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起 Accelerator

 ――レースに向けた練習をしている内に、あっという間にレビバイクレース当日がやってきた。

 

「結局、おぬしらも参加するんじゃのぅ。やれやれ厄介じゃわい」

 舞台となるトゥーランへとやってきた所で、開口一番、そんな事を言って肩をすくめるエステル。

 

「厄介と言われても、初参加だから勝手が分からんし、戦闘になるわけでもないだろうから、純粋な技量でいったらそこまで高くないと思うが……」

「何を言っておるのじゃ? 戦闘になるに決まっておろう」

「へ?」

 さも当然とばかりに言ってくるエステルに、わけがわからずそんな気の抜けた声が出た。

 

「レースのためにレビバイクにセットする魔煌具には、コース上に、マジックポールというものが設置されていて、そのポールとポールの間を抜けると、レース専用の魔法がランダムに使える様になる機能があるんですよ。で、魔法に被弾すると魔煌具が色々障害を発生させる仕組みになっています」

 そんな説明をしてくる室長。

 

 えーっと……

「……なんですか、そのどこぞのカートを使ったレースゲームみたいな仕組みは……」

 亀の甲羅とかバナナの皮とか投げるんだろうか……? と思いながら、呆れた口調で言う俺。

 それを聞いていた室長が、なにやら笑みを浮かべながらサラッと言う。

「よくおわかりですね。面白そうなので作りました」

 

 ……だよなぁ。そういう変なものを作るの――ついでに言えば作れるの――は、室長くらいだよなぁ……

 と、そんな事を思いながら、俺は額を手で抑えて、さらに呆れながら言葉を返す。

「ああ……作ったの室長なんですね……。納得です……」


「ふーん? つまり、擬似的なレビバイクバトルが発生する……というわけね。それは、なかなか面白そうだわ」

 なんて事を言って握りこぶしを作るシャル。

 

「まあ……レビバイクを使った戦闘の訓練にもなると思えば、悪くはないか」

 俺が腕を組んでそう呟くように言うと、エステルが首を傾げて問いかけてくる。

「なんじゃ? レビバイクで戦闘をする予定でもあるのかの?」


「予定というか……今度、ルクストリアで行われるレビバイク専用道路の式典で護衛要員をするからな」

「ああなるほど。十中八九、先日話に聞いた真王戦線やエーデルファーネが襲撃を仕掛けてきそうですね、それは」

 エステルの横で話を聞いていた室長が、俺の言葉の意図を理解し、こめかみに指を当てながらそう言ってくる。

 

「ふむ……。奴ら、妙に優れた魔煌技術を有しておるからのぅ……。一体、あんな技術どうやって得たのやら……じゃ」

「……若干心当たりはあるけど、確証が持てないから、断言は避けておくわ」

 エステルの疑問にそう返すシャル。


「……竜の血盟……とかですかねぇ?」

 室長が小声で俺に問いかけてくる。

 それに対し、俺も小声で返す。

「多分……。もしくは竜の座に至った者が関与しているか、かと」


「なるほど……。どうにかして、そのへんの情報を掴みたいものですね……」

 額を手で抑えながらそう言ってくる室長に、俺は肩をすくめて、

「そうですね……。正直、他にも謎が多すぎるので、1つくらいは解きたい所です」

 と、ため息混じりに言った。いや、ホントに。

 なにしろ、謎が増える一方なのに何一つ解明出来ていないからな……

 

「――レース出場者は、各々のスタートポイントに移動してください。繰り返します――」

 そんなアナウンスが流れた。

 

「おっと、時間のようじゃな」

「そのようね。ソウヤの忠義の士として、全力でいかせてもらうわよ」

「……何を言っておるのか良く分からぬが、こちらも全力なのじゃ」

 エステルとシャルはそんな事を話して分かれる。

 うん、俺もわからん。なんだ、忠義の士って。

 

「では、早々に遭遇しない事を願っていますよ」

 と、そう言って去っていく室長。

 

「今の、早々に遭遇しない事を願うっていうのは、どういう意味なのかしら?」

 室長の言葉を聞いていたらしいシャルが首を傾げて疑問を口にする。

 

「あー、なんでも参加者が376人――188ペアもいるせいで、スタート地点が複数あるんだとさ。で、各ブロックを一定時間以内かつ上位でチェックポイントを通過出来たペアが、他のブロックの通過ペアと合流……というのを2回繰り返すと、最終ブロックに到達するそうだ。だから、おそらく室長たちと同じブロックになる可能性の事を言っているんじゃないかな」

 と、先程確認したばかりのルールをシャルに説明しつつ、室長の言葉の意味を推測して語る俺。


「へぇ……。要するにトーナメントのような構造になっているってわけね。なら、さっきの言葉の意味もそういう風に解釈出来るわね、たしかに」

 シャルはそう言って頷いた所で一度言葉を区切り、腕を組んでから言葉を続ける。

「……それにしても、時間制限あり、かつ魔法被弾で障害……ねぇ。早ければいいというわけでもないし、結構厄介な感じね」

「ああ、たしかに厄介な仕組みだな。でもまあ、やるだけやってみるしかないだろ。頼むぞ」

「ええ、任せといて」


                    ◆


「――さあっ! それでは『第8回バトリング・ペアレース』の開幕ですっ!」

 長々と前口上を述べていた司会のアナウンスがその言葉で締め括られ、盛大なファンファーレが鳴り響く。

 

「どうやら開始されるみたいね。長い話だったわ……」

 シャルがウンザリとした顔と声でそんな風に言ってくる。俺も同意だ。


「まったくだ……。まあでも、注意した方がいい選手も『注目選手の紹介』のお陰で分かったから良しとするか」

「それ、私たちは言われなかったわね」

「初出場だからなぁ……。……もっとも逆を言えば、どこもノーマークって事だから、ある意味有利かもしれんが」

「それはたしかにそうね」

 

 そんな事をシャルと話しつつ、スタートラインに移動して停止。

 スタート合図を待つ。


「同時操作っていうのがなかなか厄介よね、これ」

「そうだな。直線はいいけど、カーブが注意しないとタイミングがズレる。……が、練習してバッチリいけるようにしたし、大丈夫だろう」

「ええ、そうね。主従コンビの力を、皆に見せてあげるわ」

「……主従って……。うんまあ……そうだな……」

「なんだかノリが悪いわねぇ……」

 

 そうは言われてもなぁ……

 と、そう思った所で、

「――第1ブロックから第8ブロックまで、全て出場者ペアのスタート準備が完了した模様です!」

 という司会の声が響き、同時にスタートライン正面の中空に『5』と表示されたホログラム――のようなものが点灯する。

 

「それでは、スタートのカウントダウンを開始します! ――5!」

 司会がそう言い放ち、カウントが開始される。

 

 4からは観客の物と思われる声も聞こえてきた。

 しかし、この声、どうやってレース会場全体に響かせているんだろうか?

 ……まあ、どうせ室長かエステルの作った良くわからない魔煌具の力だろうけど。

 

 そんな事を考えている間にもカウントは進み――

「――1! ――スタートッ!」


 スタートの合図と共にアクセル全開。

 凄まじいGと共に超加速で発進した俺たちは、並んでいた他の参加者たちを一瞬で後方に置き去りにした。

 

「おおっと!? 初参加のソウヤ&シャルロッテ組が一気に突き放したぞ!? これはまた、とんでもない加速力だっ!」

 なんていう司会の声が聞こえてくる。

 なぜ聞こえるのかはわからないが、まあどうせこれも魔煌具の力だろう。

 

 それにしても、イルシュバーン製の最新レビバイクを、飛行艇の工兵が改良したとんでもない代物のためか、加速力が段違いだな。

 

 そうこうしていると、進行方向表示付きのコースマップが、ヘッドライトの真上あたりに、先程のカウントダウンのような感じで半透明表示された。

 なるほど、こうやって表示されるのか。なんともまあ、便利な仕組みだな……

 

「どうやら、最初は草原ゾーンのようだな」

「少しくらいなら、コースアウトしても安心そうね」

 などという会話をしていても後方から他の集団が追いついてくる様子はない。

 

 ちなみにシャルと普通に会話出来ているが、きっとこれも魔煌具の力だろう。

 室長やエステルがレースに関わっている時点で、考えるだけ無駄というものだ。


 それにしても、随分とぶっちぎってるな……。さっきから司会が今更のように俺たちに注目しだして、あれこれと言ってるし。

 などと思っていると、コースマップ上に>?<という表示が出現する。

 ……なんだこれ? この辺の説明がないのが厄介だな……

 

 いや、まてよ……『?』に対して、左右から――

 そこで気付き、俺はシャルに声をかける。

「シャル! そろそろ、マジックポールっぽいぞ!」


「わかったわっ!」

 正面を見たまま、そう返してくるシャル。

 

 程なくして、コースの右端よりの場所に2つのポールが立っているのが見えてきた。

「あれだな! 間を通り抜けるぞ!」

「ええ!」

 俺とシャルはポールの間を通るようにハンドルを調整し、難なくポールの間を通り抜ける。

 

 と、コースマップの上部に『スタンショット3』と表示される。

 ……いかにもな感じだが……どうやって使うんだ? これ。

 

「――スタンショット」

 とりあえず試しにそう口に出してみる。

 すると、コースマップの前面に魔法陣が出現。青白い球体が現れ、一直線に正面へ飛んでいった。

 コースマップ上部の表示は、予想通り『スタンショット2』となっていた。

 

「……なるほど、こうやって撃つのか。でもこれ、正面にしか撃てなくないか?」

「たしかにそうねぇ……。……んん?」

 俺の発言に同意していたシャルがなにかに気付く。

 

「――これ、顔を動かすとコースマップも移動するわね」

 というシャルの言葉に、試しに顔を動かしてみると、コースマップが顔の向きに合わせるようにして移動してきた。

 

「ふむ……こうやって撃つ方向を変えられるってわけか。真後ろを撃つのが難しそうだな……」

「攻撃時は、どちらかが体勢を変えて、攻撃に専念するしかなさそうね。まあ……そのためのペアであり、この構造なのかもしれないけど」

「ああ……そうか、そう言われるとたしかにそうだな」

 そこに気づいたところで、後方から魔法弾が飛んできて、横を掠めていった。


「……どうやら、他の面々も魔法が使えるようになったみたいだな」

「ええ、そのようね。先頭だからガンガン狙われるわね」

 そう言いながら、俺たちは後方から飛んでくるさらなる魔法弾を回避する。

 続く魔法弾も回避、回避。

 

 ――このまま全部回避していけばどうにかなりそうだな!

 と、そう思った直後、唐突に急カーブして横から飛んできた魔法弾が直撃した――

今回の間章は、レースがメインなので、やや軽めに行こうと思います。

元はもっと司会の実況がバンバン入っていたのですが、

どうにもテンポが悪くなってしまったので、必要最小限にしました。


ちなみに、魔法弾の名前が英語なのは、製作者(つまり秋原室長)が、

『普通の魔法とは違う』というのを明確にするために、そうしています。

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