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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第16話[Dual Site] 珠鈴と蒼夜

<Side:Misuzu>

「ぐあっ!?」

 

 対峙していたエルランの女が使った魔法で、勢い良く上空に吹き飛ばされる私。

 高い魔法耐性を持つ防御魔法を付与していなかったら、即死したかもしれない。

 とはいえ、さすがに無傷とはいかず、服が少し破けてしまった。

 同威力の魔法を立て続けに使われたら、さすがに持ちそうにない。

 

 吹き飛ばされた私は、空中で体勢を立て直すため、見えざる翼を広げ、その場で無理矢理急停止。

 と、同時に眼下のエルランの女に対し、私は『ニーズヘッグ』と名付けられた双頭の薙刀を振るう。

 直後、衝撃波が発生し、エルランの女へと襲いかかる。

 霊力と思われる波動でかき消されそうな気がするが、牽制にはなるはずだ。

 

 ――刹那、予想外の事が起きた。

 エルランの女が得物を構えたまま膝から崩れたのだ。

 魔法の発動で乱れた魔煌波が何らかの作用をしたのか、それとも、今までのダメージの蓄積が限界を超えたのかは不明だが、実にタイミングの悪い事だ。

 ああいや、私にとってはタイミングが良いのか。……運で勝ったみたいな感じなので、微妙な気分だが。

 

 牽制どころかトドメの一撃となるであろう衝撃波がエルランの女に迫り、そして地面を吹き飛ばしながら土煙を巻き起こした。

 ……だが、エルランの女の姿はそこになかった。そう、直前で女の方が消えてしまったのだ。

 私と同じ、テレポーテーション……? いや、それならもっと前から使っていたはず……

 

 ――しかし、その疑問はすぐに解決した。


「珠鈴! やはりお前だったかっ!」

「えっ!? やっぱり珠鈴だったの!?」


 聞き覚えのある声が私の耳に届いたからだ。

 そう……それは蒼夜と朔耶の声。

 つまり、エルランの女が姿を消したのは……蒼夜がアポートを使ったからだろう。

 私も以前に引っ張られた事があるからな。

 

 だけど……

 なぜ、なぜ、このタイミングでお前たちが来たのだ……っ!

 先程、私はタイミングが悪い事だと言ったが、あれはあのエルランの女だけではなかったようだ。そう、私もまたタイミングが悪かった……という事だ。

 

 私は視線を声のした方へと向ける。

 蒼夜、飛竜を駆る朔耶、さらに元老院議長であるアーヴィングにその娘ふたり、他に良く知らない男ひとり、女ふたりの姿がそこにはあった。

 いや、まてよ? 女のひとりはルクストリアの討獣士ギルドで見た事がある気がするな……

 

 そんな事を考えている間に、蒼夜たちは行動を開始しており、アーヴィングは背負っていた娘を朔耶の飛竜に預けると、赤髪……ん? 名前はなんだっただろうか……長い名前は覚えづらくて困る。

 ――まあともかく……だ、アーヴィングと赤髪が対峙した。

 アーヴィングの得物は、魔法っぽいものが纏われているのが特徴的だが斧槍か。

 

 と、同時にアーヴィングのもうひとりの娘と先程のエルランの女が、エメラダの前へと瞬時に移動した。

 これは……間違いなく、蒼夜のアスポートだな。

 以前、アーヴィングの娘を飛ばしてきた時よりも、距離が伸びているような気がするが……

 

 そんな事を考えていると、ビームの発射音が響いた。赤髪が銃撃したようだ。

 だが、騎士っぽい服装の女が射線上に立ち、そのビームを蛇腹剣で防ぎ止めた。

 ……ん? ビームを防ぎ止める? あの蛇腹剣、何か特殊な加工がされているようだな……


 そこへ、ふたりの軍人が駆けつけてきて、アーヴィングの娘が治療中の、エメラダとエルランの女を宮殿内へと慎重に運び込んでいく。

 それに合わせるようにして朔耶も、飛竜でアーヴィングの娘――私と庭で交戦した方――を宮殿へと運び込んでいった。

 無論、アーヴィングの娘――治療している方も、ふたりの軍人に何かを指示しつつ、治療を続けながらそれに続く。

 

 赤髪がアーヴィングの方へ顔を向けたままそちらに銃撃するも、再び騎士っぽい服装の女が射線上へ素早く移動し、それを防いだ。

 そして、そのままエメラダたちを護衛しつつすべく、赤髪を牽制しながらじりじりと後退していく。

 

 それと同時に、騎士っぽい服装の女と共にエメラダのもとに辿り着いた男と、討獣士ギルドで見た事がある女は、その軍人の代わりになるようにしてオートマトンの迎撃へ向かっていった。

 

「お前の相手は俺だ! そちらではない!」

 アーヴィングが声を上げながら斬りかかる。

 

 赤髪がバックステップで回避しつつアーヴィングへと銃撃。

 アーヴィングはそれを最小限の動きで避けるとそのまま踏み込んだ。

 

 赤髪は銃撃を諦め、右手で腰にある予備の三節棍を掴み取ると、一瞬で関節部を接合させて長い棒状にし、アーヴィングの攻撃を受け止める。

 さすがにアーヴィングの方が強そうだな。支援に向かった方が良いか。

 

 そう思った所で、突然真上から熱を感じた。

「っ!?」

 私が反射的に空中を滑るようにして、後方へ飛翔したその直後、火球が私を掠めて地面へと激突した。

 

「どうやって飛んでいるのか知らないが、いつまでそこで高みの見物をしているつもりだ? 珠鈴」

 蒼夜の静かな声が下から聞こえる。

 

 下に居るのに上からの攻撃……? しかも魔法……?

 

「シャルロッテの次は俺が相手だ。……お前が何故そこにいるのかを知りたいしな」

 と、蒼夜が言ってくる。

 

 あのエルランの女はシャルロッテという名前のようだ。

 テレポーテーションがなければ、負けていたかもしれない相手だったからな。しっかり覚えておこう。

 

 それにしても――

「蒼夜……お前、あの日の夜よりも、かなり強くなっていないか?」

 それを問わずにはいれられなかった。


 そう……蒼夜から感じる『力の強さ』は、アーヴィング邸に侵入した日よりも格段に増していたのだ。

 あの時から今に至るまでに何があったというのだろうか。

 いや、そもそもほんの1ヶ月程度でここまで変わるものなのだろうか?

 

「俺自身もちょっとは力が増したと感じているが……そこまでか?」

「ああ、例えるなら……そうだな、まるで経験値を大量に獲得して、一気に何十レベルもレベルアップしたかのようだぞ?」

「どんな例え方だそれは……。まあ、言わんとしている事はわかるが」

 私の言葉に脱力したような仕草を見せる蒼夜。

 

 そんな反応をされても、私にはそうにしか感じられないのだから仕方がないだろう――


                    ◆


<Side:Souya>

 珠鈴が一気に何十レベルも上がったかの如く強くなっていると俺に言った。


 うーむ……珠鈴がそこまで言う程なのか……。俺自身はいまいちそこまで強くなっている実感がないんだよなぁ……

 でも、やはりというかなんというか、アリーセたちの急成長に、俺自身の急成長……どうやら『何か』が作用しているのは間違いなさそうだな……。もっとも、その『何か』の正体に関してはさっぱりだが。

 

 ……まあいい。それは一旦置いておこう。今はそれよりも珠鈴の方だ。

 まさか、あのシャルロッテを倒すとはな…… 

 珠鈴の強さは地球だけじゃなくて、こっちでも桁違いなようだ。

 あの日の夜は、逃げに徹していてくれて助かった、と言うべきかもな。


 しかし……飛べるのなら、あの時も飛んで逃げれば良かった物を……

 いや、最後に見せた大跳躍が、実は跳躍ではなくて飛翔だった……のか?

 

「――珠鈴、お前、一体どうやって飛んでいるんだ?」

 ついそんな事を問いかけてしまう俺。

 

「……そんな事は、別にどうでもいいだろう?」

 珠鈴は、顔をしかめながらそう返してくる。

 

 ……なんだ? この珠鈴の反応は……

 これは、『手の内を晒すつもりなどない』というような感じの反応じゃないな……

 そう、これはなんというか……『何らかの理由があるが、それを俺に対しては言いたくない』みたいな、そんな感じの反応な気がする……。一体、どういう事だ……?

 

「ま、簡単に話してくれるとは思っていないさ。だから……とりあえず、叩きのめしてからゆっくり聞かせてもらうぞ?」

 ちょっとばかし悪人っぽい表情と口調で、そんな風に言ってみる俺。

 それに対して珠鈴は、

「ふむ。蒼夜がその様な悪役めいたセリフを吐くとは思わなかったな。……だが、いい。私の好むピカレスクなヒーロー感があって実にいい」

 なんて事を言って返してきながら、首を縦に振った。

 

 ピカレスクなヒーロー感ってなんだ……。いやまあ、さっきの大量の経験値ウンヌンと一緒で、言いたい事はわかるが……

 

「――ともあれ……叩きのめせるものなら叩きのめしてみるがいい。ああ、そうそう……アスポートとアポートの対策はしてあるぞ? 前回のようにはいかんからな」

 珠鈴がわざわざ手の内を明かしてくる。

 

「なるほど、あれか……。まあ、使うつもりはないから問題ない」

 と、ギデオンの時の事を思い出しつつ告げる俺。

 無論、『使うつもりはない』というのは、『珠鈴に対しては』だが。


「そうか。――では、見せてもらおうか! その力を!」

 そう言い放つと同時に、勢いよく滑空してくる珠鈴。

 

 俺は周囲に呼び出したスフィアを正面に展開し、珠鈴に目掛けて一斉掃射する。

 

「っ!?」

 珠鈴が驚きの表情を見せながら斜めに急上昇し、魔法を全て回避。


「やはり魔法か……っ! まさか、これほどの数を同時に発動出来るとはっ!」

 なんて事を言ってくる珠鈴目掛けて、更に細かく魔法を連射。

 

 珠鈴はそれをことごとく回避するが、接近されなければ、それでいい。

 

「折角だから良い物を見せておこう。動くなよ?」

「何を……?」

 上空で珠鈴が硬直したその瞬間に、準備しておいた融合魔法を放つ。

 

 青白いの稲妻を纏った黒い極太の光線が珠鈴の脇をすり抜け、空へと消えていく。

 

「な、な……。なんだ今のは……」

「超高火力の魔法だ。ダークウィングボアくらいの魔獣なら一撃で蒸発させられるぞ」

「ダーク……? ……ああ、飛び猪と私が呼んでいる魔獣の名がそんなだったな。――ふむ、あれを一撃……か。その話と感じた魔力からすると……私の防御魔法では死にはしないが、一撃で戦闘を継続出来ないレベルに追いやられるな。……まあ、要するに当たったら一撃で戦闘不能だ」


 俺の言葉にそんな事を言ってくる珠鈴。良い情報をありがとうと言うべきか……?

 にしても、相変わらず長い横文字は覚えられないんだな。

 

「もっとも……当たらなければどうという事はない、という話だ!」

 などと、赤くて3倍速い人が言いそうな言葉と共に、珠鈴が大きく弧を描くようにして上空を飛翔。

 そこから双頭の薙刀を風車のように回転させ、衝撃波を続けて放ってくる。

 

 ……『見える衝撃波』か。

 魔法――魔煌波による物、あるいは霊力による物、そのどちらかの類だろうが、珠鈴に霊力があるはずもないので魔法タイプと考えられる。

 

 そう考えて、適当な魔法――雷撃をぶつけてみる。

 と、衝撃波と雷撃が激突した瞬間、激しい音と共に互いに消滅した。

 ……相殺された感じだな。という事は魔法で間違いなさそうだ。

 

 そう判断した俺は、衝撃波の攻撃を無視して、珠鈴を狙い撃……つのは難しいので、乱れ撃った! ――守りは不要。ひたすら攻めるのみっ!

久しぶりの主人公単独無双バトルです。

まあ、近くにはアーヴィングが居て、もうひとりの敵と交戦中なので、完全に単独というわけではないですが、1VS1という意味では単独なので……

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