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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第12話[Dual Site] アリーセとロゼ、過去と現在

<Side:Rose>

「たしかにそれなら……」

「ん、上手くいくかもしれない。うん」

 ソウヤからの話を聞き、私とお父さんがそう口にする。うん。

 

 ソウヤから聞かされた通りにアリーセに語りかけていけば、上手くいく気はする。うん。

 だけど……ソウヤの言うとおりにやって、それで終わらせていいのか……と、私の奥底に眠る昔の私が囁いてくる。

 私は……隠し続けていた昔の私の……真実を、語る時が来たのかもしれない。


 ……うん、ごめんソウヤ。

 私、ちょっとソウヤの想定とは違う風にしてしまうと思う……

 

 無論、私も上手くやれるかはわからない。

 何しろ、私は言葉で伝えるのは苦手だから……

 でも……うん、やるだけやる。

 

「――アリーセ! お前の次元鞄を――回復薬の入った鞄を持ってきたぞ!」

 ソウヤがそう言って次元鞄をアリーセに見せる。

 

「……ソウヤ……さん? 回復……薬……?」

 ん、アリーセが今までと違う反応を見せた……!

 それが果たしてソウヤの声だったからなのか、それとも回復薬という言葉だったからなのかはわからない。でも、違う反応を見せた事は間違いない。

 

「回復……。治す……」

「うん、アリーセの得意なのは、治癒。この場所は、治癒が必要な人がたくさんいる。うん。アリーセの力が――英雄が、必要」

 アリーセに対して、私はそんな風に告げる。

 

 うん、もちろんこの言葉が正しいのかはわからない。

 でも、誰かを治し、癒やす事にかけては全力なアリーセなら、これに反応するはず。きっと、うん。

 

「必要……? 英雄?」

 反応が薄いけど、一応返ってきた。

 

「ああ、アリーセは俺やシャルを英雄のように見ているが、そうじゃない。この場で英雄になるべきは、回復薬で治療出来るアリーセだ」

 ソウヤがそう告げ、

「うん、英雄。アリーセは、英雄になるべき」


「英雄……私が……。治療する……私が……」

 ん、アリーセの反応が先程よりも良くなって来た。

 

 やっぱり、治療とか英雄とか、そういう言葉がアリーセには響くらしい。うん。

 ちょっと不思議だけど、ある意味、アリーセらしい。


 そう安堵した所で、「でも……」と、アリーセが悲嘆に暮れた目で呟く。

 その目は駄目。そういう目じゃ、駄目!


「私は……私は、母様を殺したのですよ? そんなどうしょうもない人間に……誰かを治すなんて、そんな資格は……ない……んです。英雄になんて……なる事は、出来ないんです……」

 再びマイナスな方向へと思考と言葉が行ってしまうアリーセ。

 殺した……。違う。それは……

 

「妻を殺したのは、白き王剣の騎士団だ! アリーセではない!」

 お父さんが声を大にして言い放つ。

 ……白き王剣の騎士団……。結果的にはそう。うん、でも……違う……本当は……

 

「いいえ……。私が、私が英雄になろうなどという……浅はかな事を考えて……動いたりしなければ……。私が目立たなければ……! 襲われたりしなければ……! 母様は私を庇う必要なんてなかったんです! だから、私が殺したも同然なんです!」


 それは……うん、たしかにそうかもしれない。だけど……

 だけど、そこでアリーセが動かなくても、結局は結果は同じだった……

 ただ、その結果だったら、きっと私はここにいない。うん。

 いや……もしかしたら同じ結末だったかも……?

 結局、あの人は私の前に立っただろうし……もしあの人が動かなければ……

 

 頭の中で思考が「もしも」の可能性で右往左往し始める。

 駄目……考えるのはよそう。うん、こういうのは勢いあるのみ……!


 私は意を決して、思ったとおりの言葉を発する。 

「ん、あそこで……アリーセが動かなかったら、私がアリーセのお母さんを殺していた。もしくは私が殺されていた、うん」


「「「え?」」」

 私の言葉に、3人の声が重なる。

 

 うん、たしかに誰にも言っていないのだからそうなるのは当然。

 ……今まで言わなかった事を、言おう。

 ソウヤが考えていた流れとは違うけど、ここで言わないと駄目だと思う。……うん。

 

                    ◆


<Side:Souya>

 唐突に、本当に唐突に、想定外の事を口にするロゼ。

 

「それは、どういう事だ?」

「……ん。アルミナでソウヤに話した事、覚えている?」

「ん? あ、ああ『主の命令』とかいう話か。……そういえば、あの頃と今では随分雰囲気が変わった気がするが……」

 アルミナでのロゼとの会話を思い出しながら答える俺。

 

 あの時はアーヴィングからアリーセの護衛を命じられた、とか、アリーセの命令を実行したら、とか、そんな事を言っていたな。

 そう、なんというか……頭の固い騎士のような、そんな思考だった。

 

「うん。この一ヶ月色々あって……ありすぎて、私は、アリーセを常に守るのは無理だと悟った。そうしたら、なんか楽になった。うん。『命令』とかそういうのに、縛られる必要はないって思った。……まあ、うん、一番のキッカケは、私とほぼ同じ境遇にありながらも、全然違う風になったクーだけど。うん」

 なんて事を言ってくるロゼ。


 クーと同じ境遇? まさか、アサシンロッジ……?

 あの施設にいた少年少女は、どこから連れさられて来たのかと当時は思ったが、まさか……こっちから連れていかれた……っていう話だったりするのか?

 

 俺はそれについての考察を巡らせたくなったが、今は話を聞くのが先だと思い、頭を振って考察を中断する。


「ともかく……うん、私はそんな風にして、一ヶ月前の私とはもう違う自分になれた。……と、同時に……私の中に残る昔の私が囁いてくるようになった。うん。……あの時の事をいつまで隠しておくのか、と。うん」

「……ロゼは、『白き王剣の騎士団』の実行犯が逃げる方向に偶然居て、そこへアリーセが割って入る形になって……。そして結果的に妻がアリーセとロゼの両方を庇う形になった……。――それが、あの時あった出来事ではないのかい?」

 アーヴィングが額を手で抑えながら、そう問いかける。

 

 隣のアリーセもロゼに視線が釘付けだ。

 ……さっきまでの壊れた状態よりは、大分マシな感じだ。もしかしてロゼの発言が、ある種のショック療法めいた効果を与えた……のか?

 

「ん、概ねそう。ただ……あの時、うん、私は『白き王剣の騎士団の別の派閥』から、あの実行犯――ヴェインドレットの暗殺……それと、うん、アリーセのお母さん――ヒルデガルトの暗殺を命じられていた」

 アリーセの母親の名前、始めて聞いたな。

 今まで不自然なくらい名前すら出てこなかったし……。まあ、さっきの『治療』とかの話を聞いた今だと、むしろ自然だとも言えるが。


「別の派閥……。なるほど、たしかに白き王剣の騎士団は、思想の違いによる内部分裂を起こしていた……。まあそれがキッカケで、奴らはあの事件から半年もしないうちに半壊。我々がそこを狙ってトドメを刺しに行き、完全にこの世から消え去ったわけだが……」

「なぜ、白き王剣の騎士団は、母様の暗殺を……?」

 アーヴィングの言葉に続くようにして、暗い表情のまま問うアリーセ。


「ん……それはわからない。私は命じられただけ。……うん、でも多分、お父さんに対する『攻撃』だったんだと思う。うん」

「まあ、そうだろうね……。俺を直接狙うよりも効果的だと考えたのだろう。……実に浅はかとしか言いようがないが、ね」

 ロゼの言葉に対し、憎悪と悔恨の入り混じった声でそう返すアーヴィング。


「ん、話を戻す。……あの時、私はまず『ヒルデガルト』を狙っていた……。だけどその時、あの男――ヴェインドレットが私の存在に気づいた。うん。……ヴェインドレットは自分が別の派閥から危険分子、不穏分子扱いされている事を認識していた。うん、だから、私の事を自分を殺しに来た人間だと、理解したんだと思う。うん」

「なるほど……いつ排除されてもおかしくはない、と自分で分かっていたのなら、暗殺術に長けた者が現れたら、そう理解しても不思議ではない……というより、むしろ自然だ」

 俺はロゼの話を聞き、ヴェインドレットという男が何を思い、次に何をしたのか理解した。

 おそらく、ロゼを排除しようとしたのだろう。

 

「だから、うん、ヴェインドレットは私に襲いかかってきた」

 予想通りの言葉が出て来る。

 だが、アリーセには想定外だったらしく、

「……え? あの人は……逃げようとしていたのでは……なかったのですか?」

 と、ロゼに尋ねた。

 

「うん、違う。私に向かってきていた。そして、その事にヒルデガルトは気づいたみたい。うん。――そう、だから、うん、ヒルデガルトは……アリーセを庇ったわけじゃない。アリーセと私を庇った。うん。……アリーセは、ヴェインドレッドを足止めしようとしたから、結果的に私よりも前に出て、ヒルデガルトにより近い場所にいたから、私の存在に気づかなかっただけ」

「そ、そう言われてみると……たしかに……少女がひとり……いた気が……」

 頭を抑えながら、ロゼの言葉にそう返すアリーセ。

 

「アリーセは、うん、ヒルデガルトがヴェインドレットの攻撃を受けて血で染まった事に強いショックを受けて、気を失った……。うん。だから、その後の事を覚えていない。うん」

「その後は、一体なにが……あったのですか……?」

「私が隙を突いて、ヴェインドレットを殺した。うん。そして、ヒルデガルトも殺そうとした……けど、そこで、ヒルデガルドに言われた。うん。――無事で良かった、と。……想定外だった。そんな言葉、私は、今まで掛けられた事なかった。うん。だから、硬直した……。私は、なぜ私を助けたのか聞くのが精一杯だった。うん。他に言葉が出なかった」

「それで……母様はなんと……?」

 そう再び問いかけるアリーセに対し、アーヴィングが答える。

「……子供を守るのは大人の務め、だね。――あの場にそのタイミングで俺が駆けつけたから、その言葉は俺も聞いたよ。だからこそ、俺はさっき言ったように、偶然その場に居たロゼを助けたんだと思っていたし、ね」

 と。当時の事を思い出しながら……なのだろうか、腕を組み、目を閉じながら。


「あ、ロゼの身体能力や戦闘能力に関しては、傭兵団に所属していたんだろう、くらいに考えていたよ。昔、当時のロゼと同じくらいの年齢で、同じくらいの身体能力や戦闘能力を持った少年傭兵と出会った事があるからね」

 一転して、いつもの雰囲気で語るアーヴィング。


「――ともかく……うん、そういう事。だから……私は思った。私は、ヴェインドレットとヒルデガルト以外の暗殺は命じられていない……。ならば、うん、ヒルデガルトはどうしてあんな事が出来たのか、知りたい……と。だから、うん、孤児だと言って、ヒルデガルトの娘――アリーセの事が心配だから、一緒に居たいと言った。ヒルデガルトの思いとか、考えとか、そういうのを知りたかったから。うん」

「そうだね。随分と食いついてくるから、そんなにアリーセの事を心配して、一緒に居たいと言うのならと思って、引き取る事にしたんだし。……まあ、そんな理由があったとは思わなかったけど」

「ん、そこは、ごめんなさい。でも、今は違う。本当に家族でありたいと思う。うん。……今の話を聞いても、それから……うん、ヒルデガルトを暗殺しようとしていたという事を知っても……なお、信じてくれるなら、だけど。うん」

 ロゼはいつもどおり、感情の分かりづらい表情でそう言ったが、なんとなく拒絶されないかと心配で緊張しているように見えた。


 ロゼがどうしてここでその話をし始めたのか良くわからないし、いまいち意図も伝わりづらい話だったけど……

 少なくとも、ロゼが心配しているような事はないだろう。

 というか、何故ここでそんな事を問おうと思ったのかって感じだ。

 

 ――ロゼの事を拒絶するつもりなら、最後まで話を聞いてなんかいないと思うぞ、ふたりとも。

実は今回の話、一度書いた後、9割くらい書き直しました。


最初は、普通にソウヤがメインで他のふたりがサポートするような感じで、延々とアリーセを説得する展開だったのですが……このメンツで『そんなありきたりな説得』をしても、どうもしっくり来ないんですよね。

特に、力押しの象徴みたいなふたりがサポートというのが……どうにも。


これは駄目だと思い、ロゼとアーヴィングをメインにすると……今度は、アリーセの方がそんなので響くわけがなく……

じゃあもう力押しに振って、ショック療法みたいにしてしまうのがいいのではないか、ということで、本来もっと後でする予定だったロゼの話を、大きく前倒しする形で割り込ませ、今の流れに書き換えました。


結果、奇想天外……とまではいかないにしても、普通ならばまずありえないような流れに……!

これはこれで、このメンツならでは感が出た様な気が個人的にはしているのですが……同時に、そこはなとないカオス展開感も漂う事に……。う、うーむ……


あと、言葉で伝えるのが苦手(アーヴィングも政治的な部分は得意ですが、こういうのは苦手です)なメンツばかりなので、あえて発言の意図が伝わりづらい会話になっている部分がチラホラあるのですが、伝わりにくくなりすぎた気もちょっとしています……

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