第62話外伝 アルミナ・襲撃
62話と同じくらいの長さです。
――数時間前……アルミナの街――
<Side:Emiliel>
「……どうにか片付きましたね」
クライヴさんが周囲に倒れ込んでいる男女――いや、人形たちを見下ろしながらそう言った。
「エーデルファーネか真王戦線か……そのどちらだか分かりませんが、エミリーを狙って動いたのは間違いありません」
と、そんな風に言うクライヴさん。
……そう、人形が狙って来たのは私だった。
ギルドから家に帰る途中でいきなり現れて襲いかかってきた。
まあ、すぐクライヴさんが駆けつけて来てくれたので、問題にはならなかったけど、近くにクライヴさんが居なかったらと思うと、正直ゾッとする。
もちろん、それなりに戦う術は持っているものの、1対多は得意ではないので、おそらく1体と対峙している間に、不意をつかれてやられていた気がする。
「でも、どうして私なんかを狙ってきたのでしょう……?」
「……そうですね……。推測をする前に確認なのですが、エミリーはこの間、ルクストリアで人形と遭遇した……と言っていましたよね? その時の人形の中に、倒した人形と同じ顔があったりはしませんか?」
私の疑問に対し、クライヴさんがそんな風に逆に尋ねてきた。
え? 顔?
言われて、クライヴさんが倒した人形たちの顔を見ていく私。
……すると、
「あ! この顔っ! ルクストリアで遭遇した人形と同じです!」
同じ顔の人形を発見した私は、驚きながらクライヴさんにそう告げた。
「……やはりそうですか。その時から、目をつけられていた可能性がありますね」
「え? でも、今までは特に何もありませんでしたが……」
「――その時共にその場にいたソウヤさんとシャルロッテさんは、今は国外です。国内に残っているのがあなただけなので、その連中が何らかの懸念……一番考えられるのは、連中と敵対する者との繋がりがあるのではないか、という疑惑ですね。それを抱き、どう動くのか見るために試しに仕掛けて来た……という可能性があります」
クライヴさんがそう推測を述べる。
うわぁ……。疑惑だけで試しに攻撃してくるとか、ヤな組織だなぁ……
「……だとしたら、この後はどう行動するのが良いのでしょう?」
「……とりあえず、ここで下手に動くのは確実にマイナス方向に働くでしょう。特にディンベル獣王国へ赴こうものなら、更に大きな誤解を招きかねません。――ですので、ここは連中と敵対している組織に属しているわけではなく、無関係である、というのを見せ続けるのが妥当でしょう」
私の問いかけに対し、クライヴさんがそう返してくる。
あれ? でも、それって――
「つまり……何もしない?」
「はい。この件はゴロツキどもに絡まれたので撃退した……という事にでもしておきましょう」
なんて事を言ってくるクライヴさん。
逃げも隠れもせず、ただ単に放置して今までどおり暮らす事で、無関係だと思わせるって話だろうけど、向こうに私の居場所は既にバレているわけで……
「えっと……それって、再び襲われる可能性があるのでは……?」
という疑問を口にする私。
クライヴさんはそれに対して頷き、
「ええ、ゼロではありませんね。居場所がわかっているわけですし」
そう言ってきた。
デスヨネ!? ソウデスヨネ!? ううう……凄く不安なんだけど……
と、思っていると、クライヴさんが笑みを浮かべながら、
「――しばらくの間、私がエミリーにずっと張り付いておくので大丈夫ですよ」
そんな風に告げてくる。って……え? 本当に?
「あ、そ、それなら安心です! クライヴさんが護衛してくれるなら、何が襲って来ても大丈夫だと思いますし!」
私は内心大喜びでそう答える。
襲われる可能性があるのは嫌だけど、ずっとクライヴさんと居られるのは嬉しい!
まさに、イヤッホォォォゥ! って感じ!
うーん、複雑な気分ではあるけど、人形をけしかけてきた組織にちょっと感謝してもいいかもしれないなぁ。……あ、本当にちょっとだけだよ!
◆
<Side:Clive>
――護衛をするとエミリーに告げると、とても喜ばれた。
そこまで安心だと思ってくれるのは嬉しいが、どうにも照れる。
う、うーむ……しかし、なんだ? こんな風に照れるのは一体何時ぶりだろうか? まあともかく、久しぶりの感覚だ。
エミリーと話をしていると、久しく忘れていた感情、感覚を思い出す事が多い。
これは、エミリーに対して安心感があるからなのだろうか……
……安心感? いやまてよ? それはつまり……
と、そこまで考えた所で、なんだかこそばゆくなってきた。
……よし、考えるのをやめよう。これは、私のような者が抱いていい感情ではない。
「そ、そこまで喜ばれるとなんだか照れますね。……ま、まあとりあえず、ロイド支部長の所へ行きましょうか。こちらから直接赴いたりはしませんが、ディンベル獣王国にいるエステルさんやソウヤさんには、今日の件を伝えておいた方が良いですからね」
私は誤魔化すようにそう告げる。
「あ、たしかにそうですね。そういえば……というのもあれですけど、お姉ちゃんは今頃何をしているんでしょうね?」
「うーん……。リハビリを兼ねてレビバイクの練習をしているのではないかと思いますが……」
来週のレースに出場するためと言って、昨日、ディンベル獣王国へコウ殿と共に旅立ったので、そう考えるのが妥当だと私は思う。
「でも、お姉ちゃんの性格からすると、再び事件に巻き込まれていそうな気もするんですよねぇ……。あ、いや……案外、今度は自ら首を突っ込んでいる可能性もなくはない……かも」
なんて事を言ってくるエミリー。
「あー、えーっと……たしかに、エステルさんならありえますね……。でも、コウ殿が一緒なのであれば、その辺は大丈夫なのでは?」
私が苦笑しながらそう返すと、エミリーは腕を組み、首をひねった。
そして、しばし「うーん」と唸った後、
「まあ、そうですね……。コウさんがしっかりと手綱を握っていてくれていると、いいんですけど……。あー、だけどコウさん自身がたまに暴走するというか……突っ走る時があるから、揃って厄介事に首を突っ込んでいる可能性もありそう……」
と、呟くように言ってきた。
ふむ、そうなのか……。それはまた、なんとも以外な感じだな。
……コウ殿の事はさておき、実の所、獣王国にはソウヤさんもいるので、何かしらの厄介事は起きていると考えて間違いないと、私は思っていたりする。
故にエミリーの言葉も、その可能性を否定する事は出来ない。
ううむ、先程は半ば誤魔化すために言ったが、やはりロイド支部長と話をして、何らかの方法でエステルさんやソウヤさんにこちらの状況を伝えるのが良さそうだな。
そんなわけで、私とエミリーは討獣士ギルドへと足を向けるのだった――
2章外伝以来の、はっちゃけるエミリーの回でした(何)
クライヴとエミリーの話は、今後も定期的に出したい所。
グレンとクーとアルチェムの話も同じですね。どこかで出していきたいと思います。




