第17話 竜の力、真なる王
「なっ!? 守りを捨てた!?」
珠鈴が驚きの声を上げつつ俺が乱れ撃った魔法を回避。
「くっ、ロボットアニメに良くある攻撃だが、こうも厄介だとは……っ!」
「いや、そんなに良くある攻撃ではないだろ……。むしろ、数あるロボットアニメから見たら、逆に少ない気がするぞ……?」
つい珠鈴の発言にツッコミを入れてしまう俺。
と、その直後、衝撃波が俺に直撃。
だが、ダメージは一切ない。それは当然というもの。
なにしろ、俺が自分の服に付与している防御魔法は、完璧に魔法を無効化する程の性能だからな。もっとも……その反面、物理的な攻撃や霊力のような特殊な力を使った攻撃には、まったく無意味だが。
……最近、魔法を使わない相手が多すぎて、忘れ気味だったのは秘密だ。
「はあっ!? ノーダメージだと!?」
「俺には物理攻撃とビームしか効かないぞ?」
驚く珠鈴に適当な事を言って返す俺。
まあ、完全に適当というわけではないけどな。
「なんだそのデタラメなのは……道理で守りを捨てた上に、悠長にツッコミを入れてくるはずだ……。お前の服はメタリックな何かで出来ているというのか?」
珠鈴が額に手を当て、首を左右に振りながら、呆れた声を投げかけてくる。
そして、一呼吸置いた後、
「……まあいい。それならそれで、直接攻撃を仕掛けるまでだ!」
と、そう言い放ち真っ直ぐに突っ込んでくる。
「随分とワンパターンだな!」
俺は一番最初と同じく、正面にスフィアを展開し、一斉に魔法を放つ。
ただし、2つだけその場には置いていなかったりする。
「と、思うか?」
珠鈴はそう言って不敵に笑うと、双頭の薙刀を回転させて自身の正面に迫る魔法をかき消した。……って、そんな事出来るのかよ!
他の魔法の隙間を掻い潜るようにして珠鈴が俺に肉迫する。
が、突破してくる可能性も考えていたので問題はない。
近くに転がったままになっていたシャルの刀と剣――剣は俺のだが――を、アポートで引き寄せ、更にサイコキネシスで浮かせて双頭の薙刀へぶつける。
ギィンという甲高い金属音が響き、双頭の薙刀を抑え込んだ。
「これはっ!?」
刀と剣で迎撃されるとは思っていなかったらしい珠鈴の動きが止まる。
が、それは命取りという奴だ。
間髪入れずに、少し離れた場所に置いておいた2つのスフィアで融合魔法を発動。
百を超える金色に光る槍が生み出され、それが全て珠鈴へと襲いかかる。
「くっ!」
魔法に気づき、テレポーテーションでその場から離脱する珠鈴。
だが、この槍の攻撃範囲は広く、非常に速い。一瞬にしてテレポーテーション直後の珠鈴へと殺到。
「ぐ……う……っ!」
それでもギリギリで防御態勢を取り、被弾数を減らしてダメージを軽減してくるあたりは流石というべきか。
しかも、突き刺さるはずの槍が、珠鈴に刺さらず砕け散っていた。激突の衝撃は与えているようなので、防がれているわけではないようだ。
単純に珠鈴が自分で言っていた通り、珠鈴の防御魔法が強固なのだろう。
だが、俺はそこへ間断なく他のスフィアで魔法を掃射。
連続でのテレポーテーションは出来ないはずなので、これを全て回避するのは不可能なはずだ。
「ぐっ!?」
予想通り全てを回避する事は出来ず、真上から放たれた極太の水鉄砲――のような魔法が勢い良く命中。
珠鈴はその水圧に抗しきれずに、勢い良く地面へと叩きつけられた。
と、その直後、バチバチという音が珠鈴の方から聞こえたかと思うと、突然珠鈴の背中に翼が現れた。更に良く見ると、尻尾もある。……これは、竜の……?
「――なぜ……。なぜ、珠鈴の身体に竜の翼と尻尾があるんだ……?」
俺は困惑しつつ、言葉を投げかける。
「……げほっ。くっ、水でステルス機能が壊れたか……」
ステルス……人形が使っている奴か。水に弱いという話だったし、今の水鉄砲魔法で壊れたみたいだな。
「見せたくはなかったのだがな……。まあ、見てしまった物は仕方がない。それに……ものの見事に叩きのめされた以上、話すしかないというものだ」
珠鈴はそんな風に言いながら立ち上がると、そこで言葉を切り、腰に手を当てて大きくため息をついた。
そして首を左右に振ってから続きの言葉を紡ぐ。
「――この竜の翼と尻尾は、私の友――『リリア』の物だ。それをお前も良く知っている方法で得た――いや、得てしまったのだ」
「リリア? 俺の良く知っている方法で得た?」
リリア……リリア……。どこかで聞いたような……
と、そう思いながら記憶をたどる。
……ああそうか、あの時か……思い出したぞ。
――ディンベルで聞いた朔耶の話に、その名が出てきたんだったな。
たしか、竜牙姫……とかいう異名を持つ凄腕の傭兵だったはずだ。
そっちは良いとして次は良く知っている方法……か。
翼と尻尾……肉体の一部……融合……。……融合?
……って! おいおいまてまて! それに当てはまる『方法』で俺が良く知っている物なんて、ひとつしかなくないか……!?
「キメラ……か」
「ああそうだ、その通りだ。我々が地球で敵対していた組織――『竜の血盟』のあの技術を用いて……死んでしまったリリアと私は融合したのだ」
「死んだ?」
「――ヴェヌ=ニクス。あの忌々しい神代の化け物を相手にした時にな。……あの時、朔耶もその場にいて、奴の攻撃で吹き飛ばされてそのまま沼に沈んでいってしまったのだが……。先程の感じからすると、どうにか生き延びていたようだな」
そういえば、朔耶の話に出てきたな……
押しきれそうって所で、朔耶が吹き飛ばされて沼に落ちて意識を失ったから、そいつがどうなったのかは分からず仕舞いだったが……
「……いや、本当に生きていてくれて良かった。あそこで朔耶まで死なせていたら、私は自身への不甲斐なさに怒り狂っていたであろうからな」
なんて事を続けて言ってくる珠鈴。心の底から安堵したと言わんばかりの表情で。
「朔耶の話では、朔耶が沼の落っこちる直前の時点では、押しきれそうという感じだったようだが……」
「……ああ、戦闘自体は特に問題はなかった。……が、奴は最後の最後で――いや、正確に言うのなら死んだ瞬間、奴の内にある魔力だか霊力だかが暴走してな……。大爆発を引き起こしたのだ。――結果、至近距離でその爆発をまともに受けたリリアは即死し、少し離れていた私も瀕死の重症を負った。……しかも、どうもその大爆発には何か人体に悪影響を及ぼす物が含まれていたようで、回復薬の効果がまったく出なかったのだ」
なるほど、そんな結末だったのか……。回復薬が効かなくなる……さらに死ぬ際に爆発……。まるで銀の王そっくりだな。何か関係があるのだろうか……?
――それにしても、朔耶が沼に落とされていなかったら、朔耶も大爆発に巻き込まれていたって事になるな……
……ある意味では、落とされたからこそ助かったと言えるのかもしれない。
いやまあ、厳密には助かったとは言えないのだが、そこはとりあえずどうでもいい話だ。
どの様なカタチになろうとも、朔耶という存在が今この場に在りさえすれば、それでいいのだから。
っと、それはともかく――
「しかし、そこからどうしてキメラに……?」
さすがにその状況から、珠鈴にキメラ技術が使われた……というのがどうやっても繋がらず、問いかける俺。
「……偶然というべきか、その時『白き王剣の騎士団』の残党がその近くの遺跡で何かを探していたらしくてな……。大爆発の震動に気づいて調べに来たようだ。――で、まだかろうじて息のあった私と死んだリリアを回収――キメラ技術を用いて私とリリアを融合……。そうして結果的に私は一命を取り留めた……。とまあ、そういうわけだ」
そんな事をさらっと言って返してくる珠鈴。
白き王剣の騎士団……か。さっきアリーセの所で話に出てきたな……
しかし、その残党が何故キメラ技術を有しているんだ……?
白き王剣の騎士団に、竜の血盟との繋がりがあるとでもいうのか……?
地球とこちらの間を移動する際に、時間が大きくズレる以上、竜の血盟の連中が、今よりも過去のこの世界に辿り着いている可能性は、たしかにあるが……
「……その話からすると、珠鈴は白き王剣の騎士団の残党に属しているのか? 真王戦線やエーデルファーネではなく」
「そうとも言うし、そうでないとも言うな。今の我らは『竜の御旗』――『真なる王』のもとに集った『現イルシュバーン共和国』の体制に反抗する大小様々な集団のひとつにすぎんからな」
珠鈴が俺の疑問に対し、そんな風に答えてきた。
ふむ……。竜の御旗、そして真なる王……か。
霊峰で遭遇した連中が同じような事を言っていたっけな。
という事は……キメラ技術も真なる王とやらから与えられた……?
「――真なる王というのは何者なんだ?」
そう俺が問いかけると、珠鈴は肩をすくめてみせた後、
「さてな……。実の所、私も詳しくは知らん。……なにしろ、私は一度も奴の姿を――顔を拝んだ事がないからな。というより……おそらく奴の姿を知っている者の方が、少ないのではなかろうか……? 奴は映像通信を用いてあれこれと私たちに話かけてくるが、映像通信であるにも関わらず、宇宙空間――星雲のような映像しか送られて来ないからな」
と、答えた。
「……それはまた意味不明だな……」
この世界で『宇宙』という概念を認識して理解出来ている者は、どういうわけか少ない。
イルシュバーン共和国では室長が教え広めた事もあって、多くの者が『宇宙』という物を理解出来ているようだが、他の国はそうでもないからな。
なのに、その『宇宙』の映像を送ってくる……か。
どういう意図があるのかさっぱりだが、『真』などと名乗っているだけあって、銀の王よりもヤバそうな感じだ。
真なる王……。完全に謎に包まれた存在……か。どうにかして情報を得られれば良いんだが、知っている者の方が少ないようだし、なかなか難しそうだな……
竜人とも呼ばれるドラグ族の力、竜の血盟の技術、竜の御旗に集う者たち……
それらはまさに、どれもが『竜の力』ですね。




