第74話 霊窟の奥の遺跡
「それで……我が君、この後はどうするつもり?」
「そうだなぁ……って、何なんだその我が君って呼び方は……。普通でいいから、普通で」
「えー。しょうがないわねぇ……」
俺の言葉に不満を漏らし……じゃないな。顔が笑ってるし。
「明らかにからかう気で言っただろ……今の」
「うーん、半分はそうね。半分は本気だけど!」
ため息混じりの俺の言葉にそんな風に返してくるシャルロッテ。
はあ、やれやれ……
「まあいいや……。――この後に関しては特に何も考えていないけど、アルマダール石窟寺院のどこかにローディアス大陸をどうにかする手段が記された書とやらがあるんだろ? 今から山を降りるのは危険だし、朝を待つまでの暇つぶし……ってわけじゃないけど、寺院内を探索して、そいつを見つけておけばいいんじゃないか?」
「あ、たしかにそうね。あまりにも衝撃的な事があったせいで、すっかり忘れていたわ……」
俺の言葉に対し、シャルロッテが口に手を当ててそんな風に言ってくる。
うんまあ……たしかにシャルロッテにとっては衝撃的すぎただろうし、分からなくもないが……
「でも……それがどんな書なのかは、わかっているのか?」
「あー、それは大丈夫。書と言っても、■■■■■■■に連なる者が置いていった物だから、簡単に判別出来るわ」
……おや? 今、シャルロッテはなんて言った?
というか、ルシアと話した時のようなノイズが走った?
「……ん? 今、何に連なる者だって言った? よく聞き取れなかったんだが……」
「……あ、もしかして『竜の座』が聞き取れない?」
「いや、そっちは大丈夫だな」
今の感じからすると、竜の座を含む言葉のようだが……
「じゃあ、■■■■■■■になると駄目?」
「ああ、駄目だな……。もしかしてそれ、竜の座に至った者しか認識出来ないっていう言葉だったりする……のか?」
「あ、うん、そう。……うっかりしていたけど、ソウヤは竜の座に至っていないんだったわね」
「その感じだと、シャルロッテは『竜の座に至った者』なんだな?」
「ええ、そのとおりよ」
シャルロッテがあっさりと認めて頷いた。
……薄々そんな気はしていたんだが、やはりそうだったか。これで色々と納得だ。
しかし、この聞き取れなくなる言葉、NGになっているワードと完全一致しなければ問題ないのか。という事は方法によっては、ある程度聞き出せそうな気もするぞ……
まあ、それは後で考えるとして――
「それ、認めていいものなのか?」
「あまり良くはないけど、主と定めたソウヤに問われたら嘘は言えないわ。嘘なんて言ったら、不義不忠極まりないし」
俺の問いかけにそんな風に言って返してくる。
不義不忠って……。いやまあ、別にいいけど……
「あ、でも、■■■■■■■とかの聞き取れなくなる言葉は、私の意思じゃどうにもならないから、そこは伝えられなくてごめんなさいと先に言っておくわ」
そう言って頭を下げるシャルロッテ。
俺はそれに対し、肩をすくめて言葉を返す。
「まあ、世界の仕組みとしてそうなっている以上、そこはしょうがないな」
「でも、ソウヤなら割とすぐに竜の座へ辿り着けると思うわよ? 私も全力でサポートするし」
「お、そいつは助かるな。よろしく頼む」
「ええ、任せといて」
シャルロッテが腕を組みながらそう言って、首を縦に振った。
「――で、話を戻すけど、とりあえず石窟寺院にある書を見つけるのは、そこまで難しくないわね。私ならすぐに判別出来るから、そっちも任せといて」
「なるほど……よくわからんが、すぐに判別出来るっていうのなら、そっちもよろしく頼む。……って事で、とりあえず寺院まで戻るか」
俺はシャルロッテの言葉にそう返して来た道を戻る。
……と、空が見える分岐点まで戻ってきた所で、水晶が密集している通路――進まなかった方の通路――の先から、不可解な冷気を感じた。……うん?
今の冷気、アルミナで何度か――グランダーム地溝とか遺跡とかで感じたものに似ているような気が……。まさか……
「ソウヤ? どうかしたの? 急に立ち止まったりして」
シャルロッテが首を傾げて問いかけてくる。
「……あっちから妙な冷気を感じてな」
「妙な冷気? ……私には特に感じないけど……」
「あれ? そうなのか? うーん……霊的な物を感じ取れるシャルロッテが、何も感じないって事は、俺の気のせい……か?」
アルミナの時のようなものなら、シャルロッテが感じ取れていいはずだしなぁ……
「そうねぇ……もしかしたら、ソウヤのサイキックとかいう異能が何かに反応した……とかかもしれないわね。その類だと、私には感知出来ないもの」
「あー、なるほど……。たしかにその可能性も、あり得ないとは言えないな……。ふむ……ちょっと気になるし、寄っていってみるか?」
「ソウヤが寄ってみたいのなら、私に反対する気はないわよ? ただ……何があるかわからないから、私が先に進むわ。何かあったら引っ張ってね」
シャルロッテはそう言うなり、先行するように水晶が密集している通路へと入っていく。
そのシャルロッテを追う形で、通路へと入っていく俺。
うーむ……。様々な色の水晶が天井や壁にびっしりと連なっていて、なかなかに圧巻だな。
なんて事を思いながら一応警戒しつつ進んでいくと、唐突に明らかに人工的に作られた扉が見えてきた。
……うん? この扉……アルミナの地下神殿遺跡の扉と同じ物だな……
やはり、この先にアルミナと同じような遺跡が……?
「うーん……開かないわね。というか取っ手がないから、押すしかないんだけど……」
シャルロッテがそう呟きながら、扉に手をかけて押したり引いたりしているが、扉は一向に開きそうにない。……ロックされているのか?
「どれどれ」
シャルロッテに代わって扉に手を触れ、押してみる。
……動かない。
引く……のは無理なので、手をついて横にスライドさせてみる。
……動かない。まあ、これはないか。
「なるほど……たしかに開かないな」
と、そう思っていると、
「第5ばいんど・ぷらんとノ識別こーどヲ認識。……解析トでーたべーす照合ノ結果、第5ばいんど・しすてむノ、えまーじぇんしーヘノ対処ヲ行ッタろぐヲ摘出。対象ヲ新規ノさぶあどみにすとれーたート判定。第6ばいんど・ぷらんとヘノ立チ入リヲ許可。ろっくヲ解除シマス」
そんなシステマチックな機械音声が響き渡り、それに続いて、ガコンという金属音が聞こえてくる。
「あ、開き始めたわよ」
というシャルロッテの言葉どおり、扉が自動的に上へと持ち上がっていく。
この扉、シャッターのように持ち上げるタイプだったのか……
「というか、サブアドミニストレーター? たしか、副管理者って意味よね? ソウヤ、貴方は一体何者なのよ?」
シャルロッテが自動的に開かれていく扉を見ながら、そう問いかけてくる。
「いや、そう言われても、俺にも何がなんだかさっぱりわからん……。ただ、アルミナでこれと同じ雰囲気の遺跡に潜って、ちょっとばかし得体のしれない化け物の再封印に関わったから、もしかしたら、その時の何かに反応したのかもしれない」
俺はそう言って、シャルロッテにアルミナの地下神殿遺跡の話をする。
「……姿形が不明瞭、不確定な得体のしれない化け物……ねぇ。まあ、そいつがこの先にいるかどうかはわからないけど、慎重に進んだ方が良さそうね……」
「ああ、気をつけて行くとしよう」
◆
俺とシャルロッテは慎重に開かれた扉の先――アルミナの地下神殿遺跡そっくりの通路を進んでいく。
魔法が使えなくなるかも? と思っていたが、そんな事はなく、普通に使えた。
まあ、アルミナの地下神殿遺跡も途中までは使えたし、あの魔法が使えない場所は明らかに通路が暗かったからな。
ここは、天井の照明みたいなものが機能していて暗くなっていので、問題なさそうだ。
なんて事を思っていると、アルミナの最深部にそっくりな場所に辿り着いた。
通路はここで途切れており、この先に行けそうな場所はない。どうやらここが終点のようだ。
アルミナの遺跡に比べて、随分と狭いな……
もっとも、長い年月の間に、大半が土に埋もれてしまっただけかもしれないが。
「アルミナでは、この場所の奥に奴がいたんだよなぁ……」
と、そう思いながら、途切れた通路の縁へと歩み寄り、下を覗く。
……っ!?
――そこには、例の化け物がいた。
そして、そいつにはアルミナで見たのと同様の鎖が何重にも巻き付いている。
ただ、その鎖はあちらとは違い、破損などは一切見られない。
どうやら、こちらの拘束――封印は問題なく機能しているようだ。
「ソウヤ? 何か下に見えるの?」
シャルロッテが俺に声を掛けながら、下を覗く。
「……え? なんなの……あれ……」
シャルロッテが信じられない物を見たと言わんばかりの驚愕の表情で呟く。
「あれが、さっき話した『得体のしれない化け物』だ」
「……たしかにソウヤの言う通り、姿形が不明瞭というか不確定というか……すぐに姿が変わってしまって、わけがわからないわね……。一体なんなのよ、あれ……。あんな化け物、竜の座の■■■■■■■■■■■■■■にも載っていなかったわよ……?」
俺の言葉に対し、シャルロッテは化け物に視線を向けながら、そう言ってくる。
……ってか、また聞き取れない言葉が出て来たな。しかも今回のはちょっと長めだ。
うーむ……もしかしてシャルロッテの奴、自分が竜の座に至っている事を俺に打ち明けたからってんで、その手の言葉も気にせずに使う事にしたんだろうか?
まあ、そこは竜の座とやらに辿り着けばいいだけの話だからいいか。
しかし……そんな竜の座に至ったシャルロッテですら、あれがなんであるかを知らないみたいだな。
ディアーナも知らず、シャルロッテも知らない謎の化け物。
本当に、あれはなんだというのだろうか――
謎の化け物再び、です。
ちなみに、もう1つ『同じタイプの遺跡』が登場済みなのですが、ソウヤもシャルロッテも訪れていないので知りません。
まあ……要するにあそこですね。
追記:シャルロッテのセリフで『に連なる者』が抜けている個所があったので追加しました。
書と言っても、■■■■■■■が置いていった物だから、
→書と言っても、■■■■■■■に連なる者が置いていった物だから、