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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第19話 一段落

「なにやら表示されている文字が変わったようだけど……?」

 ホログラム表示されている文字を見ながらそう問いかけてくるアーヴィング。

 

「『コマンド実行完了』と表示されていますね。『全停止』の処理を実行してみたので、その処理が実行されたという事だと思いますが……」

 俺はアーヴィングに対してそう答えながらクレアボヤンスを使い、オートマトンがどうなっているのかを確認してみようと思ったが……

 

「うーん……でも、周囲には残骸しかないから確認のしようがない……」

 と、呟く俺。クレアボヤンスの有効範囲はかなり広いが、透視も併用すると極端に有効範囲が狭くなるため、建造物の多い街中ではあまり遠くまで見えない。

 そして、範囲内で見えるオートマトンは全て破壊されていた。

 

「ま、この場ではちょっとわからないね。とりあえず宮殿の方へ向かうとしようか」

 同じように周囲を見回していたアーヴィングがそう言ってくる。

 俺は「そうですね」と返事をして、アーヴィングと共に宮殿の方へと歩き出す。


「――ところで……先程の女性は、以前ウチに忍び込んで来た……?」

 宮殿への道すがら、そんな事を問いかけてくるアーヴィング。

 

「ええ、その通りです。昔の仲間なのですが、何故向こう側にいるのか……」

「なるほど……。どうやらソウヤ君の知らない事情がありそうな感じだったね」

「ええ、そうですね。それが何なのかはわかりませんが……まあ、今は完全に敵というわけではない事がわかっただけでも、とりあえずは十分です」

 そう答えた所で、一度言葉を切り、わざとらしく手を左右に広げてから、

「――シャルが受けたダメージの分は、キッチリお返ししてやりましたしね」

 そう言って笑みを浮かべる俺。


 シャルの状況が気になるが、まあアリーセがいるから大丈夫だろう。 

 と、そう思っていると、朔耶――正確には朔耶とアルが宮殿の方から飛んできて告げる。

「エメラダって人も、シャルも大丈夫そうだよ! アリーセが完璧に治療したし、意識も取り戻したよ!」

 さすがはアリーセだなと感心し、ふたりの無事に安堵した所で、

「あと……いきなりオートマトンが動かなくなったんだけど、ソー兄、なにかした?」

 と、そんな言葉を続けてくる朔耶。

 

「俺がなにかした事が前提なのか……。まあ、たしかにしたけど」

「でしょ? とりあえずもう動かない感じ?」

「だと思うが……念の為、壊しておいた方がいいな。皆にそう伝えてくれ」

「了解! じゃあ伝えてくるね!」

 そう言うと同時に去っていく朔耶。


 連中に、他のタブレットもどきを使って再起動させられる可能性もなくはないからな……

 無論、再起動させられてもすぐに停止させるだけではあるが、壊しておけばそもそも動く事自体出来なくなるのだから、今のうちに壊しておくに限る。

 

「――連中が更に何かを仕掛けてくる可能性はゼロではないが……とりあえずは一段落……といった感じだね」

「ええそうですね。まあ、やるべき事はまだ山積みですが……」

「そうだね。まあ、その辺はエメラダと話をしてからだね」


 俺はアーヴィングとそんな事を放しつつ周囲を見回す。

 と、見える範囲のそこかしこから火の手が上がっていた。

 最初は式典会場とその周囲だけだったが、随分と被害が拡大したな……

 奴らは、何故ここまで破壊行為を拡大させたんだ……?

 

                    ◆

 

「――『戦争』は始まっている……か」

「ええ、あの赤髪の男はそんな風に言っていたわ」

 俺に呟きに対し、シャルが頷きながらそう言葉を返してくる。

 

「ふむ……。だからこそ、ここまでの破壊行為をした……のか?」

「……かもしれないわね」

「――というか、シャルは寝ていなくて大丈夫なのか?」

 俺は宮殿の床に敷かれたマットの上に座るシャルを見ながら言う。


「アリーセのお陰で問題ないわ。……まあ、今はまだ立ち上がって歩く事が出来る程には回復してないけど……もう少ししたら歩くのも大丈夫になると思うわ。私の場合はどちらかというと、負傷よりも精神の消耗の方が激しかったせいで倒れた……という感じだし」

「精神の消耗って……。それはむしろ寝ていた方が良いんじゃ……」

「普通はそうかもしれないけど、私はまあ……絶霊紋のせいというかお陰というか……ともあれ、アレで精神的な消耗には慣れているわ。だから回復も早いのよ」

 なんて事を言ってくるシャル。

 

 ……たしかにシャルは少し前まで、0時になる度に絶霊紋による激痛に襲われていたわけだしな……精神的な消耗で言えば、アレに勝る物はないのかもしれないが……


「それより……アルベルトという護民士が死んだと聞いたけど……」

「え? あ、ああ……」

 唐突に話題を変えられたので思考が追いつかずそんな風に返してしまう。


「それは、オートマトンに?」

「うーん……。アルベルトさんの遺体には、ナイフの様な物で刺された痕があった。オートマトンにそういった近接兵装をしているタイプがいる、なんてのは聞いた事がない。無論、俺の知っている範囲での話だから、俺の知らない場所で作られていた可能性はあるが……正直、俺は誰かに殺されたんじゃないかと思っている」

 シャルの問いかけに対しそう答える。

 

 なにしろ、色々と不自然だからな……

 アルベルトは、戦闘能力があまりないという事で、カリンカの連れてきた討獣士と行動する事になっていたとさっきカリンカから聞いた。

 だが、その討獣士は別の場所でオートマトンの攻撃を受けて亡くなっていた。

 

 アリーセを守るはずの討獣士もそうだ。

 普通に考えれば、アリーセの周囲に居ていいはずなのに、ひとりを除いてあの場にはいなかった。

 しかも、そのひとりは近くの瓦礫の下に埋もれていた。

 幸い、埋もれた際に隙間があったようで、先程、大怪我はしているものの、生きている状態で発見されて救出され、現在治療中だ。

 話せる状態にまで回復したら、その辺りの事を聞いてみるのが良さそうだな。

 まあ、俺が聞かなくてもアーヴィングやカリンカあたりが普通にやりそうではあるが。

 

 そんな事を思案していると、

「ソウヤは私とルクストリアで再会した時の事を覚えているかしら?」

 と、そう問いかけてくるシャル。

 

「ん? ああ、それはもちろんだ。人形の襲撃を受けていたんだよな?」

「そうよ。なんでああなったか分かるかしら?」

「うーん……奴らの拠点のひとつを破壊した……とかか?」

「そんなわけないでしょ……」

 シャルは俺の回答にそう言ってため息をついた後、頬を掻きながら、

「ま、まあ……昔の私ならやったかもしれないけど……」

 そう言葉を続ける。昔ならやったのか……


「じゃなくて! ――アルミナでソウヤと別れた日、私は治安維持省の人間と繋がりの深い情報屋と、接触する事になっていたのよ。でも、列車盗賊団の一件があったせいで予定の時間を過ぎてしまって……急いで指定場所へ向かったのだけど、そこには誰もいなかったわ」

「ふむ……。シャルが予定の時間になっても来ないから、その情報屋とやらが警戒してその場から立ち去った……とかか?」

「ええ、私もそう思ったのだけど……翌日、その情報屋は下水道で遺体となって発見されたわ。そして、私はあの人形に付き纏われるようになったのよ」

「なるほど……そういう事か。その『指定場所』ってのが、連中に監視されていたってわけだな。そして、連中のスパイも治安維持省の中にいた、と」


 そう言葉を返しながら俺は思う。

 あの日、シャルが『治安維持省の誰かが関係しているのは、間違いない』と言っていたのは、そういう理由もあったわけか、と。

 ……って、まてよ? シャルがこの話をするって事は――


「……つまり、シャルはこう言いたいわけか? アルベルトは、その時と同じ――その情報屋を殺害した治安維持省内のスパイに殺された、と」

「ええその通りよ。そいつが今回の一件に関わっていたからこそ、ここまでの用意周到な襲撃が出来たんだと思うわ。……まあ、そいつだけじゃなくて、クスターナ都市同盟側にも内通者が居るとは思うけどね」

「それはまあそうだろうな。イルシュバーン共和国領内はともかく、他国の警備状況まで、そいつが把握出来ているとは思えんし」

 そう俺が言うと、シャルは頷いた後、こめかみに人さし指を当て、

「……ともあれ、アルベルトはその事――というより、治安維持省内にいる内通者が誰なのかに気づいたんでしょうね」

 と、言った。

 

「で、そいつがこの場にいたんで、問い詰めようとしたが、逆に殺された……。とまあそんな感じか」

 俺は、シャルの話の意図に気づいた時点で推測した事を締めとして口にする。

 

 この推測が事実だとしたら、そいつは何としても捕まえたい物だ。

 アルベルトを殺した報いを、この手で受けさせてやらないと……というわけではないが、知り合いを殺されて黙っていられるような人間じゃないからな、俺は。

 

 ……ああそうだ。この事は後でアーヴィングにしておいた方がいいな。不用意に護民士に対して話をすると、面倒な事になりかねない。

 もっともアーヴィングの事なので、アルベルトが握っていた護民士の徽章を見た時点で、その可能性に気づいていそうではあるが……

 

「――もっとも、そこが分かった所で、どうして連中がクスターナ側でここまでの大規模なテロ行為を行ったのか、という点はさっぱりだけど……」

 シャルがお手上げといった感じで手を広げ、首を左右に振った。

 

「たしかにな。奴らの目的はイルシュバーンに王政を復活させる事……ではないのか? いや、ここがかつて『離宮』だった事を考えると、クスターナの一部の奴らの中では同じ扱い……なのか?」

「そこはなんともいえないけど……でもまあなんにせよ、銀の王(しろがねのおう)が絡んでいる時点で、イルシュバーン一国で完結するような話ではない、大規模な『何か』が裏で進行しているのは間違いないわね」

「……ま、そうだな。銀の王(しろがねのおう)は『大いなる地への竜の帰還』とやらが目的だと言っていたし、この一件も、それに関係しているんだろう」

 冥界で銀の王(しろがねのおう)が言っていた事を思い出しながらそう答える俺。

 

「……『大いなる地への竜の帰還』……。でも、あれは――」

 シャルがブツブツと小声でつぶやきながら考え込み始める。

 

 どうやら何か思い当たる節があるようだが、多分聞いてもノイズだらけになって、俺にはわからないだろうしなぁ……

 うーむ……。やっぱり竜の座に至らない限りは、どうしても情報不足になるな……

ここら辺から、第1章や第2章で出て来た話がちらほら登場してきます!

まあ、ようやく……とも言いますが……

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