第1話 去り際に現れしもの
第4章スタートです!
「それじゃあ、クー、元気でな。あと、セルマさんの事を頼む」
空港に見送りにやってきたクーにそう告げる俺。
「はい、蒼夜さんこそお元気で、なのです」
俺に対して笑みを浮かべてそう答えた後、人さし指をピッと立てて、
「セルマさんの事は任せるのです。とはいえ……先日目覚めたので、あとは身体が動くようになるのを待つだけなのです」
と、人さし指を振りながら言うクー。
たしかにクーの言うとおり、セルマは少し前に目覚めていた。
ただ、例の異常化した魔煌による汚染と呪い自体は、ディアーナによって取り除かれたものの、汚染と呪いよって生じた生命力、体力、精神力の大幅な減衰は避けられず、まだ身体は動かせない状態だ。
「――ギデオンの件だが、あの時見た奴の飛行艇の残骸や、奴の周りに居た連中の遺体を幾つか発見する事は出来たが、まだギデオン本人の発見には至っていない。……残骸や遺体が発見されている以上、あの辺りに不時着したであろう事は間違いないんだがな……」
カリンカと話していたグレンが、こちらに歩みよって来るなり、そんな事を言ってくる。
「後から来た飛行艇だが……どうも、銀の王が絡んでいる可能性が高いようだ」
そう俺が告げると、グレンの後からやってきたカリンカが、
「そのようですね。討獣士ギルドで照会しましたが、該当する飛行艇はありませんでした。ただ、傭兵ギルドが秘匿している情報の中にそれらしい物がある事を掴んでいます。そして、秘匿するように指示を出しているのは、おそらく銀の王かと」
と、普段の仕事中の口調でそんな事を言ってきた。どうやら既に調査していたらしい。
「銀の王は傭兵ギルドの中に大分食い込んでいるっぽいからなぁ……」
銀の王の軍勢が使っている飛行艇は、この国に来る前に撃退しており、そこまで高い性能でもなかった――というより、どちらかと言うと性能が低かったので、あの飛行艇は銀の王の軍勢が使う物とは別系統ではないかと俺は思っている。
具体的な推測としては、銀の王が率いる傭兵団の物であるという線だ。
銀の王が単独の存在ではないという事は、既に判明している。
なので、複数いる銀の王の誰かが、正規の軍勢とは異なる……あの飛行艇を使う集団――傭兵団を率いていてもおかしくはない。
むしろ、今のカリンカの話から考えると、その可能性は非常に高いのではなかろうか?
などと思考を巡らせていると、俺の言葉に納得したらしいグレンが、
「銀の王……東のローディアス大陸を封鎖した張本人か。なるほど……それならあの見た事もない高性能な飛行艇も納得出来るな」
と、そう呟くように言った後、
「つーか、その情報はどこで……?」
という、もっともな疑問を口にしてきた。カリンカもグレンの言葉に同意する用に頷く。
ま、そう思うのは当然だよな。
「シャルが昔所属していた傭兵団の人間からだな。どうも、そいつらは後から来た飛行艇の方――正確に言えば、あの飛行艇に乗っていた連中を追っているみたいなんでな」
そう俺が答えると、グレンは顎に手を当て、
「ふむ……。であれば、その傭兵団にコンタクトを取ってみるのもありだな。よし、ちょっと後でシャルロッテに聞いてみるか……」
と、そう言ってシャルの方を見る。
シャルはというと……クラリスと何か話しているようだ。
騎士がどうとか、主従がどうとか言っているが、良く聞き取れないな。
何故か二人揃って赤面しているのが少し気になるが……まあ、わざわざ聞きに行く程の事でもないか。
クーがそんなふたりの姿を見ながら、俺たちに言葉を投げかけてくる。
「ローディアス大陸と言えば……エルウィンさんとクラリスさんは、しばらくルクストリアに滞在する感じなのです?」
「ああ……そういえば、そんな事を言っていた気がするな……」
腕を組みながらそう言ってカリンカの方に顔を向ける俺。
俺の視線に気づいたカリンカが、頷き説明してくる。
「はい。ソウヤさんとシャルロッテさんが見つけてきた例の本ですが、先日、一足先にルクストリアに送られていまして、大工房とエクスクリス学院が共同で、解読や検証等を行っている最中です。そこで、結果が出次第すぐに動けるように、おふたりもルクストリアにある大使館で待機する……という話でした」
ちなみに、エルウィンたちが使っていた飛行艇は、牽引して共和国に運んだ後、戦闘用に改良するらしい。
まあ、『逢魔の圏域』を破る事が出来たら、あれでローディアス大陸――ひいては、銀の王の軍勢が待ち構えているであろう空域に乗り込む事になるわけだから、たしかに改造は必須だろう。
……もっとも改造を担当するのは、どうやらあのアーデルハイドらしいので、とんでもない魔改造が施されそうな気がするが……
「なるほどなのです。うーん……ローディアス大陸を取り巻くあの不可思議な雲を取り除いたら、銀の王はどう出るですかね?」
「わからんな。そもそも、奴らが何をしようとしているのかがさっぱりだし……」
クーの疑問に肩をすくめてそう答えた直後、突如空港内に警報が鳴り響く。
そして、それに続く形で、
「ローディアス大陸方面より、飛行艇群が接近中! 応答なし! 識別信号は、イルシュバーン共和国飛行艇『蒼穹』が対峙した、銀の王麾下の飛行艇と一致!」
という放送が聞こえてきた。
「あの飛行艇と識別信号が一致……って事は、間違いないな」
「ああ、このタイミングで銀の王が仕掛けて来やがったって事だ……っ!」
俺の言葉を引き継ぐようにしてグレンがそう言い放つ。
「トゥーラン方面から、新たな飛行艇群接近中! ――『蒼穹』への通信接続要請あり! 要請者は、レンジ・クラカドと名乗っています!」
新たにそんな放送が流れる。って、今度は蓮司かよっ!?
「ジークハルト! 管制室に許可する旨を伝えて、通信チャンネルコードを送ってくれ! それとブリッジの映像通信を準備しておいてくれ、すぐに行く」
飛行艇の外で待機していたジークハルトに駆け寄り、そう告げるアーヴィング。
「承知いたしました。速やかに各所に連絡いたしましょう」
ジークハルトは敬礼すると、即座に飛行艇の中へと駆けていく。
「蓮司の奴、何の用なのか気になるな……」
そう言ってカリンカの方を見ると、
「ですね。行ってみましょう」
という言葉を返してきた。
俺はそれに頷き、カリンカと共に飛行艇に乗り込もうとする。
……と、クーとグレンが俺たちを呼び止め、
「私も行くのです!」
「無論、俺も行くぜ!」
そんな風に言ってきた。
ふたりを飛行艇に乗せてしまっていいものなのだろうか……
「まあ……とりあえずアーヴィングに聞いてみるか」
というわけで、アーヴィングにその事を伝えた所、特に問題はないというので、アーヴィングも伴い、5人でブリッジへと向かう。
すると、ブリッジにはアリーセ、ロゼ、シャル、朔耶の4人が既にやってきていた。
「おや、いつの間にか全員揃っているね」
アーヴィングがそう言った所で、ジークハルトから全ての準備が完了したという報告がなされる。
「よし、ならば回線を開いてくれ」
というアーヴィングの指示により、アーヴィングの座る椅子の正面、何もない空間にホログラムのように緑色のプレートが出現する。
「こいつはすげぇな……。さすがは魔煌技術世界一の共和国の飛行艇だぜ……」
なんていう感嘆の声を上げるグレン。
言われてみると、獣王国滞在中にこの手の物を見た事がなかったな。
「――あー、あー、聞こえるか?」
蓮司の声がプレートから聞こえると同時に蓮司の顔が映し出された。
「はい。こちらは映像、音声共に問題ありません」
ジークハルトがそう告げる。
「そうか。こっちも映像、音声共に問題なしだ。……って、蒼夜以外にどっかで見た顔が幾つかあるな」
という蓮司の声に続くようにして、
「やっほー、久しぶり!」
「お久しぶりなのですっ」
と、それぞれ口にする朔耶とクー。
「おう、久しぶりだな。――色々と話したい事もあるが、ちょっくらそんな悠長な事をしている場合じゃなさそうなんで手短に話すぜ。把握していると思うが、銀の王の軍勢――つーか、強襲飛行部隊が接近中だ。やつらの飛行艇は鬼哭界製……つまり、ローディアス大陸の一般的な戦闘飛行艇よりも高性能だ」
「鬼哭界製……銀の王は異界――鬼哭界の者だというのは把握していたが、まさか奴らの飛行艇もあちらで作られた物だったとは、想定外だね」
蓮司の説明に顎に手を当てながら言うアーヴィング。
「って事は、ディンベルに来る時に遭遇した飛行艇よりも強い?」
「ああ、そういえば迎撃したんだっけな。無論、あれよりも強い。……つっても、特務隊が使う最新鋭飛行艇じゃない型落ちの飛行艇だから大した事はねぇが、それでも鬼哭界製だからな。全艇バリア持ちだ」
朔耶の問いかけにそう答えてくる蓮司。
「バリアっていうと、融合魔法にすら耐えたあれか……。ちょっと厄介だな」
そう俺が言うと、額に手を当てて、蓮司は呆れた顔で、
「いや……あのバリアを一撃で崩壊寸前に追い込むとかいう魔法の方が、ぶっちゃけ意味不明だけどな……?」
なんて事を言ってきた。
そして「まあいい」と言って咳払いをした後、
「……ともかく、だ。あいつらは現行の一般的な兵装では相手をするのは厳しい。その飛行艇はイルシュバーンでは最新鋭だが、それでも少し劣るからな。つーわけで、俺たちがあいつらの相手をしてやる。現在の速度から算出した戦闘空域を送るから、その辺りに近づかないように通達してくれないか」
そんな風に言葉を続けた。……って、この船の兵装でも劣るのかよ。
しかも、それに対抗出来てしまう蓮司たちの飛行艇、か。
最早、わけがわからんな……。『竜の座』とは一体なんなのだろうか。
「と、このように言っているが……どうだろうか? 通達出来るであろうか?」
アーヴィングがグレンの方へ顔を向けながら問う。
「ああ、問題ない。該当空域を封鎖については、今日この場の全権を任されている、このディンベル獣王国次期国王グレンダインの名に置いて命令を発するとしよう。だから、盛大にやってくれ」
そう了承し、別回線で管制室に指示を飛ばすグレン。
それが終わると、蓮司の方を見て、
「……で、それはそれとして、だ。レンジと言ったか? 後でちょいとばかし話をしたいと思っているんだが……構わないか?」
と、そんな風に問いかけた。
「……ふむ。そうだな……国のお偉いさんが直々にそう言ってきたって事は、それなりの話だろうし、話くらいは構わないぞ。……まあ、聞くだけになるかもしれないが」
「それでいい。では、会う場所は……」
グレンが蓮司の言葉に頷き、会う場所を思案し始めた所で、クーが横から提案する。
「私の家とかで構わないと思うです」
「ああ、それはいいな。よし……明日、メルメディオ伯爵邸に来てくれないか?」
「おうわかったぜ。ああ、クーにはなんか土産を持っていくわ」
「ありがとうなのです」
「――つーわけで、土産の準備のためにも、とっととあいつらを片付けちまうとすっか。んじゃ、そういう事で一旦通信を切らせて貰うぜ」
蓮司がグレンに対してそう答えた直後、蓮司の顔が消える。どうやら通信が切断されたようだ。
「言いたい事だけ言った……という感じでしたね」
「そうだね。ま、おそらく代わりに戦ってやるから近づくな、っていうのを我々に伝えたかっただけなのだろうね」
「でしょうな。――ともあれ、お手並み拝見……ですかな」
「うむ。見届けてから共和国へ戻ろうじゃないか。飛行準備に入ってくれ」
ジークハルトとアーヴィングが、そんな話を始めるのだった――
第4章の章タイトルの時点で分かると思いますが、この章の最終目的は竜の座への到達です!
『序盤』は既に超えている為、この章からは、顔見せや謎を増やす展開は少なくなり、どちらかというと、顔見せだけだった敵との決戦や、謎が解明されていく様な展開へと移っていきます。
(ようやくか、という感じではありますが……)
そんなわけで、第3章ほどではないと思いますが、この章もかなりの長丁場になります……
それにしても、ここの所サイキックを使う機会が全くありませんね……
(レースで使ったら反則にしかならないので、使えなかったというのもありますが)




