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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第10話 朝のアルミナの町

 ――しばしの休憩をとって町へと戻ってくると、丁度、宿への通り道にある服のマークが描かれた看板が掲げられている店――ウェルナット装備品店とやらが開く所だったので、着替えでも買っておくかと思い、立ち寄ってみる。

 

 入ってみて気づいたが、正確には服屋ではなく、武具や衣類などを合わせて扱っている店だったようだ。ああ……だから、武器屋でも服屋でもなく『装備品店』という名称だったのか。

 

 店内を見回してみると、入口から見て左側が主に武器で、右側が主に衣類や装飾品などの小物、といった感じで分けられていた。

 なお、鎧の類は申し訳程度に店内の隅に幾つか置かれている程度で、あとはほとんど普通の服だ。

 そしてそれらの服も、ディアーナの言う通り、現代の地球の物との見た目の差は皆無だと言って良いくらいだった。

 

 まあもっとも、素材の方は『鋼蜘蛛の糸』だの『氷狼の革』だのと、聞いた事のない名前の物が多かったが……。

 っていうか、どう考えてもこれってモンスター――正確に言うなら害獣だな――の素材だよなぁ……。こういう所はファンタジー世界らしい気もする。


 とりあえず、適当に幾つか衣類を見繕い、支払いカウンターにいるウサギ耳の店員の所へ持っていくと、そのカウンターの上に、呪紋鋼製投げナイフ100本セットと書かれた箱が置かれているのが目に入った。

 投げナイフ100本かぁ……。サイコキネシスでまとめて飛ばせば、シューティングゲームの弾幕のような使い方が出来そうな気もするが、まあ……結構な値段だし、とりあえず今はいいか。

 

 俺はそう結論づけて支払いを済ませる。すると、ウサギ耳の店員から、

「この店で売られている服は防御魔法が付与されていないので、必要なら別途魔煌具屋で付与してくださいね」

 と、そんな事を言われた。

 

 詳しく聞いてみると、どうやら防御魔法は魔煌具屋という店で付与出来るらしい。

 そして、その店はこの街だと、駅の近くに1軒だけあるのだとか。

 ふむ……朝飯を食ったら行ってみるとするかな。

 

                       ◆


 朝飯を求め、宿の方に向かって歩いていると、ちょうど宿から出て来たアリーセと目が合った。

「あ、ソウヤさん! おはようございます!」

 そう言いながら頭を下げてくるアリーセ。国のお偉いさんの娘だけあって、相変わらず礼儀正しい。

 

「ああ、おはよう」

 俺がそう短く返事をすると、アリーセが顔を上げて尋ねてくる。

「ソウヤさん、どこかへ出かけていたのですか? 先程ソウヤさんの部屋へ伺ったら、カギがかかっていたので……」

「それはすまなかったな。ちょっと近くの荒野まで行って、魔法の試し撃ちをしてきたんだ」

「魔法の試し撃ち……ですか?」

「そう。あそこの荒野は魔法の試し撃ちをするのに、ちょうど良さそうだったからな」

「なるほど……たしかにそうですね」

 納得したらしく、ウンウンと2回頷くアリーセ。

 

「アリーセの方は、今からどこかへ出かけるのか?」

「あ、私は朝食を食べに行こうかと。宿の食堂でもいいんですけど、この先に雑誌で取り上げられた美味しいベーカリーカフェがあるんですよ。よかったらソウヤさんも一緒にどうですか?」

 と、朝食に誘ってくるアリーセ。

 

 少し聞きたい事があったし、ちょうどいいな。

「なら、ご相伴にあずかるとしようかな」

「はい! それでは行きましょうか!」

 そう言って満面の笑みを浮かべるアリーセの姿に、一瞬、朔耶の顔が重なり、ちょっとドキッとした。……あの夢のせいだな、きっと。


                  ◆


 目的のベーカリーカフェにやってきた俺たちは、空いている席に座り、料理の注文を済ませる。

「そういえばソウヤさん、討獣士ギルドにはいつ行かれますか?」

 アリーセが姿勢を正してそう問いかけてくる。

「あ、それは俺も聞きたかったんだ。朝飯を食ったら、すぐに行くか? 俺的には、魔煌具屋に行ってからにしようと思っていたんだけど……」

「魔煌具屋……ですか?」

 首を傾げるアリーセに対し、俺は頷き、

「ああ。ちょっと防御魔法の付与をしてもらおうと思ってな」

 と、そう言いながら服をつまむ。

 

「なるほど。それでしたらそちらが先で良いのではないでしょうか。ここからだとギルドへ行くよりも近いですし」

「駅前にあるって話だったな」

「そうですね。あ、私も一緒に行っていいですか? このアルミナの魔煌技師さんは大工房の技師さんに匹敵するかそれ以上であると、ルクストリアで噂になっているくらいですので、一度会ってみたかったんですよ」

 と、そんな事を言ってくるアリーセ。

 

 大工房とやらが良くわからないが、とりあえず腕の良い技師がいる場所のようだな。

 てことはつまり、それくらい優れた腕前の持ち主だって事だな。どんな人なのか、会うのがちょっと楽しみになってきたぞ。

 

「ああ、構わないぞ。俺も駅前ってのはわかってるけど、詳しい場所はいまいち分からないから案内してくれると助かるしな」

「ありがとうございます! 案内もお任せください!」

 うーん、さっきもそうだったけど、実にかわいい笑顔だ。

 ……って、なんだか思考が夢に引っ張られてるぞ……俺。

 

「? そんなにじっとこちらを見つめて、どうかしたんですか?」

 怪訝な表情でこちらに顔を近づけてくるアリーセ。

「うおっ!?」

 いかんいかん、じっくりと見すぎたようだ。

 

「あ、え、えーっと……すまん。アリーセの顔を見ていたら『なにか』を忘れているような気がしてきたんだ」

「え? 『なにか』ですか? うーん、なんでしょう……?」

 とりあえず適当な事を言って誤魔化したが、さてどうしたもんか。

 

 ……あ、そうだ!

 俺は次元鞄に手を突っ込み、

「そ、そうだ! これだ、これ!」

 と、さも今思い出したかのような声を上げつつ、ロゼの短剣を取り出す。

 

「これは……ロゼの短剣ですね。……もしかして、これも回収していたんですか?」

「ああ。これをアリーセに渡しておこうと思っていたのを、すっかり忘れていた」

 そう言いながら机の上に短剣を置いたところで、気づく。

 

「っと……。そういや、これを収めておく鞘がないな」

「あ、鞘――というか、ソードホルダーでしたら予備があるので大丈夫ですよ」

 俺の言葉にそう答えながら、短剣をコートの内側にしまい込むアリーセ。

 あのコート、内側に短剣がしまい込めるスペースがあるのか……?

「……あ、あの、またこちらをじっと見つめているようですが、他に忘れている事でも?」

 再び見つめていたせいで、アリーセにそう突っ込まれる。

 

「あ、ああ、すまん。短剣をサラッとコートの内側にしまい込んだのが気になってな。それ、どうなっているんだ?」

「あ、これですか? えーっと……これはですね、コートの内ポケットの部分に、次元鞄に似た術式が刻まれているんですよ。で、そこに収納しているんです。1個しか入らないのが欠点ではありますが、結構な大きさの物でも入るので、なかなか便利なんですよ」

 そう言って、コートの内側をこちらに見せてくるアリーセ。

 

「はー、なるほどなぁ……そういう事か。たしかにポケットのところになにか刻まれているな。これって、魔煌具屋で作れたりするのか?」

「そこは魔煌技師さんの技術力次第ですね。ただ、大工房の技師さんは普通に出来るので、これから行く魔煌具屋の技師さんも出来るのではないでしょうか」

 俺の問いかけに対し、そう返してくるアリーセ。

 こういう隠し収納スペースっぽいのは色々使えて便利そうだし、なによりかっこいいからな。是非とも作れる技術を持っていて欲しいものだ。


 って……待てよ? そういえばアポートとアスポートを使えば、似たような事が出来るんじゃないか? これ。

 要するに、次元鞄の中の物を、アポートとアスポートを使って出し入れする感じだ。

 

 というわけで、物は試しと次元鞄に収納してある財布を、アポートで取り出してみようとする。……が、何度試してみても、手元に財布が転送されてくる事はなかった。

 

 うーん……駄目か。おそらくだが、次元鞄の仕組みの方に何らかの問題があるんだろう。ま、そうそう都合良くはいかないって話だな。

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