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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第45話[Dual Site] 会談 <後編>

気づいたら話が大分長くなっていました……

<Side:Charlotte>

 乾杯に使われたお酒に、毒が入っていた事が控えの間に伝えられる。

 しかも、お酒を飲んだのはソウヤらしい。

 

「ちょっ!? なんでソー兄が毒酒を飲んでるの!? アリーセ、抗毒薬ってソー兄にも飲ませていたの!?」

「の、飲ませていません! というより、飲んでいたとしても、ソルム・ネクトルの果汁が混ざった時点で効きませんっ!」

 慌てるサクヤと同じくらい慌てるアリーセ。

 

「――お酒の毒が変化した事について、ソウヤに伝えたのよね? だったら、ただ意味もなく飲んだわけじゃないと思うわよ」

 私は冷静に告げる。周囲が慌てていると逆に冷静になる、とはよく言ったものね。

 

「う、うん、遅効性から即効性に変化したとか、そういう詳しい事は伝えられてないけど、毒酒に想定外の問題が発生した事だけは伝えたよ……」

「なら、大丈夫なんじゃない? 即効性の毒を飲んだのに、『死んだ』とは伝えられていないのだから」

 サクヤの話を聞き、兵士から伝えられた内容を思い出しながら答える私。

 

「た、たしかにその通りですね! 王家のプライベートエリアへ運ばれたとの事なので、急いで向かいましょう!」

「立ち入りの許可は出ているです。急ぐのです!」

 アリーセとクーレンティルナがそう言って、駆け出していく。

 

 それに続くサクヤに対して私は、

「私はロゼを探してから行くわ!」

 と、言葉を投げかけた。


                    ◆


<Side:Souya>

 ――王家のプライベートエリアにある客間のドアが勢い良く開けられ、アリーセ、クー、朔耶が飛び込んでくる。

 

「ソー兄っ! ……って、あれ?」

 俺の名を呼ぶと同時に足を止め、不思議そうな表情で俺を見て来る朔耶。

 

「……あ、あの毒を飲んでなんともなかったんですかっ?」

 そう問いかけてくるアリーセと、その横でウンウンと首を縦に振るクー。

 

「あー、あれは月暈の徒(げつうんのと)の奴らにも伝わるように、わざと毒を飲んで倒れたという伝令を出しただけだ」

 と、俺が伝えると3人は安堵の表情を見せた後、心配したと口々に言ってくる。

 3人とも、怒気がちょっと混じっているな……


「……心配かけたようですまん。急な事で皆に本当のことを伝える手段がなかったからな……」

 頬を掻きながらそう俺が告げると、

「まあ、『酒を飲んで倒れた』っていう所は本当だけどね。演技だったけど」

 という補足を口にするアーヴィング。


「いえ、それだと語弊があります。俺は『酒なんて一滴も飲んでいない』ですし」

 アーヴィングの言葉の誤りを正すと、

「……ど、どういう事なのです?」

 俺の言葉の意味を理解出来なかったらしいクーがそう問いかけてくる。

 というか、朔耶とアリーセも理解出来ていなさそうだ。

 

「毒酒の入った杯を、左手から右手に移すフリをして、床にアスポートしたんだ。で、即座に今度は右手にお盆から別の杯をアポートして、毒を飲んで倒れる演技をした……とまあ、そういう事だ。ついでに倒れた後は床にアスポートした杯と再び入れ替えておいたからか、上手く月暈の徒(げつうんのと)の息のかかった奴は勘違いしてくれたようだ」

 俺は朔耶たちにあの時の流れを説明する。

 

「ったく、あの土壇場で手品と演技をするなんざ、さすがに想定外すぎるってモンだ。俺も完全に騙されちまって慌てたぜ」

 そう言ってグレンが肩をすくめる。

 アーヴィングも言葉にはしないが、同意だと言わんばかりに首を縦に振った。

 

「そこはすまんとしか言えないな。あの場ではああするしかなかったし……。ってか、手品も演技も5~6年くらい前に演劇でやったのが最初で最後なんだが、割と上手くいったな。『コツ』ってのは割と忘れないもんだ」

 俺が昔の事を思い出しながらそう言うと、朔耶が額に手を当てながら頭を振る。

「そういえば、中学の時にやったっけね……『マジシャンの事件簿』っていう演劇」


「きゅぴぴっ」

 アルが朔耶の肩に止まったかと思うと、

「え? 演技自体は微妙だった?」

 そう口にする朔耶。


「むう、アルにそう見られるようじゃまだまだだったか」

 なかなか評価が厳しいな、アルは。


「あー、まあ……倒れ方は若干不自然だったかもな、今思うと」

「とはいえ、あの時は普通に驚いたがな。――まあ、お陰で毒を飲まずに済んだが」

 グレンとガランドルクがそんな事を言ってくる。

 ガランドルクは毒を飲まずに済んだと言っているが、毒が入っていたのはおそらくアーヴィングが飲む予定だった酒だけだろう。


「はぁ……まったく、私たちもすっかり騙されたし驚いたよ。騙されなかったのは、シャルくらいじゃないかな……? 驚きはしたと思うけど」

 

「そうですね……。シャルロッテさんだけは冷静に『問題ない』と仰っていましたし」

 アリーセが朔耶の言葉に頷き、そんな同意の言葉を発する。

 ふむ、シャルロッテは冷静に行動したらしい。

 さすがはシャルロッテ、というべきなのだろうか……?


「それにしても、毒酒はどういう経路で城に運び込まれたのでしょうね?」

 カリンカが当然な疑問を口にする。


「それに関しては、ギデオンが必ず毒酒を運び込んだ者を見つけ出すと息巻いていたゆえ、近い内に何か進展があるはずだ」

「まあ、間違いなく月暈の徒(げつうんのと)が絡んでいるだろうから、結構厄介そうだけどな」

 ガランドルクの言葉に肩をすくめて答えるグレン。


「それなんだけど……シャルの話だと、月暈の徒(げつうんのと)と思われる人が、ソルム・ネクトルの果汁が酒に入っている事に驚いていたみたいなんだよね」

 という朔耶の言葉を聞き、アーヴィングが少し考えてから、

「……まあ、ギデオン殿がソルム・ネクトルを酒に混ぜる方が、口当たりが良いと考えるなんて思っていなかったんだろうねぇ」

 そんな風に言った。


「なるほどな。月暈の徒(げつうんのと)にも想定外だった……つーわけか」

 グレンが腕を組みながらそう言うと、カリンカがこめかみに人差し指をあてながら、

「シャルロッテさんが偶然、その場面に出くわしていなかったら危険でしたね」

 と、グレンを言葉を引き継ぐようにして言ってくる。

 

「――あれ? そのシャルロッテさんはどこに行ったです?」

 シャルロッテの姿が見えない事を確認し、疑問を口にするクー。

 

「あ、なんかロゼを探してから来るって言ってたよ」

「そういえば、ロゼも控えの間から出ていったまま戻ってきていませんでしたね」

 朔耶とアリーセがそんな事を言う。

 

 ……ふーむ、シャルロッテもロゼも、いったいどこへ……?


                    ◆


<Side:Charlotte>

「――どこに行ったのかと思ったら、こんな所にいたのね」

 私は庭園の片隅で発見したロゼに、そう声をかける。

 

「ん、控えの間に戻ろうとした所で、この男が慌てて逃げるように走っていくのが見えたから、追ってきた。うん」

「で、追いついたと思ったら殺されていた、と」

 ロゼの言葉にそう返しつつ、死体を見る。それは先程みたばかりの顔。

 

「……あの時、厨房で怒鳴っていた奴ね」

「ん? 厨房?」

 私の独り言に対し、疑問を投げかけてくるロゼ。

 

「んー、それについて話す前に……連中を片付けないと駄目そうよ?」

 そう告げながら刀を鞘から抜き放つ私。

 

「……うん、そうらしい。まったくもって、面倒。うん」

 なんて心底面倒そうに言いつつも、ロゼが円月輪を構える。

 

 でも、殺されたのが月暈の徒(げつうんのと)なら、あいつらはなんだというの?

 それとも、殺されたこの男が月暈の徒(げつうんのと)ではないのかしら?

 うーん……わけがわからなくなってきたわねぇ……

 

 そんな事を考えていると、周囲から殺気を浴びせられた。

 しょうがないわねぇ……まったく。

 

 心中でため息をついた所でロゼが、

「……殺気全開。うん、私たちを殺す気満々……と。なら、先手必勝っ!」

 そんな事を言い放ちつつ円月輪を投擲(とうてき)した。

 

「なっ!? ――ああぁぁああぁぁっ!?」

 円月輪がカーブして襲ってくる事を想定していなかったのか、木の裏に隠れているつもりになっていたらしい何者か――声からすると、性別は女だろう――が、円月輪に斬り裂かれ、断末魔の叫びを上げた。

 

 驚いている暇があったら回避するなり防御するなり試みればいいのに……

 どうやら戦闘に関する技術も経験もあまりないみたいね。

 ま、気配を消さずに姿だけ隠している時点で、大した事ないとは思っていたけど。

 

「ひとり始末完了、うん」

「正々堂々不意打ちって感じね、それ」

 呆れ気味にそう言うと、円月輪を投げて空いた手でVサインをしながら、

「正々堂々騙し討ちでもオッケー、うん」

 なんて事を言い、そのまま戻ってきた円月輪をキャッチするロゼ。


 直後、私たちを取り囲むように兵士の格好をした男女、給仕服姿の女、庭師風の男など、様々な格好をした者たちが次々に姿を見せる。それはもうわらわらと。

 ええっと……10人以上はいるわよね……これ。ちょっと多すぎじゃないかしら?

 いくら雑魚だとはいえ、一斉にかかってこられるたりすると、さすがに面倒だわ。

 

「一体どれだけ城内に潜り込んでたのよ……まったく」

 周囲を見回しつつそう呟くように言うと、

「ん、同感。……とりあえず、囲まれたままだとマズい、うん。一点突破で城内まで走るのが良さそう。うん」

 と、ロゼが方針について話してくる。


「そうね、さすがに城内に入れば誰か気づくだろうし、城内の通路ならそこまで広いわけじゃないから、同時に相手にする数も減らせるわね」

 頷いてそう答えると、無言でこちらの様子を伺っている連中の配置を素早く確認、突破する地点を見定める。

 と、そこで庭師風の男がクロスボウを構えた。――ソーサリークロスボウッ!?


「っ!」

 私は刀に全力で霊力を込める。

 そして、私と同じくソーサリークロスボウの存在に気づいたロゼもまた、円月輪を投げていた。

 

 庭師風の男がトリガーを引き、エナジーボルトを射出する。

 しかし、私が振り下ろした刀……正確に言うなら、霊力の刃によってエナジーボルトは消し飛ばされ、その身もロゼの投げた円月輪に引き裂かれ、あっさりと地に伏す庭師風の男。

 その庭師風の男の末路に動揺する取り囲む連中。


「今よ!」

「ん!」


 私とロゼは加速魔法を使い、庭師風の男が居た方へと超高速で駆ける。

 進路上の邪魔な給仕風の女を斬り、近くにいた兵士の格好をした女も斬る。

 刃こぼれしているせいか、若干切れ味が悪い気もするけど、まあ許容範囲ね。

 

 左右から、斧を持ったさっきとは別の庭師風の男と、ナイフを持った侍従姿の女が迫る。

 まずは……っ!

 姿勢を低くして、ナイフを持った侍従姿の女に向かって地面を滑るようにして駆け、女が慌てて後方へ飛び退こうするその隙を突き、下から上へと刀を振るう。

 

 しかし、その攻撃は女に届かない。

 

 刀が空を切った事に安堵の顔を浮かべる女。……でも、それが命取りなのよ?

 私は刀を振り上げた時の2倍の速度で、今度は振り下ろす。

 

「え?」

 疑問を口にする女。そして、それがその女の最後の言葉。

 

 初撃がフェイクだと理解出来なかった時点で、この結末は確定していたのよ。

 あと、ナイフは手に持ったままじゃなくて、即座に投げるべきだったわね。

 なんて事を心中で呟きつつ、今度は斧を持った庭師風の男へと向き直る。

 

 刹那、私を狙って斧を振り下ろそうとしていた庭師風の男が、ロゼの円月輪で首を切断され、血飛沫を上げながら私の方へと倒れ込んでくる。

 

「わ、ぷっ!」

 ……ちょっとロゼ? 血糊が髪と服にべっちょりついたんだけど?

 と、抗議しようとしたその瞬間、ロゼに向かって短槍を投げようとしている執事服の男が視界に入った。

 ふぅん、こっちは少し出来るわね。……ま、少しだけだけどっ!

 

「ふっ!」

 私は息を短く吐きながら、縦、横と刀を疾く振るい、赤い十字の衝撃波を発生させ、飛ばす。

 

「ぐああぁっ!」

 衝撃波をまともに食らった男が短剣を地面に落としながら吹き飛び、近くにあった池へと落下。

 

 それを確認しつつ改めてロゼの方を見ると、ロゼは全身真っ赤に染まっていた。うわぁ……返り血浴びすぎ……

 まあ、私のように上手く返り血を避けているならともかく、何も考えずに円月輪を敵が密集している中で振り回していればそうなるわよね……。相手は人間だし……

 

 というか、敵が多すぎるのよ!

 明らかにさっきよりも増えているし、どうなっているのよっ! これっ!

 

 そんなわけで……徐々に城の方へと近づいてはいるものの、敵の数が増えているせいで、包囲網を狭められつつあったりする私とロゼ。

 

 むむむぅ……。このままだとちょーっとまずいわね……

 

 そう思った直後、敵の一角がどこからともなく飛んできた巨大な火球によって消し飛んだ。文字通り、跡形もなく。

 

 そして、

「奴らを掃討する!」

 そんな声が響き渡った――

シャルロッテもロゼも近接戦闘能力が高すぎるので、多数の敵に囲まれていても余裕綽々といった感じです。

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