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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第11話 残骸と瓦礫の先に

 素早く編成を決めた結果、俺、アーヴィング、ロゼで1組。

 ジャック、ミリア、シャルで1組。

 エルウィン、クラリス、朔耶で1組という編成になった。

 俺の所だけ、やたらと戦力が高い気がするが……まあいいか。

 

「ん、また残骸……」

「他の道を探すよりはどかした方が早いな」

 というわけで、俺はサイコキネシスで残骸をどかす。


 と、その直後、3体オートマトンがどかした残骸の先から現れた。

 どうやら、残骸の向こう側にいたようだ。が……


「フッ!」

「はっ!」

 アーヴィングとロゼが一瞬にして間合いを詰め、各々の得物を振るって一瞬の内に1体ずつ粉砕した。

 ……でも、気のせいか? ロゼの動き出しが一瞬遅かったような……

 

 ……いや、アーヴィングよりも先に2体目を倒しているし、単にオートマトンに気付くのがアーヴィングの方が早かっただけだろう。

 

 俺はそう思い直し、俺は壊れた何かの残骸や瓦礫を、サイコキネシスやらアポートやらアスポートでどかしたりしながら、道を作って進む。


 途中で民間人を守るべくオートマトンと交戦している、警護要員の軍人と討獣士の混成集団と遭遇したが、一瞬で一掃して救出。

 とりあえず安全が確保しきれるまで、オートマトンの侵入していない建物内へ誘導する。

 そして、サイコキネシスを使って入口付近に瓦礫のバリケードも作っておいた。

 これでしばらくは大丈夫だろう。


 というわけで、俺たちはアリーセとカリンカの捜索を再開する。

 ……しかし、放たれているオートマトンの数が多く、思うように進めない。

 そして、それに比例して死体の数も多かった。


「ん、本当にオートマトンの数が多い……。うん。あいつら、無差別に殺戮する気ありすぎ。うん」

「まるで戦場だよ、これは」

 ロゼとアーヴィングがそんな風に言う。どちらも声からは、怒りが感じられた。

 まあ、俺も内心では腸が煮えくり返るというか、銀の王(しろがねのおう)への憎悪に満ちているので、似たようなものだが……

 

 と、目の前にあった瓦礫をどかした所で、地面に倒れているアルベルトの姿があった。

「……! アルベルトさん!」

 俺は声をかけながら駆け寄る。


 だが、返事はない。

 嫌な予感がしつつも、アルベルトの身体に触れる。

「……っ!」

 ――アルベルトの身体は冷たくなっており、既に息を引き取っていた。

 ……嫌な予感、的中して欲しくなかったんだがな……

 

「おかしい……うん」

 アルベルトの遺体を見回しながら、そんな事を言うロゼ。


「ん? 何がおかしいんだ?」

「うん、アルベルトの出血の仕方と傷を見る限り、あきらかに何かで刺されて殺されている。うん。オートマトンに近接攻撃タイプは存在する? うん」

 俺の問いかけにそう問い返してくるロゼ。


 ……刺された? おかしいな…… 

「……オートマトンは、重火器――遠距離攻撃タイプの武装をした奴ばかりのはずだ。……というか、少なくとも俺は近接攻撃タイプの武装をした奴なんてのは、見た事がない」

「うん、なるほど。だとしたらやはり……誰かに殺された?」

 ロゼがそんな推測を口にする。……いや、俺も同じ推測に至った。


「おや? なにやら手を強く握っているみたいだね」

 と、アーヴィング。

 たしかに言われたとおり、アルベルトは右手を強く握りしめた状態だった。

 

「もしかして、なにか手に持っている……?」

 そう言いながらアルベルトの手を開くと、翼のような物が描かれた盾の形をした緑色のバッジがその手にあった。

 

「これは?」

 そう俺が尋ねると、アーヴィングはバッジを手に取り、

「……護民士の徽章だね。色と翼の形状からして、『翠爪隊』の上級護民士の物だよ。アルベルト氏は上級護民士ではなかったはずだから、別の誰かだね」

 と、そんな風に言ってきた。それはつまり……

 

「翠爪隊の誰かがアルベルトさんを殺害した?」

「ん、そういう事になる。うん」

 俺の言葉に対し、アーヴィングの代わりにロゼがそう返してくる。

 

「今回の一件に翠爪隊の誰かが絡んでいる……? そして、それに気づいたアルベルト氏が殺害された……? もしそうだとすると、少々面倒だね……」

 アーヴィングがそんな風に呟く。

 護民士の中に敵のスパイ、あるいは裏切り者がいるという事か……

 

「ん、たしかに厄介」

 ロゼはそう言って頷いた後、アルベルトの遺体を見て言葉を続ける。

「……ん、それはそうと、このままここに置いておくわけにはいかない。うん、一旦、向こうの建物の中に移動しておこう。うん」

「ああ、そうだな……」

 ロゼの言葉に同意し、俺はサイコキネシスでアルベルトの遺体を、ロゼの指さす先にある建物の中へと移動する。

 

 ……すまん、後で戻ってくるから、ここに置いていくのを許してくれ。

 

 俺はそう心の中で呟くと、頭を下げた。

 アーヴィングとロゼも俺に続くようにして頭を下げる。

 

 ――探索を再開する為、建物から出ようとした所で、建物の奥、壊れて穴の空いた壁の向こう側――道の上に座り込んでいる少女の姿が見えた。

 

 うん……? 瓦礫が邪魔で顔がハッキリ見えないが、アリーセの服っぽくないか? あれ。

 

「ふたりとも、ストップ」

 そう告げながらクレアボヤンスで壁を透視する俺。

 

「どうかしたのかね?」

 というアーヴィングの問いかけの声が聞こえると同時に、壁の向こう側――地面に座り込んでいる少女の顔がはっきりと見えた。

 

「アリーセだ! あの壁の向こう側にいる!」

 俺は二人に対してそう答える。

 

 ……ようやく発見したアリーセは、呆然としている感じだったが、パッと見では命に別状はなさそうだ。

 だが、よくよく見てみると右腕がなかった。なにかで吹き飛ばされた……か?

 

「穴が小さすぎる! 壊すぞ!」

 アーヴィングがそう言い放ち、壁に得物を叩きつける。

 と、叩きつけられた衝撃で壁が砕け、穴が広がった。

 

 そこから這い出すようにしてアリーセへと駆け寄る俺たち。

 てっきりロゼが真っ先に駆け寄るかと思ったが、アーヴィングの方が先だった。

 ふむ……ここは、父親に任せた方がいいとか思ったんだろうか?

 

「アリーセ! 無事だったか!」

 アーヴィングがアリーセに声をかける。

 しかし、反応がない。

 

 どうしたのかと思いながらアリーセに近づいて、その理由がわかった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、英雄になれなくてごめんなさい。私なんかが英雄になろうとしてごめんなさい。英雄になろうとして、なれなかったどころか、母様を殺してごめんなさい――」

 アリーセは、なにやらそんな事をブツブツと呟きながら虚ろな目で周囲の光景を見続けているだけだったのだ。

 

 ……英雄? 母様を殺して? どういう事だ……?

 わけがわからず、どうすればいいのかと立ち尽くしていると、 

「ん、アリーセ! 私の事、わかる!? アリーセッ!」

 ロゼが今まで見た事のない必死の形相で呼びかけ続ける。声も実に苦しげだ。

 

「しっかりするんだ! アリーセ!」

 アーヴィングもまたそう呼びかけるも、アリーセからの返答はなく、ただひたすらに、先程と変わらない言葉を繰り返すのみだった。

 

「これは……一体どういう事なんです……? アリーセは何を……?」

 とにかく情報を得ない事には話にならない。

 俺はどうにか口を動かし、ふたりに向かってそう尋ねる。

 

 しばらくの沈黙の後、アーヴィングが重い口を開く。

「……昔から、アリーセは物語の本を読むのが好きでね。それはもう、物語に登場する英雄のようになる事を夢見ていたくらいだったんだ」

 なるほど……まあ、昔と言っているし、幼い頃の話だろうから、別にそういうのを夢見ていてもおかしな話ではないな。

 

「……そして、アリーセが8歳の時、ルクストリアでこれと同じような事があったんだよ。やったのは当時、エーデルファーネや真王戦線よりも積極的に活動していた『白き王剣の騎士団』という連中で、その場にアリーセと妻が居合わせたんだ」

「……その時の光景が蘇った? いや、だとしたら母様を殺したというのは……」

「……連中は大掛かりな魔法を使って建物を破壊したんだが……その実行犯を、アリーセが偶然目撃していてね。アリーセは正義感か、はたまた物語の影響か、ともかくそいつを捕まえて『英雄』になろうと思ったんだ」

 そこまで聞いた時点で、その後何があったのか予想がついた。ついてしまった。

 

「――実行犯は、当然向かってくるアリーセに対し攻撃を仕掛けた。アリーセは攻撃を仕掛けられるだなんて思ってもいなかったのか、そこで恐怖して硬直してしまった。そして、そのアリーセを妻が庇って……ね……。――いくら他の国よりも優れた医療技術があろうと、どんな怪我でも治せるような強力な回復薬があろうと、死んだ人間だけは治せない。蘇らせられない」

 予想した通りの内容を口にするアーヴィング。

 

「ですけど、普段は戦闘とかになっても別になんともなかったような……」

「……そういう『治療』を施したからね。でも、その『治療』も完全ではないんだ。何かを切っ掛けに記憶が蘇る事がある……」

 俺の問いかけに対し、アーヴィングが答える。『治療』の部分を強調しつつ、だ。

 

 その治療っていうのは、催眠――いや、この世界なら、魔法かなにかで記憶を封じ込めるとかそんな感じなのかもしれないな。

 

 これは……どうするのが良いのだろう。

 英雄……。英雄、か……

 

 英雄になろうとした、英雄になれなかった……英雄への羨望……

 その部分だけが強くアリーセの中にあるという事……か?

 

 ふむ……。アリーセが依存、あるいは信奉と言っていいレベルで、アリーセから見て英雄的な人間を過剰に持ち上げるのは……おそらく、そこらへんの影響なのだろう。

 

 英雄という存在への称賛。

 しかし、それに対して自分は英雄になろうとしたけどなれず、それどころか最悪の結果を招いてしまったという事への罪悪感。

 

 自分がなりたいと思うものへの羨望。

 しかし、それに対して、自分はなる事を思ってもいけないという自分に対する戒め。

 

 そんな感じで、表面的なの思考や感情に相反する思考、感情が奥底に眠っていて、それらが生み出すアンバランスな精神の上に成り立っているものだったようだ。

 

 自分にはなれないし、なってはいけないから、最初から英雄であると考える者を讃え、自分の想いをそこに乗せていた、というわけだな。

 

 俺がその事を頭の中で整理しながらアーヴィングに言うと、

「……そうだね。たしかに『治療』の後から、そういう風になったね。君やシャルロッテさんの事を語る時のような熱量の高さは、以前はロゼを語る時にもあったし」

 なんて事を言ってきた。

 

 となると、どうするのが良いのか。

 英雄になる事に失敗したのなら、その記憶が蘇っているのなら、失敗して起きてしまった事を、再び起きないようにしつつ、今一度英雄を目指し達成する……?

 あるいは、それに近い事……

 

 なんにせよ……失敗は失敗だと認識した上で、その先の達成へとアリーセが至らなければ駄目なんじゃないかと俺は思う。何故なら、失敗を封じた結果が現状だからだ。

 しかし、それを満たす事の出来る方法が思いつかない。


 かと言って、他の方法があるかと言われると……それもない。

 むぅ……困ったぞ。八方塞がりだ。

 

 ううむ……仕方がない。気は引けるが、いったんアリーセの事は、アーヴィングかロゼ、あるいは両者に任せて、カリンカの捜索を続けるか……。途中で何か思いつくかもしれないしな。

 と、そう結論を出してふたりに声をかけようとした所で、俺の視界の端に、アリーセの次元鞄が見えた。

 ふむ……どうやら、鞄だけ別の場所に飛んでいっていたようだな。


 とりあえず、それを拾う俺。

 この中にあるであろうアリーセ製の回復薬を使えば、どんな怪我を負っている人間であっても、死んでさえいなければどうにか出来るはずだ。

 アリーセには悪いが勝手に使わせてもら…………いや、待てよ?

 

 ……ああ、そうだ。一つだけ方法を思いついた。

 ただ、俺はこういうの得意じゃないんだよなぁ……

 うーん……。ここはアーヴィングとロゼにも協力を仰ぐとするか……

例によって思考が加速状態なので、蒼夜の考え方が少しいつもと違ったりします。




――――――――――

「転生した魔工士ガジェットマイスターは、更に人生をやり直す」

も、よろしくお願いします!

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