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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第67話[Dual Site] シャルロッテの料理と夜の闇

<Side:Souya>

「さあさあ、出来たわよ!」

 と言って、王都で買った大きな土鍋をドンッと床に置くシャルロッテ。

 

「やっぱり、アカツキの料理といったらコレ! 鍋よね! 簡単に作れるし!」

 パンッという音を立てて右手と左手を合わせたシャルロッテが、何故か上機嫌でそんな事を言ってくる。

 

 ……うんまあ、アカツキ料理――つまり、和食と言われたらそうかもしれんが……そうきたか。

 たしかに間違ってはいない。間違ってはいないが、料理の腕を見せると言って鍋というのは何かが違う気がする……。鍋は好きなので、別に構わないのだが……

 

 そんな俺の心の声が届いたのかわからないが、

「ちなみに、これだけじゃないわよ」

 と、シャルロッテがそう言ってきた。

 そして、調理台の上から皿に盛られた唐揚げが運ばれてくる。

 ……まあ、こっちはまだ……

 

「主食がなかったので、混ぜご飯を作りました」

 と、そう言って小さい樽を持ってくるギルバルト。


 樽かぁ……。なんだか朔耶が樽を見る度に「たーる」とか言ってたのを思い出すな……

 どこの錬金術の使い手だとツッコミを入れそうになって、あえて止めておいた事数しれず。

 その度に、赤面して突っ込めと言わんばかりの目をされたが、赤面するくらいなら止めておけばいいものを……。朔耶の思考は良くわからんな。


 ってまあ、それはさておき……。樽? それに混ぜご飯?

 はて? と思っていると、小さい樽の中にぎっしりと米と色々な具が詰まっていた。

 

 ああなるほど……お櫃代わりって事か。

 ……シャルロッテ、主食を用意していなかったのかい。

 そう思いながらシャルロッテの方に顔を向けると、口に手を当てて。

「あっ、うっかり鍋にお米を入れるのを忘れていたわ」

 なんて言ってきた。


 ……いきなり鍋に米を投入する気だったのだろうか……? 

 鍋料理を食したそのシメに、ご飯やうどんを入れるというのは、まあ別におかしな事ではないが、最初からご飯――というか米を投入するのは何かが違う気がするぞ……

 いや、まさかこの世界では、それが普通だったりする……のか?


「お米――いえ、ご飯を入れるのであれば、鍋の中の具材を食べ終えてから……要するに、最後に入れる方が良いと俺は思いますが……」

 と、ギルバルトが苦笑混じりに言う。

 それに対して、え? そうなの? みたいな顔をするシャルロッテ。

 ああ、やっぱり普通ではなかったようだ。よかった。


 それはそうと、このギルバルトがお櫃代わりにしている樽は、一体、何が入っていた奴だったっけか……?

 うーん……思い出せないな……。なにしろ、手当り次第という感じで買ったからなぁ……


 ……まあ、別に何でもいいか、樽の中身なんて。

 というわけで、鍋と唐揚げと混ぜご飯という夕食になった。

 組み合わせがなんだかちょっと気になるものの、唐揚げは揚げ方がとても良く、普通に美味かった。想定外だ。

 鍋も出汁がしっかり出ていて、こちらも普通に美味かった。想定外その2だ。

 

「普通に美味いな。驚いた」

「ふふっ、驚いてくれて良かったわ」

 俺の言葉に、シャルロッテは満面の笑みを浮かべてそう返してくる。

 お、おう……。こうやって見るとさすがはエルラン族というか……まさにエルフって感じの可愛さを感じるな。なんというか――

「素晴らしい」


 ……あ。


「ですね。これはたしかに素晴らしい味だと俺も思いました」

 ついうっかり口走った言葉を、別の意味で捉えたギルバルトがそう言ってくる。

 お陰で、必然的にシャルロッテの顔を見て口走った言葉を誤魔化せた。

 ふぅ……一体何をしているんだ、俺は。


「――なんというか、手慣れている感じでしたが、以前から料理をしていたのですか?」

「ええ。傭兵団に所属していた頃は、結構やっていました。評判良かったんですよ、私の料理」

 ギルバルトの問いかけにそう答えるシャルロッテ。

 

 ふむなるほど……そうだったのか。

 なんというか、味だけじゃなくて作られた料理がこれなのも納得だ。

 

「なるほど、傭兵団に所属していらしたのですか……」

「はい。まあ、討獣士の方が性に合っていたので鞍替えしましたけど、当時の伝手で色々と情報を得られたりするんですよ。――今回、アルマダール石窟寺院に行くのも、その傭兵団との伝手からですし」

「そういう事でしたか。その傭兵団はなかなか高い情報収集力をお持ちのようですね」

 シャルロッテの説明を聞き、納得したように言うギルバルト。

 ふむ……アーデルハイドから聞かされたヴァルガスが率いる傭兵団と、蓮司の率いる傭兵団、か。

 アーデルハイドにヴァルガス、それに蓮司にシャルロッテ……

 傭兵団に関係する面々は、俺たち――俺、朔耶、室長、クーが知らない『何か』の秘密……いや、情報を持っているっぽいんだよなぁ……

 それが何なのか分かればいいんだが……。なんだかんだではぐらかされるんだよな。

 いや、まてよ……? もしかして、はぐらかされているのは、俺に対して伝えられないからじゃないのか……? そう――


 ふと、思い至る事があったが、そこで俺の思考は中断された。

「ところで、ソウヤ殿はなぜカルミット霊窟へ?」

 と、ギルバルトから質問が投げかけられたからだ。


「あ、はい。俺はプリヴィータの花を探しているんですよ」

「プリヴィータの花……ですか。なるほど……たしかにあの花は、カルミット霊窟にしか咲かない不思議な花ですね」

 俺の回答に対し、顎に手を当てながらそう言ってくるギルバルト。

 

「はい。――そういえば分岐路の所で、今日中にアルマダール石窟寺院に行きたかったと言っていましたけど、それってアルマダール石窟寺院の方が近くて、カルミット霊窟の方が遠いって事ですよね? ここからどのくらいあるんですか?」

 ふと気になった事を尋ねる俺。


「ああいえ、そういうわけではないのです。というのも……カルミット霊窟は、アルマダール石窟寺院の中――奥から繋がっているんですよ。なので、アルマダール石窟寺院に辿り着けば、必然的にカルミット霊窟にも行けますよ」

 ギルバルトがそんな風に説明してきた。ふーむ……中で繋がっているのか。

 まあ、石窟寺院と霊窟だからなぁ……。名前からすると、両者が繋がっていても別におかしくはないというか、むしろ自然かもしれないな。

 

「なるほど、そうだったのですか。だとしたら、明日中に両方とも行けそうですね」

「はい、おそらく問題なく回れると思います」

 俺の言葉に頷き、笑みを浮かべつつそう返してくるギルバルト。

 

 ようやく明日、プリヴィータの花が手に入るのか……

 そう思いながら、シャルロッテに視線を向ける。

 俺の視線を感じ取ったシャルロッテが、

「よかったわね、離れていなくて。何に使うのかわからないけど、まあソウヤの事だからとんでもない事に使うつもりなんでしょうね」

 なんて言ってくる。

 

 いや、シャルロッテの絶霊紋をどうにかする為なんだが……

 と、言いたい気分になったが、もし手に入らなかったら落胆させるだけなので、手に入るまでは言わないでおこう。

 ……まあ、シャルロッテを驚かせたいという思いも、少しはあったりするのだが。

 

                    ◆

 

<Side:Charlotte>

 ……? 

 

 目に暗闇に包まれた山小屋の天井が入ってくる。

 ……どうやら、いつの間にか寝ていたみたいね。

 

 防寒具が手元にあるので、これを布団代わりに寝ていたらしい。

 ……なんで私、布団まで行かなかったのかしら……

 

 うーん……私が作った料理を食べて、ギルバルトさんが淹れたお茶を飲んだ所までは覚えているけど、その先の記憶がないわね。


 周囲を見回すと照明は完全に消えており、私以外には、防寒具を着たまま床で寝ているソウヤの姿だけがあった。

 ……ギルバルトさんはどこへ?

 トイレの方に視線を向けてみるも、照明がオンになっている様子はなかった。

 

 ……風の音が聞こえなくないっているので、外の吹雪は止んだみたいね。

 もしかして、外に行ったのかしら? そう思って私は、防寒具を着て山小屋の扉を慎重に開く。

 と、冷たい空気が一気に流れ込んでくる。

 

「さむっ!」

 あまりの寒さに私は肩を抱く。

 うーん、防寒具があっても急に温度が変化すると、どうしても寒く感じるわね。

 まあ、もう大丈夫だけど。

 

 なんて事を思いつつ、視線を地面に積もる雪へと落とす。

 すると、そこには予想通りというべきか、足跡があった。

 ここへ来る時に付いた足跡は吹雪で埋もれているので、この足跡はごく最近つけられたものね。――つまり、ギルバルトさんのもので間違いない。

 でも……

 

 料理をするのに使って、そのまま懐の収納領域にしまってあった、歯車風の飾りが幾つも付いている手のひらサイズの懐中時計を取り出し、時計盤のバックライトをオンにする。

 すると、22時を回った所だった。

 

 こんな時間にどこへ……?

 

 足跡を追ってみようと思ったが、もし途中で0時になったら大変なので、ナノアルケインを持っていく事にした。

 というわけで私は布団の所へ戻り、次元鞄を……


 ……? ……??

 

 次元鞄が布団の近くになかった。……あれ? 私、どこに置いたっけ?

 懐中時計のライトを頼りに探してみるも、どこにも見当たらなかった。

 ……なんで?

 

 私は照明の魔煌具を作動させるパネルに触れ、山小屋の照明を点ける。

 否。点けたはずが、点かなかった。

 魔煌具の故障? こんなタイミングで?

 

 嫌な予感がした私は、

「ソウヤ! 起きて! ソウヤ!」

 ソウヤを揺さぶりながら大きな声で呼びかける。

 

「……んん? ……シャル……ロッテ? どうかした……のか? って……あれ? いつの間に寝ていたんだ……?」

 ムクリと起き上がり、寝ぼけ眼でそう言ってくるソウヤ。

 

「次元鞄がないのよ! 照明も壊れているわ!」

 慌てていたせいなのか、私はそんなイマイチ状況が伝わりづらい言葉を口にした。

 が、ソウヤはそれでもある程度理解したようで、周囲を探り始める。

 

「……ここに置いておいたはずの俺の次元鞄もないな。――照明が壊れていて、ギルバルトの姿が見えない……。という事は、考えられる可能性は1つだけだ」

「……ギルバルトさんが盗んでいった?」

 ソウヤの落ち着いた口調に、冷静さを取り戻した私がそう答える。

 

「ああ。……なんでそんな事をしたのかは知らないが、状況からしてまず間違いない。急いでギルバルトを追いかけるぞ! 理由とかそういった話はとっ捕まえてからだ!」

「そ、そうね! 足跡があるから追いかけるのは簡単よ!」

 ソウヤにそう言葉を返して刀に手を……かけようとして、刀がなかった。

 

 いつも寝る時以外――普通に寝る時だけど――は、帯刀しているのと、寝起きで頭が上手く働いていなかったせいで、まったく気づかなかった。

 いの一番に気づかなくてはならない、いつもあるはずの物が、刀がない事に。

 

 ……むむうぅ、とんでもない失態だわ……

 刀が盗まれている事に気づかないだなんて……。なにしてんのよ、私……

というわけで、チラホラと怪しい言動をしていたギルバルトが動きました。


前回のデュアルサイトがなんとも微妙な構成だったので、

今回は語り手の変わるタイミングで急展開する様な感じにしてみました。

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