表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
186/764

第55話 ブラックマーケット・オークションの情報

「――あれが、ブランデンっていう人がやっているお店かな?」

 カリンカが魔煌具の並べられた露天を見ながら言う。

 

「うむ、型落ちの魔煌具を売っていると言っていたし、間違いなさそうじゃの。あそこに並んでおるのはどれも型落ち品じゃ」

 先程合流したばかりのエステルがそう答える。

 見ただけで型落ちだと判別出来るあたりは、さすがというべきか。

 

「すいません、貴方がブランデンさんでしょうか?」

 アリーセがディアルフ族の店主に問いかけると、

「その通りですが……どちら様でしょうか?」

 と、そう言って返してきた。

 

「あ、薬草を売られているジャックさんから紹介されて来ました」

 言いながらアリーセは、先程ジャックから貰った便箋を手渡す。

 

「……ジャック、ですか? ふぅむ……あの者が私を紹介するとはまた珍しい事ですね……」

 なんて事を言いながら、便箋に目を落とすブランデン。


 あのジャックという店主が紹介状を書くのは珍しい事のようだ。

 アリーセの豪快な買いっぷりのお陰というべきだろうか……?


 なんて事を思っていると、ブランデンが便箋を読み終え、

「なるほど……『人手』ですか。何を考えておられるのかはわかりませんが、あまり無茶はなされない方がよろしいかと思います」

 そんな風な事を言い、俺たちを見回してくる。

 ……いや、俺たちというか、アルチェムに視線が集中しているような気がするな。

 

「……まあ、このブラックマーケットには善も悪もありません。あるのは、商品とそれを売る者だけです。ただ……『人手』を商いに使うというのは、褒められた事ではない……いえ、商いを生業とする者として醜悪でさえあると、私個人は考えます」

 と、そんな前置きをしてからブランデンは、人を売買する場――スレイブ・オークションの会場について俺たちに話してきた。

 スレイブ・オークション……つまり、奴隷の競売、か。

 

                    ◆

 

 ブランデンから教えられたのは、ブラックマーケットの一番奥にあるという、旧帝国地下劇場と呼ばれる場所だった。

 何故地下に劇場があるのかは不明だが、帝国という名がついている通り、例のクシフォス帝によってこの地が制圧され、帝国の支配下に置かれていた頃に作られたものであるという。

 そして、そんな中世時代の遺跡とも呼べるような場所で、オークションは開かれるらしい。

 ……もしかしたら、だが……中世時代にも同じような用途で使われていたのかもしれないな。

 

 なんて事を思いながら歩いていると、カリンカが、

「さっきのブランデンっていう人、確実にアルチェムが王都守備隊の人間だって気づいてたよね?」

 アルチェムに対してそんな言葉を投げかけた。

 たしかにそんな感じだったな……妙にアルチェムへと視線が向いていたし。

 

「……そうですね……。……元々ブラックマーケットは……店や露天を出す許可を取れない零細商人や……行商人、普段は別の仕事をしている人たちが……寄り集まって始めたものです。なので……古くからここで商いをしている方の中には……人身売買のような……明らかな犯罪行為に関しては、許しがたい人もいる……という事なのではないでしょうか……?」

 と、眼鏡のリムに指を添えながらそう答えるアルチェム。

 

「なるほど……。つまりブランデンは、俺たちがそいつらをどうにかしてくれる事に期待して、あれこれと話してくれたってわけか」

「まあ、ブラックマーケットに善悪はないと言っていましたから、扱う物や扱う人に対しては不可侵という決まり事のようなものがあるのでしょう。そして、部外者である私たちであれば、そんな決まり事は関係ありません」

 室長は俺の言葉にそう返すと、両手を左右に広げて首を横に振った。


「ふむ……そう考えるのであれば、ジャックという店主の方も、感づいていたのかもしれぬのぅ」

「なるほどねぇ、それで手紙を渡したってわけかぁ」

 エステルの説に納得してウンウンと首を縦に振って肯定するカリンカ。

 まあたしかに、それは十分あり得る話だな……。ブランデンが珍しいと言っていたし。


「えーっと……それで、どうしましょう? オークションに参加してみますか?」

「いや、オークションが始まってしまってからでは救出が困難になる気がするぞ」

 アリーセの問いかけに対し、俺がそう返すと、

「うん、そうだね。オークションが開始される前に会場――正確に言うなら、旧帝国地下劇場内の、リズちゃんたちが閉じ込められているであろう場所に踏み込んじゃうのが最良かな」

 と、カリンカがこめかみに人差し指を当てながら言ってきた。

 

「という事は……まずはオークション会場である地下劇場とその周辺を調べるです?」

「ああ、正面から突っ込むってわけにはいかないからな」

 クーの言葉に頷き、そう返す俺。

 

                    ◆


 とまあ、そんなわけで地下劇場とやらの入口が見える所までやってきたわけだが……

 劇場の入口には警備要員と思しき、セレティア族、テリル族、ドルモーム族の男が3人いるのが見えた。

 

「警備は厳重そうだな。見える範囲以外にも結構な数がいる」

 俺はクレアボヤンスを使いながらそう告げると、 

「目の前に水路があるせいで、入口はあそこだけのようじゃのぅ。これは、侵入するのが大変そうだわい……」

 というエステルの声が耳に届く。

 たしかにこれは厄介だな……。それに――


「侵入ルートもそうですが、脱出ルートも確保しておく必要があります。逃げる手段と逃げる先がないと話になりませんからね。――このブラックマーケットがある場所ですけど、地上と繋がっている場所はどこにもないのでしょうか?」

「いえ……全ての物を水路で運ぶのは不可能だと思います……。また、商人全てが船で来ているとは思えません……。どこかに地上と繋がっている場所があるはずです……」

 室長の疑問にアルチェムがそう答える。

 ふーむ、たしかに地上へ出るルートがあるのとないのとでは大違いだからな。

 しかし、どこにあるのだろうか……

 

「先日、この街の歴史を調べている時に見た古い書物に記されていたんだけど、あの地下劇場って、中世の頃は、地上に入口がしっかりあったみたいなんだよね」

「んー、となると……劇場の中、あるいはすぐ近くに地上と繋がっている場所がありそうな感じがするですね」

 カリンカの話を聞き、クーがそう言いながら地下劇場の方を見る。

 

「ふーむ、劇場内に地上へ繋がっている場所があるんなら、脱出自体は楽そうだが……」

「……劇場の構造と、地上の様子がわからないのが……問題、ですね……」

「そうなんだよなぁ……。もし仮に中に地上と繋がっている場所があるとしても、どこからどこへ繋がっているのかが不明瞭な状態で、それをアテにするのはちょっとなぁ……」

 アルチェムの言葉にそう返しつつ考え込む俺。

 

「オークション開始前に立ち入る事は出来ないんですかね? ちょっと聞いてみましょうか」

 アリーセはそんな事を言うと、劇場へと歩を進めた。

 アリーセ1人に行かせるわけにもいかないので、俺も一緒についていく事にする。

 

「あの……すいません、劇場の中に立ち入る事は出来ますでしょうか?」

「ここで開かれるオークションに参加したいと思っているのですが……」

 アリーセと俺が警備の男たちにそう問いかけると、セレティア族の男が頭を下げ、

「――お越しいただいておきながらまことに申し訳ないのですが、ただいま、そのオークションのための会場準備を行っておりまして……。安全のため、関係者以外の立ち入りは禁止させていただいております。あと1時間半ほどでオークションが開始されますので、時間になりましたら再度お越しいただけませんでしょうか」

 そんな風に丁寧な口調で立ち入り禁止である事を告げてきた。

 

「なるほど……そうなのですか。ご丁寧にお教えいただき、ありがとうございます」

「わかりました、また1時間半後に来ます」

 アリーセと俺は男にお礼を述べ、離れた場所で待機しているアルチェムたちの元へと戻る。

 

「やはり無理でしたね……」

 首を左右に振るアリーセ。

 

「……魔法で姿を隠して通過する手もありますが……」

「入口の所に魔法感知装置が設置されておるようじゃから、それは止めておいた方が良いじゃろうな」

 例の魔法を試そうとするアルチェムに対し、眼鏡――インスペクション・アナライザーを付けたエステルがそう告げる。

 

「となると、他のルートを探すし……ん?」

 俺は劇場の周囲を見回し、空き箱が積まれた一角に視線が行った所で気づく。

 手前の水路が途中で枝分かれして、劇場内にも繋がっている事に。

 ふむ……

 

 即座にクレアボヤンスを使ってそちらを視る俺。

 すると、その水路の先……劇場内には桟橋があり、船が泊まっているのが見えた。

 おそらく、水路を利用して重い物を運び込むために使われているのだろう。

 

「エステル、あっちの……劇場内に続く水路の方には魔法感知装置ってあるか?」

 俺はエステルに桟橋のある方を指差して尋ねると、エステルはインスペクション・アナライザーを付けたままそちらへと顔を向け、

「どれどれ…………」

 と、そう呟きながら桟橋の方をしばし眺めた後、俺の方を見て告げてくる。

「うむ、こっちには魔法感知装置やそれに類する物は一切設置されてなさそうじゃな」

 

「そうか。ありがとう、助かった」

 俺はエステルにそう短く礼を述べると、今度はアルチェムの方を向いて問う。

「――ちなみにアルチェムは、船って操縦出来たりするのか?」


「あ、はい……。王都では船を使う事がとても多いので……私も守備隊に入った時に……操縦方法を一通り習っています……」

 アルチェムが頷き、船を操縦出来る事を肯定してくる。

 

 これなら……いけるか?

 

 そう思った直後、久しぶりに思考が加速し始めた――

次回は旧帝国劇場内への侵入です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ