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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第61話 竜の座、竜の制約、竜の血盟

「んん? さっきから何かおかしい。所々、うん、言葉が何故か聞き取れない。うん」

 ロゼがそんな風に言った。

 その言葉に同意するかのように、クーや室長も似たような反応をする。

 

 ふむ……。奴――ルシアの言葉が、部分的に聞き取れないのは、どうやら俺だけではないようだ。

 

「ああ、もしかして■■■■■■とかの事かしら?」

「ええ、それです。何故かそこだけ声がまともに聴こえません」

 ルシアの言葉に頷く室長。

 

「まあ、そうでしょうねぇ……。――これは、『竜の制約』……。そう呼ばれる物――いえ、現象よ」

「えっと……『竜の制約』……です? それは一体なんなのです?」

「この世界に仕組まれた壮大な術式……あるいは呪い……とでも言えばいいのかしらねぇ? 『竜の座』へと至った者にしか聞き取れない言葉っていうのがあるのよ」

 クーの疑問にそう返したルシアは、うーん……と呟きながらしばし考えた後、

「――そうねぇ……あなたたちには、こう言えばわかるかしら? 一部の言葉がNGワードとして、フィルターに引っかかって自動的に削除されてしまう……と。で、『竜の座』に至る事で、それらの言葉をフィルターに引っかからなくする事が出来るようになるわ」

 そんな風に説明を続けてきた。なんというか、ご丁寧に説明してくれてありがとうって感じだな。

 

 ま、それはともかくとして……要するに『竜の座』とかいう場所に辿り着いた者でなければ、良くわからない仕組みによってあのような聞き取れない言葉――ノイズとなってしまうってわけか。


「そのフィルターの役割を果たしているのは……もしかして、魔煌波……ですか?」

 室長が周囲を見回しながらそんな風に問いかける。

 

「あら、竜の座に至っていないのに、良く理解出来ているじゃない。百点満点とは言えないけれど、概ね正解よ。ふふっ、面白いわね、あなた。――どうかしら? いっその事、私たちの仲間にならない? 百点の答えに辿(たど)り着けるわよ?」

 そんな勧誘めいた事を言って笑うルシアに対し、

「お褒めに預かり光栄です」

 なんて言葉を返し、会釈までする室長。


 だが、室長はそこから一呼吸おいた後、肩をすくめて、

「――ですが、私はキメラという物が大嫌いでしてね。それを生み出すような輩と相容れる事はありませんね」

 と、ため息混じりに告げた。

 

「あら、残念。だったら仕方がないわねぇ……生かしておくと面倒な事になりそうだし、ここで始末しておくに限るわ……ねっ!」

 なんて事を言い放ち、氷の剣を振るうルシア。

 おっと、いきなり攻撃を仕掛けてきたか。

 

 そう思って身構えていると、振るわれた氷の剣から冷気が放出され、吹き付けてきた。

 ……って、冷気で何を?

 

 そんな疑問が脳裏をよぎった所で、室長がやや焦った声で魔法の名を口にする。

「――《玄宵の護法衣》っ!」


 それは以前、アルミナの荒野で翼竜もどきと戦った時に、エステルが使ったドーム状の防御障壁を展開する魔法だった。

 

 直後、ドームの表面が氷結。一瞬にして防御障壁自体が砕け散った。

 が、そこで氷結は停止したため、俺たちはなんともない。

 

「ギリギリでしたか……」

 胸を撫で下ろし、ほっと息を吐く室長。

 そして、

「今の攻撃をまともに食らったら、最悪氷漬けにされていました。まさか、あのような方法で、上位魔法を使うとは……」

 なんていう、物騒な事を言ってきた。

 

「ん、とんでもない攻撃。さすがは上位魔法、うん」

 関心したように言うロゼ。……関心している場合ではないのだが、たしかに上位というだけあって、強力な魔法だな。

 

「なかなかやるわね? だったら、次はこんなのはどうかしらね?」

 そう言って氷の剣を霧散させると、4つの手にそれぞれ1つずつ黒い球体を生み出してくるルシア。

 

 黒い球体からは、太陽から立ち昇るプロミネンスに似た、黒い炎のようなものがいくつも噴き出しており、実に禍々しく、実にヤバそうな雰囲気しかしない。

 幸い球体なので、サイコキネシスで押し返せるかもしれないが……果たして……

 

 と、視線を球体から()らさずに、いかにして押し返すかを思案していると、突然ルシアの横に黒い渦が出現し、地上に居たはずのセレティア族の男がその中から姿を現した。

 

 今の黒い渦、見た事があるぞ。

 そう……たしかあれは、アルミューズ城の地下から繋がっていた洞窟――その最深部にあった『裏位相コネクトゲート』なる古代の遺構の前で遭遇した男が使った『龍脈を移動する術』とかいう代物のはずだ。

 ……って事はつまり、あの男とこいつらは仲間だという可能性があるってわけか。

 

「ルシアよ、お楽しみの最中に悪いが、どうやらここが退き際という奴のようだ。撤収するぞ」

 男がルシアにそう告げると、ルシアは4つの黒い球体を霧散させ、

「……この者たちは放っておいていいの? きっと面倒な事になるわよ?」

 と、問う。

 

「ああ……たしかに面倒な存在であるとは思う。だが、それはつまり、こいつらは並の人間たちよりも強い……という事だ。そう簡単には殺せん。粘られている間に上にいる王都守備隊の連中が到着するだろう。いくらその力があっても、そうなればさすがに分が悪い。……そもそも、お前のその力は、今はまだ長期戦には向かないのだから避けるべきだ」

 そう男に告げられたルシアは、

「それは……そうね……。ええ、悔しいけどたしかにその通りね」

 ため息まじりにそう言って首を左右に振る。

 

 直後、ルシアの姿が元に――腕が2本に戻り、翼も消えた。

 

「キメラ化を制御……ですか」

 室長がそんな事を呟くように言う。

 

「あの姿でずっといるのは面倒なのよ。それに……美しくないし?」

 なんて事を、肩をすくめながら言って返してくるルシア。


「さて、そんなわけで迎えが来てしまったから、今日は退いておいてあげるわ。……でも、次に会う事があったら……その時は殺してあげるわ。ふふっ」

 ルシアが俺たちを見回しながらそう言って不敵に笑うと、横に立つ男もまた、

「出来れば、我々の邪魔をしないで貰いたいものだがね。まあ、無理だとは思うが」

 首を左右に振りながらそんな事を言ってきた。

 

 そして、再び黒い渦が出現する。

 今度は先程と違って2つ――つまり、ルシアと男の双方にだ。

 

「……って! ちょっと待て、逃がすかっ!」

 俺は即座にアポートで引っ張ろうと試みる。

 室長たち3人も、それぞれが各々の方法で、術を阻止すべくふたりに対して攻撃を仕掛ける。

 

 刹那、俺の手にとてつもなく重たい……まるで、巨大な柱を引っ張ろうとしているかのような、そんな感触が伝わってくる。

 ぐう……っ! これは……アポートで引っ張れそうにない……ぞっ!

 

 諦めて他の3人の動きを見る俺。

 しかし、他の3人の攻撃も、ルシアと男の周囲に発生した謎の紫色の半透明な障壁に弾かれてしまい、届かなかった。

 

「……うん? 攻撃以外にも、今、何か仕掛けてきていたようだな? ふむ、この波形は……見覚えがあるな。たしか、サイ……サイン? サイバー? サイクロン? ……いや、どれも違うな」

「えーっと……たしか、サイキック……じゃなかった?」

「ああそれだ。……まあ、名前はさておき、たしかにルシアの言う通り厄介な力ではあるな。もっとも……この程度であれば、龍脈と繋がった我にとっては、脅威であるとは言い難いが」

「ええ、そうね。あなたにはそうでしょうね。でも、私にはそこまで楽観視出来るものじゃないわ。強化されたらとても面倒な事になる気しかしないし。……はぁ。ホント、出来ればこの場で始末しておきたいのに……」

「まあ、そうボヤくな。次の機会に――」

 そんな言葉を残し、ふたりは黒い渦と共にその場から消え去る。


 何をしても阻止する事が出来ない以上、俺たちはそれを見送るしかない。

 そこはもう今は諦めよう。

 ……それよりも気になる事がある。


 ……俺の仕掛けたアポートを見破られた? 

 っていうか、そもそもどうやって?

 っていうか、サイキックの事を知っている?

 いや、あいつらは地球からこっちに来たのか……?

 

 などと思考を巡らせていると、

「……上は片付きました!」

 というアルチェムの声が聞こえてきた。

 

 ふむ、どうやら上は片付いたようだ。

 下――こちらは、動ける者はルシアで最後だったし、これでどうにかこうにか片が付いたな。

 まあもっとも、残念ながらリーダー格のふたりは逃してしまったが……

 

「ん、ちょっと先に行って、下も片付いた事を伝えてくる。うん」 

「ああ、わかった。俺たちは念の為、守備隊が来るまでここで見張っておく」

 俺がロゼに対してそう答えると、ロゼは頷いて素早く階段を駆け上がって行った。


「――それにしても『竜の座』に『竜の制約』……ですか」

「どちらも、名前からして『竜の血盟』と明らかになにか関係がありそうなのです」

 ロゼを見送った所で、室長とクーがそう言ってくる。


「というか、もしかして『竜の座』なる場所に辿(たど)り着いた者っていうのが、『竜の血盟』だったりする……のか?」

「……ありえますね。連中の桁違いの技術力の秘密が『竜の座』とやらにある可能性も十分に考えられますし」

 俺の言葉にそんな風に返してくる室長。

 

「……そもそも『竜の血盟』は、この世界と地球、2つの世界を股に掛けてまで、一体何をしようとしているです?」

 クーのその疑問に対して、答えに(きゅう)する俺と室長。

 

「……うーむ、駄目だな。『竜の血盟』の目的については、情報不足で推測すら出来ない」

 ひとしきり考えた所で、諦めて肩をすくめて見せる俺。

 

「ええ、正直言ってお手上げですね。というかそれを知るには、『竜の座』という場所に行ってみるしかないような気がします」

 腕を組み、ため息混じりにそう言ってくる室長。

 俺はそれに頷き、

「そうですね。『竜の制約』とやらをどうにかしないと、駄目でしょうし」

 と、返す。

 なにしろ、ルシアが概ね正解だと言っていたが、魔煌波によるなんらかの作用が生じる事で、隠蔽――まともに聞き取れない音にされてしまう言葉がある……という時点で、どうにもならないからな。


 しかし……その『竜の座』っていうのは、一体どこにあるというのだろうか……?

 どこかに、それに繋がる情報があればいいんだけどな……

竜の座や竜の制約は、名称自体はチラホラ出てきていましたが、ソウヤたちにその名を知るのは、何気にここが始めてなんですよね……

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