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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第48話 朔耶とシャルロッテ

「――とまあそんな感じで、助かったと思ったら実はディーの力でアストラル化していたんだよね。……しばらく実体化が上手く行かなくて、幽霊みたいな状態で彷徨(さまよ)う事になったけど」

 なんて事を言い、肩をすくめる朔耶。

 

「ふむ……。話が長かったが、要するに珠鈴や竜牙姫リリアと共に訪れた大森林で、ヴェヌ=ニクスみたいな奴に遭遇した、と」

「うん、そう。まあ、あれが何だったのかは未だにわからないけど」

 俺の言葉に頷き、そう言ってくる。

 まあ、そいつが何だったのかは、いずれ珠鈴に聞けばいいだろう。


「んで、一瞬の隙……と言えばいいのかわからんが、強烈な一撃を食らって沼に落っこちた、と。で、沼に沈んでいく最中に、偶然ディーという存在と意識が繋がって、古代の研究所に回収された……?」

「そうそう、そういう感じ。ディーに遭遇しなかったら、今この場にはいなかった事を考えると、感謝だね」

 たしかに、朔耶が死ななかったという点だけでみれば、ベスト……とまではいかないが、ベターな展開ではある。

 少なくとも俺としてはアストラル体だろうがなんだろうが、生きているだけで嬉しいからな。まあ、そんな事は口にしないけどな。

 

 ……しかし、だ。謎の魔物が現れ、不意の攻撃を食らって沼に落ち、更に消失しかけていたテレパシー能力が一時的に復活して得体のしれない存在と繋がって、沼の底にあった古代の研究所へ引っ張られ、アストラル化する……と、改めて並べてみると、正直わけがわからない。

 

「なんというか……超展開、極まりすぎだろ……」

 ほぼ無意識に、口をついて出たのはそんな言葉だった。

 

「ええっ!? そこでそのセリフ!?」

 驚愕……というか、ありえないと言わんばかりの表情で声を上げる朔耶。

 

「いや、だってなぁ……」

「私が人間じゃなくなっている事に関してこう……感想とかそういうのはないの!?」

 朔耶が、何故か怒りの口調でそんな事を言ってくる。いや、感想ってなんだよ……

 

「そう言われてもな……。アストラル体だろうがなんだろうが、朔耶は朔耶だし、それ以上もそれ以下もそれ以外もない」

「えぇ……。いや、うん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……嬉しいんだけど、なんかちょっと違う……。意を決して言った割に反応が軽いというか……」

 俺の言葉を聞き、これまた良くわからないが、肩を落とす朔耶。

 

「まあ……なんだ? 朔耶が生身の人間に戻りたいというのなら、その方法を探してやるさ。肉体からアストラルへと転じたのなら、その逆も出来るはずだしな」

 俺がそう言うと、朔耶はキョトンとした表情でこちらを見て、

「え、えっと……ありがとう?」

 そんな風に答えて首を傾げた。

 

「――あら、そのセリフ、私にも言って欲しいわね」

 唐突にそんな声が聞こえてくる。この声は……シャルロッテか。

 特に驚いている様子はないので、朔耶の体がアストラル化している事を知っているのだろう。

 

「シャル!?」

 朔耶がそう呼びかける。

 

「まったく……。ディーの力は使いすぎるなって、アーデルハイドから言われなかったかしら?」

 ため息混じりにそう言いながら、シャルロッテが錠剤を取り出す。

 ……ん? これは――

 

「それって、ナノアルケイン……絶霊紋の暴走対策の奴だよな?」

 俺が錠剤を見ながらシャルロッテにそう尋ねると、シャルロッテは、

「ええそうよ。アーデルハイドが言うには、朔耶の『コレ』も、霊力暴走の一種と考えられるらしいわ。なので、消滅さえしなければこれを服用する事で、元の状態にまで戻す事が出来るんですって。……まあ、私と違って飲んですぐに効果が発揮されるわけじゃなくて、そこそこ時間がかかるっぽいけど」

 と、そう答えながら朔耶に赤い錠剤――ナノアルケインの錠剤を手渡した。

 うん? シャルロッテが自身で服用する時の数の10倍くらいあるな……。こんなに必要なのか?

 

「ありがとう。でも、シャルの手持ちは大丈夫なの?」

「まあ……ギリギリって所ね。でも、そんな事はどうでもいいわ。喫緊の問題はサクヤの方だし。ほら、さっさと飲みなさい」

 朔耶の問いかけに対して腕を組みながらそう返し、服用を促すシャルロッテ。

 

「あ、うん」

 朔耶が頷き、ナノアルケインを飲む。

 数が多いので1回でとはいかないが。

 

「……そういえば、さっき『そのセリフ、私にも言って欲しい』とか言ってたけど、あれは?」

 俺は、ふと思い出した事をシャルロッテに尋ねる。


「えっ!?」

 シャルロッテは口に手を当てて驚きの表情を見せた後、

「……あー、えーっと……その……あれは……冗談?」

 頬を掻き、目を泳がせながら、そんな風に言ってきた。

 

「なんで疑問形なんだよ……」

 呆れながら両手を広げ首を左右に振る俺。

 と、その時、ナノアルケインを持ったまま硬直している朔耶が視界の隅に入った。

 

「………………」


「朔耶? どうかしたのか?」

「え? あ、ううん、な、なんでもない。ただ、ちょっと数が多くて飲み込むのが面倒になってきただけ」

 俺の問いに慌てた様子でそう言ってナノアルケインを飲み込む朔耶。

 そんな感じではなかったような気がするが……まあ、いいか。無理に聞く程の事でもないだろう。

 

「ま、まあ、冗談の事はさておき……」

 何故か赤面していたシャルロッテがそう言ってコホンと咳払いをする。

 そして、一呼吸置いてから腕を組んで言葉を紡ぐ。

「フード付きの服が欲しいわね。じゃないと、アストラルによる実体化が安定するまで半透明状態のままだから、人に見られたら幽霊だと思われてしまうわ」


「アリーセに見つかったら、浄化されかねないな」

「あー、うん、ターンアンデッドボトルってアストラル体にも有効だからね……」

 俺の言葉に額を抑えてうつむきがちに言う朔耶。

 

「ああ、だからディーと融合した時に、ターンアンデッドボトルを構えたアリーセに対して、あんなに慌ててたのか」

「うんまあ、そういう事。パニクって投げられたら、かなり痛いし……!」

 痛いで済むのか……? まあ、1つや2つなら大丈夫なのだろう、多分。


「で、アリーセ対策ってわけでもないが、フード付きの服か……。どこかで調達してくるしかなさそうだが、どこで調達したものか……」

 この城にあればいいんだが……と、顎に手を当てて考えていると、

「あ、一応、ローディアス大陸で使った防寒具ならまだ持ってるよ。あれ、フードもついてるし、丁度いいんじゃないかな」

 そう言いながら、自身の次元鞄から防寒具を取り出し、それを着る朔耶。


 ああ、たしかにそれがあったな。

 ……ただ、このディンベルはフォーリアと違って、かなり暖かい気候なんだが……

 

「それ、暑くないのか?」

「うーん……アストラルが不安定だからか、そこまで暑さを感じないかな」

 俺の問いかけに対し、朔耶はフードを目深に被りながら、そんな風に返してきた。

 そういうものなのか……? いや、当の本人がそう言うのなら、そうなのだろうが。


「ま、とりあえずはそれでいいんじゃないかしら? 以前ほど実体化に時間はかからないでしょうし」

 そう言ったシャルロッテに対し、朔耶が頷く。

「あー、うん、多分2日もあれば元に戻るはずだよ」

 

「以前? ああ、そういえばディーの力でアストラル化した直後は、今よりも更に幽霊に近い状態だったんだっけな。それってどんくらいの期間だったんだ?」

 そう俺が尋ねると、朔耶はこめかみに指を当てて少し考えた後、

「んー、正確に数えていないけど、少なくとも3~4ヶ月くらいはかかったかな? いやぁ、誰にも認識されないで困ったよ……」

 なんて事を言ってきた。


「結構長いな……。って事は、実体化が安定してからまだ2~3ヶ月くらいなのか」

「そうそう、アーデルハイドさんに出会って、あの人のお陰で実体化が上手くいったんだ」

 ああなるほど、だからあの人の所に居たんだな。

 

「へぇ、そうなのか……。でもどうやって認識されたんだ?」

「えっとね、アーデルハイドさんがちょうど『インスペクション・アナライザー』を使っていた所に、偶然私が通りかかって、それで気づいたんだって。まあ、アストラルまで視えるのは想定外だったっぽいけど」

 俺の疑問に対し、そんな風に答える朔耶。

 

「なるほど……あれって、アストラルも捉えられるのか」

 まあ、想定外みたいだから、あの道具に引っかかる要素がアストラルの中に含まれていて、それに反応したって感じだろうが。

 

「何気に目に見えないものを色々と捉えられるのよね、あれって。私が普段隠している絶霊紋も、あれで覗けば普通に視えるし」

 絶霊紋のあるあたりに、反対側の手を添えながらそう言ってくるシャルロッテ。

 そして、ふと何かを思い出したかのような表情をして、

「――あ、そういえば視えるで思い出したわ。皆がサクヤの事を探していたわよ」

 と、そんな風に言ってきた。


「え? なんで?」

 シャルロッテの言葉に、理由がさっぱり分からず首を傾げる朔耶。


「一番の功労者だからじゃないかしら?」

「ああ、たしかにそうだな」

 シャルロッテの推測に同意して頷く俺。

 

「え、えーっと……。こ、この姿で人前に出るのはちょっと……」

 困惑した声で呟くように言う朔耶。まあ、そうだろうな。

 

「でしょうねぇ……。そうするとここは、力の使いすぎで疲労困憊になって宿に先に戻って休んでいる……とかそんな感じにしておいて、城からさっさと離脱してしまうのが良さそうね」

 シャルロッテはそこで一度言葉を区切ると、俺の方を向いて、

「――ソウヤ、例のアポートだかアスポートだかで、良い感じに城外まで飛ばせないかしら?」

 と、そんな風に問いかけてきた。

 

「さすがにそんな長距離を飛ばせたりはしないが……まあ、城壁の外に飛ばすくらいなら、城壁に登ればいけそうだな」

 俺は城壁を見上げながら、そう言葉を返す。


「それじゃあ、それでいきましょうか。ちょうどこの近くに城壁の上に行ける場所があるわ。とりあえず行ってみましょ」

 そう告げてきたシャルロッテの案内で、俺と朔耶は城壁の上へと向かうのだった――

本編に出て来る事は全くないのですが、設定的にはターンアンデッドボトルを10本くらい使うと朔耶は消滅してしまいます。

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