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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第12話 魔煌技師エステル <前編>

「――とまあ、そんな感じでこの町へやってきたわけだ」

 そう言って説明を終える俺。ちなみに、話の途中でエステルから敬語で話す必要はないと言われたので、敬語を使うのはやめる事にした。

 

「ふむ、アカツキ皇国にある隠れ里……とな。なるほど、たしかにそう言った場所であれば、魔法屋がなくても不思議ではないのぅ」

 と、そこで一度言葉を区切り、エステルがこめかみを指で軽く3回叩く。

「それに、世界の『綻び』……とな。霊的な力の強い場所で、今まで誰も遭遇した事のないような異変がちらほら起きているという話は、師匠から聞いた事があったが、もしや、それが『綻び』なのかのぅ?」

 さらりと、重要そうな事を口にするエステル。綻びはさておき、霊的な力の強い場所ってのと、異変の方が気になるな。

 

「霊的な力の強い場所……それに異変?」

「うむ、霊的な場所というのは、魔煌波とは異なる特殊な力に満ちた場所の事じゃな。例えば森にある『夜明けの巨岩』も、その1つじゃ」

 俺の問いかけにそう返してくるエステル。1つという事は他にもあるのか?

「もう1つ、あの荒野にもそういった場所――『地下神殿遺跡』と呼ばれる場所があるのじゃよ」

 エステルがまるで俺の思考を呼んだかのように言う。

 

 荒野っていうと……朝、魔法の試し撃ちに行った所だな。

「荒野……と言いますと、街道沿いに延々と広がっているあれですか?」

 横にいるアリーセが、俺よりも先にエステルへと質問を投げかける。どうやらアリーセも興味があるようだ。

 

「そうじゃ。木々の生い茂る森と草木のまったくない荒野が隣接しているというのは、おかしいと思わんか?」

「ええまあ、たしかに不思議ですね」

 と、アリーセ。俺も肯定の意味で頷く。たしかに俺もそれは気になっていた。

 

「そもそも、森の少ない大陸中原西部の中でも、この辺りは一際荒れ地が多く、森のまったくない土地なのじゃ。なのに、このアルミナには森が存在する。そう、ここはまるで砂漠の中のオアシスの如く、この辺りで唯一、自然に満ち溢れた場所なのじゃよ」

 エステルがそう言うと、アリーセは顎に手をあて、「うーん……」と呟きつつ、思い出しながらといった感じで言葉を返す。

「……そう言われてみると、たしかに列車の窓から見えた景色は、荒れ地ばかりだった気がします」


 荒野のど真ん中を走る鉄道って、そこだけ聞くと、なんとなく西部劇っぽい感じがするな。

 ……西部劇でふと思ったけど、この世界って銃の類はあるんだろうか? 町の中で、近接武器とか弓を持っている人は見かけたけど、銃を持っている人って見かけてないよなぁ……

 

 と、そんな事を考えていると、エステルがアリーセの返事に対して軽く頷き、

「で、なぜそのような事になっておるのかというと、これは妾の師匠が言っておった話なのじゃが、2つの霊的な力がぶつかり合っているがゆえに、そういった状態になっておるそうじゃ」

 と言って、2つの霊的な力がぶつかり合っているという事を表現するかのように、両手を合わせる仕草をした。

 

「2つの霊的な力……ですか?」

「うむ。地脈を活性させる力と、その逆の地脈を衰退させる力じゃよ。つまり、前者は大地の力を活性化させる事で草木が凄まじく繁殖する環境を作り、森を生み出す。後者は大地の力を衰弱させ、草木1つ生えぬ荒野を作る、というわけじゃな」

 その解説を聞き、俺は自分の理解が正しいかどうかを確かめるため、アリーセの代わりに口を開く。

「なるほど……。要するに森と荒野は、それぞれの力の強さ――霊的領域の範囲も表している、というわけだな。んで、それぞれの力の中心点になっているのが、『夜明けの巨岩』と『地下神殿遺跡』の2つってわけか」

「うむ、そういう事じゃな。どちらかの力が強まれば、もう一方の力に満ちた領域は狭くなっていくからの」

 そう言いながら、エステルが俺の方に顔を向けてくる。

 

 そして、眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げ、

「……ちなみに、じゃが。実はアルミナの森の面積は、年々徐々に狭まっていっておるのじゃよ。じゃから、この現象も『霊的な力の強い場所で起きている異変の1つ』だと言えるかも知れぬな。なにせ、数十年前から突然狭まり始めたらしいからのぅ」

 なんて事を言ってきた。……その眼鏡、もういらないんじゃないのか……? まあいいけど……

 

「それはつまり、『地下神殿遺跡』側に何かが起きていると?」

「おそらくは、の。……もっとも、十年以上に渡って様々な観測や遺跡の調査が幾度となく行われてはおるものの、毎度毎度成果なし、という状態なんじゃがのぅ」

 俺の問いかけにそう答え、やれやれといった様子で腕を横に開き、首を左右に振るエステル。

 

 うーん、何度も調査しているけど進展なし、か。しかも、数十年前からだとすると、100年前から発生しているという、一見すると例の問題とは関係がないようにも思える。

 ただ、数十年前から目に見えてわかるようになっただけで、実際にはその前から徐々に始まっていたという可能性もあるし、完全に無関係だと決めつけるのは、まだ早い。ここは、実際に調べてみたいところだ。

 

「ちなみに、その遺跡はどこらへんに? なんとなく気になるから、一度見に行ってみたいんだが」

「この町から東南東に約6キロほどじゃな。北クスタバール街道への門を出てすぐのところから、以前来た調査団が設置した目印が続いておるゆえ、それに沿って進んでいけば良い。まあもっとも、言ったところで何も見つからないとは思うがのぉ」

「ま、念の為だ」

 というか……荒野に目印なんてあったのか、気にしてなかったというのもあるけど、全然気づかなかったな。


「ふむ……。ま、おぬしなら変な先入観とかなさそうじゃし、何か新たな発見をする可能性もないとは言い切れぬか」

 エステルはそう言った後、俺の服を指さし、更に言葉を紡ぐ。

「じゃが、さほど危険な場所ではないものの、それでも街から離れた場所である以上、なにが起こるかわからんからのぅ。せめてその服に防御魔法を付与してから行った方がよいと妾は思うぞい。……というか、その用事でここに来たのではないのかの?」

 そう言って、眼鏡のブリッジを再びクイッと押し上げた。

 

「ああ、そうだった。――ちなみにこの店では、どのくらいの性能の防御魔法が付与出来るんだ?」

「……言っておいてなんじゃが、ウチのある守護印は大したものがなくてのぅ……。せいぜい中の上の性能くらいが限界じゃな。まあ、もしおぬしが守護印を所持しておるのなら、それを使って付与する事も出来るがのぅ」

 と、エステル。守護印なんて持ってるわけがな――

 ……いや、まてよ? なんかディアーナが入れたとか言っていたような気がするぞ。

 

「守護印……」

 俺はそう呟きながら、次元鞄に手を突っ込む。

 すると、記憶が正しかったようで、スタンプラリーとかで使われそうな、大きい判子のようなものが出てきた。

 

「これ……か?」

 自信なさげにそれを見せる俺。

 

「ぶへっ!?」

 エステルがそれを見て、素っ頓狂な声を上げた。

 

「どうかしたのか?」

「どうかしたのか? じゃないわい! なんじゃ、その異常なまでに複雑な術式が刻み込まれておる守護印は! どうやって手に入れたんじゃ!」

 エステルが興奮気味に顔を近づけつつ、そんな事を言ってくる。

 

「い、いや、里を出る時に渡されたんだが……そんなに驚くほどの物なのか?」

 俺は、エステルの勢いに少し引きながら、そう答える。

 

「そりゃ、驚くわい。妾が今まで見てきたどの守護印よりも複雑怪奇な術式じゃぞ。……ただ、なんというか、恐ろしく尖った性能じゃな」

「尖った性能……ですか?」

 エステルの言葉に俺よりも先に反応するアリーセ。

 

「うむ。普通は、剣や爪、体当たりなど物理的な攻撃を防ぐための物質衝撃緩衝膜と、害獣や魔獣の吐くブレスや攻撃魔法を防ぐための魔煌波中和膜、その双方を発生させる術式が刻み込まれておるのじゃが、こいつは、物質衝撃緩衝膜を発生させる術式の代わりに、魔煌波中和膜を増幅する術式が刻み込まれておる」

 と、そう説明するエステル。なにやらわかりづらい用語が出てきたな……

 

 俺はその2つの用語を、RPGによく出て来るような用語に置き換えてみる。

 えーっと……まず、物質衝撃緩衝膜ってのが『物理防御力』だな。んで、魔煌波中和膜ってのが『魔法防御力』か。これで、大分わかりやすくなったな。

 

「つまり、魔法攻撃とブレス攻撃をほぼ無効化する反面、物理攻撃には無防備同然って事か?」

「うむ、そういう事じゃな」

 エステルは頷きながら、俺の問いかけにそう返すと、

「ただまあ、この守護印じゃが、物理的な攻撃に対する守りを捨てておるくせに、どういうわけか非常に強力な復元の術式が刻まれておるゆえ、この守護印を付与した物は、物理的な攻撃を受けて破れたり壊れたりしても、すぐに元通りになるじゃろうがな」

 と、付け加えるように言ってきた。

 

 なんだそりゃ。……いやまあ、おそらく服が破けても大丈夫なように、というディアーナの配慮なんだろうけど。

 それにしても、魔法防御力が鉄壁で、物理防御力が紙切れ同然、か。たしかに尖っているな。

 

 だがまあ、俺はサイキックを使えば、物理的な攻撃の大半は防ぐ事が出来る。

 なので、付与する防御魔法を魔法防御特化型にする事で、物理、魔法問わず、大半の攻撃を無効化する事も、一応は可能だ。もっとも自動発動型の魔法防御と違い、物理防御の方は能動的にやる必要があるので、発動に失敗する可能性もなくはない。

 

 ってか、実際、発動に失敗してモロに攻撃を食らったからこそ、俺は今この世界にいるわけだしな……。もちろん、同じ失敗をするつもりはないが。

 しかし、そんな尖った性能の守護印を俺に渡したって事は、それはつまり……物理攻撃の方はサイキックでどうにかなるってのをディアーナはわかっていたって事か? ……ま、わかっていても別に不思議ではないけど。

 ともあれ、この守護印は付与して問題なさそうだな。

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