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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第4章 竜の座編
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第7話 撃退。そして……

「ソー兄、どうかした?」

 正面を見据える俺に疑問を抱いたのか、朔耶がそう問いかけてくる。

 

「大型のキメラ2体、中型のキメラ3体が進路上にいる。中型は飛行タイプのマンティコアだが、大型は……アーリマンシステムタイプ……か? 雰囲気がそれっぽい」

 そう俺が告げると、

「ええっ!? 中型はともかく、大型の2体はマズくない!? アーリマンシステムタイプの奴って、強力な防御障壁と再生力を持つ……とかなんとか、このあいだソー兄だかシャルだかが言ってたような気がするんだけど……!?」

 と、焦り気味に言ってくる朔耶。

 ふむ……。俺は説明した記憶がないから、おそらくシャルが説明したんだろう。


「ああ、それは多分シャルが言ったんだと思うぞ。強力な防御障壁と再生力を持つのはたしかだが、霊峰で遭遇した時は、ある程度のダメージを与えて障壁を弱体化させてから融合魔法を撃ったら、障壁ごと吹き飛ばせたから、一応どうにかなるっちゃなるな」

 そう冷静に答えてから、大型に視線を向け直し、続きの言葉を紡ぐ。

「そして……幸いというべきなのかわからんが、あいつらは全て空に浮いているからな。上向きに撃てば、道路や周辺への被害を限りなくゼロに出来る」


 まあ、全部飛行タイプなのは、おそらく工場を飛び越える必要があるから、機動力を考えてそうしたんだろうが……俺にとっては都合がいいな。

 

「あ、なるほど……。シャルが言っていた方法だね。うん、それなら霊峰での戦闘でシャルがやった事を、私とアルが代わりにやるよ!」

 言うが早いか、朔耶はアルを再召喚し、巨大化したアルの背に飛び乗って、キメラに向かって突っ込んでいく。

 

 そして、速攻で手近なマンティコアにブレスによる攻撃を仕掛け、怯んだ瞬間を狙って、マンティコアの翼に爪を振るうアル。

 たったそれだけでマンティコアの爪が引き裂かれ、線路上と落下した。ふむ……見た感じ、線路の一部が破損したようだが……あのくらいならすぐに修復出来るだろう。

 

 アルは、マンティコアを撃破すると、そのまま大型の1体――飛竜もどきへと襲いかかる。

 竜として竜もどきの存在は許せないのだろうか? 進路上のマンティコアを排除したら、最優先で狙いに行ったな。

 

 直後、飛竜もどきからブレスが放たれる。

 それに対してアルもブレスで応戦。互いに放ったブレス同士が空中で激突する。

 徐々にアルの方が押しているが、そこに大型のもう1体、鳥もどきが突進。

 と、その瞬間、朔耶が何かを自身の次元鞄から取り出し、飛竜もどきへ放り投げた。

 

 そして、放り投げられた円筒状の物は、そのまま飛竜の口へと入り込み、大爆発を起こした。なるほど……手榴弾か。

 まあ、元々あのグレネードランチャー自体が、朔耶のグレネード――擲弾(てきだん)の話を元に、アーデルハイドが作った物らしいからな。

 手で投げる擲弾(てきだん)……つまり、手榴弾くらい作られていてもおかしくはないか。

 

 口の中で爆発した手榴弾により大きくのけぞりブレスが止まった瞬間、アルは一気に上昇し、鳥もどきの突進を回避。逆に真上からブレスを放ってダメージを与えた。

 そこから隙だらけの飛竜もどきに対し猛攻を仕掛ける。

 

 その猛攻を食らい、飛竜もどきの障壁と再生力がもの凄い勢いで弱まっていき、あっという間に融合魔法で仕留められるだろうと判断してよさそうな状態になった。

 さすがは1人と1匹だけあり、シャル1人の時より早い。

 俺はすぐさま信号弾代わりに、スフィアの魔法の中で一番目立つ奴を上空に放ち、朔耶に退くように伝える。

 

 俺の魔法を朔耶が確認した直後、アルが大きく旋回して飛竜もどきから距離を取った。

 ――よし!

 

 スフィア2つを飛竜もどきの方へと向け、融合魔法を発動。

 漆黒の極太ビーム……のようなものが、飛竜もどきへと超高速で襲いかかり、一瞬にして飲み込む。

 

 飛竜もどきは断末魔の叫びすら上げる余裕もなく、その場から消し飛んだ。

 って、よく見るとマンティコアも1体減っているな……。今の一撃に巻き込まれたようだ。

 

 何はともあれ、これで残るは中型1体と大型1体だけ。

 ふむ、これならもう大した問題はなさそうだな。

 そう思い、朔耶とアルが鳥もどきの障壁を弱体化させている間に、後ろの戦況を確認する俺。

 

 と、アーヴィングの駆るレビバイクのサイドカーから跳躍するロゼの姿が見えた。

 俺がその姿に面食らっていると、ロゼは近づいていた敵レビバイクに円月輪を投擲。

 乗り手の首から上を切断すると、胴体を蹴落としながら着地し、そのレビバイクを奪った。

 そして、間近の敵レビバイクに体当たりを仕掛け、相手がバランスを崩した所を狙ってクルリと宙返りしながら武器を円月輪から短剣へと切り替え、そのバイクを操る黒装束に飛びかかり突き刺す。

 そこから即座にその黒装束を蹴り、反動を利用して大きく跳躍すると、アーヴィングの元へ――サイドカーへと戻ってきた。

 

 ……なんというか、曲芸みたいな技だな……やってる事は大分エグいが。

 

「むむむ、やるでありますね。ボクもやってみるでありますよっ!」

「いやいや、クラリスはしなくていいからね?」

 対抗心を燃やすクラリスに対して、エルウィンが静かな声で落ち着かせる。

 っていうか、クラリスはなぜそこで対抗心を燃やしたんだ……

 

 それはさておき……エルウィンたちの方を視てみると、こちらはこちらでクラリスの持つ蛇腹剣の特性――刃が伸縮自在で鞭のようにしなる点――を利用し、刃をレビバイクや乗り手に絡みつかせて、そのまま転倒させるという力任せな技で近づく敵を排除していた。

 しかし……あれで転倒させるとか、とんでもない膂力(りょりょく)だな。

 

 ちなみに道路に落下した敵は、後ろにいた護衛要員の国軍兵士が、きっちりとトドメを刺していた。

 冷酷なようにも見えるが、この世界の回復薬の効果を考えると、薬で傷を治癒されて、また追撃されるという可能性が十分にありえるため、妥当だろう。


 ……なんだか護衛要員の国軍兵士から、『護衛されるはずの側が敵を薙ぎ倒している状況なので、このくらいはやらないと』というそんなオーラを感じなくもない。

 いや、俺の気のせいかもしれないが。

 

 と、そうこうしているうちに、鳥もどきの障壁が弱体化。

 いつの間にか残っていたマンティコアの姿もなかった。どうやらあっさり倒したようだ。さすがだな……

 

 俺は魔法による合図を送りつつ、2つのスフィアを新しく呼び寄せる。

 アルが急下降で鳥もどきの下を潜りながら大きく旋回して射線軸上から離脱。

 それを見計らい、融合魔法を発動。

 

 炎のような赤と氷のような白、2つの光が螺旋を描きながら鳥もどきへ襲いかかり、その身を障壁ごと穿ち貫き、

「グギャァァァァァァァッ!」

 という、この距離からでも聞こえる程の大音量の断末魔の叫びと共に、どこかの工場の敷地内へと落下していった。うおっ! やばっ!

 

 クレアボヤンスで確認すると、鳥もどきの落ちた先は、コンクリートで作られた広い台座のような場所で、落下地点にヒビが入っているのが見えたが、損害はそのくらいだった。

 

 ふぅ……。どうにか建物には落ちなかったようだ……危ない危ない。

 朔耶に道路を壊すなよ? なんて言った手前、俺が道路や建物を壊すわけにはいかないからな。

 

「――後方の敵は掃討したよ。前方も終わったようだね」

 というアーヴィングの声が聞こえてくる。

 

「はい。まあ……線路とどこかの工場の敷地内に少し損害が出ましたが……」

「なに、そのくらいで済んだのなら、むしろ万々歳というものさ。あとで軍の工兵隊を送って修復しておくよ」

 俺の言葉にそう言って笑うアーヴィング。

 

「とりあえず、他に敵はいなさそうだよ」

 周囲を旋回しつつ戻ってきた朔耶がそう告げる。

 

「これで終わりだといいのでありますが……」

「うん、そうだと嬉しい」

 クラリスに対し、ロゼがそう返す。

 たしかに、これで終わりなら楽でいいんだけどな……そうはいかないだろうな。

 ロゼもそう思っているのか、

「けど、うん、まずそれはありえない。きっと次がある。うん。……お、お父さん、軍への通信は? うん」

 と、言葉を続けた。

 『お父さん』の所だけ躊躇して言い淀んでいたが、そこはあえて何も言うまい。


「うーん……駄目だね。予想はしていたが、何らかの方法で通信を妨害されているようだ。軍本部への通信が確立出来ない。幸い、我々のレビバイク間のこの通信に関しては、短距離用の特殊な物だからなのか、その妨害の影響を受けていないけどね」

 ため息交じりにアーヴィングがそう告げると、

「通信妨害ですか……。明らかにまだ仕掛けてくるつもりですね」

 そんな風にエルウィンが言う。

 

 長距離通信が封じられたままだという事は、そういう事なのだろう。

 まあ、あの程度で打ち止めになるようなショボい相手だとは最初から思っていないので、警戒しつつ進むとしよう。

 

                    ◆

 

 工業地帯を抜け、しばらく進むと堤防のように土が盛られ、道路が周囲よりも高くなっている場所へと出た。

 道路から横を見ると、さほど大きくはない――幻燈壁に阻まれる事なく一望出来る程度の市街地が目に入る。

 そしてその市街地の先では、幻燈壁に向かって飛行艇が出入りしているかのような錯覚を抱く、そんな光景が広がっていた。


「飛行艇が飛び交っているって事は……ここ、ディーグラッツかなぁ?」

 と、朔耶がその光景を眺めながらそんな風に言ってくる。


「おそらく……ああいや、間違いなさそうだ。正面の看板にそう書かれている」

 クレアボヤンスが『まもなく空港支線入口です。ディーグラッツ市街地および空港方面へ向かう方は、本線中央部にお寄りください』と記された看板を捉えたので、俺はそう答えた。


「あ、たしかに遠くに看板っぽいものが見えるね。……クレアボヤンスなんて使えないから、私の目じゃあれに何が書かれているのかはさっぱりだけど」

 そんな朔耶の言葉を聞きながら正面を見続けていると、道路の中央部が下り坂になっているのが見えてきた。

 ふむなるほど、あそこを下ると市街地を抜けて空港へと続く、支線道路へ抜けられるってわけか。

 

 と、そう思っていると、飛行艇が近づいてくるのが見えた。

 ……って! あの飛行艇、ギデオンが乗り込んだのと同型じゃねぇか!

 

「皆! 真王戦線の飛行艇がこっちに近づいて来ている! 警戒を!」

 通信で警告すると、アーヴィングの驚きの声が返ってくる。

「なっ!? 警戒空域に踏み込んで来ただと!?」


「おそらく、ステルスシステムか何かを使っているでありますね。我々がローディアス大陸を離脱し、この大陸へ向かう途中で、同じようにステルスシステムで隠れていた銀の王(しろがねのおう)配下の飛行艇に襲われたであります故」

 そうクラリスが言った所で、飛行艇の動きが妙な事に気づく。

「んん? おかしいな、こっちへ来る様子はないぞ……」

 

 幸い道路は一直線なので、正面は朔耶に見ておいて貰い、飛行艇の動きを注視していると、支線側の道路の真上で停止する飛行艇。……これはまさか……


 飛行艇が道路スレスレまで降下した所でハッチが開き、そこから黒装束の乗るレビバイクが、次々に道路へと飛び出していくのが目に入った。

 

 ……なんとなくそんな気はしていたが、やはりそう来るかっ!

次でこの道路上の戦闘は終わる……予定です。


追記:誤字があったので修正しました。

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