第4話 蒼夜のサイドカー
予約投稿が誤って明日に設定されていた為、投稿が遅くなりました……
そんなこんなで自分で自分の着る服をデザインしたり、それをアヤネさんに渡したり、完成を待つ間に地下に湧く魔獣を狩ったりしている間に、式典の日がやってきた。
俺の服は、陣羽織をベースにした袖付きのコートだ。あまりゴテゴテとしていないが、戦闘を前提とするならこのくらいがちょうどいい。腕の部分には、コートと干渉しないタイプの防御魔法――正確に言うなら、魔法の盾を生成する術式を組み込んだ細工入りの鉄甲が付けてあり、防御面も万全だ。
無論、ディアーナから一番最初に受け取った魔法防御特化の防御魔法も付与されている。
コートの下には鎖帷子に似せた単なる網シャツを着ており、脚はベルト代わりの紐と留め金を付けた筒袴だ。
ここらへんはコートに隠れる場所から、シンプルな見た目だな。
着替え終えた俺が玄関の外に出ると、他の面々もアヤネさんの作った服を着ていた。
何気にアーヴィングまでそうだ。
俺たちが全員アヤネさんの服を用意している事を知ると、アーヴィングにイルシュバーンの新しいファッションを伝えるために――とかなんとかそんな理由で頼まれた。
たしかに統一されている方が見栄えは良いかもしれんが……絶対、自分も欲しくなったという理由の方が、割合的には大きいと思う。
ともあれ、そんなわけでアーヴィングの服も用意した。
基本的には俺の服をベースに、あちこちに装飾を付けて、肩部分にゴテゴテとくっつけた感じで、割と派手な感じの見た目だな。
……なんだか、若干カブキ者の武人っぽい雰囲気が漂う服になっているが、まあ……本人がこれでいいと言っていたし、昔は武聖なんて呼ばれていたくらいだから、むしろこのくらいで問題はないのかもしれない。
「サクヤさんはこの後、アヤネさんのお店によって着替えてから式典会場の方へ行くんですよね?」
「うん。ギリギリになっちゃったからね、私の服は」
アリーセの問いかけにそう返す朔耶。
まあ、俺の服とアーヴィングの服を先に作ったからしょうがないな。
むしろ、シンプルな服だとはいえ、この短期間で良く完成させたものだと感心するくらいだ。
「ん? サクヤ、式典の場所とかは大丈夫? うん」
ロゼが心配……していると思われる表情で、そう言うと、
「それなら、私が護衛兼道案内として、サクヤに同行するから大丈夫よ」
シャルがそう答える。
「うん、なるほど……。それなら安心。うん」
頷きそう答えるロゼに続く形で、
「――というわけで、また後でね!」
そう言って、朔耶とシャルが先に出発する。
それを見送りながら、アーヴィングが、
「では、俺たちも向かうとしようか。既に俺たち用のトラムが、ロマ・レスタ通りの待避線に停まっているはずだよ」
と、告げてきた。
ふむ、なるほど……例の専用トラムで行くのか。さすがは国家元首だな。
◆
「ん? サイドカーがソウヤの乗るのにもついている? うん? なんで?」
ロゼが俺の乗るレビバイクを見て疑問を口にする。
たしかにロゼの言う通り、アーヴィングが乗るレビバイクだけではなく、俺が乗るレビバイクにもついているな……
「あー、それなんだけど……急遽、エルウィン殿とクラリス殿が参加する事になったんで、追加でサイドカー付きのレビバイクを大工房に頼んだんら、開発と制作を担当している部門が勘違いして、ソウヤ君が乗るレビバイクにも必要だと思ってしまったらしくてねぇ……。外してもいいんだけど……フル稼働で作り上げてくれた職人の人たちに申し訳ないし、誰かを乗せようという話になったんだよ」
と、そう説明してくるアーヴィング。
ふむ……。まあ、せっかく作ったんならその方がいいっちゃいいよな。
でもそうすると――
「なるほど……そういう事ですか。でも、そこには誰が乗るんですか?」
俺が思った疑問を、アリーセが口にして首をかしげる。
「そりゃ、アリーセじゃないのか?」
と、俺が言うと、アーヴィングが頭を掻きながら、
「まあ、普通に考えたらそうなんだけど……アリーセには向こう――我々の最終到着地点となる隣国の都市――ランゼルトで出迎える役割があるからねぇ……」
そんな風に言葉を返してきた。
ふーむ、なるほど。たしかにそれだと無理だな。でも、そうすると誰を乗せればいいんだ……?
と、思っていると「なら、私が乗るよ!」という朔耶の声が聞こえてくる。
声のした方を見ると、そこには案の定というかなんというか、勢いよく手を上げた朔耶の姿があった。
しっかりアヤネさんの作った服――巫女装束をベースに、袴部分がやや短いスカート状になっていたり、竜鱗で作られた籠手風の袖や、だんだら模様のある白いハイソックスがあるそんな服に、十二単衣を模したコートを羽織っている――に、着替えているな。
「着替えたのか。なかなか似合っているぞ」
そう俺が言うと、
「えへへ、ありがと」
照れながらそう返してくる朔耶。
……しかし、自分がデザインしたものを似合っているというのは、なんだかちょっとばかし自画自賛な感じがするなぁ……
まあ、気にする程の事ではないかもしれんが。
なんて事を思っていると、
「あ、そうだ、シャルは先にランゼルトに行ってるってさ」
そんな事を告げてくる朔耶。
「ランゼルトに?」
「うん、先に行って情報収集しておくってさ」
「なるほど……」
朔耶の説明に納得し、顎に手を当てる俺。シャルは独自の情報網を持っているようだし、なにか思い当たるものがあるのだろう。
「それはそうと、ソー兄の方のサイドカー、私が乗ってもいいよね?」
「いいけど……シャルが警戒するとおり、十中八九、敵――エーデルファーネや真王戦線の連中の襲撃があるぞ?」
「そしたら、ソーサリーグレネードとアルでふっとばすから大丈夫!」
朔耶は俺の言葉にそう返し、人さし指をピッと立てる。
……ソーサリーグレネードはさておき、アル――飛竜は……大丈夫なのか?
「飛竜を召喚して大丈夫なんですかね……?」
「まあ、大丈夫じゃないかな? ここ数日、サクヤ君が飛竜を召喚している光景を見たという人が多くいるし、むしろこの場で説明しておいた方が良いかもしれないよ」
俺の問いかけにそんな風に言って返してくるアーヴィング。
あー、そういえば、地下だからいいかと思って、魔獣狩りの時にバンバン召喚してたな……。あれ、見てた人いたのか……
だとしたら、まあ……アーヴィングの言う通りかもしれないな。
「じゃあ、朔耶に乗ってもらうか。敵が来たら頼むぞ」
「オッケー! 任せといてよ!」
そう朔耶が答えた直後、ロゼがふと思い出したように朔耶の方を見て、
「……ん、そうだ。ソーサリーグレネードは路面を破壊しすぎない程度で。うん。あれは威力がありすぎる。うん。ギデオンの屋敷でぶっ放した時、壁に大穴空けてたし……。うん」
と、そんな風に警告した。
「……そういや、たしかにアレは壁を破壊するほどの威力だったな……」
冥界で使っていた時の事を思い出しながらそう呟くように言う俺。
「あー、出力を落として爆風を上方へ向ける『バーニングモード』とかいうのにすれば、多分大丈夫じゃないかなぁ……。多分」
朔耶がこめかみに指を当てながら、そんな風に言う。
「モードチェンジ機能とかあんのか、アレ。さすがアーデルハイド製……というべきなのだろうか……」
「そうね。まさにアーデルハイドが作った物って感じがするわね、そういう所は」
呆れ気味の俺の言葉に続くように言い、肩をすくめるシャル。
「まあ、戦闘で少々損壊するのは仕方がないと思うけど、復旧に時間がかかるほど道路が壊れると、開通式が開通式ではなくなってしまうからねぇ……。もっとも、奴ら――エーデルファーネや真王戦線の連中の出方次第では、そうなる可能性もゼロではないが……」
アーヴィングが顎を撫でながら、そんな風に言ってくる。
「ん、事前に道路とその周辺は調査済。うん。今から大規模な破壊工作を準備しようとするのは、うん、難しい。不可能。うん」
「そうだね。だから、おそらく直接仕掛けてくるだろう。……まあ、周辺はしっかり軍が抑えているし、簡単には近づけないだろうが……」
ロゼの言葉に頷きつつ、そう言うアーヴィング。
「うん、普通に考えればそう。でも、うん、奴らは普通じゃない。うん」
「ですね……。特殊な魔煌具や、高性能な飛行艇を有しているのは、既にわかっていますからね……」
ロゼに同意するように言うアリーセに、
「飛行艇の方は、飛行結界とかいうのがあるから大丈夫なんじゃ?」
と、朔耶が疑問を投げかける。
「いえ、レビバイク専用道路を市外に向かって進むと、すぐに飛行結界の外に出てしまうんですよ。なるべく人々が日常の生活を営んでいるような場所――住宅地などは通らないように作られていますから。都市内を通るとしても、商業地区や工業地区が大半ですね」
「あ、そうなんだ。うぅん……だとすると空にも注意しておいた方がいいかもしれないね。もっとも、空から仕掛けて来てもアルで対処出来るけどさ」
アリーセの説明にそんな風に言葉を返す朔耶。
たしかに朔耶の言うとおり、空にも注意しておいた方が良いのは間違いない。
軍や結界などの防衛網の現状から考えると、一番ありえるのは上からの強襲だからな。
左右から接近したら、周囲を警戒中の軍に阻止されるのは目に見えているわけだし。
……ただ、そういった心理を逆手に取って、あえて左右から突っ込んでくる可能性もあるので、左右の警戒を怠っていいというわけではないが。
と、俺がそんな事を思案していると、
「――アリーセさん、そろそろランゼルトへ向いましょうか」
という言葉と共に、カリンカが姿を見せる。
その後ろにはエルウィンとクラリス、そしてアルベルトの姿もあった。
投稿設定のミスで1時間半近く遅くなってしまいました…… orz




