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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第50話[Dual Site] 再会と許可

一方その頃……といった感じから始まります。

<Side:Sakuya>

「――ねえ、シャル」

 歩きながら、シャルに問いかける私。


「なにかしら?」 

「シャルは、絶霊紋を消したいと思っていたりする?」

「え? 突然なにを?」

「いやだって、さっきソー兄が『生身の人間に戻りたいというのなら、その方法を探してやる』って言った時に、自分にも言って欲しいって言ってたじゃない?」

 ソー兄の言葉を思い出しながら、私はそう問いかける。

 

「あ、えっと……。あ、あれは冗――」

「――冗談じゃないよね? シャル、ロンダームに滞在してた時、博士に『この紋章をどうにか出来ないのか』って言ってたでしょ?」

「……え、あ、あー、えーっと、そ、そんな事を言ったような、言ってないような……」

 私の言葉に目が泳ぐシャル。


「で、博士が『私には抑えるのが精一杯じゃよ。もっと紋章に詳しい人がいればあるいは……』って言われた時、『そんな人に出会いたい』って言ってたし」

 私が続けてそう告げると、シャルはしばらく無言になった後、

「……そうね。正直言うと、毎晩毎晩短時間とはいえ、あの痛みに襲われるはもう嫌なのはたしかよ。どれだけ経っても慣れるようなものじゃないし……。だから、消してしまえるなら消してしまいたいとも思う事はあるわ」

 そんな風に俯きがちに言うと、顔を上げて笑みを――いや、自嘲気味に笑う。

 

「けど、消したら霊力が使えなくなるから、それはそれで困るというか、既に私にはなくてはならない力だしね」

 シャルはそこで一度言葉を区切ると、紋章のある手を太陽にかざし、それから再び言葉を紡いだ。

「……だから、もし霊力も消えず、痛みもなくす事が出来るなんていうとんでもない芸当が出来る人がいたら、会いたいと思うのは事実。でも、そんな人はいるわけもないし、結局の所、耐えるしかないのよ」


 ……ソー兄ならやってのけそうだけどね、それ。

 っていうか、なんか紋章術に関する素材を集めていたみたいだし、もう何かやろうとしているのかもしれないなぁ……

 私の事を存在が超展開だとか言うけど、ソー兄も大概だからね、うん。

 

 そんな事を心の中で呟いていると、

「ん? シャルロッテではないか。こんな所で出会えるとはのぅ」

 という声が聞こえてくる。うん? この声は――

 

 声のした方をみると、エステルと……室長の姿がそこにはあった。


「エステルに……アキハラ? なんでこんな所に?」

 シャルがもっともな疑問を口にする。うん、私も気になる。

 

「それは簡単な話じゃわい。妾たちは来週、トゥーランで開かれるレビバイクレースに出場する予定じゃからのぅ。準備とリハビリを兼ねて早めに来たのじゃよ」

 そう説明するエステル。

 あー、そういえば、ソー兄が言ってたっけ。年1回開催されるレースがあるとかなんとか。

 

「本当はもう数日治療院に留まる予定だったのですが、エステルが問題ないと言い張るので仕方なく……」

 室長がため息をつきながらそう言った所で、こちらに気づいて視線を向けてくる。

 

「――そちらのフードの貴方、もしかして……朔耶君ですか?」

「えっと……はい、そうです。朔耶です。ご無沙汰しています」

 問いかけてきた室長に対してそう言葉を返す私。


 一瞬、人違いですと言おうかと思ったけど、やめておいた。

 どう考えてもすぐにバレるし。

 

「蒼夜君から再会したという話は聞いていましたが、直接顔を合わせるのは久しぶりですね。……ですが、なぜそんなに透けているのです?」

 室長が私の今の姿に気づいてそう問いかけてくる。

 

 どう答えたものかと思っていると、

「なんじゃ? 幽霊にでもなったのかの? まあ、妾も少し前に魔物のような存在と化しておったくらいじゃからの。仮に幽霊化したと言われても、驚きもせんわい。そうじゃろう? コウ」

 エステルがそんな事を笑いながら言ってきた。


 おそらく、エステルのその笑いは『言いたくないのなら言わなくていい』『何を言われても受け止める』という意味を含んでいるんだと思う。

 ……なかなか変わった助け船ではあるけど、実にありがたい。


 うーん……このふたりにだったら正直に言ってもいいかもしれないなぁ。

 

「実は――」


                    ◆


<Side:Souya>

「――というわけで、こちらが協力者だという事の意味を理解していただけたであろうか?」

 話が終わり、ディアーナの領域から出て来た所で、アーヴィングがグレンとガランドルクに対し、そんな風に告げる。

 

「う、うむ。とても良く理解したぞ……」

「あ、ああ。最後にとんでもねぇバカデケェ隠し玉を出しきやがったぜ……」

 冷や汗をかきながら、そう言ってくるガランドルクとグレン。

 

 そんなガランドルクとグレンに、今度はアリーセが、誇張しまくりな俺のこれまでの話を、まくし立てるように語り始める。


 あー、これはアリーセの変なスイッチが入ってしまったか……

 なんて事を思いながら眺めていると、

「あ、ソウヤさんー。例の物の下準備というかー、プリヴィータの花をすり潰して混ぜるだけでー、完成する状態にー、しておきましたよー」

 開いたままのテレポータルからディアーナの声が聴こえてくる。

 例の物というと……絶霊紋の奴か。

 

 ――振り向くと、ディアーナから陶器製の容器に入れられた濃い青――紺碧と呼ぶのがふさわしい、そんな色をしたハンドクリームのような代物を手渡される。

 

「それにー、プリヴィータの花をすり潰してー、混ぜてくださいー。するとー、色が変わるのでー、そうしたらー、絶霊紋の上に塗りつけてー、この札を貼ってください―」

 そう説明しながら、続けてすり鉢セットと札を渡してくるディアーナ。


 すり鉢はいいとして、この札はどういう代物なのだろう?

 と、そんな事を思いながら札を見ると、何やら見た事のある紋様が描かれていた。

 

「この札の紋様……絶霊紋に似ているような……?」

 俺が紋様をまじまじと見つめながらそう呟くと、

「――ですねー。ただしー、真の絶霊紋ですがー」

 そう説明してくるディアーナ。なるほど……これが完全版というわけか。

 

 後はプリヴィータの花さえどうにかすれば……だな。

 っと、そうだ。朔耶のあれも聞いておこう。

「……話は変わるのですが、ディアーナ様のようなアストラル体になった元人間がいるんですが、元の人間の体に戻す事って出来ないんですか?」


「えーっとー、それってー、サクヤさんのー事ですかー?」

「え? 気づいていたんですか?」

「それはまあー、私とー、同じような存在ですからねー。なんとなくー『あ、同じだな』って感じでー、気づきましたねー」

 なんて事を言ってくるディアーナ。よくわからないが、共鳴みたいなもんなのだろうか……?

 

「ちなみにー、戻す手段ですがー、正直な所ー、その知識はありませんー。ですがー、古の錬金術にはー、人間の肉体を錬成する術というのがー、あったそうですー」

 と、そんな事を言ってくるディアーナ。

 錬金術……。肉体錬成……。それって――

「ホムンクルス?」


「あー、たしかにー、そんな名前だったような気もしますー。ともかくー、それを使えばー、アストラル化の逆をする事がー、可能になるかとー」

「なるほど、古の錬金術ですか……。幸い、古の錬金術関連なら何度か見聞きしている代物ですし、他の調査よりは簡単……な気がしますね」

 まあもっとも、古の錬金術に関する情報を持っていそうなのが、ほぼほぼ敵対している者ばかりだったりするのが、少々問題ではあるのだが。

 

「まあー、それらしいものを見つけたらー、持ってきてくださいー」

「わかりました」

 

 ――そんな会話をディアーナとしている間に、アリーセの話も終わったらしい。

 

「いやはや、アリーセ嬢の情熱は凄まじいものだな」

 ガランドルクがアーヴィングにそんな話をしていた。なんだか顔に疲れが見えるなぁ……


「プリヴィータの花とか聴こえたが、もしかして、あの花が欲しいのか?」

 グレンもまた疲れた顔で、こちらに歩み寄りながら、そう問いかけてくる。

 

「ん? ああ、実の所、この国に来たのもそれが目的だったんだよ。……まあもっとも、目的と関係のない事にかなり巻き込まれたけどな……」

 そう言って肩をすくめる俺。ホント、ローディアス大陸にまで行く事になるとは思わなかった。

 

「あー、巻き込んどいてあれだが……そいつは災難だったな……」

 すまなそうな顔でそう言った後、こほんと咳払いをして続きの言葉を発する。

「……それはともかく、プリヴィータの花だったな」


「ああ。霊峰アスティアに咲いているという情報を得たんだが、間違っていないか?」

 ディアーナの情報が間違っているとは思えないが、念の為に聞いてみる。


「おう、それで間違いないぜ。まあ、もうちょい正確に言うんなら、霊峰アスティアにあるカルミット霊窟にしか咲かない、だな。既に知っているとは思うがあの少々難儀な花は、うちの家紋……つまり王家の紋章にも描かれているほど、この国では重要な代物だ。普通なら渡すどころか、霊峰に近づく許可すら出す事は出来ねぇんだが――」

「――使徒たる者に否と言う事などありえぬ。当然、許可しよう」

 グレンの言葉を引き継ぐような形で、ガランドルクがそう告げてくる。

 

「――だそうだ。つっても、城内の混乱状態と許可の前例のなさからして、許可を正式に出すまでには時間が少しかかりそうだけどな」

 グレンはそう言ってガランドルクの方を見る。

 それに対しガランドルクは頷き、

「うむ。城内の平穏を取り戻し次第、霊峰や花を管理している関係者を動かして、なんとか許可を出すようにするが、どうしても3~4日はかかってしまうだろう。すまない」

 そう言って頭を下げる。

 

「あ、いえ、事情は理解していますから頭を上げてください。ここまで来たんですし、3~4日くらい待ちますよ」

 そう答える俺。というかむしろ、3~4日でどうにか出来る方が凄いな。

 

「直近の問題の片がつき次第すぐに伝えにいくから、それまで王都に居てくれると助かる」

 と、グレン。


「ああ、わかった」

 グレンに対し頷き、短く答える。


 ま、特に王都から離れる予定があるわけじゃないし、ゆっくり観光でもしながら待つとするか。

 って、そういえば明日はブラックマーケットが開かれる日だな。

 今日の城の騒動で、月暈の徒(げつうんのと)の多くが死亡したか捕縛されたようなこの状態で、果たして開かれるのだろうか?

ようやくエステルと室長の再登場となりました。

ちなみに、王都までどうやって来たのかについては特に言っていませんが、アルミナでレビバイクを回収してきているので、鉄道を使って来ています(レビバイクは貨物車両に積んできています)

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