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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第15話[Triple Site] カリンカの翼、そして指揮官と指揮官

初の3視点構成です。

<Side:Karinka>

「カリンカさん!」

 気を失っていた私が目を覚ますと、そんな声が聞こえてきた。

 それは、アリーセさんの声。

 

「アリーセ……さん……? それに皆さん?」

 まず視界に入ったのはアリーセさん。

 そして、その周囲にエルウィン殿下、クラリスさん、朔耶さんが居た。

 

「アリーセさん、無事だったんで――」

 アリーセさんが無事だった事を喜ぼうとして……違和感を覚える。

 あるはずのものがないような、そんな違和感。


 そして、すぐにそれに気づく。

 アリーセさんの腕が片方なくなっている事に。

 

「っ!? どうしてアリーセさんの腕が片方なくなっているの!?」

 私は跳ね起きて大声で、仕事用の言葉遣いなんて忘れて尋ねる。

 

「えっと……多分、吹き飛んだんじゃないでしょうか。まあ、この程度なら再生可能なので問題はありませんよ」

 さらりとそんな風に言って返してくるアリーセさん。

 

 いやいやいやいやいや! 色々おかしいでしょ!?

「た、たしかに再生出来るけど……え? なんでそんな軽いの?」

「……? 何かおかしいでしょうか……? 死んでいないのですし、気にするほどでもないかと思うのですが……」

「……え、ええ?」

 え? そういうものなの? 私の感覚がおかしいの? え?

 

「アリーセって、以前からこういう所あったけど、いつの間にか更に磨きがかかっているというか、感覚のズレが酷くなっているというか……そんな感じがする……」

 やりとりを見ていた朔耶さんがそう呟くように言う。だよねぇ……!

 

「まあ、アリーセさんでありますからね」

「いや、そんなチートな人に対して言う定型文みたいな返答されても……」

 朔耶さんがクラリスさんの言葉に脱力しながら、そんな風に返す。


 ちなみに、エルウィンさんとクラリスさんは『チート』の意味を知らないようで、不思議そうな顔をしていた。まあ、元々魔煌技師の人とかが使うスラングなので、仕方ないといえば仕方ない。


 なんて事を考えていると、朔耶が私とアリーセを交互に見て、

「って、それはともかく、そんなチートなアリーセの回復薬でも、翼が片方修復されてないんだけど……なんで?」

 と、もっともな疑問を口にしてくる。まあ、そうでしょうねぇ。

 

「え、えっと……それは、その……」

 私の方を見て言い淀むアリーセさん。

 どうやら、アリーセさんはその理由を分かっているらしい。

 

 どうしたものかと思っていると、

「お、無事だったか!」

 というソウヤさんの声が聞こえてくる。

 

 声のした方を見ると、ソウヤさんとアーヴィング閣下がこちらへ向かって走ってきている所だった。

 

                    ◆


<Side:Souya>

 カリンカのもとへたどり着くと、カリンカの翼が片方修復されていないままだった。

 消し飛んでいるわけではないので、修復出来ると思うのだが……

 

「翼が治癒されていないが……もしかして、また呪いかなにかか?」

「あ、いえ、回復薬では難しいというか……えーっと、その……」

 俺の問いかけに言い淀むアリーセ。

 

 ……ふむ。これは何かに気づいているが、カリンカがその事を話していない手前、言うべきか迷っているって所か……?

 

「……カリンカの翼、片方が義翼――イミテーションだったりするのか?」

 俺は今までのカリンカの言動と現状からその結論を導き出すと、あえて俺の方から問いかけてみた。

 

「っ! ……ソウヤさんも気づいていたのですね」

 と、カリンカ。

 『も』と言ったのは、おそらくアリーセが気づいているからだという意味だろう。

 

「正確に言うと、今気づいたというべきだな。以前からカリンカは『飛べない』と言っていたからな……。これまでは、それがどういう理由なのかが分からず、推測は出来ても確信は持てなかったから考える事自体を保留していたが……今のこの状態を見れば、さすがにな」

「なるほど……たしかにそうですね。……思えば、湖に落っこちそうになった私を引っ張り上げてくださった時点で、私は『飛べない』と言っていましたね。あの時はサージサーペントが瞬殺される事の方が衝撃的すぎた事もあり、その発言に関して失念していました……」

 俺の言葉に対し、カリンカは額に手を当てながら、そう返してきた。

 言った本人が忘れてたのかい……

 

「――そうですね、皆さんには詳しく説明したいと思いますが……この状況下では難しいですね」

 カリンカがおもむろに魔法を放ち、その先にいたオートマトンを破壊する。


「そうだね、オートマトンどもの排除と生存者の救出が先だね」

「で、ありますな」

 と、カリンカの言葉に頷きつつ、エルウィンが魔法で、クラリスが蛇腹剣で、それぞれオートマトンを破壊した。


「やれやれ、本当にゆっくり会話すらさせてくれない連中だねぇ」

 呆れた表情でため息交じりにぼやくアーヴィング。

 

「まったくもって……。これは一旦シャルたちと合流して――って、そういえば……シャルたちはどこにいるんだ……?」

「あー、たしかにそうだね。……んー、さっき上空から見回した時、近くに見えたのはソー兄たちだけだったから、ここから離れた場所にいるのかも」

 俺の口にした疑問に対し、そう告げてくる朔耶。

 ふむ……近くにはいない……か。

 

「シャルロッテ殿たちが向かったのは、たしか……市長官邸となっているランザリア宮殿がある方でありましたよね?」

「うん、そのはずだよ」

 クラリスとエルウィンがそんな風な事を話す。


「ランザリア宮殿というと、大陸中原南部から北部にかけての広い領土を有していた、旧イルス大王国が栄華を誇っていた頃に造られた離宮……ですよね?」

「そうだね。大軍が攻めてきても大丈夫な程の堅牢さを誇っている事で有名だから、そこを調べに行くのは正しい判断だと思うよ」

 アリーセの問いかけにそう返すアーヴィング。


 旧イルス大王国……。よくわからんが、イルス神話というのが存在している事だし、かなり古い時代の話っぽいな。

 で……その時代に造られた堅牢な離宮を利用した市長官邸、か。それならば――

「そのランザリア宮殿ってところへ行ってみるのが良さそうだな。現状を考えると、おそらく高い確率でそこにいるだろうし。それに……落ち着いた場所で、俺もシャルたちに言わないといけない事があるからな……」

 そう俺が告げると、意図を察したらしい3人と、よく分かっていない3人にキレイに別れた。……まあ、そうだよな。

 

「それが妥当だろうね。……ああそういえば、途中で救出した人たちも連れて行くかい?」

 と、ふと思い出したように言ってくるアーヴィング。

 

「それなら、こちらにも救出した後、安全そうな所に隠れてもらっている人たちがいるでありますね」

「そうだね。あまり長い間あそこに隠れていてもらうのは難しいかもしれないから、何か手を打たないと」

 クラリスとエルウィンもまたそんな事を言った。

 

「うーん……。連れて行きたいところではあるんだが、シャルが宮殿に留まったままである可能性が高い事を考えると、それはつまりその場から離れがたい状況――要するに、逆に敵が宮殿付近に集まっている、という可能性があるんだよなぁ……」

 俺が腕を組んで思案しながらそう告げると、アーヴィングが、

「ふむ、たしかにそうだね。となると……とりあえず偵察も兼ねて、今は俺たちだけで行く方が良さそうだね。ああでも……そちらが救出した人たちは、こちらで救出した人たちと合流させておくとしよう。こちらにはソウヤ君が作ったバリケードがあるから、オートマトンに見つかったとしても、そう簡単には破られないだろうしね」

 と皆に対して言い、それに納得する皆。

 

 ……いや、そこまであの急ごしらえのバリケード――と呼んでいいのか怪しい瓦礫の山――に信頼感をもたれても……

 まあ……とりあず、もうちょっと瓦礫を増やしとくか……。人数が増えるとそれだけオートマトンの生体感知システムに引っかかりやすくなるし、もう少しオートマトンでは近づき難い状態にして、感知範囲に入りにくくしておいた方がいいからな。

 

                    ◆


<Side:Charlotte>

「まったく……どれだけ斬れば片付くのよ、こいつら……」

 私はそんな愚痴をこぼしながら、両手の刀剣を振るい、オートマトンを斬り伏せていく。

 

「偵察に行った者の話だと、周辺に散開していたオートマトンの約7割がこっちに向かって来ているみたいだね」

「……ここに、狙いを絞った?」

「――んじゃないかなぁ? ここにはエメラダ様もいるし、救助した多くの市民もいる。それに、ウチの軍も約半数がここに集結しているからね」

 

 ジャックとミリアが、魔法でオートマトンを迎撃しつつ、そんな事を話す。

 なるほど……それは敵からしたら、ここを攻めるのが一番な感じねぇ……

 

「つまり……まだまだ来るという事だな」

 そう言いながら身の丈と同じくらいの巨大な鉄扇を両手で振るい、オートマトンを一刀両断したのは、ジャックとミリアが着ている軍服にマントを付けた物を身に纏うディアルフの女性。

 ふたりの上官であり、同時にクスターナ都市同盟の盟主でもあるエメラダね。

 年齢は……アーヴィングとサギリナの間くらいかしら?

 

 ……それにしても、この人の鉄扇、刃が仕込んである上にこの大きさ……そして、ロゼが使う円月輪に刻まれている紋様にそっくりな紋様……。どう考えても、作った人間は同じね。エメラダは、どこの誰が作ったのか知っていたりしないのかしら?

 私もちょっと欲しいのよね、この巨大化する武器。

 

 なんて事を考えつつ、手近なオートマトン6体を霊力の刃で薙ぎ払う。

 

「いやはや、凄まじい強さだな。サギリナの話以上ではないか」

 自身も3体のオートマトンを薙ぎ払いながら、そう言ってくるエメラダ。

 どうやら、あの人から私の事を聞かされているらしい。

 

 う、うーん……

「一体、あの人とどんな話をされていたのか、少し気になりますね」

 私はオートマトンを斬り捨てつつ、エメラダにそんな風に話す。

 

「ん? 優れた剣士だという話と……それゆえに、昔は力任せに物事を解決する傾向にあったせいで苦労させられたという愚痴だな」

「……あ、そっちも話していたんですね……」

 まあ、昔は割と無茶な事をしていたから、愚痴られても仕方がないのだけど……。最近は無茶してないんだけどなぁ……。……してないわよね?


 ソウヤと行動をしていると、どうもその辺の感覚に自信が持てなくなるのよねぇ……

 でも、多分大丈夫……な……はず。

 

 なんて事を思っていると、

「魔法探偵シャルロットだったか? よもや、あの読み物の主人公のモデルが君だとは思わなかった。……あの読み物の話はどこまで本当なんだ?」

 と、そんな風に問いかけてきた。

 ここでその本の話が出てくるのは、ちょっと想定外だわ……

 

「……え、えーっと……7~8割くらい……でしょうか……?」

「なるほど……。あのサギリナが愚痴をこぼすはずだ……」

 腰に手を当てて首を左右に振るエメラダ。

 いや、あれは昔の話だし、一応2~3割は違うし……

 

 なんて事を思っていると、嫌な気配を捉えた。

 ……どうやら、オートマトンではない『敵』が迫ってきているようね。


 エメラダにその事を伝えようとするが、エメラダは既に気づいていたらしく――

「……だが、今は心強いと言える。なにしろ、敵の親玉が現れたようだから、な」

 そう言って、多数のオートマトンを従えながら、堂々とした態度で一歩一歩こちらへと迫ってくる一組の男女を見据えた――

今回の話は、今までのデュアルサイトから更に1視点多い構造となりました。

そして、2章で会話にのみ出てきていたエメラダの登場です。



――――――――――

いつもの宣伝コーナー

第2作『転生した魔工士ガジェットマイスターは、更に人生をやり直す』連載中!

(今の所はストックがあるので、微調整しつつ)毎日更新しています!

※たまに、時間設定を間違えたりしますが、基本的に同じ時間に更新です!

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