら、そんな事をしていたんですね……」

 そう言ってジトっとした目をロゼに向ける。

 

 ロゼは目をそらして口笛を吹……けていないな。

 

「まあ……強襲部隊にいつの間にか忍び込んでいる事に気づいてからは、精鋭を張り付かせていたけどね」

「……ん、途中から妙に部隊の練度が上がったと思ったら……」

「言っても無駄なのはわかっているからね。だったら部隊内に手練を配置しておけばいいって思ってね」

 ロゼの言葉に、顎を撫でながらアーヴィングがそう返す。


「むう……」

「むう、じゃありません、まったく……」

 不満そうな顔のロゼに、アリーセが再びため息混じりに言う。


「――そちらの話はさておき……その『もぬけの殻』っていうのは、強襲の情報が漏れていたとかではないのか?」

「ディラネスローヴァ以外に、スパイの類がいないかどうかは同時に調査していて、強襲部隊やそれに関わる者の中にはいない事はわかっている。……まあ、残念ながらそれ以外の所に数人いたけどね」

 エメラダの問いかけにそう答え、肩をすくめてみせるアーヴィング。

 

「なるほど……それで銀の王(しろがねのおう)が情報を伝えた、と?」

「その可能性が高いと思っているよ。イルシュバーンの南部の拠点を強襲して得た情報をもとに、数時間後に北部の拠点を急襲しても逃げられた後だったという事もあったからね」

 俺の言葉にそう返してくるアーヴィング。

 南部と北部――間の距離は……大体2500キロくらいだったか?

 通信の類を使わない限りは、情報伝達は不可能だな。

 

「通信の類は使われなかったんですか?」

 エルウィンが俺が思った事を口にする。

 それに対しアーヴィングは、首を横に振り、

「その南部の拠点にあった通信装置は旧式の物でね、通信魔煌波はせいぜい1000キロくらいしか届かない。2587キロ離れた北部の拠点に、情報を瞬時に伝えるのは難しいね」

 と、そう答える。

 

「ねぇソー兄、どゆこと? 通信に距離限界なんてあるの?」

 朔耶が小声で尋ねてくる。

 

「あー……この世界の通信って、魔煌波を利用して音を伝えるっていう、いまいち良くわからないファンタジーな方法――仕組みで行われているんだが、これがいわゆる無線機みたいな感じでな。送信元と受信元で直接やりとりされるんだよ。だからあまり遠いと届かないんだ。……まあもっとも、旧式でも1000キロも届く時点で、地球の無線機とは比べ物にならない程の性能ではあるんだけどな……」

「へぇ……なるほどね……。って、なんだか随分と詳しいけど、その知識はどこで?」

 俺の説明を聞き、納得した朔耶が別の疑問を抱いて再び尋ねてくる。

 

「アルミナの地下神殿遺跡で見つけた2億年前の遺物の解析状況を聞こうと思って、先週室長の所に行ったら、片手間で携帯通信機を作っていたから何気なく聞いてみたんだよ。で、まあ……そしたら……今の100倍くらい長い説明をされた……」

 朔耶にそう返しつつ、その時の事を思い出してゲンナリとする俺。

 

「あー……室長って、その手の説明をし始めると長いからねぇ……」

 朔耶もまた、過去の事を思い出したのか、そう言ってゲンナリとするのだった――

ちなみに『2億年前の遺物』に関しては、まだ解析が終わっていません。

でも、多分もう少ししたら終わると思います。

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