第68話[Dual Site] 刀と剣、夜の闇に潜む者たち
<Side:Charlotte>
「……もしかして、刀も盗まれたのか?」
ソウヤが私の様子を見て気づいたのか、そう問いかけてくる。
私はそれに対して頷き、
「え、ええ……。不覚だわ……」
と、床に崩れ落ちながら答える。
「ふむ……。戦闘になった時に使いやすいよう、こっちに移しておいて正解だったというべきかもしれないな……」
なんて事を言うソウヤ。
どういう事かと思って顔を上げると、何もない空間から、ソウヤが剣――例の霊幻鋼の剣ね――を引っ張り出すのが見えた。
……いつも思うけど、これ、どういう能力なのかしら……?
竜の座にも、こんな技術については、情報がなかったような気がするのだけど……
もしかしてこれも、異能だったり?
「まあ、とりあえずこいつを代わりに使ってくれ。刀とは違うから扱いづらいかもしれないが、無手よりは良いだろう。……多分」
そんな風に言って剣を渡してくるソウヤ。何故か最後は、少し自信がなさげだった。
もしかして、私なら無手――素手でも大丈夫かもしれないと思ったのかしら?
だとしたら、ちゃんと言っておかないと駄目ね!
「ええ、ありがとう。……いくら私でも素手はさすがに厳しいというか、格闘術はそんなに得意じゃないから助かるわ」
「そ、そうだったのか」
この反応、やっぱり素手でいけると思っていた感じがするわ……
ソウヤは、私の事を何だと思っているのよ……
ああもしかして、ロゼと一緒に戦う事が多いから、ロゼと同じくらいの戦闘能力だと思われているのかしら?
私はあそこまで素早く動けないし、今言った通り、格闘術は本当に得意じゃないんだけどなぁ……
霊力も最近じゃ、ロゼの方が上だし。
私はそんな事を思いながら受け取った剣を構え、霊力を込めて振るってみる。
……いつも使っている刀とはたしかに違うけど……うん、十分扱えそうね。
というか、何も持っていないのではないかと思う程に軽く、使いやすい。
しかも、霊力の乗り方が普段より強い気がするわね……これ。
なんというか、さすがは霊幻鋼といった感じだわ。
今なら確実にロゼを上回れそう。……武器の力というのがあれだけど……
「うん、まったく問題なさそうだわ。とても良い剣ね」
「それなら良かった。――よし、追いかけるぞ!」
「ええ!」
――私とソウヤは山小屋を飛び出し、ギルバルトの物と思しき足跡を追って走る。
よく考えたら、ナノアルケインがないのだから、あと2時間……いえ、なんだかんだで20分すぎているから、あと1時間40分……
それ以内で奪い返さないと、まずい事になるわね……
そう内心で少し焦りながら走っていると、突然、防寒具に纏われた内側――皮膚がピリっとした。……!?
それは、強烈な殺気を感じ取った証拠。
……まさか、待ち伏せされていた!?
◆
<Side:Souya>
「ソウヤっ!」
並走していたシャルロッテが声を大にして俺を呼ぶ。
と同時にその場で急停止し、霊幻鋼の剣を構えた。
「っ!」
慌てて俺も急停止し、スフィアを取り出す。
剣を構えたという事は敵がいるという事だからな。
……状況を考えて待ち伏せか。
シャルロッテの目の動きからすると、相手は複数のようだ。
「――ギルバルトの案内って、どうやら私たちだけじゃなかったみたいね」
なんて事を言ってくるシャルロッテ。
「ああ……。そういう事のようだな」
そう言いながら俺はクレアボヤンスを使い、周囲を視る。
暗闇や地形を利用して隠れているが、クレアボヤンスで視界だけ近づければ、すぐに敵の数は分かるというもの。
……というか、なんだかこちらに来た直後よりも、クレアボヤンスの性能が上がっている気が……
前は、こんな暗闇ではそんなに見えなかったような……
もしかして、こちらに来てからずっと多用していた事で、鍛えられた……とかなのか?
まあ……良く分からんが、それを考えるのは後にしよう。今は敵の数の把握が先だ。
――ふむ、正面はいくつかの木に分散する形で6人か。
で、右手の岩陰に4人……いや、もう3人いて、移動しているな……
左手の茂みに7人。そのうち3人が後方へ移動して、さっきの2人と合流、か。
つまり、合計20人だ。一瞬、多いと思ったが、城でシャルロッテとロゼが相手をしていた数に比べれば少ないか。
「視た感じだと、囲まれた状態で20人、正面と後方が6ずつ、左右が4ずつだな。数はそこまででもないが、地形と配置が面倒だな」
「そうねぇ……。城の時みたいに片っ端から斬るにしても、ちょっと離れているわね……。というか、あいかわらず便利な異能よねぇ」
俺の言葉にそう言ってくるシャルロッテ。どうやらクレアボヤンスを使った事は普通に分かっているようだ。
「ああ、まあ便利だな。――で、どうする? さすがにこのまま仕掛けてくるのを待つのはありえないと思うんだが?」
「ええ、それはないわね。うーん……それじゃあ、私が左、ソウヤが右とか?」
……それはつまり、隠れている4人を俺1人で倒せという事だろうか。
とはいえ、別に難しい事でもないので、
「じゃあ、それで」
と、答える俺。
「一掃したら後方で合流して正面へ行くわよ」
「了解」
「それじゃあ、3……2……1……ゼロッ!」
シャルロッテのゼロに合わせる形で、右へ走る俺。
と、同時にクレアボヤンスで敵の位置を捉えつつ、展開済みの4つのスフィアを続けざまにアスポートする。
「よっ、と!」
そんな掛け声と共にスフィアの魔法を発動。
「がっ」
「ぐっ」
「げふっ」
「ぬうっ」
鋭く尖った石槍に氷槍、水鉄砲に漆黒の剣が、それぞれ敵を穿ち貫いた。
……って、漆黒の剣? 闇の魔法ってこんなんだったか?
というか、全般的に飛んでいく物がデカくなっているような……?
まあ、さっきのクレアボヤンス同様、良くわからないからとりあえず置いておこう。
ともあれ、1人だけギリギリで回避された。……やるな。
さらにその攻撃を回避した奴――全身黒装束に身を包んだ男が、素早く俺に向かってナイフを2本同時に投擲してくる。
「おっと!」
俺はすぐさまサイコキネシスを発動。
2本のナイフを停止させ、そのまま反転させて撃ち返す。
「なっ!?」
反転するとは思っていなかったのか回避が遅れ、ナイフが男に突き刺さる。
「がっ! がふっ!?」
突き刺さったのは肩だったのだが、何故か胸を抑えてのたうち回り始める男。
そして、突然痙攣したかと思うと、そのままピクリとも動かなくなった。
……どうやら息絶えたようだ。
ふむ……おそらくだが、あの短剣に強力な毒が塗られていたのだろう。
……これは、思ったよりも厄介な事になるかもしれないぞ……
◆
<Side:Charlotte>
私は合図と同時に身を低くしつつ、茂みへと踏み込む。
と、それを想定していたのか、黒尽くめの男が槍を突き出してきた。
私はそれを剣の腹で受け流し、剣に霊力を込め、生み出された赤いオーラ――霊力の刃で男を斬り伏せる。
直後、左右から男女が斬りかかってくる。
ここで正面や後ろに飛ぶのは危険。
というわけで、私はその場で勢いよく回転。
霊力の刃で左右から斬りかかってきた男女を薙ぎ払う。
男の方が攻撃に気づいて防御態勢を取ったが、それは無駄というもの。得物の曲刀ごと引き裂いてやった。
霊力の刃を、その程度の代物で防げると思っていたのかしら? だとしたら、マヌケね。
と、そこへ太く短い金属製の矢が飛来する。――ふぅん、クロスボウ・ボルトねぇ。
既に予測していたので、即座に転がって回避。
続けざまに2発飛んでくるが、跳ね起きながらそれを回避し、正面から飛んできた次の矢――ボルトを剣で切り払う。さらに切り払う。切り払う。
……随分と早い連射ね。ガトリング・クロスボウかしら?
傭兵時代に何度か見た事あるけど、連射力が半端じゃないから面倒なのよね。
というわけで……ここは、全力で仕掛けて倒してしまうのが一番ね。
私は、一旦剣を鞘に収める。
剣の柄に手をかけたまま、連続サイドステップで飛んでくるボルトを回避しつつ、霊力を全力で込める。
――レンジ流剣技……紅蓮焔扇衝ッ!
心中で技の名を叫びつつ、鞘から剣を素早く抜き放ち、そのまま水平に薙ぐ。
と、同時に炎の如き色のオーラが鞘から勢いよく噴出。
それが剣の軌跡に沿うようにして広がり、正面広範囲を扇状に薙いだ。
刹那、「えっ!?」という、女の驚きの声が聞こえてくる。
……はぁ、やれやれ。王城の騒乱の時も思ったけど、驚いている暇があったら回避するなり防御するなりしなさいよね。
まあ……この一撃はその程度じゃどうにもならないだろうけど。
――そんな事を思いながら正面に視線を向けるも、ボルトは飛んでこなかった。
うん、上手く仕留められみたいね。
というか……やっぱりこの剣、霊力の乗り方が段違いだわ……
なんて感想を心中で呟きながら合流地点へと走る。
……と、雷撃が目の前で炸裂し、悲鳴が響き渡った。
どうやら、ソウヤの方が先に到着したみたいね。むぅ……残念。
いつの間にか200部目でした。
展開は200部っぽさは一切ないですが!




