第14話[Dual Site] 薬と翼
<Side:Souya>
「しかし、呼吸は安定しているが、目を覚ます気配がないな……」
と、アーヴィングがロゼを見ながら言う。
「セルマも目が覚めるまでには大分時間がかかったからなぁ……。呪いの方は、肉体と精神の消耗が激しいとかディアーナ様も言っていたし……」
俺はセルマの事を思い出しながら、呟くように言う。
「なるほど……。あの御方がそう仰っていたのであればそういう物なのでしょう。……しばらくかかりそうですね」
そう言ってアーヴィングの方を見るアリーセ。
それに対しアーヴィングは、
「仕方がない、俺がおぶっていくとしよう」
と、言ってアーヴィングがロゼを背負った。
「後はカリンカか……」
「カリンカさんでしたら、護衛の打ち合わせがあるとかで、ギルドの方へ向かわれましたね」
「ギルドって、どっちの方だ?」
アリーセの言葉にそう問いかける俺。
すると、アリーセの代わりにアーヴィングがその問いに答えてきた。
「レビバイク専用道路の終点に近い所にあったはずだよ。ちょうど、エルウィン殿下たちが向かった方だね」
「という事は、既に見つけている可能性もありますね」
アリーセがアーヴィングと俺を交互に見ながら言ってくる。
「だな。まあとりあえず、朔耶たちの向かった方へ行ってみるか」
俺がそう告げると、アリーセとアーヴィングが頷き、了承の意を示してきたので、俺たちはその場を離れ、再び歩き始める。
歩きながら俺はアリーセに対し、
「さっきの回復薬は一体なんなんだ? 魔石を使った物じゃないっぽいのはなんとなくわかったが……」
と、疑問の言葉を投げかける。
さっきから気になっていたんだよな、あの回復薬が。
「茶色い薬はディスペルボトル――簡単に言えば、魔法の効果を打ち消す薬です。そして、暗赤色の薬はリジェネレートボトル――自然治癒力を大幅に活性化させて、継続的に肉体の再生を行う薬ですね」
なんて説明をしてくるアリーセ。
う、うーむ……。なんだか随分と特殊な――魔法的な効果を持った薬だな……
「どちらもメディアーナ草と害獣の各種素材、それから元になる薬を組み合わせた物です。あ、ディスペルボトルはターンアンデッドボトルが、リジェネレートボトルは生命活身薬がもとになっていますよ」
「メディアーナ草……ブラックマーケットで買っていたあれか。なるほど、たしかに有用な薬草だったみたいだな。……それにしても、生命活身薬とはなんだか懐かしい代物だなぁ……」
「あ、言われてみるとたしかにそうですね。……まさか、またロゼに使う事になるとは思いませんでした……。正確には今回使ったのは改良した薬、ですが」
あの時のアリーセは、魔石がなくて凄い悲愴な顔をしていたっけな……なんて事を思い出す俺。
……アリーセがどんな人間なのかを良く理解した今だから思うけど、もしかしたらあの時、少しだけ記憶が復活しかけていたのかもしれないな……
あの時の取り乱し方は、アリーセにしてはちょっと尋常じゃなかったような気がするし。
しかし……だ。つい『懐かしい』って俺言ったけど、まだ1ヶ月とちょっとしか経ってないんだよなぁ、あれから。
……ってか、そう考えると……普通にアリーセの成長速度、凄まじすぎやしないか?
なんて事をふと思っていると、
「ちなみに……あの薬ですが、ソウヤさんが集めていた素材――ディアーナ様が示した物を見ていて思いついたんですよ。元々、魔石を主とした回復薬は効果が高い物の……魔煌の過剰状態という問題がありますので、その問題を解決する回復薬を……というのを考えていた事もあり、割とあっさり精製に成功しました」
そんな話をさらっとしてくるアリーセ。
……やっぱり薬品調合に関してはチート級だな。
というかあれだな、薬品調合のチートスキルだけじゃなくて、急成長のチートスキルも持っているとか言われても信じそうだ。無論、スキルなんてものは残念ながらこの世界には存在していないんだが。
……ああでもまてよ? 霊力とかって一種のスキル的なところがあるよなぁ。
ん? そういう意味では、ディアーナの使う術なんかもそうか……
ふむ……。もしかしたら、目に見える形――あからさまな形では存在していないものの、それに近い『何か』が存在しているのかもしれないな……
俺がそんな思考を巡らせていると、アーヴィングが、
「……それにしても、アリーセは本当に大丈夫なのかい?」
と、アリーセに向かって問いかけた。
「あ、はい。……まあ、まだちょっと駄目な所もありますが、概ね大丈夫です! ロゼがいきなり変な事を言い出したので、そこから一気にこう落ち着きました!」
「そ、そうか……。何が功を奏するのかわからないものだね……」
たしかにそうだな、と俺もアーヴィングの言葉に心の中で同意する。
もっとも、まだちょっと駄目な所があると自己申告しているので、完全に立ち直ったというわけではなさそうなので、しばらくは注意して置いた方が良さそうではあるが。
「ん? 空からなにかが接近してきている気がするね」
アーヴィングがそう言いながら見上げる。
はて? 空を飛ぶオートマトンなんて存在しないはずだが……
そう思いつつアーヴィングに続いて見上げながら、クレアボヤンスを使う。
と、視界に入ってきたのは見慣れた飛竜――アルと、それに乗る朔耶だった。
どうやら俺たちの方へ向かってきているようだ。
「朔耶ですね。カリンカを見つけたのかもしれません」
そうふたりに告げ、近くにいたオートマトンを適当に潰しながら待っていると、
「ソー兄! カリンカさんを発見したよっ! 怪我が酷いから急いで来てっ! って、アリーセ! 無事だったんだね!」
という朔耶の声が聞こえてきた。
飛竜を召喚出来るっていうのは、移動範囲が広いからいいよな……
……って、そういえば朔耶のコレ――召喚も特殊といえば特殊だよなぁ。
まあ、これはテレパシーが変化してこうなったようだが……
……ん? 変化? ……あれ? そうなるとサイキック自体も……?
っと、いかんいかん。それを考えるのは後だ。
俺は朔耶に状況を訪ねようとし……た所で、先に朔耶の方が口を開いた。
「ん? 代わりに……なんだかロゼがなんかマズそ……ちょっ!? 待って待って! アリーセも片腕がなくなってるんだけど!? な、何があったの!? っていうか、だ、大丈夫!?」
大慌てといった感じで降下してくる朔耶――朔耶が駆るアル。
まあ、たしかに慌てるのもわかるが。
「はい、私もロゼも、どっちも大丈夫です! それより、急いでカリンカさんのところへ案内してください! すぐに治療します!」
アリーセが、強い決意に満ちたそんな口調で朔耶に対して言葉を返す。
「え、あ、う、うん! こっち! 着いてきて!」
大丈夫と言われた朔耶は急停止して一瞬戸惑ったものの、すぐに自身を納得させたのか、その場で方向転換。俺たちを案内しようとする。
……オートマトンが来てるな。倒して進めばいいとはいえ、時間が惜しい。先にアリーセだけ向かわせるとしよう。
クレアボヤンスでオートマトンの姿を捉えた俺は、そう判断し、朔耶に向かって叫ぶ。
「――待て朔耶! 最短距離でアリーセだけ先に連れて行け! 俺たちは後から追いかける! クレアボヤンスがあるから追跡は出来るからな」
「あ、そうか! たしかにそうだね!」
「飛ばすぞ!」
「了解!」
俺は朔耶の返事を聞くと同時にアリーセを飛ばす。アルの背――朔耶の間近へと。
「キャッチっと! それじゃ、先に行ってるね!」
「ああ、すぐ行く!」
俺の返事を聞き終えるよりも早く、アルが飛翔し、崩れた建物の向こう側へと消えていく。
それを見送りながら、
「……さて、オートマトンを粉砕しつつ、追いかけましょうかね」
と、アーヴィングに言う俺。
「本当にあいつら、次から次へと出て来るね……まったく」
アーヴィングはロゼを一度地面に降ろし、斧槍を構えながらそんな風にボヤく。
そして、近づいてくるオートマトンを見据ると、不敵に笑いながら続きの言葉を紡いだ。
「まあ、指一本――いや、攻撃1つかすらせるつもりもないけどね」
◆
<Side:Alice>
「か、カリンカさん!?」
翼が2つともボロボロになっているカリンカさんの姿が見えました。
「アリーセ殿、無事だったでありますね! 良かったであります!」
「これでカリンカさんも安心だね」
「で、ありますね! あ、応急処置はしてあるであります! ……って、アリーセ殿、片腕はどうしたであります!?」
「た、たしかに……っ! な、なにがあったんです!?」
クラリスとエルウィンさんがそんな言葉を投げかけてきます。
「あ、ちょっと吹き飛んだっぽいです。止血済みなのでご心配なく。それより、カリンカさんです」
そう答えながら、カリンカさんに駆け寄ります。
「あれ? アリーセ殿ってこんな感じだったでありますっけ?」
「い、いや、なんか違う気が……」
「何があったんだろう……。性格……とまでは言わないけど、雰囲気が変わった気がする……」
なんていう会話が後ろの方から聞こえてきました。
……変わったんですかね? だとしたら、あの時の記憶を思い出したからかもしれませんね。
……まだちょっと、心の奥底では厳しいものが……割り切れない自責の念がありますが、抑え込みましょう。乗り越えてみせましょう。
そんな事を考えながらも、私はカリンカさんの様子を手早く確認します。
クラリスさんが応急処置はしてあると言っていたとおり、命に別状はなさそうですし、呼吸も安定していました。
とても的確な応急処置を施してくれたみたいです。さすがですね。
これなら、2種類の薬を使えばすぐに完治させられるでしょう。
私は即座にその2種類の薬を取り出します。
すると、
「それを使えばいいんだね」
と言って、エルウィンさんが手を伸ばして来たので、私は薬を手渡しました。
薬を受け取ったエルウィンさんが、それをカリンカさんに使います。
すると、カリンカさんに振りかけられた液体がキラキラと輝いた後、霧状になってカリンカさんを包み込みました。
これで大丈夫なはずですが……
……あ、あれ?
おかしいですね……回復薬を使ったのに、何故かカリンカさんの翼の片方が回復しません。ボロボロのままです。私の腕と違って大きく失われてしまっているわけではないので、回復薬で復元されるはずなのですが……
足りなかったのでしょうか……?
あまり多用するのは良くないのですが、もう1度使ってみましょう。
「すいません、どうも思ったよりも回復していないので、もう一度お願いします」
そう言うと、今度はサクヤさんがそれを手にしました。
「えいっ!」
掛け声と共に薬がカリンカさんに振りかけられます。
……ですが、翼が回復しません。それも、まったく、です。
先程と同じ、魔煌汚染の呪い……でしょうか? ですが、先程のロゼのような感じには見えないんですよね……。うーん……
不思議に思ってボロボロの翼に触れると、『翼の感触ではない感触』がありました。
え? え?
これは……この感触は……金属……です。とても軽いですけど……どう考えても金属です。
つまり、この翼は……人の手によって造られた物……
そう、カリンカさんの片翼は造り物――イミテーションだったのです。
思考が追いつかず、呆然としていると、
「う……ん……?」
という声が聞こえ、カリンカさんが目を覚ましました。
スキルは存在しません。ですが、スキルというのは元を辿れば……
さて、カリンカの方も、ここで今まで隠していた事が判明します。
でも、コレはまだ『隠していた事』の入口みたいなものです。
4章は3章とは違って、どんどん謎が判明していく(謎が判明しつつ、また謎が増える場合もありますが……)章なので、こちらも近い内に(次回ではないですが……)最後まで判明します!
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いつもの宣伝コーナー
第2作『転生した魔工士は、更に人生をやり直す』連載中!
(今の所はストックがあるので、微調整しつつ)毎日更新しています!




