承 Burst&Boost
魔法弾が当たると同時に、俺たちのレビバイクを包むように白い鎖が出現し、スピードがみるみるうちに減速。
――ついには停止してしまった。
司会がバインドチェーンに被弾した事を声を大にして伝えているのが聞こえてくる。
「……駄目だな、動かん」
「バインドチェーン11……と、コースマップの真ん中に表示されているわ」
「食らった瞬間は15となっていたから……。つまり、15秒間動かなくなるって事か……」
「15秒って結構長いわね……。というか、この魔法弾急に曲がってこなかった?」
「ああ。おそらくだが……ホーミング機能でもあるんじゃないか?」
「なるほどね。……追尾される上に行動不能時間が長いとか、危険極まりないわね」
そう話している所に、別の魔法弾が飛んできて被弾するが、特に何も起きない。
どうやら、何かしらの魔法弾効果が発生すると、発生中は他の魔法弾を受けても効果が発生する事はないようだ。
まあ、そうでもしないと連続被弾したらシャレにならないしな。
――カウント0
「あ、動いたわ!」
「よし、急いで追うぞ!」
バインドされている間に、結構な数の他のペアが追い付いてきて、そして追い抜いていったので、大分順位は下がっている気がする。
「トップから8位までダウンした蒼夜&シャルロッテが再始動です! 果たしてどこまで追いつけるでしょうかっ!」
なんて事を司会が言ってきた。……8位か。まだどうにかなるな、慌てるほどじゃない。
そう思った俺の目の前で、7位のペアが撃った魔法弾に、5位のペアに当たるのが見えた。
そして、5位のペアのスピードが急激に落ちていき、6位に抜かれる。
「スピードダウンの魔法弾かしら。色々種類があるみたいね」
「そうみたいだな」
……まさにどっかのレースゲームだな……。ある意味、室長らしいが。
スピードダウンしている元5位のペアの脇を駆け抜け、右コーナーに差し掛かった所で、目の前のペアにスタンショットを2発連続で放つ。
1発目は回避されたが、横にずらして撃っておいた2発目が命中。
青白い放電が命中したレビバイクに出現し、急停止した。
そのレビバイクを避けるようにしてコーナーを曲がると、すぐにスタンショットを当てたペアが後ろから追いかけてきた。……3発撃てるからなのだろうか? 効果時間が短いな。
直後、後ろから魔法弾が飛んでくる。
どうやら、スピードダウンの魔法弾も2発以上撃てるようだ。
「シャル! 右に回避するぞ!」
「了解よ!」
速やかに軌道を変え、魔法弾を回避。
俺たちに当たりそこねた魔法弾はそのまま直進し、前を走っていたペアに当たった。
チャンスとばかりにアクセル全開で前のペアを追い抜く。
が、抜き去る瞬間を狙って放たれた魔法弾に当たってしまう。やるな……っ!
……ん? だけど、なんともないな?
「リバース30?」
シャルがコースマップを見ながら、疑問を口にする。
リバース……反転?
まさかと思い、試しに左にハンドルを切る。
ちなみに、2台が連結されているからなのか、車体を傾けるだけでは駄目で、意識して強めに切らないと曲がってくれない。
と、車体が右に曲がった。おっと、やっぱりか。
「あれ? 今、左に切ったわよね……?」
「リバース――どうやら、そのままの意味で左右の操作が真逆になるようだ」
「なるほど、意識的に逆操作が必要ってわけね。……地味に面倒な効果ね」
「まったくだ。コーナーの多い場所だと注意が必要だな」
幸い、コースマップを見る限り、この先30秒以内で到達しそうな範囲に、コーナーは2ヶ所しかないので、あまり影響はない。
ただ、コーナーに到達した時点で左右逆な事に気づいても遅いので、試しておいて正解という感じだ。
まあ、先程のペアはおそらく初参加で効果に気付かないだろう……と考えて使ったのだろうが、残念だったな。
――リバース状態になっている事さえわかれば大した問題ではないので、あっさりと2つのカーブを切り抜け、更に2ペア追い抜き、3位にまで浮上する俺たち。
と、そこで再びマジックポールが見えてくる。
素早く間を通り抜けると、『クイックダッシュ』と表示された。
……ダッシュ? 加速するのか?
そんな事を考えていると、左コーナー旋回中に後続のペアから放たれた魔法弾に被弾。
スピードが低下し、更に車体後部の挙動が不自然になって左にスピンしそうになった。
と、同時に後続のペアが俺たちを追い抜いていく。
「スリップ!? 滑っているわよっ!」
「ハンドルを右に切れっ!」
俺はあえて曲がっている方向とは逆――ハンドルを右に切るように指示。
言うまでもないが、インド人を右に、ではない。
スピンが止まり、車体が安定したのを確認した俺は、
「ここで使ってみるか!」
と、言い放ち『クイックダッシュ』を使う。
すると、車体後方に魔法陣が出現し、急加速。
コーナーを脱しながら、一直線に超高速で駆け抜け、追い抜かれたばかりのペアを抜き返し、そのまま引き離す。
……さすがは魔法、レビバイク自体の限界を超えてスピードが出るとはな……
なんて思っていると、シャルが問いかけてきた。
「ねぇ、さっき、なんで右にハンドルを切って安定したの?」
「あれはカウンターステアって奴だな。滑った時に使う、割と一般的なテクニックではあるぞ」
「そうなの? 滑るなんて経験ないから、初めて知ったわ」
俺の言葉にそう返してくるシャル。
ああそうか……。こいつは常に浮いているし、後輪なんてものは存在しないから、こういった特別な要因がない限りは、基本的には滑ったりはしないのか。なら、知らなくてもおかしくはないな。
そうこうしているうちに、前方のペアを追い抜く。
と、そこでクイックダッシュの効果が切れ、普通の速度に戻った。
前を走る1位ペアを前方に捉えた所で、1位ペアの片方が後ろを向き、こちらに魔法弾を放つ。
と、それはこちらへ飛んでくるのではなく、その場に留まって地面に青白いフィールドを生成。コース上を左右に動き始める。
「タイミングを見計らって突破しろって事か?」
「いっそ、コースアウトして回り込むって手もありそうだけど」
「ああ、たしかにそうだな。そうしてみるか」
シャルの提案に頷き、俺たちは意図的にコースアウトする。
と、その瞬間、急激にスピードが落ちた。
「……コース外に出ると、速度が急激に落ちる仕組みになっているようね」
「どういう原理か良くわからないが、そうみたいだな……。だが、一応あのフィールドは回避出来たぞ」
俺がシャルにそう返しつつ、フィールドに視線を向けると、強引に突破しようとしてフィールドにに突っ込んだペアが見えた。
すると、そのペアの車体が急に左右にふらつき始め、ついにはそこでスピンし始めた。
「車体がスリップするフィールドみたいね」
「さっきのスリップ弾の設置式バージョンか。カウンターステアを上手く使えば突破出来そうではあるが……」
「あれを知っている人、そんなにいないと思うわよ」
「だろうなぁ……」
あの魔法弾を作った室長も想定外だったに違いない。
と、思いつつ前を見る。
スピードダウンしたせいで大分離れているな……
コースに戻り、全速力で1位を追う俺たち。
すると、程なくしてコースマップにチェックポイントを示すマークが出て来る。
そして、そのマークの下に、制限時間:残り1分2秒 順位:2/4と、そんな風に記されていた。
ふむ……どうやら上位4位までが次に進めるようだ。結構、枠が狭いな。
制限時間も魔法弾に当たりすぎると危険だな。
まあ、そもそも当たり過ぎたら4位以内にならないだろうが。
――そのまま何事もなくチェックポイントを通過。
さすがに1位に追いつくのは無理だったが、3位以下に追いつかれる事もなく、次のブロックへと進行する俺たち。
と、急に下り坂になり、別ブロックからの合流地点がその先に見えた。
左右に道が1つずつ……つまり、合計3ブロックからの合流ってわけか。次のブロックは12ペアって事だな。
そう考えつつ、更に先をクレアボヤンスで視てみると、トンネルの入口があった。
「トンネル……? 地下に入るんだろうか?」
俺が呟くように言うと、
「次のブロックは洞窟みたいよ。コースマップがいつの間にか更新されているわ」
そんな風にシャルが言葉を返してきた。お?
コースマップを見ると、シャルの言うとおり洞窟のマップが追加されていた。
ふむ……。マップを見た感じ、洞窟内は狭そうだな。それに、入ってすぐに左右に分岐か……
チェックポイントまでの距離が短いのは……どっちのルートだ?
分岐地点までの時間はあまりないので、走りながらマップを見て、左右のルート構造を素早く確認する俺。
ふむ……右はコーナーが多い物の、コースマップを見る限りでは明らかに最短ルートだな。ついでにマジックポールの数も多い。
対して左はコーナーが少ないが、どう見ても大きく遠回りしており、チェックポイント手前の合流地点まで右ルートの2倍くらいの距離がある。しかも、マジックポールは1つしかない。
これはどう考えても右が正解だろう。
そう思ったのだが……ふと思い直す。
待てよ? 皆、最短ルートを通るはずだよな? と。
という事は……と、そこまで考えた所で、
「ソウヤ、分岐が見えてきたわよ。コースマップを見ると、右が正解っぽいけど、右でいいのかしら?」
というシャルの声が聞こえてくる。
まあ、たしかにシャルの言う通り、普通に考えたら右が正解に見える。
だが俺は、自信を持ってこう答える。
「いや……左だ。あえて遠回りを行く!」
「えっ!? それ、時間制限大丈夫なの!? 見た感じ、かなり遠回りしているし、攻撃を受けたらまずくないかしら?」
「問題ない。こいつなら、こっちでも間に合う。それに攻撃される可能性も低い」
「……よくわからないけど、ソウヤがそう言うなら信じるわ!」
先行するペアが右へ曲がっていく中、俺たちは左へと進む。
後方を確認すると、後続も右へと曲がっていき、俺たちの方へ来るペアは皆無だ。
……いや、1ペアだけこちらへ曲がってきたか。
ふむ……。どうやらあのペアも、同じ考えに至ったようだな――
承と書いている通り、間章はあと2話ほど予定しています。
といっても、レース自体は次の話で終わる予定ですが。
追記:タイトルのスペルミスを修正しました。




