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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第8話異邦録2 ランゼルト・VSガルシア

<Side:Alice>

「そ、その……申し訳ありません。先に言っておくべきでしたね……」

 私は、とりあえずカリンカさんとアルベルトさんに対し、そう謝罪して頭を下げます。

 

「なに、俺は驚いただけだからいいさ。色々と調整したのはカリンカさんだしな」

 アルベルトさんがそう言いながらカリンカさんを見ると、カリンカさんはこめかみに手を当てながら、

「まあ、この手の唐突にとんでもない事をしでかすのは、シャルロッテで慣れているのでいいですけど……。というよりアリーセさん、以前の……ああいえ、概ね今もそうですけど、シャルロッテの言動の影響を最近受けすぎているのでは……?」

 と、そんな事を言ってきました。

 

「え? そ、そうですか? そんな事はないと思うのですが……」

「いえ、そんな事はありますよ。私からすると、昔のシャルロッテの雰囲気が漂ってきてますし、最近」

「そうなんですか? 自分では良くわかりませんが……。えっと……だとしたら、それは嬉しいですね」

 そう私が言うと、カリンカさんは困惑と驚愕の入り混じった……とでも言えばいいのでしょうか? ともかくそんな感じの顔をして、

「いやいや、なんでそこで嬉しがっちゃうの!? ――っとと、失礼しました……。驚きのあまり素が出ました……」

 などと大きな声で言ったかと思うと、今度は赤面しました。

 

 そんなカリンカさんを見ながら私は、そういえば、そのシャルロッテさんは既にランゼルトへ来ているはずですが、一体、今どこにいるのでしょうか……? と、そんな事を思いました――

 

                    ◆

 

<Side:Charlotte>

「あら、こんな所で何をしているのかしら?」

 私は、レビバイク専用道路を見下ろせる5階建てのとても大きなレンガ造りの建物――改修工事の準備中とやらで無人になっており、潜伏するのにうってつけと言わんばかりの建物――の屋上で、そんな事を口にする。

 無論、ひとりごとじゃないわ。その手に『銃』を持った男――ガルシアに、よ。

 

 返事はないが、そんな事は想定済みなので、構わず言葉を続ける私。

「その武器――スナイパーライフルとかいうんだっけ? それじゃ、アーヴィング卿を殺すのは無理よ? ガルシアさん?」

 そこで一度肩をすくめて見せてから、改めてランゼルトにいる傭兵団御用達の情報屋から仕入れた情報を織り交ぜながら、ガルシアに告げる。

「貴方が『以前殺ったどこかの学院長』とは違って、アーヴィング卿にも、彼の乗るレビバイクにも遠距離からの物理的な攻撃を防ぐ障壁を生成する防御魔法が付与されているんですもの」


 私の言葉に、ガルシアはさすがに驚きを隠せなかったらしく、目を見開いて私の方を見てくる。


 そう、この男……ガルシアが例のエクスクリス学院の学院長――オーギュスト・ヴァン・ガルディオーネを狙撃した犯人だったりするのよね。

 まさか、こんな情報が手に入るだなんて思ってもいなかったから、私も聞かされた時は驚きだったわ。

 

「貴様は……何者だ? そもそも何故、私の名を知っている?」

 と、ガルシア。あら、ようやく口を開いたわね。

 

「私? 私はとある人物に忠誠を誓った、ただの『騎士』……みたいなものよ。それと、どうして貴方の名前を知っているのかという話だけど、これは簡単ね。単にこの国のアンダーグラウンドでは既に知れ渡っている、というだけの事よ」

 まあ、実際には知れ渡っているという程ではないのだけど、そう言えと情報屋に言われたのでそうした。

 よくわからないけど、その方が安全なのだとかなんとか。


 私に告げられたガルシアは、腰に手を当ててため息をつく。

「よもや、そんな簡単に名前がばれるとはな。やれやれ……この国は本当に厄介だな。一体、どれだけ竜の血盟に連なる者が、この国で活動しているのやら、だ。――それにしても、とある人物……というのは誰だ? まさか、アーヴィング卿か?」

「いいえ? 正直、アーヴィング卿なんてどうでもいいわ。ただ、ここでアーヴィング卿を殺害しようとされると、そのとある人物――我が主がそれに巻き込まれたり、面倒な事になったりするから、そうなるのを阻止しに来たのよ」

 私はガルシアの問いかけに対し、アーヴィングとは無関係である事をアピールしつつ、そんな風に言う。


「……ふむ。その言い方だと、今回の式典に関係する者の誰か……というわけか」

「あらら、ちょっと情報を与えすぎたかしら? うーん……でもまあ、別に問題はないわね。どうせそれを知った所で、貴方はここで消える運命だし、誰にも伝わる事はないわ」

 なんとなく昔良く言っていたような口上を、久しぶりに言ってみたけど……。うーん……冷静に考えると、これだと私の方が悪役みたいな感じがするわね……


「フン、それはどちらだろうな?」

 ガルシアはそう言うと同時に、私の持つ刀の柄にそっくりな見た目の短い棒を取り出し、そのまま突っ込んでくる。

 

 私は刀と剣を鞘から抜き放ち、

「そんな物で一体なにを――!?」

 そう言っ……ている最中に、嫌な予感がした。

 

 即座に、刀と剣を胸の前で十字にして防御態勢を取る。

 と、その直後、ブォンという妙な音と共に、ガルシアの持つ短い棒の先から赤く光る刃が生み出され、勢いよく振るわれた。

 

「っ!」

 ガルシアの光る刃が、私の刀と剣に激突し、火花が散る。……炎の刃?

 いえ、違うわね……炎の刃はこんな形状になったりしないわ。それに、魔法的な物は感じないし。

 かといって物理的な物でもない……? なんなのよ、これ。

 

「ほう……? ビームブレードを受け止めるとは想定外だ。普通は受け止めた瞬間に切断されるものなのだがな。……随分と特殊な金属が使われている刀剣のようだな?」

 ガルシアがそんな事を言いながらバックステップ。

 

 間合いを取……ると見せかけて、即座に突っ込んでくるわね。

 ビームブレードとは何かと問いかけたい所だけど、そんな余裕はない。

 ……というより、それを言わせて隙を突くつもりなんじゃないかしらね? この男。

 さっきから口数が妙に増えているし。

 

 刹那、ガルシアから予想通りの、踏み込みながらの鋭い突きが繰り出される。

 予想していたので、危なげなくそれを横に飛んで回避。

 ガルシアの脇を狙って刀を水平に振るう。

 

 しかし、ガルシアは舌打ちしながら、それをしゃがんで回避。

 低い体勢を維持しつつこちらに向かってビームブレードなる物を振り上げる。

 それに対し、私は霊力を込めた剣を勢いよく振り下ろして打ち落とす。

 得体のしれない刃には、霊力を叩きつけるのが一番なのよね。

 

 剣によって屋上のタイルに押し付けられたビームブレードから火花が散る。

 それを視界の隅に捉えながら、再び刀で斬りかかる私。

 

 対してガルシアは、左腕を盾にして刀を受け止めにかかってきた。

 

 ……えっ!?

 腕で受け止めようという行為に心中で驚いたその瞬間、ギィンという甲高い金属音が響き渡る。……!?

 

 直後、服の袖が破れ、隠れていたガントレット――いえ、『銀色に輝く金属の腕』が露わになった。

 

「銀の……腕?」

 私はバックステップで距離を取りながら、呟くようにそう口にする。

 

「――ガルシアという名は知っているのに、もう1つの名を知らぬのか?」

 こちらに視線を向けながらそう言ってくるガルシア。


 ……もう1つの名? 

 …………っ! 


 私は、思い当たる1つの名を思い出し、問う。

「ま、まさか、『銀の王(しろがねのおう)』のひとりっ!?」


「その通りだ。……それにしても、銀の王(しろがねのおう)が複数いるという事を掴んでいるとはな。先日、同胞が『L3―DC1―LT2』――ああ、この地では『冥界』と呼んでいるのだったか? そこの『アンブラルミーティア・エクスペリメントタワー』で遭遇したという、記憶喪失の女神――いや、正確に言うのであればその使徒と思しき者ども、か。もしや貴様は、その使徒のひとり、あるいはその仲間なのか?」

「冥界? 女神? 使徒?」

「――ふむ。その反応からすると、無関係のようだな。やはり、この国の情報屋連中は、他の国と比べて格段に面倒だ……。これは、情報屋――アンダーグラウンドのネットワークに、竜の血盟の人間が関わっていると考えるべきか……」

 私が困惑していると、そんな事を言って勝手に納得するガルシア。

 

 それにしても冥界ねぇ……。それに女神の使徒って、本当に存在していたのね……

 

 ……んん? そういえば、ソウヤたちが冥界に行ったとか言ってたわね。

 そして、そこで銀の王と交戦して、複数いる事を掴んだのよね、たしか。


 ……え? あれ? ちょっと待って。冥界、銀の王……複数いる情報?

 あれ……? それってつまり、ソウヤ、サクヤ、クー、リンのうちの誰か、あるいは全員が女神の使徒って事になるんじゃ……?

 

「さすがに想定外だわ」

 混乱していたせいで、つい思った事が口をついて出た。

 

 その言葉にガルシアが意図を勘違いし、

「銀の王の名を冠する私が、こんな事をしているのがそんなに想定外か? ……いや、まあそうだろうな。――だが、何もローディアス大陸の作戦を担当する同胞のように、大軍を率いて行動を起こすだけが銀の王ではない。こういった役割の銀の王も必要な事なのだ」

 なんて事を言ってきた。


「へぇ……そういうものなの。それにしても貴方、急に口数が増えたわね? そんなにペラペラと色々話していいのかしら?」

 私がそう言葉を返すと、ガルシアは顎を撫で、

「ふむ……そうだな。先程の言葉を返すとしよう。――どうせそれを知った所で、貴様はここで消える運命だし、誰にも伝わる事はない」

 そう言ってニヤリと笑った。

 

「それはこちらのセリフよ?」

「どうかな? ――『サモンシステム』……スタートアップ!」

 ガルシアが私の言葉にそう返した瞬間、2つの魔法陣が出現。


 サモン? たしか……召喚という意味だったかしら……

 ……え!? 召喚!? ちょ、ちょっと待って!?

 

「――ターゲットポイント『L3―UC3―PB1』! プロセッシング・コンプリート!」

 おそらく鬼哭界で使われていると思われる、妙な呪文と異界の名を言い放つガルシア。


 直後、2つの魔法陣それぞれから、背中に燃え盛る炎のような、紅蓮の輪っか状の奇妙な器官を持つ飛竜の如き魔物と、4つの手と翼を持ち、獅子の顔をした巨大な猿の如き魔物が、その姿を現した。


 ああ……。やっぱり召喚魔法だったわ。

 雰囲気からすると、こいつらは混沌界の魔物ね……


 正直言って、心中穏やかではないが、そんなものを悟られるわけにはいかないので、 

「……銀の王(しろがねのおう)というのは、皆、例外なく召喚魔法が使えるのかしら?」

 と、冷静な口調で余裕の表情を見せながら問う私。


「当然であろう? 『鍵』は同胞の間で共有されているのだから」

 ガルシアは腕を組み、つまらない事を聞くなといわんばかりの呆れた声と表情で、そんな事を言って返してきた。


 ……鍵の共有? それは一体どういう事なのかしら…… 


 気になったものの、それを問いただす余裕は、残念ながらなかった。

 何故なら、ガルシアに召喚された2体の魔物が、咆哮を上げて私に襲いかかってきたから。

 

 ――2体の魔物に、召喚魔法を使える銀の王(しろがねのおう)ガルシア。


 う、うーん……これはまたなんとも想定外な事態というか……

 有り体に言えば、ちょーっとばかし厄介で危険な状況、という奴ね……

3章で複数いる事が判明した銀の王、ここでいきなり登場です。

シャルロッテ視点なので、蒼夜視点だと『■■■■■』となる部分が、普通に記述されています。

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