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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第15話異譚1 Schlacht von Charlotte

<Side:Charlotte>

 エメラダの視線の先へと私も視線を向け、迫る一組の男女を観察する。

 

 男の方は、私と同じエルランね。

 赤髪――しかも、燃えるようなという表現がぴったりな髪型だわ。

 武器は……なんと言えばいいのかしらね……? 長い柄の先に大きな歯車みたいな物が付いている、斧だかハンマーだか良くわからない武器ね……これ。

 

 対して女の方は、薙刀を2つ繋げたような、上下双方に刃がある槍を持っているわね、こっちはまあ、分かりやすいわね。ちょっと特殊だけど。

 で、ソウヤやサクヤのような黒髪のポニーテルのヒュノス……と。

 うーん……アカツキの人間かしらね? 武器もアカツキで一般的な物に近い形状だし。

 

 それにしても……実に厄介そうな雰囲気が漂っているわね、このふたり。まったく隙がないし。

 おそらく単体の強さで言ったら、どちらもガルシア以上……ね。

 特に女の方……男の方よりも強いわね、間違いなく。

 

 ひとりで相手しようとしたら、ちょっと厳しすぎるけど……幸い今は、全盛期にはアーヴィングに匹敵すると言われていたエメラダがいるから、1対1に持ち込めば、レンジから教わった『技』が使えるから、どうにかなるはず。

 先のエメラダの『心強い』発言は『片方任せた』みたいな意味だと思うし。

 

 と、そんな事を思案していると、エメラダが予想通りの言葉を発した。

「で、どっちを相手にする?」


「そうですね……。私は女の方を相手します」

「そうか。ならば、私はあの赤髪のエルランの相手をする」

 エメラダは私の言葉にそう返すと、周囲にいる軍人や傭兵、討獣士といった戦闘要員をぐるりと見回し、

「――他の者はオートマトンを掃討しろ!」

 と、言い放った。

 直後、一斉に周囲にいる者たちが了承。大きな声となって周囲に響く。

 

「だ、そうだぜ?」

 男が肩をすくめながら女の方を見て言う。


「なにがだ?」

 女は男の方に顔を向ける事なくそう言葉だけ返す。


「あちらさんはやる気満々。俺の相手はエメラダがしてくれるそうだ。お前の相手はあっちのエルランの女だとさ」

「そうか」

「相変わらずつれない返事だな。まあいい、無粋なオートマトンに邪魔されるのもあれだから、あのふたりは攻撃対象から除外しとくとすっか。ああ、あとついでに俺たちの近くに近づかないようにしておこう。ザコは何体いようとザコ。障害物にしかならん」

「なら、民間人も除外しろと……。いや……無理か」

 途中で腰に手を当て、頭を振ってため息をつく女。

 どうやらある程度攻撃対象を指定出来るみたいね。

 まあ、民間人を区別するほどの指定は出来ないようだけど。


 男がズボンのポケットからプレート状の物を取り出し、それを何やら叩きながら、

「ああ、無理だな。そこまでの判断が出来るような高度なAIじゃねぇよ。ま、言いたい事は分かるけどよ、既に『戦争』は始まってっからな。そこは諦めろ」

 と、そんな風に言葉を返す。……『戦争』ね。


 この会話、私とあの男、エルランゆえに互いに聞き取れた……といった所かしら。

 どうも、民間人を巻き込むのは不本意だというような考えを持っているようだけど……

 

 なんて事を思っていると、

「……ならば、速攻で武装している者を殲滅、制圧する。それが最良だからな」

 という女の声が聞こえ、直後にその女の姿が消えた。


 ……!?

 刹那、上から殺気を感じた。

 即座に後方へと飛び退く。

 

 と、直前まで私がいた場所に、上から下へ閃光が走った。

 同時に姿が消えた女が視界に入る。

 

 ――瞬間移動!?

 まさか、あのエルランの男、ソウヤの転移の異能と同じ物を持っているとでも言うの!?

 

 そうこうしている間に、女が双頭の薙刀を振るう。

 私はそれを刀で受け止めつつ、剣を女に向けて突き出す。

 

 が、女はそれを身体を捻って回避すると双頭の薙刀を回転させ、上段から振り下ろしてきた。

 

 私は横に跳躍してそれを回避。そこへ今度は踏み込みつつ下段からの振り上げが迫る。ああ、もう、厄介ねっ!

 

 刀を双頭の薙刀目掛けて打ち付けるように振るい、迫る刃を迎撃。

 続けざまに剣に霊力を込めて振るう。

 

 と、その瞬間、女の姿が消えた。

 ……? ……っ!

 

 女の狙いに気づいた私は身を翻し、素早く後ろを向く。

 すると、私目掛けて双頭の薙刀を振るってくる女の姿が視界に入った。

 ギリギリのところで刀と剣をクロスさせ、その攻撃を防ぎ止める。……セ、セーフ……


 その状態でチラリとエメラダの方を見ると、エルランの男の攻撃を受け止めるエメラダの姿があった。

 歯車部分が高速で回転し、ガリガリと音を立てながら、エメラダの持つ鉄扇を削ろうとしている。

 

 ……あの状況下で、ソウヤの様に引き戻して再度飛ばす、なんて事をやってきたとは思えないわね……。となると、この女自身が転移した……?

 

 ……ああそういえば、ソウヤがルクストリアに来たその日の夜に、転移能力を持つ女が忍び込んで来たという話をしていたわね……。なんでも知り合いの可能性が高いとかなんとか。

 ……という事はおそらく、この女が……。えーっと、名前はたしか――

 

「――ねぇ、貴方。もしかして、ミスズ……とかいう名前だったりしない?」

「……なっ!? どうしてその名を!?」

 私の問いかけに、目を大きく見開いて驚きの声を上げる女――いえ、ミスズ。

 

「私はソウヤの騎士なのだから、知っていて当たり前でしょう? まあ、顔を見たのは始めてだけど……ね!」

 驚きで力が緩んだ隙を突き、私はクロスさせている刀剣を押し上げると、地面を滑るようにして後退。ミスズとの距離を取った。


「蒼夜の騎士……だと? どういう事だ?」

 ミスズが双頭の薙刀を正面に構え直しながら問いかけてくる。

 しかも、あからさまに動揺しているのが見て分かるレベルで。

 どうやらポーカーフェイスとかは苦手みたいね。実に分かりやすいわ。

 

「まあ……正確に言うと、騎士っていうのは自称だけど、私の呪いを解いてくれたソウヤを生涯の主と定めているのは事実よ。――つまり、私の刀と剣は、ソウヤの剣でもあるというわけよ」

「呪いを解く……? 蒼夜の奴、そんな事まで出来るようになっているのか……?」

「出来るのよね、これが。まあ、私も驚いたけど。……それで? どうして貴方は、そっち側にいるのかしら? ソウヤの古馴染みなのよね? 貴方も」

「それは……」

 私の問いかけに言い淀むミスズ。

 

「こんな事をしているのをソウヤが知ったら、どう思うかしらね?」

 私は敢えてそんな意地の悪い事を言ってみた。

 ……なんか、ミスズもソウヤに対して好意的な感情があるようだし。

 

「……っ! ……う、うう……」

 あら、思ったより効果的だったのかしら? 震えているわね。

 

「……うるさいっ!」

 大きな声でそう言い放つと、私に向かって真正面から突っ込んでくるミスズ。

 唐突にキレた!? なんで!? どうして!? ちょっと沸点低すぎじゃないかしら!? 

 

「私とてしたいわけではないっ! だが、こうする以外の道がないのだっ! 他に道があるのなら選ぶっ! だが、そんなものはないっ!」

 そんな事を喚き散らしながら、やたらめったらに双頭の薙刀を振るうミスズ。

 

 ミスズの沸点の低さに心中で焦っていた私だったが、その言葉で一気に冷静さを取り戻す。

 ああ……そういう事……。沸点が低いわけじゃないのね。


 どうやらミスズは、ここまでずっと蓋をして押し込めていた感情が、私の一言で抑えきれなくなったみたいね。うーん、余計な事を言ったかしら……?

 まあでも、そのせいなのか攻撃が雑になっているから、防ぐのは簡単だけど。


「何を言っているのかわからないけど……。道がないからなんだというのよ!? 道っていうのは既に存在する物の中から選ぶだけじゃないでしょ! 自分で道を作るという方法もあるでしょうに!」

「そんな物は既にやった! だが、私に道を作るのは無理だった!」

 

 ミスズはそう言って大きく後ろに跳や……違う!

 ミスズが双頭の薙刀を振るい、青い衝撃波を飛ばしてきた。

 

 私は霊力を込めた刀剣で青い衝撃波を迎撃し、消し飛ばす。

 

「ぐぅっ!?」

 強烈な衝撃が真横から走る。

 いつの間にか真横から飛んで来ていた青い衝撃波が私に激突していた。

 

 どうにか衝撃波の方を霊力を込めた刀剣で消し飛ばすも、既に私の身体は宙に弾き飛ばされており、そのまま勢いよく地面に叩きつけられた。

 

「がっ! ぎっ! かはっ!」


 受け身を取ったものの、衝撃を殺しきれるものではなく、私は何度か地面をバウンド。その勢いで霊幻鋼の剣が手から離れ、カランカランという音が響く。

 

 なんとか、刀だけは手放さないようにしつつ、どうにかこうにか最後は地面を滑る形で停止した。

 

 う……ぐ……。け、結構まずいダメージを食らったわね……

 骨が何箇所か折れたか砕けた気がするわ……。まあ、服の防御魔法が弱かったら戦闘不能――瀕死になっていてもおかしくなかったから、まだマシというものではあるけど……

 どうやら、衝撃波を飛ばすと同時に転移して、更に飛ばしてきたみたいね……。まったく気づかなかっただなんて……なんて失態……

 

 その私に向かってミスズが突っ込んでくる。

 突っ込んでくるという事は……転移は短時間での連続使用は不可能……?

 

 そう判断した私は、気合で立ち上がると、刀を鞘に収めた。

 それを見て、ミスズが「む?」という、訝しげな呟きを発して、急停止。

 くっ、向こうも良い判断するわね……っ! でも、放つのみ!

 

「らぁぁぁぁぁぁっ!」

 鞘から刀を抜き放ちながら叫ぶ。

 と、同時に鞘から赤いオーラと化した膨大な霊力が噴き出し、魔獣が吐くファイアブレスの如き様相で、ミスズへと襲いかかった。

 

「なっ!?」

 ミスズは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐさま双頭の薙刀を正面で風車のように回転させ、それを防いできた。

 やはり距離が少し離れていたせいで効いてないわね……

 

 ぐ……っ!

 刀を構え直した瞬間、私の全身に激痛が走った――

というわけで、珠鈴の登場です。

久しぶりに戦闘だけで1話がほぼ終わりました。

戦闘の最後までやってしまうべきかとも思ったのですが、さすがに長すぎたので一旦区切りました……


追記:タイトルの異譚を異譚1にしました(2があるので)

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