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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第47話異伝3 ヴェヌ=ニクス

47話異伝ラストです。

<Side:Misuzu>

 っ!?

 急ぎ、私はテレポーテーションで朔耶とリリアのもとへと移動する。

 視界が切り替わり、水道橋――私の居た場所に激突する寸前の岩が見えた。

 

「敵!? でも、どこに!?」

 朔耶が周囲を見回しながら声を上げる。

 と、その直後、岩が水道橋に激突し、粉々になった。……結晶の方が。

 

「さすがに頑丈ですわね……。調べる前に壊れたりしたらどうしたものかと思ったものの、これなら一安心ですわ」

 と、リリアがそんな事を言って安堵する。……安堵するのはそっちなのか?

 

「敵の姿が見えないのはどういう事だ……?」

 私が疑問を口にした瞬間、朔耶の声が響く。

「――《金石の千礫矢》っ!」

 

 朔耶が発動した魔法によって、無数の石礫が空中へと放たれる。

 すると、その石礫の半分程度が、なにもない空間にぶつかって爆ぜた。

 ……なるほど、そういう事か。

 

「そこかっ!」

 私はテレポーテーションでその場へと移動し、槍を振るう。

 

「グギィッ!?」

 なにかに命中し、そいつの声が響いた。

 

 よくわからんが、ここにいるのは間違いないっ! ならば、攻め立てるっ!

 私は即座に槍を連続で振るい、そして突き刺す。

 

「ギギャァァアァァアァァアァァッ!?!?」

 そんな痛みに苦しむ声が響くと同時に、風圧を横から感じた。

 そして、すぐに重い衝撃が槍を伝わって私へと届く。

 

「ぐぅっ!?」

 脇腹に一撃を食らい、槍から手が離れ、そのまま吹き飛ばされる私。

 

 あっつ!?

 強烈な痛みを更に感じる私。

 と、攻撃を食らった場所から青い炎が燃え上がった。

 

 青い炎は赤い炎よりもまずい……っ!

 蓮司から聞いた炎の色の話を思い出し、テレポーテーションの再使用が可能になる感覚が走ると同時に、私は地上へとテレポーテーションする。

 そしてそのまま地面を転がり、どうにか青い炎を消し止めた。


「げふっ、ごふっ」

 痛みに咳き込みながら立ち上が……ろうとした所で、全身にさらなる激痛が走り、膝をつく。

 ぐぅ……っ! どうやら結構大きなダメージだったようだ……青い炎に晒され、露出した皮膚――いや、脇腹の肉が溶けていて非常にまずい状態だった。

 

「珠鈴っ!?」

 朔耶が慌てた様子でこちらに駆け寄ってくると、ポシェット型の次元鞄から回復薬を取り出し、私にかけてくる。

 と、即座に痛みが引き、動画の逆再生の如き感じで溶けた部分が再生されていく。

 ……ふぅ、さすがは高い回復薬だけはあるな。

 

「すまない、助かった」

 私は礼を述べて立ち上がる。

 

 と、光り輝く奴の姿が見えるようになっていた。

 そいつは、鳳凰、朱雀、フェニックス……そんな名が頭に浮かんでくるような見た目を持つ巨大な炎の鳥だった。

 ただし、異様に長い尻尾が5本もあるが。

 

 ……なるほど、私はあれを叩き込まれたのか。あのダメージも納得だ。

 というより、あの程度で済んで良かったというべきか。

 テレポーテーションを主に使って戦う関係上、高所から地面に着地した際に、その衝撃を緩和出来るよう、物理耐性の高い防御魔法を付与しておいたのが功を奏したようだ。

 まあ、魔法耐性側はいまいちなので、炎のダメージをまともに食らってしまったが。


 なんて事を考えていると、

「あの姿……イルス神話に登場する凶鳥、ヴェヌ=ニクスに近いですわね」

 そう言いながらリリアは扇を構えると、凶鳥を見据えた。

 

「ヴェヌ=ニクス?」

 首をかしげる朔耶に対し、リリアが凶鳥から目を逸らさずに、

「神話によると……青い炎を操り、大樹海を荒野に変えた……などと云われている、化け物――異界の魔物、ですわね。まあ、あれは青い炎以外にオレンジ色の結晶やら、光を屈折させて透明化したりやらといった事まで出来るようですけれど」

 そう説明する。……なるほど、そういう存在か。

 

 神話の存在ほど炎の威力が高いわけではないのが救いだと言うべきか。

 もし、あの凶鳥に大樹海を荒野に変えるほどの力があったのなら、私は既に焼き尽くされて蒸発していたであろうからな。


 そうこうしている内に凶鳥が嘶き、青い火球を連続で放ってきた。

 

「――《玄宵の護法衣》っ!」

 朔耶がそう言い放った瞬間、赤黒いドーム状の障壁が出現し、青い火球を全て防ぐ。

 おお! これは凄いな!

 

「さすがサクヤ、ナイスですわ。……それにしても、空を飛んでいる相手は攻撃が当てづらくて厄介ですわね」

「たしかにな。……弓でも持ってくるべきだったか」

 私がリリアの言葉に頷き、そう呟くように言うと、

「一応、魔法で無理矢理引き摺り下ろす事も出来るよ。……あんまりもたないけど」

 なんて事を言ってくる朔耶。

 

「本当ですの!?」

「あ、え、は、はい。凄い範囲を絞った重力増幅魔法を使えばいいだけ……なんで」

 食い気味に問うリリアに、朔耶が後ずさりながらそう返す。

 

「なら頼む。それで抑え込んでいる間に一気にケリをつける」

「うん、わかった。ふたりなら多分瞬殺出来そうだしね。――とりあえず、魔法発動まで注意をそらしておいて」

 私の言葉に朔耶が頷き、そう言ってくる。

 

「ああ、任せておけ!」

「きっちりやってやりますわ!」

 

                    ◆


<Side:Sakuya>

「――《玄戒の重縛陣》っ!」

 珠鈴とリリアさんのお陰で、発動までに時間のかかる魔法の発動に難なく成功っ! よーしっ!

 

「ギギイイッ!?」

 唐突に地面に引っ張られて驚きと焦りの入り混じったような声を上げるフェニックスもどき。

 

「さすがだな!」

「ええ! 仕掛けますわよ!」

 珠鈴とリリアさんのそんな声が聞こえ、そちらに視線を向けると、左右に散開してフェニックスもどきに迫るふたりの姿があった。

 

 まさに怒涛という言葉がピッタリな程の猛攻撃を左右から叩き込むふたり。

 対してフェニックスもどきは、私の魔法が生み出す圧倒的な重力で身動きひとつ出来ずに、苦悶の声を上げ続けるのみだった。

 

 このまま押し切れそう!

 ――そう思った直後、ドンッと強烈な圧力が真正面からかかる。


 ……え?

 

 と、その直後、私の体はいとも簡単に吹き飛ばされ、それと同時に私のいた場所で、ガシャァンという激しい破砕音と共に、オレンジ色の結晶が地面に散らばった。

 

 結晶を……透明にして……飛ばして、いた?

 

 沼まで吹き飛ばされた私は、そのまま落下。

 ドプンという音と共に、沼に体が浸かる。

 

 同時に襲ってきた凄まじい激痛。肋骨が何本か折れた気がする。

「……っ!? ……っ!」

 痛みに叫びを上げたつもりが、声にならなかった。

 

 い、いそいで戻ら……ないと。

 そう思ったが体が動かない。……ダメージが大きすぎ……た?

 どうやら、肋骨以外にも骨が折れていたらしい。

 

 急な衝撃を受けたせいで麻痺していたらしい痛覚が戻り始めたのか、全身の痛みが増していく。

 そして、それに併せるかの如く、みるみるうちに沼へと沈んでいく私の体。

 

 し、沈むのが早すぎる……っ! 

 死者が招くとかなんとか、そんな感じの事をリリアさんが言ってたけど……これがそう言われている理由なんじゃ……

 

 なんて事を思っている間にも、どんどん沈んでいく。

 しかし、抜け出そうにも体は全く動かない。

 

 珠鈴とリリアさんが私を呼ぶ声が聴こえる。

 答えようと思うも、口が動かない。

 そして、沼に全てが沈む。――何も見えない。

 

 あのフェニックスもどき、どうなったんだろう……?

 まあ、大分弱っている感じだったし、あのふたりならきっと勝てるよね……

 

 息が出来ない……

 苦しい。しかし、その代わりに痛みは薄らいでいく。

 酸素不足で痛みを認識出来なくなってきたんだろうか?


 でも、まだ苦しい。

 でも、それすらなくなったらその瞬間、終わり。

 でも、そうは言っても抗う手段はない。

 でも、抗わなければ、終わり。

 でも、抗えない。

 

 ああ……『でも』ばっかりの堂々巡りだなぁ。

 などというどうでもいい事を考えている間にも、刻々と死が近づいてくるのが良く分かる。

 

 こんな所で死ぬわけにはいかないのに……

 ソー兄が生きているかもしれないのに……

 

 悲しみと絶望が思考を支配したその直後、

「……イノチ、キエル。キョゼツ……? ソレ、ネガイ?」

 そんな声が頭に響く。

 

 死の間際の幻聴? 

 違う。これは……テレパシー? 誰かと繋がった……?

 

 ……ネガイ。


 ネガイって? 

 

 ワタシハ、アナタノ、ネガイヲキク。


 聞く?


 キキ、カナエル。


 私は……心の底から願う……


 ネガイ、ツヨク。ツヨク、ネガウ。


 私は……死ねない! 死ぬわけにはいかない! なんとしても生きる!

 

 ネガイ、カナエル。イノチ、ツナギトメル――

 

 その声が頭の中に響いた直後、苦しさが消え、同時に光り輝くなにかが私を包み込んだ……

 

                    ◆


「……?」

 緑色のガラス越しに、金属製の天井と床が見える。

 ……私は、沼に沈んだはず……じゃ?


「オ目覚メですか? あすとらるこんばーと、実行中デスノデ、モウ少シオ待チクダサイ」

 そんな声が聴こえてくる。


 それは、さっき唐突に発揮されたテレパシーで頭に響いてきた声。

 若干聞き取りづらいものの、さっきの片言の言葉に比べると段違いに言っている事がわかりやすい。


 その声の主はどんななのか見たいと思い、顔を動かそうとするも動かない。

 それどころか、指1つ動かなかった。


「ここ……は?」

 口はどうにか動いた。

 

「ココハくろにあ・えいん地下研究所。貴方ガ、7番出口ノ上ニ居タノデ、出口ヲ、おーぷんシテ、ドウニカ貴方ヲ回収スル事ガ、出来マシタ」

 くろ……にあ、えいん、地下研究所?

 なんだか良くわからないけど、どうやら沼の底の更に下に研究所があったらしい。

 

「上部とらくたーしすてむノ異常ガ、功ヲ奏シタト言エマス。異常ナ状態デアッタガタメニ、底マデノ到達時間ガ短時間デ済ミマシタ」

 なんて事を言ってくる謎の声。ふーん、なるほどねぇ。

 ……って、あれ? それって、その異常のせいで沼に引き摺り込まれたんじゃ……?

 

 そう疑問に思った所で、全身に急速に活力が戻ってくる。

 と、同時に緑色のガラスが消え、目の前に私よりも小さく……というより、子供よりも小さく、半透明で強い光を放っているよくわからない何かが視界に入ってくる。

 今までは緑色のガラスのせいで見えて居なかったらしい。

 

「あすとらるこんばーとガ、完了シマシタ。コレデ、モウ大丈夫デス。タダ……存在ガ固着シテイナイタメ、希薄ニナッテシマッテイマス」

 そんな事を言ってきたが、いまいち良くわからない。

 

 はて? と思いながら右手を顎へと当てた所で気づく。

 自身の腕が半透明になっている事に。

 

「な、な、な、なにこれぇぇぇぇぇっ!?!?」

変な終わり方ですが、これで今回の異伝は終わりです。続きません。

しかし、思ったよりも長引いてしまいました……

もう少しコンパクトに纏まると思ったのですが……


ちなみに展開が大分ぶっ飛んでいるのは、朔耶の話だからです。

もっともその辺にも理由があるのですが、そこはまたいずれどこかで。

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