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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第77話 ギデオンの屋敷・突入

「ふぅん……なるほどねぇ。だからこうして、ギデオンの屋敷へやっきたってわけね」

 と、シャルロ――シャルが朝日に照らされるギデオンの屋敷を見上げながら言う。

 

「ああ。一昨日の夜、料亭でギデオンの話をした後、急いで情報収集と裏付けを行った結果、クロもクロ、真っ黒である事が間違いないと判明したからな」

 しかし……たったの1日で全て調べ上げたのだから、守備隊――いや、あそこにいた面々の調査能力には恐れ入る。


 俺がやったのは、せいぜいギデオンと関係性のある事が確認された、緋天商会への強行調査――という名目の単なる忍び込み――を手伝ったぐらいだ。

 やはりというか、事実上書類を完全コピー出来るアルチェムの念写は便利すぎるな。

 

 などと昨日の事を思い出していると、

「うーん……真王戦線が獣王国の中枢に入り込んでいるなんて、さすがに想定外だったわ。この分だと、エーデルファーネや真王戦線が、獣王国以外の国にも入り込んでいる可能性があるわね」

 シャルがそんな事を言ってきた。


 獣王国以外、か。イルシュバーンの周辺というと……

「例えば、クスターナ都市同盟とかか?」

「ええ、そうね。あそこは来年、国家元首――盟主が交代する事になるし、次期盟主候補かその周辺に連中がいても、おかしくはないわね。……というか、確実にいそうな気がするわ」

 俺の問いかけに、シャルは頷いてそう言ってくる。

 

 となると、例のレビバイク専用道路の式典は、やはり注意が必要だな……

 レビバイクの操縦技術を、少しでも磨いておいた方が良いかもしれん。

 

 なんて事を考えていると、

「総員、配置完了しました!」

 という、守備隊員の声が聞こえてくる。

 

「ん、どうやら突入するっぽい。私たちも突入する?」

 ロゼの問いかけに対し、

「ああ。ロゼ、アリーセ、朔耶、カリンカ、クー、それからシャルロ……シャルの6人は、アルチェムたちと一緒に、2階から突入して欲しいって言われたからな」

 そうロゼと、その場にいる朔耶、アリーセ、クー、カリンカ、そして今回は協力させて欲しいと言ってきた、エルウィンとクラリスを見ながら言う俺。

 

 昨日、ギデオンの件を話したところ、皆、守備隊に協力する気満々だったので、グレンとマリサ隊長に伝えて、こうして揃ってやってきていた。

 しかし……マリサ隊長には難色を示されるかと思ったけど、王城での一件があったからか、むしろ喜ばれた。

 

 さすがにマリサ隊長の指揮下に入る……というのは色々な理由で難しいので、守備隊とは別系統――遊撃隊という事で、自由に動く事になったのだが、グレンの一言で、グレン、アルチェム、ケイン、セレナの4人もその遊撃隊に加わる事になった。

 ……グレンの奴、普通にクーと一緒に行動したかっただけだろ、あれ……

 

 立場的にエルウィンが加わっていいものなのだろうかと思ったが、どうもフォーリア公国も、このディンベル獣王国も、おえらいさんが戦いの最前線にいるってのは、褒め称えられる事のようなので、特に何も言わない事にした。

 ……イルシュバーン共和国は、そういう気質なわけではないのだが、アーヴィングは当然の如くついてきている。

 

 まあ、3人とも俺と一緒に行動する事になっており、2階からの突入部隊ではないので、周囲には守備隊員や近衛兵が大勢いるし、危険な状況に陥る可能性はほぼないだろう。

 そもそも、アーヴィングは桁違いに強いし、他の2人もリンと同等らしいので、仮に危険な状況になったとしても、自力でどうにか出来るだろうが。

 

 ……それはそうと、昨日シャルロッテから、シャルと呼んで欲しいと言われたからそう呼ぶようにしているが、今までシャルロッテと略さずに呼んでいたから、ついそう呼びそうになるなぁ……

 

 なんて思っていると、朔耶がハイハイと言いながら手を上げて、

「それって、蒼夜が皆を2階へ飛ばすって事?」

 と、問いかけてきた。

 

 その手を上げる動作いらなくね? と思ったが、気にせず答える事にした。

「ああ、そういう事だな。まあ、俺自身は無理だから、アーヴィングさんやエルウィンたちと一緒に1階から突入するけど」

 人数がちょっと多いが、どうにかなるだろう。

 

 ――そんなわけで、移動して突入しやすそうなバルコニーの下へとやってくる俺たち。

 

「屋敷の方から何も反応がないのが不気味ですね……」

「たしかに、先程から何度か呼びかけているが無反応だね」

 アリーセとカリンカがそんな事を口にする。

 

「もぬけの殻……という可能性も考えた方がいいな」

「……そうですね。……昨夜、屋敷に戻ったのを確認してはいますが……隠し通路などがあるかもしれませんし……」

 今度はグレンとアルチェムがそう口にする。

 

「ん、緑の信号弾が上がった」

 ロゼが空を見上げながら告げてくる。

 

 緑か……。たしか突入準備をしろ、だったな。よし――

「全員をバルコニーへ飛ばすぞ」

 俺はそう言って、その場にいる面々を順次バルコニーへと送る。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「よし、10人全員飛ばし終えたな……?」

「いや、まだ1人いるぞ」

 俺の呟きにそんな声が返ってくる。

 

 って、この声は……

「アーヴィングさんは、俺と一緒に正面からの突入では……?」

 と、声のした方を向きながら言う俺。

 

 案の定そこにはアーヴィングが立っており、

「あそこは戦力的に十分すぎるからね。人数の少ないこっちの方が良いと判断してやって来たんだよ」

 なんて言ってくる。

 

 元老院議長をここに加えていいものかと思ったが……まあ、2階から突入する面々の中には、この国の王子であるグレンもいるし、別にいいか。

 室長の話だと、アーヴィングは狙撃にも対抗していたらしいので、たとえ潜んでいる敵から不意打ちを受けたとしても、返り討ちに出来るだろうから問題なさそうだし。

 

 自身の中で結論が出た所で、アーヴィングも上に飛ばす。

 その直後、

「想定外なメンバーが1人増えたけど、とりあえず上に全員いるわ」

 という、シャルの声が降ってきた。

 俺はそれに対し、

「わかった。それじゃ俺は正面玄関に戻る」

 と、答えて、マリサ隊長に報告するために正面玄関へと向かった。

 

                    ◆

 

「アーヴィング議長が、そっちに行ったようだけど……」

 ――正面玄関に戻ってきた所で、そうマリサ隊長が問いかけてくる。

 

「こっちは十分な戦力があるから、2階から突入する事にしたそうだ」

「さすがは武聖ね……」

 と、なにやら尊敬の眼差しで、感嘆の言葉を返してくるマリサ隊長。

 なるほど……こういう風に感じるのか。

 

「隊長、裏手も準備出来ました」

 守備隊員がやって来てマリサ隊長にそう告げる。

 

「了解よ。――伝令隊長、赤の信号弾を準備!」

「承知いたしました!」

 マリサ隊長の言葉に、伝令隊長と思しき人物が返事をする。

 そして、その数秒後、赤の信号弾が打ち上げられた。

 

「……総員、強行突入っ! 屋敷を制圧し、宰相――ギデオンの身柄を確保するわよ!」

 そのマリサ隊長の号令に続くようにして鬨の声を上げながら、玄関のドア目掛けて攻撃魔法を一斉に放ち始める守備隊員たち。

 だが、強力な防御魔法が付与されているらしく、なかなか壊れない。


「ちょっと変わってくれ!」

 俺はそう呼びかけて前に出る。

 そして、サイコキネシスをドアに向かって実行。


 ……よし、掴んだ。どうやらサイコキネシスなら問題なさそうだな。

 

「はっ!」

 掛け声と共にサイコキネシスを全力で実行。

 すると、あっさりとドアが吹き飛んでいった。

 

「……え、ええーっ!?」

「さすがですね」

「凄いであります!」

 マリサ隊長、エルウィン、クラリスがそんな風に称賛の言葉を述べてくる。

 いや、マリサ隊長のは称賛じゃなくて、驚きか。

 

「は、話には聞いていたけど、とんでもないわね……。でも、これで突入出来るわね。――さあ、行くわよ! 私に続きなさいっ!」

 気を取り直したマリサ隊長が、先陣を切って屋敷の中へと踏み込んでいく。

 守備隊員や俺たちもそれに続いた。

 

 ――そして、豪奢なシャンデリアのあるロビーに突入するも、誰もいない。静かだ。

 

 ドアを破壊したので、迎撃要員とかが現れるかと思ったんだが……人っ子一人、姿を見せないな。

 もしかしたらもぬけの殻かもしれないと、グレンとアルチェムがさっき言っていたが……本当にそうかもしれないな。

 

 ……クレアボヤンスで周囲を見回しながらそう思った直後、守備隊員の悲鳴が聞こえてきた。

 と同時に、クロスボウのボルトが左斜め上から飛来するのをクレアボヤンスが捉えた。

 

 ……っ!?

 

「くっ!」

 俺は即座にサイコキネシスを実行し、ボルトを弾き飛ばす。

 横目でクラリスがエルウィン目掛けて飛んできたボルトを、エルウィンがクラリス目掛けて飛んできたボルトを、それぞれ自身の槍と剣で弾いているのが視えた。

 なんで互いに互いの防御をしているのか……

 

 そんな事を思いつつ、弾かれたボルトが飛んできた方へと視線を近づけてみると、壁の一部が回転する仕組み――要するに、忍者屋敷などで見かける『どんでん返し』って呼ばれる奴だな――になっており、そこから撃ってきている事が判明した。

 

 その事を周囲に伝える俺。

 俺の声を聞いた守備隊員が魔法で攻撃を仕掛けるも、壁を利用して防がれてしまい、射手に当たる事はなかった。

 結構威力のありそうな魔法だったのだが、壁に傷一つ付いていない所を見ると、あのどんでん返しの壁にも防御魔法が付与されているようだ。それも、厄介な事にかなり強力な物が。

 

 ――攻めあぐねているうちに、こちらが一方的に攻撃を受け、負傷者が増えていく。

 何も仕掛けて来なかったのは、屋敷内に潜んでおいて、こうして突入して来た所を一方的に狙い撃ちにするためだったというわけだ。

 

 うーむ……。これは、一筋縄にはいきそうにないな……

長かった3章も、ようやく最終盤に入りました。

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