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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第39話[Dual Site] 倉庫 <後編>

<Side:Souya>

 ん? なんだか、ちらばった書類の1枚が不自然な動きをしているな……

 クレアボヤンスを使わずとも見える位置まで移動?

 

 ――ああなるほど、そういう事か。

 俺はそれがアルチェムの仕業であろうと推測し、クレアボヤンスを解除。

 向こう側にいる連中に気づかれないよう注意しつつ、アポートでその書類を引き寄せた。

 

「ソウヤさん、その書類はなんです?」

「アルチェムから回収しろと言わんばかりの合図をされたから、引き寄せてみたんだが……」

 俺はアリーセの問いかけにそう返しつつ、アリーセに書類を手渡すと、再びクレアボヤンスで向こう側の状況を視る。

 ……やはり、アルチェムの姿は見えないな。


 そんな俺の背中に、

「えっと……共通語ではない文字で、色々と書かれていますね。私にはちょっと読めませんが……」

 という声が降ってくる。

 ん? って事は、俺が読まないと駄目か?

 

 そう思ってクレアボヤンスを解除し……ようとした所で、 

「どれどれ……。ふむふむー、なるほどねー」

 カリンカのそんな声が聴こえた。


「もしかしてカリンカさん、読めるんですか?」

「うん、これはデミアウラ文字だね。一応読めるよ。ちょっと貸してもらえる?」

 と、カリンカ。どうやらデミアウラ文字という物で書かれているようだ。


 ふむ……。アウラって事は、古代アウリア文明の文字か?

 いや、デミとついているから、当時の文字そのものではない気がするな。

 

「あ、はい、どうぞ。……ところで、そのデミアウラ文字というのはなんです?」

「えっとね……古代アウリア文明期に使われていた文字を元にして作られた……と、言われている文字の事だよ。だから半分くらい似ているんだよね」

「なるほど……それで『デミ』なんですね」

「そうそう、そういう事」


 ああ、やっぱりそうなのか。だが、何故そんな文字が使われているんだろうか?

 そう疑問に思った所で、俺とまったく同じ事を思ったらしいアリーセが問う。

「ですけど、どうしてそのような文字が使われているんでしょう?」


「んー、このデミアウラ文字って、まだディンフロド王国やアリアンベル女王国が健在だった時代に、その2国を中心に使われていたから――って、これ! ブラックマーケットの通行証だよっ!?」

 引き寄せた書類は、どうやらブラックマーケットの通行証とやらだったようだ。

 

 って事は、デミアウラ文字を使っている理由は、分かる人間にだけ分かるように……といった所だろうか? まあ要するに、軽い暗号的な感じなのだろう。

 

 ともあれ、これでブラックマーケットへ入るために必要な物は手に入った。

 あとはアルチェムを回収するだけなんだが……見えないと引っ張りようがないんだよなぁ。ステルス魔法を解除してくれれば、すぐに引っ張るんだが……


                    ◆


<Side:Arcem>

 どうやら、ソウヤ様に伝わったようですね……

 私は、目の前から通行証が消えたのを見て安堵します。

 

 さて……後は私自身が向こうに戻るだけです。

 ……だけなのですけど、魔法を解除するタイミングが難しいですね……ほんの一瞬であっても、姿を見られるのは避けたいのですが……

 

 と、そうこうしているうちに、下から新たに構成員がやってきます。

 ……困りましたね……。なかなか隙がありません……

 

「ホントにガラクタが多いッスねぇ……」

「気をつけないと、こいつみたいに踏むぞ。っと、これで全部だな」

 下から来た構成員にそう声をかけつつ、拾い集めたブラックマーケットの通行証を束の上に乗せる別の構成員。


「あんがとさん。――あんさんもうっかり踏まんよう、気いつけてな」

 ブラックマーケットの通行証の束を抱えた構成員は、そう忠告して階段を降りていきました。

 

「わかったッス。気をつけ――るおあぁっ!?」

 頷いた構成員が一歩足を踏み出した瞬間、転がっていたガラクタに足を取られてバランスを崩します……

 しかも、その時にロープを掴んだ事で、そのロープに引っ張られる形で、棚の上にあった箱が床へと落下。

 

「わぷっ」

 し、視界が……っ!

 箱に掛けられていた白い布がふわりと私の上に覆いかぶさり、つい声を出してしまいました。

 

「だから気をつけろって言っただろ……。まあ、箱の中身をぶちまけなかっただけ良いけどよ」

 どうやら気づかれていないようですね……ともあれ、急いで布を取らなくては……っ!

 そう考えて、布を慌てて取ろうとした所で、

「す、すいま――ひいっ!?」

「あん? 何を驚いているんだ?」

 そんな声が聴こえて来ました。

 

「ぬ、布が宙に浮いて……っ!」

「ひ、ひいっ! ゆ、幽霊ッスよーっ!?」

「そ、そんなわけがあるか……っ!」

 

 慌てふためく構成員たち。

 そのまま慌てふためいていてくれればよかったのですが、 

「ま、まて、だ、誰か透明化の魔法かなにかに隠れていやがったのかもしれん!」

 奥からやってきた構成員が、おっかなびっくりながらも、そんな事を言い出しました。

 

「な、なら捕まえてみるか……?」

 ……ま、まずいですっ! と、とにかく立ち上がって……っ!

 

 ……しかし、私が立ち上がって逃げようとした瞬間、構成員が飛びかかってきます。

 

 そして……私は身体を掴まれました。

 ……っ!?

 ――血の気が引き、どうしたらいいのかと心の中で慌てふためいた直後……予想とは別の声が聴こえてきます。


「やれやれ、ギリギリセーフだな」


                    ◆


<Side:Souya>

「宙に浮いている白い布が見えたから、おそらくそこだろうと思って引っ張ってみたんだが、上手くいってよかった」

 俺がそう告げると、

「た、助かりました……」

 とだけ返し、魔法を解除するアルチェム。

 そして、脱力して床に膝をつきながら、

「まさか、あそこで布が落ちてくるとは思いませんでした……」

 そう言葉を続けた。


「まあ、そのお陰でアルチェムの位置がわかったから、ある意味では不幸中の幸いだと言えなくもないな」

「なんか、あっちは驚いて大騒ぎって感じだねー。幽霊が出たとでも思ったのかな?」

 俺の言葉に続くようにして、窓から向こうの様子を(うかが)っているカリンカが、そんな風に言ってくる。

 

「多分そうかと……。最初は幽霊だと言って慌てていましたから……」

「でしたら、とりあえずは大丈夫そうですね。こちらにも気づいていないようですし」

 アルチェムの話を聞きながら、カリンカと同じく窓から向こうを見ていたアリーセが、そう言ってくる。


 俺はそれを聞き、即座にここから撤収する事を皆に告げる。

「よし、それならバレないうちにさっさと離脱するとしよう」


                    ◆


「ブラックマーケットは、ランザ地区って所で開かれるのか」

「はい……バルガスという案内人に話せば良いと思いますが……こちらは、調べてみないとわかりませんね……」

「ちなみに、開催日は明後日みたいだね。この通行証にそう書いてあるよ」

 俺とアルチェムの話を聞きながら、ブラックマーケットの通行証を眺めていたカリンカがそんな風に言ってきた。

 

「ふむ……たしかに、開催する曜日が記載されているな。で、場所は秘匿されていて、案内人に『今日の夜は何かあるのか?』と尋ねるように……か」

 カリンカの斜め後ろから通行証を覗いて書かれていた文章を読み上げる俺。

 その後の案内人の返答と、更にそれに対する返答も書かれているな。……ふむ、覚えておくとするか。

 

「あれ? ソウヤさん、デミアウラ文字読めるの?」

 カリンカが首を傾げて問いかけてくる。

 

「ん? ああ、まあ……一応な」

 普通に読めるだけなのだが……まあ、そこはあえて言うまい。

 

「そういえばソウヤさん、以前アルミナの地下神殿遺跡で、古代アウリア時代の文字――機構秘文を普通に読んでいましたっけね」

「ええっ!? 機構秘文も読めるの!?」

 アリーセが補足するように言った内容に驚くカリンカ。

 

「機構秘文……たしか、古代アウリア時代の文字で、まだほとんど解読されていないアレの事……ですよね?」

 そんな疑問の言葉を発するアルチェムに対し、

「はい、その通りです。ですけど、ソウヤさんなら普通に読めてもおかしくはありませんから」

 なんて事を言って首を胸を張るアリーセ。……なぜそこでアリーセが胸を張るのかは良くわからないが……ま、いいか。


「さ、さすがだね……」

「驚き……です」

 カリンカとアルチェムが、そう口にしながら俺の方に顔を向けてくる。

 カリンカの方は、なんだかアリーセに対する言葉のような気がしないでもない。

 

「故郷にあった古い言語の本に普通に書かれていたから、一般的なものかと思ったら実は違ったらしくてなぁ……むしろ俺の方が驚いたよ」

 と、そんな風にとりあえず言っておく俺。

 

「それ、その本自体が古代アウリア文明の物なんじゃ……」

 カリンカが額に手を当てながらそう呟くように言う。

 

「まあそれはともかく、ブラックマーケットは明後日にならないと駄目そうだな」

「ですね。興味があったのですが……今日の所は、一旦保留とするしかなさそうです」

 俺の言葉に頷き、残念そうに言うアリーセ。

 

「だとすると、これからどうしようか?」

 カリンカがそんな風に俺たちに対して問いかけてくる。


 ふーむ、たしかにどうしたもんかなぁ……と、今日の今後の予定について考えていると、

「あの……すいません……。ちょっと倉庫で見つけた他の資料の事で、お兄様たちに話をしたい事がありまして……」

 アルチェムが申し訳なさそうに挙手しながら、そんな風に告げてきた。


「あ、そうなんですか? でしたら、おふたりとも父様の所にいるはずですよね。えーっと、そうすると……今の時間なら、おそらく大使館にいるのではないでしょうか」

 アリーセが、自身の次元鞄から取り出した懐中時計を見ながら言う。

 

「ふむ。それなら、とりあえず大使館に行くとするか。……どこにあるんだ?」

 アルチェムの方に顔を向けて尋ねると、アルチェムは、

「大使館は駅の近くですね……」

 と言って「うーん」としばらく考えた後、再び言葉を紡ぐ。

「――駅は東廻り4番の水路船を使うと近いのですが……ここからですと、直接4番に乗るのは難しいですね……。まずは西廻り1番で東西ルートの合流地点まで移動し、そこから乗り換えるのが良さそうです……」

 

「なるほど……。だが、そう言われても良くわからんから先導してくれ。着いていく」

 そう答え、俺たちは大使館へと向かうのだった――

切りどころが難しかったため、若干長くなりました……

次から再び蒼夜の視点で固定されます。

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