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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第57話[Dual Site] 劇場内の探索

再び少し長めになりました……

<Side:Kou>

 アルチェムさんの魔法で透明になった私たちは、慎重に劇場を進んでいきます。

 もう少し魔法感知装置が設置されていると思ったのですが、ほとんどありませんね。

 

「劇場という割には、随分と入り組んでおるのぅ……」

「たしかに、砦のような感じでもありますね……」

 エステルとアリーセ君がそんな事を呟きます。

 

「おそらく……中世時代には、闘技場としても……使われていたのではないでしょうか……。そして……入り組んでいるのは、闘技奴隷や闘技用の獣などの……脱走を防ぐためではないかと……」

 と、アルチェムさんがそんな推測を述べました。

 

「なるほど……たしかに古い時代に作られた劇場の中には、闘技場としても使われた物も結構ありますね。他にも戦時に要塞として使われた物もあったりしますし」

 私は、地球で欧州を訪れた際に見たそれらの建築物の歴史を思い出しながら、そう返します。

 

「なんにせよ、ただの劇場ではないという事じゃな。今も昔も……のっ!」

 エステルがそんな風に言いながら、いつの間にか構えていたペンダント型の魔煌具――ソーサリーメダリオンから雷撃を壁――正確には、そこに設置されている六角形の金属枠に囲われた眼球のような魔煌装置に向かって放ちます。

 直後、破砕音が響き、その魔煌装置――虚空の眼が砕け散りました。


「あれは?」

「虚空の眼……じゃな。ご丁寧に魔法看破の術式まで仕組まれておるわい」

 と、エステルがアリーセ君の問いかけに答えます。

 虚空の眼、それは遠くから現在の状況を視る事が出来るという魔煌装置――要するに監視カメラですね。

 それに魔法を見破る機能がついている感じでしょうか。

 

「壊した事が向こうにばれませんか?」

「壊された事自体はばれるじゃろうが、とりあえず、あちら側に妾たちの顔を認識される事はなくなるからの。まだ誤魔化しようがあるというものじゃよ」

 アリーセ君の疑問にそう返すエステル。

 まあ、たしかにそうなのですが……

 

「――ここは、もう少し誤魔化しやすくしておきましょうか」

 私はそう言って、虚空の眼のレプリカを次元鞄から取り出します。

 

「……なんでお主が虚空の眼を持っておるのじゃ?」

「いえ、これはレプリカです。この手の魔煌装置が設置されているであろう事は推測出来ましたので、昼間のうちに作っておいたのですよ」

 呆れ気味に問いかけてくるエステルに、私はそんな風に答えつつ、もとの場所にそれを設置します。

 

「これは偽装された情報を送る事が出来ます。通信術式は『壁の記憶』から既に読み取ってあるので、同じ術式を組んでおきましょう」

 私はそう言いながら、術式を刻み込みます。

 

「宿の部屋に籠もって何をしておったのかと思えば、そんな物を作っておったのか」

「ええ、他にも幾つかありますよ」

 エステルの言葉に私は頷き、そう答えます。

 

「さすがはアキハラ先生ですね」

「そうじゃな。ある意味さすがじゃな。……相変わらずとも言うがのぅ」

 アリーセ君の言葉に続く形で、エステルがため息まじりに言います。


「……なんにせよ、これで問題なく進めそうですね……。それにしても……急にセキュリティが強化されたような気がしますね……。この先からも……魔煌装置が放つ、特有の魔煌波を感じますし……」

「そうじゃな。今までの緩いセキュリティに比べて、この先は少々色々仕掛けられておるようじゃ。……ま、それは裏を返せば、奴らにとって重要度の高い何かがこの先にあるという事でもあるわけじゃがな」

 エステルがインスペクション・アナイザーで通路の奥を探りながら、アルチェムさんの言葉に同意し、そんな風に言ってきます。


 アリーセ君が顎に手を当てながら少し考えた後、

「重要度の高い何か……つまり、オークションのために連れて来られた人たちがいる可能性が高いという事ですね」

 と、言いました。

 それに対してアルチェムさんが頷き、告げてきます。

「……そうですね。念のため……退路を確認しつつ、慎重に進むとしましょう……」


 私たちはアルチェムさんの言葉に従うように、途中に設置されている魔煌装置を、私とエステルで無力化したり偽装したりしながら、慎重に進んでいきます。


「ここもハズレのようじゃな」

 通路の途中にあった小部屋の扉を開け、誰も居ない事を確認したエステルがそうため息混じりに言います。

 ……小部屋が通路に幾つも配置されていましたが、ここまでのどの部屋にも、誰一人いませんでしたからね……

 

「階段がありますね。上の階と下の階の両方に行けるようですが……」

 アリーセ君が通路の先にある階段に目を向けてそう言ってきます。


「……どちらへ行くのが良いのでしょう……?」

 というアルチェムさんの声を聞きながら、私はサイコメトリーを使います。


 と、昼間にサイコメトリーで視た少女――リズ君の過去の姿を捉えました。

 他の人々と一緒に、縄で繋がれた状態のまま階段を上から下へと降りていっていますね……


「ふむ、どうやら『下』のようですね」

「……姿を……捉えたのですか?」

「はい。これで後は追跡するだけ辿り着けるでしょう」

 私はアルチェムさんの問いかけにそう答えます。


「であれば、罠や魔煌装置に注意しつつ速やかに行くとしようぞ。なに、警戒の方は妾に任せよ」

 そう胸を張って言ってくるエステルに頷き、

「ええ、そちらはエステルにお任せしますよ。私は追跡に専念します」

 そう告げました。

 

 さて、こちらはどうにかなりそうですが、蒼夜君たちの方はどうなのでしょう……

 

                    ◆


<Side:Souya>

 カリンカの使った魔法で透明化した俺たちは、劇場内を進む。

 しっかし、随分と入り組んでるなぁ……ここ。

 

「カリンカさんは、どうして透明化の魔法を使えるようにしていたです? ルクストリアではまともに使えないという話を聞いた事があるですが」

 歩きながらクーがそんな疑問を口にする。

 

「んー、まあ、これでもギルドの調査員だからね。調査に役立ちそうな魔法は、ひととおり使えるようにしているんだよね。この魔法も、魔法対策が万全すぎるルクストリアだと、たしかにほぼ使えないけど、あれほどの魔法対策が施されているような場所はまだ多くないというか……ルクストリア以外は、基本的にまだまだ対策が不完全だから、大体の場所で使えて割と有用だし」

「なるほどなのです。たしかにルクストリアほどの強固な魔法対策が施されているような所は、見た事も聞いた事もないのです」

 カリンカの説明に納得して頷くクー。


 こういう話を聞くと、イルシュバーン共和国だけ魔煌技術の発展度合いが半端じゃない事が良くわかるな。特にルクストリアは共和国の中でも飛び抜けてるし。


「もしかして、結構な数の魔法を使えるようにしているのか? たしか、あまり多くの魔法を使えるようにしておくと、魔力の消費が増えるとか聞いたが……」

 前にアルミナでロゼが言っていた事を思い出しながらそう問いかける俺。

 

「ああうん、1つの武器――正確に言うなら、魔法を登録可能な魔煌具に多数の魔法、それも異なる波動タイプの物を設定すると、魔力消費量が増大してしまうのはたしかだね。私の場合は、そこをちょっとした技術で補っている感じかな?」

 カリンカはそう答えながら、右手に持った小型の盾を左手で撫でた。

 

 ……ふむ。ちょっとした技術というのは、おそらく融合魔法とかいうものの事ではないだろうか。

 飛行艇で使っていた時の事を思い出しつつ、折角なのでこのタイミングで聞いてみる事にした。

 

「そのちょっとした技術ってのは、融合魔法とかいう奴の事じゃないのか?」

「うん、正解。そのとおり」

 俺の問いかけに頷き、肯定してくるカリンカ。


「融合魔法……です? それは、どんな魔法――いえ、技術なのです?」

「ああ、それは俺も気になっていたんだ。あれは一体なんなんだ? 俺も森で魔獣と遭遇した時にスフィアの魔法が偶然重なって同じような現象が発生したんだが……」

 クーの疑問に続く形で、俺も疑問を口にする。


「え? 同じような現象? 融合魔法を発動させたの?」

 驚きの表情をしながら、逆に問いかけてくるカリンカ。

 それに対して俺は、森で起きた現象について話す。

 

「なるほど……。たしかにそれは融合変異――融合魔法化しているね。普通は複数の魔煌具による魔法が重なった程度じゃ融合魔法化はしないんだけどなぁ……。それを防ぐための魔煌制御術式が組み込まれているし」

「ん? そうなのか?」

「うん。だって、そんな簡単に融合魔法化したら大変な事になるじゃない?」

「ああまあたしかに……」


 カリンカの言う通り、融合した状態の攻撃魔法は文字通り桁違いの威力になる。

 もし簡単に融合するようなら、複数人が魔法を使うような状況下では、常に危険な状態になってしまうからなぁ。


「まあ、ソウヤさんの持つスフィアとかいう魔煌具、飛行艇で見た感じだと、なんだか見た事も聞いた事もない術式が組み込まれていたからね。おそらくだけど、その術式が魔法を融合させて――あ、いや……どっちかというと、魔煌波の融合と変質を抑制する機能を停止させている……と言うべきかな?」

 なんて事を言うカリンカ。

 

 ふーむ……イマイチ良くわからないが、おそらくアーデルハイドの改造によって、本来あるはずのリミッターのような物が、解除されている……といった感じだろうか。

 

「その辺の挙動を、術式として成立させているとか、そのスフィアっていうのを生み出した人はとんでもないね」

 そう言って肩をすくめるカリンカに対し、俺は腕を組み、

「まあ、その人、エステルや室長の師匠にあたる人みたいだし、あのふたり以上にとんでもない技術を有していても、別におかしくはないからなぁ」

 と、告げる。


 その言葉に納得したらしいカリンカが、

「あのふたりの師匠? ……あーなるほど、遺失技法学士のアーデルハイドさんかぁ……。それなら、なんだか納得したよ」

 そう言ってウンウンと首を縦に振って納得した。

 そして、左手を右手に持った小型の盾の上に置いてから、続きの言葉を紡ぐ。

「私が魔法を融合変異――融合魔法化させている技術も、『遺失技法』って呼ばれる技術の1つだから、あの人はおそらく、遺跡や遺物といった形で遺された数少ない情報をもとにして再現――現代に蘇らせたんだろうね」

 

「その『遺失技法』というのはなんなのです?」

「簡単に言うと、昔は普通に存在していたけど、何らかの理由で現代に伝わる事なく失われてしまった技術や術式の事だね」

 クーの問いかけにそう答えるカリンカ。

 なるほど……要するに、ロストテクノロジーみたいなものか。

 

「という事は、カリンカさんもそのアーデルハイドさんと同じように再現したという事なのです?」

「んー、ちょっと違うかな? 私の場合は『元々持っていた物』だし」

「元々……です? それはどういう事なのです?」

「それを話すと長くなるから、状況が落ち着いてからかなー。ほら、なんかこの先に怪しい連中がいるっぽいし」

 カリンカがクーに対してそう言って視線を正面へと向ける。

 

「……え? ……人の気配は感じないのです」

 というクーの言葉を聞きながら、俺はクレアボヤンスを実行。

 

「……なるほど、この先の階段の手前に男が2人……いや、その先の踊り場にいる男女を含めると4人、か。手前の2人が踊り場の下側を、残りの2人が踊り場の上側を行き来しているな……」

 クレアボヤンスで視えた者たちを数えながら言う俺。

 

 うーむ……。階段の上り下りを繰り返している理由が良くわからんな。

 別に立ち止まっていてもいいんじゃなかろうか?

 

 ってか、違和感があるのはそれだけじゃないな。

 種族は全部ヒュノスのようだけど、うーん……顔がなんかこう……

 

 と、そんな感じで顔に妙な違和感を覚えた俺は、4人の顔をよく見る。

 すると、4人のうちの1人は、以前見た事がある顔だった。

 

「……はて? どこで見たんだっけか……?」

 俺はそう呟きながら、その顔を見た場所を思い出し、とんでもない事に気づく。

 

「って! 思い出した! こいつ、ルクストリアで遭遇した人形じゃないかっ!」

 何故、こんな所にあの時の人形がいるんだ……!?

久々の人形(人型の魔法生物)の登場です。

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