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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第52話 クーとアルチェム、そしてガルディス地下監獄

 アルチェムとクーの話が気になり、俺はつい立ち聞きしてしまう。

 

「――という感じで、グレンダイン殿下に告白されてしまったのです」

 そうクーが言うと、アルチェムは驚いた表情を見せた後、

「……そ、そう……でしたか。そ、それで……どう返事を……したのですか?」

 と、そんな風に言った。

 ……うん? なんだか動揺しているような気がするぞ。

 

「保留にしたのです」

「えっと……保留……ですか?」

 クーの言葉にアルチェムが首を傾げる。

 

「私は殿下がどういう人なのか、詳しく知らないのです。だから、突然告白されても、はいそうですとは言えなかったのです」

「……な、なるほど……」

 クーの言い分に納得するアルチェム。

 っていうより、アルチェムがホッと胸を撫で下ろしているって感じだな。

 ふむ……。これは、もしかして?

 

「それに――」

「……それに?」

「私よりもずっと殿下について詳しくて、更に殿下の事が大好きなアルチェムに話をせずに決めるわけにもいかないのです」

 そんな事を言い放つクー。俺も同じ事を思った所だ。

 

「はにゃっ!? そ、そ、そ、そ、そ――」

 アルチェムは素っ頓狂な声を上げたかと思うと、そのまま慌てふためきながら『そ』を連呼し始める。実にわかりやすい。

 

「わ、わた……私が……グレン殿下の事を、す、好き……だと、何故……」

「そんなの、アルチェムの言動を見聞きしていればわかるのです。会うたびにグレン殿下の話が出て来るです。しかも、他の話よりもグレン殿下の話をしている時の方が生き生きとしていて、しかも話が長いのです。直接口にしなくても、口にしているのと変わらないのです」

 なおも慌てるアルチェムに対し、クーは両手を広げ、首を左右に振りながらそう告げた。


「う、うう……。た、たしかに……そう言われると、その通りな気がします……」

「まあ、それはともかく……です。もし、アルチェムが殿下に告白されたらどう答えるです?」

「私なら即承諾します!」

 クーの問いかけにアルチェムが即答する。今までで一番力強い言葉な気がするぞ。

 

「だと思ったのです。私としても、私と殿下よりも、アルチェムと殿下の方がお似合いだと思っているのです。なので、アルチェムを支援するのです」

「ルナ……えっと……ありがとうございます……?」

 アルチェムがクーに対し、そんな風にお礼……っぽい事を言う。

 いまいち理解が追いつかないからなのか、語尾が上がっていたが。


「でも、殿下からしたら……私は恋愛の対象にはならないと思います。なにしろ殿下が私を見る目は、兄が私を見る目――つまり、妹に対するそれと同じですから」

 と、伏し目がちに言葉を紡いだ。


「そこはこれからなのです。……幸い、というのも変なのですが、殿下と近づく機会が今後は増えると思うのです。だから、その度にアルチェムの事をアピールしていくのです!」

 クーが鼻息荒く、そんな事を告げる。

 

 果たしてその方向性の『支援』でいいのだろうか、と思わなくもないが、まあ……いいか。

 どの道、俺にどうにか出来る話でもないからな、こればっかりは。


 ……まだ話は続いているが、これ以上聞いているのもあれだし、俺は退散するとしよう。

 クー、アルチェム、グレンの3人の関係が今後どうなるのかわからないが、おそらく悪い方に転がる事はないだろう。


 ――俺はそう思うのだった。

 

                    ◆


 そんな話を聞いた翌朝、室長とエステルが泊まっているという宿へ向かおうと思い、ロビーへと降りると、ちょうど同じタイミングで件のふたり――クーとアルチェムが姿を見せ、挨拶をしてきた。 

「おはようなのです!」

「……おはよう……ございます」


「ああ、おはよう。って、今同じ方向……というか、クーの部屋の方からふたりしてやって来なかったか?」

 俺の問いかけに対し、クーとアルチェムは互いの顔を合わせ、

「あ、はいなのです。アルチェムは昨日、私の部屋に泊まっていったのです!」

「はい……。久しぶりに会いましたから……色々と……それはもう、色々と話をしていたのですが……いつの間にか深夜になってしまっていたので……」

 そんな風に答えてきた。

 ふーむ、どうやらあの後もずっと話をしていたみたいだな。

 

「なるほど、そういう事か」

 とりあえず、何も聞いていないふりをしてそう答えると、

「それで、ふたりはこれからどこかへ行くのか?」

 と、問いかけた。

 

「私はグラスカ地区の……ガルディス地下監獄です……」

「私は特に予定がないのです」

 ふたりから別々の答えが返ってくる。

 クーは特にどこかへ行くというわけではないようだ。

 それはそうと――

 

「監獄? 昨日の件か?」

「いえ……この間の夜の方です……」

 この間の夜と言うと……建設中の線路を破壊しようとしていた件か。


「ああ、そっちか。ふむ……何か進展があったのか、俺も気になるな。一緒についていってもいいか?」

 そう俺が尋ねると、アルチェムは少し考えた後、

「本来は……部外者の立ち入りはお断りするのですが……陛下と殿下から、ソウヤ様には最大限の便宜を図るよう言われていますし……あの件に関しては……ソウヤ様も関係していたので、話を聞いて何か気づく事もあるかもしれませんね……。話は私からするので大丈夫です、一緒に行きましょう」

 なんていう風に言ってきた。いつの間にかガランドルクとグレンから、便宜を図るように言われていたらしい。手回しが良いというかなんというか……

 

「あ、それでしたら私も一緒に行ってみたいのです」

「俺としては構わないが……」

 クーの言葉に俺はそう答えつつ、アルチェムの方を見る。

 クーもまたアルチェムの方に顔を向ける。

 

 すると、アルチェムは微笑みながら、

「大丈夫ですよ……。3人で行きましょう……」

 と、言ってきた。どうやら問題はなさそうだな。

 

                    ◆

 

 そんなわけで、ガルディス地下監獄とやらへとやってきた俺たち。

 そこは、王都に張り巡らされた水路の内、地下水路となっている部分を利用して作られたもののようで、個室型の牢が並ぶ各区画を水路が取り囲んでいるため、船を使わなければ移動する事が困難な構造となっていた。

 なるほど……水路自体も迷路のように入り組んでるし、これは脱獄されにくそうだ。

 ちなみに、衛生状況は思ったよりもかなり良かった。

 アルチェムの話によると、水路や王都全体に悪影響が出るとまずいので、そこらへんは徹底しているらしい。

 

「妹……ですか?」

 地下監獄にある一室で、黒髪のドラグ族の女性守備隊員にそう問いかけるアルチェム。


 ってかこの人、アルチェムの上官かなにかなのだろうか? 

 この部屋だけ、造りが監獄内の他の場所に比べてなんだか少し豪華な感じだし。

 

「ええ。ラッツ――カヌークの少年がそう言っていたわ。自分が家に帰らないと妹が連れて行かれてしまう、と。それはもう必死にね」

「なるほど……。それであの子の家には?」

「行ってみたけど、もぬけの殻だったわ。……ちなみにそれを伝えたら、ここから抜け出そうと大暴れで、抑えるのが大変だったわよ……」

 女性守備隊員はそう言って腰に手を当てて深くため息をつき、首を左右に振った。

 

「そこまで暴れるという事は、嘘を言っていたわけではなさそうだな……」

「はいなのです。ちなみにその妹さんの捜索とかはしているのです?」

 クーは俺の言葉に頷くと、女性守備隊員にそう問いかける。

 

「聴き込みはしたけど、まったく駄目というか、誰も知らぬ存ぜぬだったわ。……あれは知らないんじゃなくて、話せないって感じね」

「……その類ですと、話を聞き出すのは困難そうですね……」

 女性守備隊員の話にアルチェムはこめかみに手を当てながらそう返す。

 

「どうすればいいです……?」

「うーむ……」

 なかなか厄介そうな感じだな……

 理由は良くわからないが、周辺の住人から話を聞けないとなると何かがあったという痕跡を探して、そこから調査していくしかないと思うが、聞いてる感じだと、そんな物を不用意に残しておくとは思えなさそうな相手だしなぁ……

 

 ……って、まてよ? 痕跡……?

 

「……ああそうか! 室長を頼ればいいのか!」

「あ! なるほどです! 室長さんのサイコメトリーを使うですね!」

「室長……?」

 俺とクーに対し、首を傾げてくるアルチェム。

 

「あー、えーっと……」

 女性守備隊員のいる前で話して良いものかと思っていると、

「……この方は守備隊の隊長ですので、話しても大丈夫ですよ……」

 と、そう言ってきた。やっぱり上司だったのか。

 

「――紹介が遅れたわね。私は守備隊の隊長を務めるマリサ・シラノ。家名から分かるかもしれないけど、先祖はアカツキ皇国の人間よ。この国にはサツキ姫に付き従ってやってきたらしいわ」

 そんな風に自己紹介をしてくるマリサ隊長。

 

 ふむ、昨日の兵士の話に出て来たあれか。

 でもまあたしかに、姫1人でやって来るわけないよな。

 って事は、アケボノ街区ってのはそういう付き従ってやってきた人たちのための居住区って意味合いもあったんだろうな。


 と、そんな事を考えて納得した所で、

「なるほど……。たしかに話しても問題はなさそうだな」

 そう前置きをしてから室長について話す俺。

「室長っていうのは……後で会いに行こうと思っていたコウ・アキハラっていう人の事でな。物質や液体から過去を垣間見る事が出来る力を持っているんだ」


「なんだか凄そうな人ね。それって、アルチェムと同じ『異能者』って事かしら?」

 俺の説明にマリサ隊長がそんな風に言ってくる。

 

 どうやらアルチェムが異能を持つ事は知っているようだ。

 ……いや、隊長だから知ってて当然っちゃ当然か。

 

「はい、そういう感じなのです」

 俺の代わりに、クーがマリサ隊長の問いかけにそう返す。

 

「それは期待出来そうね。――というわけでアルチェム、この件は貴方に任せるわ」

 マリサ隊長はそう言ってアルチェムの肩を、ポンと軽く叩く。


「……どの辺が『というわけ』なのか良くわかりませんが……承知しました」

 アルチェムはこめかみに手を当てながらマリサ隊長に対してそう告げた後、俺たちの方を向き、

「……ソウヤ様、ルナ、早速宿の方へ行ってみますか……?」

 と、問いかけてきた。

 

「ですです。行ってみるのです」

「ああそうだな。……居てくれるといいんだが」

さらっと出て来て、特に何もなく終わるガルディス地下監獄。

監獄自体が舞台になるのは、おそらくかなり先……になる気がします。

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