第15話異譚2 Jenseits der Schlacht
<Side:Charlotte>
あぐ……っ、ぎっ……
さすがに……無理をしすぎた……みたいね……
攻撃をまともに食らったダメージと、その状態で技を無理矢理全力で放った反動とで、既に私の身体はズタボロだった。
つ……っ、くうっ……
全身に立て続けに強烈な痛みが走っていく。
……でも、あの蛇ほどじゃないわね。激痛ではあるけどまだ耐えられるわ。
限界は近いけど……まだ動けなくはなっていない……っ!
「今の技は蓮司の奴の……。――お前、まさか蓮司とも面識があるのか?」
先程までの怒りが霧散したかのように、冷静な口調でそう問いかけてくるミスズ。
「ええ、凄くあるわよ……。むしろ……ソウヤよりも付き合いは長いわね……。レンジは……私が少し前まで半分だけ所属していた、傭兵団のリーダーだし……」
全身の激痛を隠しながら私はそう告げる。
「……傭兵団? リーダー? 蓮司が……?」
「……名前も技も知っているのに、そこは知らなかったの……? というか……そもそも貴方とレンジとは、一体どういう関係なのよ……?」
「――語る必要はない……と言いたい所だが、どうせ蓮司に聞けばすぐに分かる事だ、答えるとしよう。……私と蓮司は、姉弟だ」
ミスズが私の問いかけに対し、そんな風に返してきた。……は?
ああ、いえ……そういえば生き別れの姉がいる、みたいな事を言っていた事があった気がするわ……
そう思いながらミスズをまじまじと観察する。
……たしかに、なんとなく似ている感じがするわね。目とか鼻とかが。
「なるほど……ね。でも、姉と弟でやってる事がまるで真逆というのは、どうなのよって感じだわ」
「おいおい、ミスズ。なに悠長に会話なんてしてんだよ? 早く制圧しねぇとオートマトンを止められねぇぞ?」
横から男のそんな声が聞こえる。
「戦闘中によそ見とは……なっ!」
男の攻撃を弾き返し、鉄扇による追撃を繰り出すエメラダ。
男はそれを既の所で柄を使ってブロック。
即座に後方へ退き、エメラダとの距離を取った。
「思った以上の膂力だな、まったく。……ん?」
男が何かに違和感を覚えたのか自身の武器を見る。
と、その直後、柄がポッキリと折れ、歯車の部分が地面に落ちて回転が停止した。
「おいおいマジかよ、鉄扇というにはデカすぎて意味不明な代物だと思っていたが、硬さも意味不明かよ。この嵐旋刃の柄を折るとは想定外だぜ……。――いや、さすが……というべきか?」
なんてことを言いながら肩をすくめる男。……武器が壊れた割に随分と余裕があるわね……。どういう事かしら?
エメラダもまたそんな男の様子に不審を抱いたのか、油断せずに無言のまま、更に追撃すべく男へと突進する。
「まあ、こうするだけだけどな」
そう言いながら落ちた歯車を手に取りエメラダの方へと放り投げる男。
その瞬間、歯車が再び回転を始めてエメラダへと迫る。
「はっ!」
それをなんなく鉄扇で弾き飛ばすエメラダ。
刹那、エメラダを一条の光が貫く。……え?
男の方へ視線を向けると、折れた柄の先端をエメラダの方へと向けていた。
……まさか、あの柄自体も魔煌並生成回路が埋め込めれている……?
「……が……ふ……っ!?」
エメラダの口と身体から血が噴き出し、身体がグラリと傾く。
が、膝をついた状態でなんとか耐えるエメラダ。
気合だけで堪えていると言った感じね……。急いで救援に――
そう思った直後、正面から殺気を感じた。
「お前の相手は私だ。他へ行こうと言うのなら阻止させてもらう」
という言葉と共に、ミスズが転移して突っ込んでくる。
「くっ……!」
なんとかギリギリで反応し、刀でミスズの攻撃を受け流す。
全身に痛みが走るが、耐えて続く攻撃も受け流す。
受け流す。受け流す。受け流す――
「先程よりも鋭さがない。さっきの一撃が存外効いていたようだな。防戦一方になっているぞ」
なんてことを言ってくるミスズ。
「そんな事は、ない……わよっ!」
私は受け流しから地面を蹴ってミスズの側面方向へと飛び退きつつ霊力を込めて刀を振るう。
――紅蓮閃・弐式っ!
目の前にXの形をした赤いオーラが中空に浮かぶ。
「む?」
突如として現れたそれに警戒したのか、ミスズが跳躍して私との距離を取った。
チャンス!
先程落とした霊幻鋼の剣へと手をのばす。
「受け流しながら、剣を回収する算段を立てていたか。だが、それだけではつまらないぞ」
と、そんな風に解釈したらしいミスズが再度突っ込んでくる。
転移はまだ出来ないみたいね。……ならっ!
――紅蓮閃・参式っ!
刀を地面に突き刺し、剣を両手で持つと、それに霊力を込める。
そして、正面――Xの中心点目掛けて勢いよく突き出した。
剣から新たな赤いオーラが噴き出し、中心点に接触。
直後Xの形をした赤いオーラが風車のようにその場でクルクルと回転し始め、それと同時に、そこから紅蓮の炎が暴れ狂うかの如く放射される。
「ブレス!? いや、違う!?」
ミスズは驚きと困惑の入り混じった声と共に双頭の薙刀を正面に構え、回転させ始める。
炎が薙刀の回転によってかき消されていくが、それも想定内。
私は、剣を地面に突き刺し、代わりに先程地面に突き刺した刀を両手で掴み、霊力を込めて振り上げる。
と、次の瞬間、真紅の衝撃波が地面を這うようにしてミスズへと襲いかかった。
それは数日前に、ソウヤが前に使っていた赤熱した溶岩が地を這う融合魔法をなんとなく再現してみたら出来てしまった物。
ソウヤが「わけがわからない」と言っていたわね。ふふ――ぐうっ!
あの時の事を思い出して笑みを浮かべた瞬間、激痛が走る。
……ちょっとまずいわね……。限界が近いわ……
冷や汗を流しながらもミスズから視線をそらさず、動きを観察する。
と、ミスズは忌々し気な視線をこちらに向けた後、その姿を消した。
……視線を向けた時点で、転移してくるのはバレバレなのよね。
だから……ここで仕掛けるわ!
「――《刻穿金の烈震》ッ!」
霊幻鋼の剣を引き抜きながらそう言い放つ私。
直後、私の周囲の地面から、空を穿つようにして、私を取り囲む形で金色に輝く巨大な剣が12本噴出する。
なんというか……まるで時計の針を思わせる配置ね。
今までは、魔法を使っても不完全な絶霊紋のせいで上手く想定通りの性能を発揮しなかったので、ほぼ使っていなかったのだけど……
完全化された事で想定通りの性能を発揮するようになったから、魔法を使えるようにしておいたのよね。丁度いい具合に、霊幻鋼の剣の魔煌調律――じゃなくて、魔煌波生成回路はブランク状態だったし。
なんていう感想と思考がつい頭をよぎったところで、
「がふぅっ!?」
ちょうど転移してきたミスズに命中。
ミスズは噴出した剣によって、上空へと吹き飛ばされる。
……え? ……おかしいわね、貫くかと思ったのに吹き飛ばしただけ……?
不思議に思いつつ、ミスズを視線で追う。――そして気付く。
……あー、なるほど……ね。どうやらソウヤと同等……とまではいかないまでも、それに近い――魔法耐性の凄まじく高いタイプの防御魔法が付与されているみたいね……
吹き飛ばされたミスズは、空中で体勢を立て直しながら停止すると、双頭の薙刀を振るい、衝撃波を飛ばしてきた。
どうやって空中で停止しているのかはさっぱりだけど、その程度の衝撃波なら余裕――
剣を振るってかき消そうと思った直後、全身に一際大きな痛みが走った。
そして、同時に身体が硬直し、私の意思とは無関係に、私の身体が膝から崩折れる。
……げ、限界……? うそ……でしょ。このタイミング……で……?
あ、あ……そう……いえば……絶霊紋……が、魔法を…………
ま、ずい……。攻撃を防げな――
◆
<Side:Souya>
「これは……あそこの人々を連れて来ないで正解だったね」
「次々に宮殿へと突き進んでいるでありますね」
エルウィンとクラリスが物陰から大通りを覗き込みつつそんな風に言う。
その視線の先――大通りには所狭しとオートマトンが集まっていた。
そして、どのオートマトンも一直線に宮殿方面へと進んでおり、周囲の警戒などもまったくしていない様子だった。
どうやら、敵拠点への攻撃を優先するモードになっているようだ。
自己判断なしの一点集中攻撃状態というと、なんだか珠鈴や室長と潜入した工場拠点を思い出すな……
このモードの時は周囲への警戒が皆無なため、強襲しやすい。
とはいえ、さすがに攻撃を受けると周囲も含めて迎撃状態に移行してしまうため、有効なのは最初の一撃だけだ。
「どうやって宮殿まで行きましょうね……」
「全部倒せばいいんじゃないかね?」
カリンカの言葉にサラッとそう返すアーヴィング。
いやまあ、倒せるかもしれないが、どうしても時間がかかりそうなんだよなぁ……
それこそ、カリンカと俺で融合魔法の先制攻撃を仕掛けて、纏めて薙ぎ払ったとしても、それ以降は守りを固めつつ地道に潰していくしかないからな……
しかも融合魔法の効果範囲を考えると、注意しないと宮殿まで壊しかねない。
斜めに撃って……いや、それだと撃破出来る数が……
そもそも、味方がどこにいるかわからない以上、無闇矢鱈に撃つのは危険すぎる……。むむぅ……
と、そんな感じでどうするのが最良なのかと考えを巡らせていると、偵察に行っていた朔耶――アルに乗る朔耶が戻ってきて、
「こっちはオートマトンが密集してるけど、どういうわけか東側の門の方は、ほとんどいなかったよ。代わりに凄い強そうな2人を相手に、シャルと軍人っぽい格好の女の人が戦闘してた。なんか片方はちょっと珠鈴っぽい雰囲気があったけど……まさかねぇ……」
なんて事を言ってきた。
ふむ、オートマトンがほとんどいないのは、戦闘の邪魔になるから……とも考えられる。
強者同士の戦闘では取り巻きは多いほど邪魔になるだけだからな。
RPGとかで圧倒的な強さを持つ大ボスが、単独でパーティに挑んで来るのに似ているな。要するにザコが周囲にいても邪魔にしかならないという話だ。
まもっとも、味方を巻き込んでも構わないという前提であるのなら、話は別だが……
それと……まさかねぇと朔耶は言ったけど、ありえるんだよなぁ……珠鈴が敵側にいる可能性が。なにしろ、一度家に侵入してきているし。
っと、それは行ってみればわかる話か。ならば――
「――ま、なんにせよ、そこからのアプローチが最も妥当な感じだな。最短ルートは?」
「もちろん上から見て確認済みだよ! 着いてきて!」
俺の問いかけにそう返してくる朔耶。
……こういう場面の朔耶って、どういうわけか妙に的確な動きをするんだよなぁ……。実に不思議だ。
と、そんなふと湧いてきた疑問について考えつつ、俺は朔耶の後を追った――
シャルロッテが遂に魔法を使いました。
見た目がいかにも魔法をメインに使いそうな種族なのに、全く使いませんでしたからね、ここまで。
まあもっとも、エルランだからといって魔法の扱いが上手い……とは限らないないのですが。
追記:タイトルに異譚2が付いていなかったので追加しました。ついでに名称を異譚1に合わせてドイツ語化しました。




