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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第20話 記憶喪失の女神

「――裏といえば……ソウヤたちの中に『女神の使徒』がいる……わよね? 銀の王(しろがねのおう)が言っていたわよ?」

 シャルがそんな事を言ってきた。

 銀の王(しろがねのおう)……。おそらく、あのビルの屋上で戦った奴の事だろう。

 銀の王(しろがねのおう)たちは、どういう方法でなのかは不明だが、全員が常に最新の情報を共有しているっぽい感じだったからな……

 

「……ああ、それについてはエメラダさんが回復し次第、全員に話す予定なんだが、まあ先に話しておいてもいいか」

 そう切り出すと、俺はシャルに対してそのへんの諸々の話を語り始める。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「なるほどねぇ……凄く良くわかったわ。つまりこの剣は、いわば女神の剣ってわけね……。そりゃ霊力の通りが良いはずよねぇ……」

 シャルが霊幻鋼の剣を見ながら感嘆する。もっとも、ため息が混じっていたりするのだが。

 

 う、うーむ……。なんというか、俺が女神の使徒だという事を話してもまったく驚かないどころか、ため息をついてくるあたりは、竜の座に至っているシャルらしい……と、言えなくもないな。

 いやまあ、単に銀の王(しろがねのおう)から話を聞いていて心構えが出来ていたから、というだけなのかもしれないが。

 

「……それにしても、女神の使徒なのに竜の座へ至る事が出来ていないというのが良くわからないわね……。――いえ、『記憶喪失の女神』というのが真実であるのなら、おかしくもない……のかしら?」

「ん? 記憶喪失の女神?」

 シャルの言葉に疑問を抱いた俺は、首を傾げながら問いを返す。

 

「あら、今の所ノイズにならなかったのね。竜の座に関連する言葉だから、ノイズになりそうな気がしたんだけど……」

「ふむ……。もしかしたら、既に俺は女神という存在を目の当たりにしている――認知しているから、その言葉もまた認知しているという扱いになっているのかもしれないな」

 シャルに対し、俺はそう推測を述べる。

 秘匿される言葉であっても、その存在を認知していればノイズにならないっぽいからな。


「たしかに……。可能性としては十分ありえるわね……」

 そう言いながら、何かを考え始めるシャル。


「まあ……なんだ? その辺の事は一旦置いておくとして……それよりも、記憶喪失の女神というのはどういう意味だ?」

 認知ウンヌンよりもそっちの方が気になる俺は、シャルにそう言葉を返し、説明を促す。

 すると、シャルはこめかみに指を当て、

「えーっと、そうねぇ……。簡単に言うなら、竜の座に至った者たちの間で、昔から云われている女神の謎に関する仮説のひとつ、かしらね」

 と、そう説明してきた。

 

「女神の謎?」

「ええ、女神ディアーナにはいくつもの謎があるのよ。――で、その謎のひとつが、女神とは世界を守り、そして同時に管理する存在であると記録されているにも関わらず、世界の管理という意味では中枢とも言うべき竜の座に女神が関わっている様子がない……というものよ」

 シャルが人さし指をピッと立ててそう説明してくる。


「ふむ……」


 たしかに管理と守護を司る存在とか最初に言ってたっけな。

 でもたしかに『管理』という事なら、特定の言葉がノイズ化されるのも『管理』だよなぁ……

 なんて事を思いながらシャルに説明の続きを促す。


「――でまあ……その事から、竜の座という物が存在している事を忘れているのではないか? 記憶喪失になっているのではないか? という説を提唱した学者が昔いたのよ」

「なるほど……。でもまあ、それを実証するのは難しいから、たしかに仮説止まりだな」

「それを女神の使徒である貴方が言うのも変な感じだけど……ま、そうね。でも、実際の所はその頃から現在に至るまで、一度も女神が竜の座に関わってきた事はないわ。だから、今では仮説ではあるものの、もっとも信憑性の高い説だとされているわね」

 シャルはそこで一度言葉を切ると、顎に手を当て、訝しげなまなざしを俺に向けながら、

「……ちなみに、実際の所どうなのかしら?」

 と、改めて問いの言葉を紡いだ。


 そんな訝しげに見られても、別にその事について隠しているわけじゃないからなぁ……

 というわけで、俺は首を傾げる。

「どう……と言われてもな。竜の座について話した事がないから何とも言えんな」


「あらそうなの? んー、だったら聞いてみたらいいんじゃないかしら? それが出来ない制約とかあるなら別だけど」  

「そんな制約はない……はず。――たしかに、直接聞いてみるのが一番手っ取り早い方法ではあるな」

 俺はシャルの問いかけにそう答え、もっともだと思った。

 

                    ◆


 というわけで、ディアーナに聞いてみようと考えた俺は、近くに陽の霊力に満ちた場所がないかと思い、近くにいた文官といった雰囲気のする男性にそれとなく話を聞いてみた。

 

「神聖な感じのする場所……ですか? でしたら、まさに神聖な場所そのものである聖堂が、この宮殿の地下にありますよ。小さいですけど」

 そんな風に答えてくる男性。ふむ……


 もう少し詳しく聞いてみると、立ち入りの許可とかは特に必要がない場所だというので、早速訪れてみる事にする。

 と、その途中で朔耶と出会した。


「あれ? ソー兄、どこへ行くの?」

「ん? ああ、地下に聖堂があるらしくてな。ちょっと行ってみる所だ」

「聖堂? あ、もしかして女神様に?」

「そういう事だな」

「じゃあ、私も行くよ!」


 そんなやりとりの結果、特に拒否する理由もないので、俺は朔耶と共に地下聖堂へと向かう。

 そして、宮殿の最奥部にある螺旋階段を降りていくと、目的の地下聖堂が姿を現した。

 

「ここか」

「みたいだね。雰囲気はたしかに聖堂って感じだけど、随分と小さいね」

 そんな感想を朔耶が口にする。

 

 たしかにその感想の通り、地下聖堂はアリーセの家の部屋――大体12畳くらい――1つ半あるかないかといった程度の広さの、こぢんまりとした物だった。

 まあ、あの話を聞いた文官っぽい人も、小さいって言っていたしな……


 しかし、今は俺たち以外に誰もいないからいいが、ここで祭礼の類を執り行おうとしたら、ちょっと狭い気がするが……この場所、どういう用途で作られたんだ?

 そう疑問を抱いた所で、何か書かれているプレートが目に入る。


「……ふむ。説明によると、離宮に住んでいた――あるいは、幽閉されていた人間のために作られた物……らしい」

 俺は螺旋階段の終わり――地下聖堂の手前に設置されていたプレートに書かれている説明書きを読みながら、朔耶に向かってそれを告げる。


「あ、なるほど。そういえばさっき表立って処刑するとマズい王族を死ぬまで幽閉していた事もあるとか、そんな話が書かれたプレートがあったね」

 左の手のひらを右手でポンっと叩き、納得した様子の朔耶がそう返してきた。

 ああ、そういやたしかに書いてあったな。

 

 この宮殿、市長官邸として使われているだけじゃなくて、観光地にもなっているらしく、あちこちに説明や案内のプレートがあったりする。

 お陰で迷わずにここまで来られたが……市長官邸を観光地にしていいのだろうか?

 ついでに言えば、そんな物騒な云われのある場所が市長官邸ってどうなのか……。なんというか、幽閉されていた人間の怨念とかが残っていそうな気がして住みたいとは思えないんじゃなかろうか?

 

 実際、歴代の市長でここを自宅として使っているのは、ここを官邸と定めた3代目の市長と、現市長――つまりエメラダのふたりだけらしいし。

 ……何か変えられない理由でもあるのだろうか? 実はここにヤバい物を隠しているとか封印しているとか……

 この聖堂、実は陰の霊力に満ちていました、なんていうオチじゃなければいいが……

 

 そんな事を考えながらオーブを取り出す俺。

 と、オーブはいつもどおりの正常な反応を示した。

 

「オーブが正常に反応している――つまり、陰の霊力に満ちていたりはいないって事か。ま、床も赤黒い染みとかはないしな」

「え、えっと……陰の霊力に満ちてて、更に床に赤黒い染みがあったら、一体、昔ここで何が行われていたんだろうっていう、ちょっとホラーでダークなヤバめの話になるから、それはちょっと勘弁して欲しいかな。……いやまあ、ゲームとかだとこういうシチュエーションでは、割とありえる展開だけどね、そういうの……」

 俺の言葉に、ちょっとビクビクしながらそう返してくる朔耶。

 

 朔耶って、昔から幽霊の類が苦手だよなぁ……。なのに、中学時代も高校時代も、オカルト研究部に所属していたんだよなぁ……。まったくもって意味が分からん。

 

 っと、それはいいとして……

「まあそうだな。でもとりあえず、そんなゲームのような展開にはならなそうだ」

 そう朔耶に言葉を返しながら俺はオーブを使い、ディアーナに呼びかけた――

 

                    ◆


「――竜の座……ですかー?」

「はい。世界のどこか――もしかしたら異空間とかかもしれませんが――そこにあると思われる場所です」

 竜の座と聞いて首を傾げるディアーナに対し、そう説明する朔耶。

 俺はその朔耶の説明に続くようにして言葉を投げかける。

「そして、そこに辿り着いた者以外だと、ノイズ化して聞き取る事の出来ない『言葉』というのがあるのですが、それも含めて何か記憶にありませんか? 辿り着いた者が言うには、そこにはディアーナ様が関与しているであろう記録があるという話なのですが……」

 

 ディアーナは「うーん」と唸りながらしばし考え込んだ後、

「……残念ながらー、私にはー、その場所の記憶がありませんねー」

 と、そう言ってきた。……やはり記憶にないのか……

 

 そう思っていると、ディアーナが言葉を続けてきた。

「ただー、私には所々明らかに『記憶が欠落している部分』があるのでー、何らかの原因でー、その記憶を失っている可能性もー、ありますねー」

 

「ええっ!? そ、そうなんですかっ!?」

 朔耶が心底驚いたと言わんばかりに目を見開き、声を大にしてそう言葉を返す。

 

 ……ああそういえば、朔耶には『記憶喪失の女神』という例の仮説について、話していなかったっけな……

なにやら物騒な歴史を持つ宮殿ですが、『今回は』特に何もありません!(何)

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