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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第73話 絶対誓約

 ――シャルロッテの持つ懐中時計の針が進む。


「あと、10……9……8……7……6……5……4……3……」

 0時0分の10秒前から、シャルロッテがカウントし始める。


「……2……1……ゼロッ!」

 0時0分。

 

 ゼロを告げると同時にシャルロッテが、ギュッと目を瞑った。

 

 さて、どうなる……?

 

 俺は目を瞑ったままのシャルロッテに代わり、絶霊紋へと視線を向ける。

 

 と、俺の視線の先で、シャルロッテの絶霊紋から例の蛇が這い出そうとして……

 ボッという音と共に蛇が紫色の炎に包まれて燃え始めた。

 そして、音もなく苦しそうにのたうち回る蛇。


「……痛くない……わね?」

 シャルロッテが、恐る恐るといった感じで目を開ける。

 そして、紫色の炎に焼かれる蛇の姿を見て、

「も、燃えている!? ね、ねぇ、ソウヤ! なんか蛇が、蛇が燃えているんだけど!? こ、これ、どういう事!?」

 驚いた様子で、そんな風に言ってきた。

 

 だが、そう言われてもシャルロッテにわからない物が俺にわかるわけもなく、何がなんだかさっぱり理解出来ないまま、炎で焼かれてのたうち回る蛇の姿を見続ける俺とシャルロッテ。

 

 ――そのまま1分もしないうちに蛇は完全に焼き尽くされ、紫色の粒子となって散っていった。

 そうして蛇が消えたシャルロッテの腕に残されたのは、例の真王戦線の男の腕にあったものと瓜二つの形状となった絶霊紋だった。

 

「これは……完全版? うそ……本当に?」

 シャルロッテが、信じられないといった様子で自分の腕――絶霊紋をまじまじと見つめる。

 

「どこかに例の痛みを感じたりはしないか?」

 俺がそう問いかけると、シャルロッテは自分の身体を見回しながら、

「……まったくないわ。ええ、本当にまったく、これっぽっちも……」

 と、言ってきた。

 

 俺はシャルロッテの言葉を聞き、ほっと息を吐くと、

「そうか、どうやら上手くいったみたいだな。やれやれ、色々集めて回った甲斐があるってもんだ」

 そう言って首を縦に2度振った。

 

「ええ……本当――」

 途中まで口にした所で硬直し、俺に飛びついてきて肩を震わすシャルロッテ。

 

「うおっと! シャル……どうかした――」

 やはりどこか痛いのだろうかと思い、問いかけたところで絶句する俺。

 シャルロッテが俺に飛びついたままの態勢で、泣き出したのだ。

 

 え? えーっと……? 泣くという事は、やっぱり痛い……のか? どこか問題があったのか?

 あ、いや違うな。それだったら……もっと……こう……。うーん?

 ああいや、でも、なにか問題があるのは間違いない……のか? いやまてまて、そこじゃない気がするぞ? 

 そう……そう、多分そういう事じゃないよな? あれ? じゃあ、つまりなんだ?

 

 ……駄目だな、混乱してまともに思考が働かん。

 ――よ、よし、ここはいったん落ち着こう。スーハースーハー。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ……何度か深呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いた俺。

 

 いやはや、シャルロッテがいきなり泣き出したから焦ってしまった。

 というか、無駄に例の思考加速が発動した気がするな……

 ついでに……というのもあれだが、思考加速を実行した際に思考がクリアになるというか……冷静かつ客観的に物事を判断出来るようになるのだが、今回は混乱したままだったので、どうやらその効果には限界というものがあるようだ。注意するとしよう。

 

 そんな事を半ば現実逃避気味に考えていると、シャルロッテの方も落ち着いたらしく、

「……ごめんなさい、変なところを見せてしまったわね。あまりの嬉しさに感極まってしまったわ……」

 なんて事を言いながら、俺から離れて後ろを向いた。

 よく見るとシャルロッテの耳が真っ赤だ。

 

「そ、そうだったのか。俺はてっきりどこか問題があったのかと……」

「いいえ、さっきも言ったけれど、まったく問題ないわ。むしろ、問題がないからこそ、感極まってしまったとも言うわ……」

 シャルロッテは背を向けながら、俺の言葉にそんな風に返してくる。

 

 俺はその背中に視線を向けたまま、シャルロッテの言葉に対してなんと返すべきかと迷っていると、シャルロッテが続けて口を開いた。

「……ナノアルケインという対処法こそあったけれど、夜になる度に慣れる事のない痛みに襲われ続けるのが嫌だった。あれでいつまで抑え込めるのかという不安と恐怖が常にあった。でも、どんなに探し回っても、それ以外の対処法が見つからなくて……。諦める事にしたけど、心の奥底ではこう思っていたわ。……誰か、助けて、と」

 そこまで言うと一度言葉を区切り、額に手を当てて首を左右に振ってから、

「まさか、私が血眼になって探しても見つからなかったその方法を、貴方があっさり見つけて来るとは思わなかったわ。しかも、出会って間もない人間のために、あれこれと苦労するなんて……」

 そんな風に言葉を続けた。なるほど……さっきのはそういうわけか。

 まあ、正直そこまで苦労してはいないのだが……

 

「……それに関してはさっきも言ったとおり――」

 そこまで言った所で、

「ええ、もう一度言わなくても理解しているから大丈夫よ。私が言いたいのはそこの事じゃないわ」

 と、シャルロッテがこちらを振り向きながら言葉をかぶせてくる。

 そして、コホンと咳払いをし、さらに深呼吸。

 

 シャルロッテが意を決したかのように俺の目を見て、

「――そこまでしてくれて、本当に、本当に、ありがとう!」

 そう言いながら、とても、とても美しい笑みを浮かべた。

 

「あ、ああ。どういたしまして、だ」

 俺はシャルロッテの笑みに動揺してしまい、そう返すのが精一杯だった。

 今のは、なかなかの不意打ちだったぞ……


 まあ、なにはともあれ……上手くいって良かった。

 

「……ふふっ、本当は抱きついて口づけの1つでもしたい所なのだけど……。今ここでそれをやったら、後でサクヤに消し飛ばされそうだから今は止めておくわ」

 なんて事を言ってくるシャルロッテ。

 それに対して、俺の口から出たのは、

「お、おう……?」

 という短い言葉だったのだが、実は心の中では、口づけ!? 今は!? そしてなんで朔耶!? といった感じで混乱していたりする。

 ……でも、とりあえずシャルロッテからの好感度が爆上がりした事は理解した。

 

「――ところで、私の生まれ故郷である里は、まあ……それはそれは酷い所だったけど、そんな里には1つ、変わった掟、あるいは決まり事といえるようなものがあるのよね」

「掟、あるいは決まり事?」

 唐突に話を変えてきたシャルロッテに対し、俺は首を傾げながらそう返す。


「そう。……正確には『絶対誓約』と言うべきかしらね? それは、自らの意思で主と定めた者に生涯の忠誠を誓う……という物よ。まあ、絶霊紋持ちは大体誰かに仕えるわけだから、当然と言えば当然だし、紋章を宿した時点で、ぶっちゃけ洗脳状態になっているわけだから、自らの意思と言えるのかどうか怪しいけどね」

 自らの意思で忠誠を誓ったように思わせる――洗脳する、って事か。

 いやはや、相変わらず腐っているというか、酷い話だな。

 あまりシャルロッテの生まれ故郷を悪く言うのはあれなので、口にはしないが。

 

 ん? まてよ? という事はだ…… 

「ふむ……。という事は、さっきの絶霊紋持ちは、真王戦線――というより、奴らの言う王とやらに忠誠を誓った……のか?」

 そう俺が言うと、シャルロッテは、ハッとした表情になった後、顎に手を当て、

「あー、まあ、そういう事になるわね。うーん……そうなると、どういう経緯なのかは知らないけど、連中の言う王とやらは、うちの里と何らかの繋がりがあるっぽいわね」

 そんな風に言う。


 ふむ……シャルロッテの生まれ故郷と王……どういう関係があるんだ?

 と、思案していると、シャルロッテが再びハッとした表情を見せる。今度はなんだ。


「……じゃなくて! ――話が変な方向にズレたわ……。話を戻すけど、私は儀式が不完全だったお陰で洗脳されていないわ。そして、里には、自らの意思で主と定めた者に生涯の忠誠を誓う――『絶対誓約』というものが存在している。……と、ここまで言えばわかるでしょ? 要するに、その……私は……。私は……。ソウヤ! 貴方を私の主と定める事にしたわ!」

 なんて事を言い放ってくるシャルロッテ。それはもう大きな声で。

 

 ……好感度爆上がりどころか、限界値を振り切ってしまっていたようだ。

 まあもっとも……話の流れ的には、そう言って来てもおかしくはないかもしれないなーなんて、ちょっと思っていたりはしたけど……本当に言われると、どう答えていいのか迷うな……

 いや、だってなぁ……生涯とか言われたらなぁ……。うーむ……


 そんな感じで俺が心の中で困惑していると、それを知ってか知らずか、 

「あ、ちなみに私が勝手に定めるから、ソウヤがなんといっても私の意思は変わらないわよ」

 と、シャルロッテが付け加えるように言って笑う。

 

「それ、拒否権なしってのと同義じゃ……」

 ため息をつきながら額を手で抑えて言う俺。

 それに対してシャルロッテは再び笑った後、

「別にいいじゃない。別に忠誠を誓うと決めたからといって、四六時中ソウヤにべったりするつもりはないし。ただ、ソウヤの言動をそれ以外の全てよりも優先するというだけの話よ」

 そんな風に言ってきた。

 

「……ま、四六時中くっつかれるわけじゃないなら、今までとそんなに変わらないから、とりあえずいいか……」

 これ以上、何かを言うのも考えるのも無駄な気がした俺は、そう呟くように言って、自分で自分を納得させるのだった――

今回、全体的に長めのセリフが多かった気がします……


シャルロッテの気質(性格)と、里の掟(決まり)からすると、まあこんな感じになるかなぁ……と。

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