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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第71話[Dual Site] シャルロッテの絶霊紋と夜の闇

<Side:Charlotte>

 後方からソウヤの声が聞こえる。

 どうやら、援護だけしてくれるらしいわね。

 

 まあ結局、5体のうち4体を融合魔法で消し飛ばされたけど……

 もっとも、あの凄まじいまでの威力を考えたら、剣でどうこうするよりも、ああする方が手っ取り早いっていうのは間違いないのよねぇ……

 

 ……まあ、いいわ。

 最後の1体くらいは、きっちり私の手で仕留めてみせようじゃないの。

 

 そう決意して8本足トカゲへと突っ込む。

 と、8本足トカゲが首を少し後ろへ引いた。

 ……ふぅん、これはおそらくブレスを使ってこようとしているわね。

 

 口の動きを注視していると、首が前に突き出される。――ほらきた!

 私は即座にその場から右へと跳躍。

 

 直後、紫色のブレスが放たれ、直前まで私の居た場所付近の雪を紫色に染め上げる。

 そして、ジュワジュワと音を立てながら雪を溶解していき、地面の土が露出する。

 うわぁ……なんとも洒落にならない凶悪な毒液ねぇ……。あんなのをまともに浴びたら、一瞬にして溶かされてしまいそう……

 と、そんな事を思いながらも霊力の刃を突き出された首目掛けて振るう私。

 

「ギィィッ!?」

 苦痛の叫びを上げて首を振り回す8本足トカゲ。

 

 さすがに一刀両断とはいかなかったものの、深々と斬り裂いたため、黒ずんだ血が首から大量に噴き出す。

 ……普通の生物ならばこれで致命傷なのだけど、こいつはこの程度では倒せないのよね。


 あっという間に吹き出していた血が止まり、傷も消える。

 ……ホント、とんでもない再生力ねぇ……

 

 心中で呆れながら、私は8本足トカゲの側面へと回り込み、姿勢を低くして足を斬る。

 こちらは耐久力が低いのか、あっさりと斬り落とせた。

 まあもっとも、すぐに再生してしまうのだけど……

 

 やれやれと思いながらも、足へ連続して斬りかかる私。

 8本足トカゲは、再生を繰り返しつつも私の攻撃で態勢を何度も崩され、更にソウヤの魔法攻撃によって態勢を立て直すのを阻害され、グギャアだのギギャァだのと叫びまくってはいるものの、反撃はおろか、まともな動きすら出来ないでいた。

 まあ、今までと違って、相手にするべき敵はこいつ1体だけなので、当然といえば当然なのだけど、まさに一方的って感じね。

 

 そうこうしているうちに、目に見えて状況が変化した。

 なぜかというと、明らかに斬り落とした足の再生が遅くなってきたから。

 

 ……今までと同じなら、そろそろ融合魔法なら倒せる状態になるはずだわ。

 もっとも、今回は剣だけでどうにかしようとしているので、もう少し攻撃を続けないと駄目なんだけど。

 でも、うん、このまま攻撃の手を緩めなければ押し切れそうな感じではあるわね。

 

 そんな事を考えつつも、私の手は剣をふるい続ける。

 袈裟斬りからの逆袈裟、更にそこから突き刺して斬り上げっ!

 

 うーん……。霊幻鋼の剣そのものの威力と、そこに上乗せされた霊力によって、面白いようにスパスパ斬れるわねぇ……


 黒ずんだ血があちこちから勢いよく噴き出し続け、8本足トカゲが苦しそうに首を振るう。


 もう一発! 

 そう思って剣を振りかぶった所で、8本足トカゲの首がグルリと回転。視線が私を捉え、口が開かれた。

 

「っ!?」

 まずっ!? 毒ブレス!?


 剣を振り抜いていたため、身体が硬直してしまい次の動作が遅れる。


 回避が、間に合わな―― 

 い……と思った瞬間、視界が変化した。

 毒ブレスが吐き出されるのが視界に入る。

 ただし、真正面からの視界ではなく、少し離れた真横からの視界に。


「あいつの吐く毒のブレス、触れるだけでやばそうな事この上なさそうだったからな。注意しておいて正解だった」

 という声が聞こえる。

 どうやらソウヤに、例のアポートとかいう異能で引っ張られたらしい。

 

「ナイスタイミ……ングッ!?!?」

 いつの間にか抱き止められている格好になっていた事に気づき、ちょっと慌てる。

 

 すぐに開放されたものの、なんだか心臓がバクついている。

 顔もなんだか少し熱い気がする。え? あれ? 

 お、おかしいわね……なんでこんな状態に? 

 え、えーっと……ん、んん? もしかして……え? 

 あれ? いや、まって、どういう事?


 うぅ、助かったけど、今度は頭が――思考がパニック状態だわ……

 

 どうにかして落ち着こうとしていると、

「ガギィィッ!?」

 という斬ってもいないのに8本足トカゲの苦悶の叫びが聞こえてきた。んん?

 

 見ると、毒ブレスが人間だった時の名残――女の顔に付着し、ジュワジュワと音を立てていた。

 更に、本来ならその周囲を覆っているはずの障壁が、半分砕けているのが見えた。

 

 もしかして……ブレスの毒が障壁を破壊した? 

 

 そう思った瞬間、一瞬で冷静さを取り戻す私。

 クリアになった思考で至った結論は1つ。


 ――今なら、行けるっ!

 

 そう踏んだ私は、切っ先を正面に向け、そのまま突っ込む。

 と、8本足トカゲが間近に迫った所で、障壁が復元――再展開され始めた。

 

「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!」

 私は全力で剣に霊力を込める!

 剣から噴き出すようにして伸びる霊力の刃が、復元され切る直前に障壁の先へと到達。そのまま女の顔を穿ち貫く。

 

「くっ!?」

 一瞬、ビキッという静電気に似た痛みが腕に走る。

 それに少し遅れる形で、今度は全身がメキメキと音を立て始めた。

 おそらくは……いえ、間違いなく霊力を使いすぎたせい……ね。

 

 もう……少し……っ! さっさと……倒れな……さいっ!

 心中で私はそう叫びながら、霊力を込め続けるのを止めない。

 

 すると、ほどなくして、

「グギャァァァアアアァァァアアアァァァッ!」

 という断末魔の叫びが響き渡る。

 そして、8本足トカゲの頭がドシャッという音を立て、積もった雪へと突っ込み、そのまま動かなくなった。


 胴体の方はしばらくピクピクと痙攣していたが、こちらも最終的には硬直。

 そのまま再生してくる事はなかった。

 

 ふぅ……どうやら倒したみたいね。

 撃破を確信した私は、息を吐きながら霊力の刃を消失させ、剣を鞘へと戻す。

 同時に、全身をメキメキと苛んでいた痛みも消えてなくなった。

 

 やれやれ、なんとか1体は私の手で倒せたわね……


 でも、この霊力の消耗度合いだと、0時になった瞬間、とんでもない事になりそう。

 あの日の――最初の夜の、二度と味わいたくもない凶悪なまでのアレと同じくらいの……

 

                    ◆

 

<Side:Souya>

 襲ってきた連中は一掃出来たものの、逃げ出したギルバルトの行方は、完全にわからなくなってしまった。

 俺とシャルロッテは、少しでも何か手がかりになるものがないかと思い、襲ってきた連中を調べてみる事にする。


「……ふむ」

 6人のうち、魔物化しなかった1人――初老の男の死体……正確にはその腕と、すぐに使えるようにとポケットに入れてあった1枚の札とを見比べ、呟く俺。

 

「死体は全て消えていたわ。やれやれ、これじゃ情報は何も得られそうにないわね。ギルバルトの足取りを含めて」

 シャルロッテが、ため息混じりにそう言いながら俺の方へとやってきて、

「そっちはどう?」

 と、問いかけてきた。


「……こいつ、腕に絶霊紋があった。ほんの少しだけ違う所があるが、これはおそらく完全版だからじゃないかと思う」

 そう、その初老の男の腕にあったのは、城でディアーナから受け取った札――完全版の絶霊紋が描かれた札――と、まったく一緒だったのだ。


「えっ!?」

 シャルロッテは驚きの声をあげると、慌ててこちらへと走ってきた。

 そして、俺の横にしゃがみこんで、初老の男の腕を手に取る。

 

「……たしかにこれは絶霊紋ね……。しかも、ソウヤの言う通り完全な物だわ。……まあ、絶霊紋持ちは別に私だけじゃないというか、不完全な状態の絶霊紋を持つ私の方がレアだから、持っている人に遭遇する事自体は、特におかしな事ではないけど……」

 絶霊紋をその目で確認し終えたシャルロッテが、そんな風に言ってくる。

 

「――何故、絶霊紋を持つ男が、真王戦線とかいう組織に属しているのかが良くわからないな。まあ、それを言ったら、アーリマンシステムの出どころも同じく良くわからないんだけどな」

「うーん……多分だけど、2つの組織を結びつけた『王』というのが、何か関係しているんじゃないかしらね」

 俺の言葉に、シャルロッテが推測を返してくる。

 

 まあたしかに、そう考えるのが妥当か……

 ……しかし、『王』と『竜』……。この2つの名称が、度々出て来るな。

 

「……霊力の残滓からすると、おそらくこの男が、アーリマンシステムとかいうのを制御する術式を使って、あの5人を魔物化したようね。まあもっとも……その際に術が暴走したのか、絶霊紋が暴走したのかはわからないけど、生命力を術に奪いつくされてしまったみたいだけれどね」

「生命力を術に奪いつくされた?」

 シャルロッテの言葉に首を傾げ、疑問を口にする俺。


「ええ。これは生命力を奪われた結果だと、私のように霊的な力――術式や霊力をある程度感知する事が出来る者ならば、すぐにわかるわ。この男が、一見すると年老いているように見えるけど、本当はもっとずっと若い……という事が、ね」

 なんて事を言って肩をすくめてみせるシャルロッテ。

 

「なるほど……この見た目はそういう事なのか。うーむ……なんだかヤバそうな術だな」

「ええ、まったくね」

 シャルロッテはそう言って頷くと、こめかみに指を当て、

「……で、そっちはさておき、肝心のギルバルトの手がかりが皆無ね」

 と、そう言ってきた。


「……ああ。奴の手がかりになりそうな物はまったくないな……。一体、奴はどこへ逃げたのか……。普通に下山したとは考えにくいけど……」

「そうね、ここまでの道のりを考えると、暗い中を進むのは危険だわ」

「たしかに、何気に明るい時間じゃないと危険な場所とかあったからなぁ……」

 麓からここまでの道のりを思い出しながらそう返す俺。

 基本的には歩きやすかったけど、所々難所的な部分があったなぁ……と。


「ええ。だから、一番考えられるのは……山のどこかにあるギルバルトしかしらない洞窟とかに隠れた……とかかしらね? はぁ……なんにせよ、あと1時間ちょっとで捕まえるのは難しい気がしてきたわ……」

 シャルロッテが額に手を当てて、力なく呟くように言う。

 手の合間から覗き見えたその表情は非常に暗い。

 

 どう答えようかと迷っていると、シャルロッテは少し考えるような仕草を見せてから、

「ねぇソウヤ、私は1時間ほどここにいるから、先に山小屋に戻っていて。……貴方に、苦痛でのたうち回る姿を2回も見せたくはないわ。――痛いだけで死ぬわけじゃないから、しばらく耐えればいいだけだし、心配しないでも大丈夫よ」

 なんて事を言ってきた。

 

 ……それは要するに、ナノアルケインが手元になく、絶霊紋のアレを抑える手段がないから、という話なのだろう。

 だが……それに首を縦に振るつもりはない。

 

「……断る」

「え?」

「なぜなら、まだ手はあるからだ!」

「え? え?」

 わけがわからず困惑するシャルロッテ。


 だが、俺は構わず強い口調で告げる。

「カルミット霊窟だ! 今すぐカルミット霊窟へ向かうぞっ! そこに、絶霊紋をどうにかする事が出来る物がある!」

そんなわけで、次回はようやくカルミット霊窟――プリヴィータの花です。

3章に入ってから、ここに辿り着くまでが長すぎました……

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