第9話[Dual Site] 銀の王の作戦
<Side:Clarice>
「ひとつ聞きたいのだけど、『■■■■■■■■』というのは、王とか大公とか、そういった昔からその地を治める一族の血――血統の事を指すのかしら? それとも、古の管理者の血を指すのかしら?」
シャルロッテ殿が、巨大な甲冑の魔物と対峙しながら、そんな言葉を投げかけてきたであります。
……そういえばシャルロッテ殿は、ノイズの部分が普通に聞こえるという話でありましたね。
「そこまで理解しているのなら、詳しく語らずともすぐに知る事が出来ると思うが……まあいいだろう。――そういった者が『■■■■■■■■』を持つのではない。『■■■■■■■■』を有する者がそういった立場になりやすいのだ。基本的に彼の血の所有者は、優れた力を持っているからな」
と、銀の王がそんな風に答えたであります。
先程から気になっていたでありますが、この銀の王は、こちらの問いかけに対して、わざわざ答えてくれるでありますね。なんとも律儀であります。
まあ、自分が負けるつもりなど毛頭ないと思っているからかもしれないでありますが。
「なるほどねぇ……。ところで、魔王――古の管理者ベル・べラードは……何を管理しているのか知っているの?」
「むしろ、貴様は知らぬのか……? 『■■■■■■■■』の継承者の資格たる『鍵』を管理し、『■■■■■■■■■■■■■■■』が可能な者の事だ」
シャルロッテ殿の問いかけに、銀の王が呆れ気味にそう言って返すであります。
「……え? な、なんで私にもノイズが入って聞こえるの……?」
シャルロッテ殿が、驚きの表情でそんな事を呟くように言ったであります。
どうやら、シャルロッテ殿にも聞き取れない言葉があったようでありますね……
「ふむ、なるほど……そういう事か。どうやら貴様は、『■■■■■■■■■』が低いようだな」
「『■■■■……■■……■■■』……。まさか、そんなものがあったなんてね……」
「まあ、この『■■■■』は、『■■■■■■■』の中枢……。それゆえに、その辺りの『制限』段階が他よりも厳しいのだろう。そもそも『鍵』ですら他の『■■■■』とは――」
むむ? 銀の王が何か魔法を使うような構えをしているでありますね?
ははあ、召喚を使うつもりでありますね? そうはさせないでありますよっ!
「ちっ! 今の動きに気づいたのか! なんとも厄介な奴だな……っ」
銀の王に向かって剣を振るうと、吐き捨てるように銀の王は、そう言って後方へ飛び退くであります。
「会話している隙を突いて召喚をするつもりだったでありますか? きっちり見ているでありますから、無駄でありますよ」
私は銀の王に対し、少しだけ挑発気味な口調で、言葉を投げかけながら追撃を仕掛けたであります。
「フォーリア公国……。ローディアス大陸の中で中世の姿を今に残す国故、技術力も他より劣ると思ったが……なるほど、使徒に通ずる者を秘するための欺瞞であったというわけか。なかなかにやってくれるな。どうりで公国を中心とした散発的な破壊工作によって、現在進行系で計劃が遅延し続けているはずだ」
銀の王がそんな事を言ってくるであります。
話からすると、誰か――いえ、誰か……ではないでありますね。
ほぼ間違いなく、リンスレット殿下が向こう――ローディアス大陸で、銀の王に対する反抗活動をしているのでありましょう。さすがであります。
「ん……? 待てよ? 彼の国の公子はふたりのはず……。先程捉えたのはひとり。最初は貴様がもうひとりかと思っていたが、貴様はただの騎士。であれば片割れは……。……ああなるほど、そういう事か。やってくれる」
おっと、銀の王がリンスレット殿下の居場所に気づいたでありますね。
……ただ、なにか少しだけ勘違いをしているような気がするでありますね……
まあ、なんでもいいでありますね。倒せばいいだけでありますから。
そう考え、ボクはひたすらに攻め掛かるであります。
「ぐうっ!?」
防御に徹していた銀の王の守りを突破し、ボクの振るった刃が銀の王を斬り裂いたであります。
このまま追撃――とそう思った直後、なにかが投げられたであります。……筒? 否、大きさの違う筒を2つくっつけたような……妙な形状でありますね?
「クラリス! バックステップ! 防御っ!」
頭上からサクヤ殿の叫ぶ声が響いてきたであります。
その声に、ボクは思考するよりも早く、身体が動き、大きく後ろに跳躍したであります。
と、その直後、目の前で爆発が起こったであります。
着地と同時にサクヤ殿の声に従う形で剣をタイルに突き刺し、防御態勢を取っていたボクは、どうにか爆炎に続けて襲ってきた爆風と飛び散る破片による致命傷を防ぐ事が出来たであります。
ちょっとばかしダメージを食らったでありますが、これならまだ問題ないというものであります。
視線を前に向けると、爆発によって生み出された煙の向こう側に銀の王の存在を感じ取ったであります。
ボクは即座に剣を正面に向けて勢い良く伸ばしたであります。
「がっ!? なっ!?」
銀の王の驚愕する声が聞こえてきたであります。
どうやら、このタイミングで攻撃を受けるとは思っていなかったようでありますね。
油断大敵という奴でありますな。
「ぐあああぁぁっ!?」
更に次の瞬間、上空から放射状の雷撃が声の聞こえた辺りに降り注ぎ、そんな絶叫が響き渡ったであります。
見上げると、そこには雷撃ブレスを吐くアル殿とそれを駆るサクヤ殿の姿があったであります。
ふむむ、先程的確な指示を飛ばしてきた時点で、対峙していた魔物は倒し終わっていたようでありますなぁ……。さすがであります。
ともかく、これで状況は2対1になったであります。
召喚さえ許さなければ、負ける要素はないでありますな。
しかし……であります。
銀の王が一方的に攻撃を受けているのが気になるでありますね……
あの状況からでも回避なりガードなりが出来たような気がするでありますが……
そもそも、爆発を引き起こしておいて、その場から動かないというのは、わけがわからないであります。
などと、銀の王の動きに不信感を抱いていると、シャルロッテ殿のいる方から、重い振動が響いてきたであります。
視線を向けてみると、シャルロッテ殿が対峙していた魔物が倒れ伏しているのが見えたであります。
「ま、大した事のない相手だったわね」
そうシャルロッテ殿が言った直後、倒れ伏した魔物が生み出した風によって煙が消え、銀の王の姿が顕になったであります。
「あれ? なんかめちゃくちゃ効いてた?」
サクヤ殿が銀の王を真上から見下ろしつつ、そんな事を言ったであります。
サクヤ殿がそう口にしたのは、おそらく銀の王が片膝をついているからでありますね。
しかも、よく見ると銀の胸甲がバチバチと放電しているでありますね……?
「――コアへの損傷……大か。まぐれとはいえ、やってくれる……。まさか、防御機構がものの一撃で全て貫かれるとは……。なんという厄介な剣だ……」
銀の王が忌々しそうにそんな事を言ってきたであります。
コア? 防御機構? 良くわからないでありますが、弱点のようなものに命中したようでありますね。
「……まあいい。――準備は整った。情報の伝達も終わった。我が役目は既に果たし終えている……」
「……? どういう事かしら?」
シャルロッテ殿が銀の王の言葉に対し、疑問に首を傾げた直後、
「……っ!? まさか、バカ丁寧にこっちの問いかけに答えていたのって……!」
と、何かに気づいたらしいサクヤ殿が声を上げたであります。
「……そうか。その姿に飛竜……貴様は『ディベルタス』を撃破した使徒の……。……ああそうだ、貴様の思っている通りだ。だが、気づくのが遅かったようだな」
なんて事を頭上を見上げながら銀の王が言ったであります。
ディベルタスというのは、おそらく別の銀の王――サクヤ殿たちが冥界で倒したという、銀の王の名なのでありましょう。
「うわわっ、ま、まずいっ! ふ、ふたりとも急いで戻るよ!」
「ど、どういう事よ?」
「唐突にどうしたであります?」
「なんでもいいから、走って! ってか、ここから飛び降りて!」
サクヤ殿がいきなり慌てだした理由が良くわからないでありますが、おそらく何かあるのだろうと考え、ボクは即座に屋上の隅へと走り、鉄柵に足をかけて跳躍。
何もない中空へとダイブしたであります。
シャルロッテ殿も同じ結論に至ったのか、ボクに続く形で鉄柵を飛び越えて来たであります。
と、その直後、急激に視界が代わり、いつの間にかレビバイク専用道路の上に立っていたであります。
いえ、これはおそらくソウヤ殿が引っ張ったでありますね。
ソウヤ殿にお礼を言おうとしたその瞬間、爆音が頭上から響き渡り、先程まで我々がいた建物の屋上から紫色の閃光が見えたであります――
◆
<Side:Souya>
「む、紫色の爆発?」
「以前、銀の王が倒れた瞬間に、これと同じ現象が起きたんだ。とんでもない威力がある上に、回復を阻害する状態にされるから、危険極まりないんだよね、あれ」
驚きの声を上げたシャルに、そう説明しながら朔耶――正確にはアルだけど――が地上へと降り立つ。
「って! 悠長にそんな説明している場合じゃなかったんだった! ソー兄っ! また銀の王『時間稼ぎ』をされたっぽい!」
今度は朔耶が慌てた様子でそんな風に俺に言ってきた。……銀の王?
「は? また? え? ってか、あそこに居たのって銀の王だったのか?」
唐突に言われて理解が追いついていない俺は、そんな風に言葉を返す。
「ええ、その通りよ。私も想定外だったわ」
朔耶の代わりにそんな風に言ってくるシャル。
……いやまあ、ここにシャルが平然といるのも意味不明なんだけどな。
「俺は、シャルがあそこに居たって事も想定外だがな……。まあ、それはともかく、時間稼ぎされたって事は、あの時と同じで、何か同時に奴らの作戦が進んでいるって事だよな……。一体何をしようとして――」
直後、ランゼルト側の式典会場がある方から爆発音が聞こえた。
「なっ!?」
驚きの声を上げる俺。
朔耶、シャル、クラリスもまた、同じように驚いているのが視界の端に見えた。
ああ、くそっ、こういう事かっ!
心の中で悪態をつく俺に、
「た、たしかアーヴィングさんたちは、先に行ってるんだよね!?」
「エルウィン殿下も同じであります!」
朔耶とクラリスが、慌てた様子でそう言ってくる。
「クラリスはさっきと同じくアルに! シャルは俺のサイドカーに乗れ! 急いで向かうぞ!」
そう俺が告げると、3人が素早く動き出す。
「乗ったわ!」
というシャルの言葉を聞きながら、俺はエンジンをかける。
そして「全速力で行くぞ!」と告げて、先行するアルを追う形で、全速力で走り出した。
2度目の『敵対者が意味もなく長々と会話に付き合ってくれるわけがない』という奴ですね。
そして、シャルロッテですら、聞き取れない言葉の登場です。
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それはさておき……新しい物語を書き始めました!
『転生した魔工士は、更に人生をやり直す』というタイトルです!
こちらもどうぞよろしくお願いします!
ノリやストーリー展開は、本作よりも軽いですよ!
『道具で魔法を使う世界』という点は本作と共通していますが、完全に別の世界です!




