第49話 グレンとガランドルクとディアーナ
「あ、結構眺めがいいね!」
城壁の上の通路部分から街を眺めながら、感嘆の声を上げる朔耶。
「ふむ……たしかに街が一望出来るな」
朔耶に同意し、頷く俺。
この世界には幻燈壁があるので、遠くの方は霞んでしまっており、広大な王都全てを見渡せるというわけではないのだが……それでもまあ、なかなかの景色だ。
「城より高い建物がないお陰ね。ルクストリアじゃこうもいかないわ」
「そりゃ、ルクストリアは高い建物が結構あるからなぁ……」
シャルロッテの言葉にそう返す俺。
もっとも、高いといってもせいぜい10階建て程度が限界ではあるのだが、それでもそんな高さの建物は、この世界ではルクストリアでしか見た事がない。
そういえば……さっきの会議の場で、アーヴィングが南部の活性化のために、20階を超える建物を南部のどこかの街に建設する予定だとチラッと言っていたが、あれは本当なのだろうか……?
もし本当だとしたら、この世界初の高層建築になりそうだな。
なんて事を考えていると、
「――それで、ここからなら行けそうかしら?」
と、シャルロッテが問いかけてきた。
シャルロッテの言う『行けそう』というのは、朔耶を城の外まで飛ばせるかどうか、という話だろう。
周囲を見回すと、城壁の上には見張り1人おらずとても静かだった。間違いなく、さっきの騒乱の影響だろう。
これなら誰かに見つかる事もないし、距離的にも……うんまあ、ギリギリ問題ないな。
思ったよりも城壁が高かったので、地面までは飛ばせないが、若干の落下で済むレベルだ。
なので俺は、頷き答える。
「ああ、このくらいの距離なら問題ないだろう。……若干地面まで届かないが、そこは上手く着地してくれ」
「それじゃ、私とサクヤを飛ばしてくれるかしら?」
「ん? シャルロッテもか?」
「サクヤのこの状態を知っているのはソウヤ以外だと私だけだし、サクヤ1人で帰すわけにも行かないでしょ?」
俺の疑問にそんな風に答えてくるシャルロッテ。なるほど……もっともな話だな。
「わかった。それじゃシャルロッテから先に飛ばすぞ」
そう俺が告げると、シャルロッテはいつでも構わないと言ったので、早速アスポートを使い飛ばす。
瞬時にシャルロッテの姿が視界から消え、ほどなくして、
「っとと。――いきなり空中に投げ出される感じなせいか、感覚がおかしくなって着地するのが少し難しいわね、これ」
という声が城壁の下から投げかけられる。
見ると、シャルロッテが地面に手を突きながら、城壁を見上げていた。
「んじゃ次は朔耶だな。着地が難しいらしいから気をつけろよ」
「おっけー」
俺の忠告に諸手を上げてそう返してくる朔耶。……って、何故そこで諸手を上げる。
まあいい……アスポート!
「うわわっ!? あぐぅぅっ!?」
……見ると、盛大に顔面から地面にダイブしたらしい朔耶の姿があった。着地が難しいと言ったのに……
「またか……。朔耶ー、大丈夫かー?」
「へーきへーき! アストラル体はそうそう傷つかないし! 痛いだけで!」
俺のため息混じりの問いかけに、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、そんな風に返してくる朔耶。
……言われてみると、2度ほど顔から床や地面にダイブしたが、大した怪我をした様子はなかった。
うーむ……あの時に『異様な頑丈さ』に気づくべきだったかもしれないな。
そんな事を考えていると、
「それじゃあ、私たちは先に宿へ戻っているわよ」
「後はよろしくねー」
シャルロッテと朔耶から、そんな声が投げかけられる。
ちなみに朔耶の方は両手も振っていた。
それに対し、俺は右手を上げ、
「ああ、わかった」
と、短く言葉を返した。
◆
――ふたりを見送った俺は、城内へと戻る。
「あ、ソウヤさん」
城内に入った所で、そう声を掛けられる。この声は、アリーセか。
顔を向けると、予想通りアリーセの姿がそこにはあった。隣にはロゼの姿もある。
「うん? ソウヤ、外に言っていたの?」
「ああ、シャルロッテと朔耶を見送りにな」
問いかけてきたロゼに対し、俺はそう答える。
「んん? 見送り?」
「それはどういう事です?」
ロゼとアリーセが首を傾げながら、もっともな疑問を口にしてきた。
「朔耶が力の使いすぎで疲労困憊だから先に宿に帰るっていうからな。俺が送っていこうと思ったんだが、シャルロッテが自分が送るから問題ないと言うから任せた」
そう説明する俺。嘘は言っていない。
「ん、なるほど……。サクヤの事を皆が探していたけど、うん、それならしょうがない。うん」
「そうですね……。では、あとで疲労回復に効果のある薬でも作るとしましょう」
ロゼとアリーセがそんな風に言う。
「えーっと、体力的な疲労じゃなくて霊的な……いや、異能的か? まあともかく、力の使いすぎによる疲弊状態だから薬じゃ無理だな。時間経過しか回復手段はない」
「あ、そうなんですか……。それでしたら待つしかありませんね……」
俺の言葉に納得しつつも、どこか無念そうな表情をするアリーセ。
……今の朔耶と接触させるわけにはいかないからな。すまん。
「とりあえずサクヤが帰った事をガランドルク王に話そうと思うのだが、今どこにいるか知っているか?」
「えっと……それでしたら多分、父様と話をしておられるかと……。こっちです」
俺の問いかけに、アリーセがそう答えて歩き出す。
……
…………
………………
「最大の功労者と言えるサクヤ殿がこの場にいないのは残念だが……あのような凄まじい力を使ったのだ、消耗は必然、休息は必須……と、言えるか。――相分かった。サクヤ殿には、後日回復してから改めて感謝を述べるとしよう」
俺からの説明に納得し、そう言ってくるガランドルク。
「――しっかし、今回の騒動ではソウヤやサクヤを始めとした、イルシュバーン共和国の者に大分助けられた感じだな」
「うむ、たしかにな。さすがは共和国の精鋭と言った所か」
グレンの言葉に頷くガランドルク。
「それなのだが、ソウヤ君たちは単なる客人なのだよ。というよりもむしろ――」
と、そこまで言った所で、俺の方に視線を向けてくるアーヴィング。
この場には俺、アリーセ、ロゼ、アーヴィング、ガランドルク、グレンの6人しかおらず、他の者は皆それぞれ別の所にいる。
……つまり、アーヴィングはディアーナの話をしてはどうかと言いたいのだろう。
ふむ……。ま、ラウル伯爵は既に知っているっていうのもあるが、国家元首とその跡継ぎであるふたりには話しておいた方が色々と都合が良いのはたしかだな。
結論を出した俺は、アーヴィングに対して頷く。
「――むしろ、こちらの方がソウヤ君に協力している立場なのだよ」
そうガランドルクとグレンに対して言うアーヴィング。
それに対し、ガランドルクは腕を組み、怪訝な表情をしながら問う。
「うん? それはどういう事だ?」
「……まて。ソウヤ……まさか、お前まだデカい隠し玉を持っていたりするんか?」
俺に向かってそう問いかけてくるグレン。
「あー、まあ、デカいと言えばデカいな。……ここらへんに神聖な場所、霊力場みたいなのってあるか? 無ければ無いでどうにかするが」
と、そう言葉を返す俺。どうしても神聖な場所――陽の霊力に満ちた場所がないなら、鏑矢を使えばいいしな。
「社っていう、アカツキの聖堂を模したものならあるが……」
「ふむ……それが使えるかもしれないな」
グレンの言葉に可能性を感じた俺は、そう答える。
すると、それを聞いていたガランドルクが口を開く。
「あそこに入るには王――つまり、我の許可が必要だ。我が案内するとしよう」
……
…………
………………
……とまあそんなわけで、グレンとガランドルクに案内される形で、城の奥――回廊に囲まれた狭い中庭にある社へとやってきた。
これはまた……なんというか、日本の神社そのものといった感じの中庭と建物だな。鳥居こそないものの、神聖な雰囲気が漂っている。
そう感じただけはあり、オーブの方も良い感じに反応していた。
ふむ、どうやら問題なさそうだな。
という事で、ささっとディアーナを呼び出す俺。
と、その直後、グレンとガランドルクがそろって「「は?」」という言葉だけを口にして、硬直した。……唐突すぎるし、わからんではない。
「あれー? また協力者をー、増やしたんですかー?」
空間に入口――テレポータルが出現し、そこから顔ののぞかせたディアーナがそんな風に尋ねてくる。
「ええ。ディンベル獣王国の現国王と王子です」
ディアーナにそう説明し、グレンとガランドルクにも改めてディアーナの事を紹介する。
「「はあああああああああああああああっ!?」」
ふたりの驚きの声が重なりながら、中庭全体に響いた。
「……なんだか、以前の私たちを見ているみたいですね」
「ん、たしかに。うん、まあもっとも……あそこまで叫んだ記憶はないけど。うん」
アリーセとロゼがそんな事を言う。
ふたりのその言葉を聞きながら俺は、まあ……驚かれるのは、もういつもの事になりつつあるよなぁ……なんて事を思いながら、これまたいつもの事になりつつある説明と頼み事をするのだった――
徐々に『協力者』が増えていっていますね……(何)




