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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第38話[Dual Site] 倉庫 <中編>

<Side:Souya>

「あいつら、さっきの受付の男を殺しやがったぞ」

 俺は、クレアボヤンスで視えた光景を口にする。

 

「おそらくアルチェム――というより、王都守備隊に目をつけられたと判断したんだろうね。あと、もしかしたら尾行されている事がバレた可能性も……」

 カリンカがこめかみに人さし指を当てながらそう言うと、横にいたアリーセが首を横に振り、

「どちらにしても、口封じ……ですね。治癒の薬を扱う者としては、そのような命を軽んじる者に対して、少々怒りを覚えます」

 少し怒気を含んでそんな風に言う。まあ、アリーセの気持ちもわからんではない。

 

 しかし、こうもあっさり殺すとは……アルチェムも見つかったらまずいな。注意しておかないと。


                    ◆


<Side:Arcem>

 ……どうやら、口入屋の受付の人は殺されてしまったようですね。

 ある意味、私のせいである事に申し訳なく思いつつも、部屋を物色する私。

 殺した者を捕らえ――そして、元凶ともいうべき月暈の徒(げつうんのと)を壊滅させるためにも……

 

月暈の徒(げつうんのと)に関する資料は全て破棄だ!」

「ついでに、取引記録なども破棄した方がいいわね。ああ、全部破棄するのではなく、表に出しても良い物はそのまま残しておいていいわよ。むしろそれが隠れ蓑(かくれみの)になるわ」

 先程と同じ男女が、そのように指示を出します……

 

 それによって、複数人が作業を始めたのであろう様々な音が聴こえてきました。

 ある程度、気配は感じていましたが、それなりの人数がいるようですね……

 

 それにしても……こうも早く隠蔽(いんぺい)工作に移るとは想定外です……急ぐとしましょう。

 

 ――というわけで、周囲にあった資料や物品を手早く調べていきます。

 書類はまだ何も書かれていない物や、納品書のような物ばかりで、物品の方はガラクタばかりです。

 ……しかも、そのガラクタは床にもかなりの数が転がっているので、注意して歩かないと、うっかり踏んだり蹴飛ばしたりしかねません……

 

 ……それにしても、本当にこれといった物がありませんね……

 と、心の中でため息をつきながら漁り続ける間も、下からは会話が聴こえてきます。

 

「ブラックマーケットの通行証は?」

「上の階にまとめて積んで置いたはずだぜ」

「あれも破棄するん?」

「いや、あれが見つかったとしても、場所がわからなきゃ大丈夫だろうよ」

「っていうか、仮に場所がバレても、守備隊とて大した事は出来んさ」

「ああ、そうだな。まあでも、もう一度刷り直すのも面倒だし、持ち出すとしようぜ」

「せやな。ほんならワイが、あとで持ち出すとするわ」


 上……つまり、ここのどこかに通行証があるようですね。

 まだ猶予がありそうですが、これだけ書類や物が多いと探すのは大変です。

 

 束になっていると言っていたので、それらしいものがないかと思い、全体を見回してみると、書類棚を見つけました。

 ……様々な書類が束になっていますが、あの中にあったりするのでしょうか?

 

 とりあえず調べてみるため、そちらへ慎重に移動していくと、

「うーん、ブラックマーケットの位置も、今週開く予定の場所から変更しておいた方が良いかもしれないわね」

 なんていう声が下から聴こえてきました。

 

 ……『今週開く予定の場所』……ですか。

 ……要するに、毎週位置が変わっていたという事なのでしょう。

 なるほど、どうりでなかなか見つからないわけです……


「ふむ……あまり意味はない気もするが、一応そうするとしよう。一巡飛ばしてランザ地区で行うものとする。――案内人に通達しておきたまえ」

「ええ、了解よ」

「あ、じゃあバルガスには俺っちが言っておくッスよ。この後、例のブツを届ける予定ッスから」

「そう? じゃあお願いするわ」


 ……ランザ地区に、バルガス……

 良い情報を聞きました……

 

 あとは、ブラックマーケットの通行証さえ見つかれば……

 そう思いながら書類棚を物色していくと、守備隊や国の中枢と関係のある貴族の名が入った書類が見つかりました。これは――

 

 ……軽く書類の中身を確認した後、私は手近にあった同じ大きさのまっさらな紙を手にすると、その書類に書かれている内容を見ながら、心の中で強く念じます……

 

 ――ほどなくして、まっさらな紙に書類とまったく同じ文、そして紋様が浮かび上がってきました。うん……どうやら、上手くいったようですね。

 ソウヤ様の異能に比べると少し地味ですが……こういう風に、書類の完全なコピーを作りたい時には役に立ちます。

 見ながら心の中でコピーしたい物を思い浮かべられるので、寸分の狂いなくコピー出来ますし……


 ……コピーしている間は当然ながら完全に無防備となってしまいますが、まだ上がってくる気配は感じないので、問題ないでしょう。

 

 そんなわけで……私は異能で生み出したコピーの方を元の場所に戻し、原本(げんぽん)を懐に――正確言うと、服に付与した収納魔法へと――収めました。

 そして……他にも重要そうな書類がないかと思い、周囲の書類を漁ります……

 

                    ◆


<Side:Souya>

「ん?」

 ふと視線を上の階へと向けると、アルチェムがなにやら書類を左右の手に1つずつ持ち、眺めていた。

 ……なにか重要な書類なのだろうか?

 そう思いつつ良く見てみると、片方は真っ白だった。……はて?

 

 アルチェムのそんな動きに疑問を持ったものの、すぐに意味が理解出来た。

 なぜなら、真っ白だった方の紙に文字が――いや、紋様を含めて全てもう片方の手に持った書類とまったく同じ物が浮かび上がってきたからだ。

 

 ああそうか、ソートグラフィーか。ふーむ……こんな事も出来るんだな。

 さっき、アルチェムが俺のサイコキネシスやクレアボヤンスを便利だと言ったが、俺からしたら、あれも十分便利な力だと思う。

 

 そんな事を考えているうちにも、次々に書類を手に取り、同じようにコピーしていくアルチェム。

 しっかし……あそこまで完璧なコピーだと、どっちが本物だかわからないな。


                    ◆


<Side:Arcem>

 ――最初に見つけた物以外にも、いくつかコピーしておいた方が良い資料が見つかりました。

 私は、それらを手早くコピーし、先程と同じようにコピーした方を元に戻し、原本(げんぽん)を懐に収めていきます……

 

 ……しかし、こちらの資料はボロボロ出てくるのに、ラックマーケットの通行証とやらの方はまったく見当たりませんね……。これだけ物色しているのに……

 

「よし、こっちは粗方(あらかた)片付いたな。次は上にある書類を処分するぞ」

 

 下からそんな声が聴こえてきたかと思うと、階段を登る足音が響いてきました。

 

 ……っ!

 私はすぐさま近くの物陰に隠れます。

 と、その直後、月暈の徒(げつうんのと)の構成員たちが姿を見せました。

 

「さて、お次は向こうの書類と商品か。……特にヤバいのは、そっちの棚のだな」

「ブラックマーケットの通行証はどこでっか?」

「ああ、それはあっちの棚だ」


 そんな声が聴こえてきます。

 慎重に覗くと、構成員のひとりが少し離れた棚に手を伸ばし、

「お、これやな」

 そう言いつつ、ブラックマーケットの通行証と思しき束を持ち上げて抱えます。

 

 ま、まずいです……っ!

 こ、こうなったら、感知されるのを覚悟で《玄夜の黒衣》を使って……

 

 そう考えて、魔法の発動準備に入ろうとした瞬間、

「なあ、この鉄の箱だけど重すぎじゃね? ちょいとばかし腕力強化魔法使ってもいいか?」

「いや魔法を使うと……って、あー、そいつはたしかに重いな……。よし、ちょっと待ってろ」

 という声が聴こえてきました。

 私は、魔法の発動準備に入ろうとしたその体勢のまま硬直します。

 

「ちょっと重い物を動かす必要があるんで、今から魔法を使いますねー」

「了解よ、感知しても無視するわ」


 構成員のひとりが、階段の所でそんな短いやり取りをした後、

「下には伝えたから、使っていいぞ」

 なんて事を言いました。――チャンスです!

 

 階下の者とやりとりしていた先程の構成員が、「おう」と短く言葉を返し、魔法の発動準備に入りました。

 それに合わせる形で、こちらも魔法の発動準備に入ります。

 

 ほぼ同時にあちらとこちらの魔法が発動。

 あちらは重そうな金属製の箱を、両手で持ち上げられるようになり、こちらは姿が薄くなります。


 即座に走……ると解除されてしまうので、早歩きで移動し、ブラックマーケットの通行証の束を抱えた構成員に接近。

 素早く通行証を掠め取……ろうと思いましたが、やめました。

 魔法が解除されたりはしないと思いますが、通行証には魔法が付与されていないため、掠め取ろうものなら、宙に浮いてしまい不自然……いえ、バレバレです。


 ――そこで私は、代わりに手近にあったガラクタを構成員の足元めがけて転がします。

 

「おわっ!?」

 ……私の転がしたガラクタを踏んだ事で、ブラックマーケットの通行証を運んでいた構成員がバランスを崩し、束の半分近くを床にバラ撒きました。

 ……どうやらうまくいったようですね。

 

「おいおい、大丈夫かよ。ここらへんは色んなガラクタが転がってっからな。足元に気をつけないとそうなるぜ」

 そう言いながら、床に散らばる通行証を拾い始める別の構成員。

 私は、それにあわせてしゃがみ込み、見つからないようにそーっと1枚掴むと、『向こうの窓から見える所』へ、床を滑らせるようにして移動させます。

 

 おそらくソウヤ様なら、これで気づくはずです……

想定よりも話が長くなったので、一旦ここで区切ります。

なので、あともう1回、ソウヤとアルチェムそれぞれの視点で描きます。

どうでもいい事ではありますが、<前編>とか<中編>とかタイトルに付けたのが、

何気に久しぶりな事に今更気づきました。

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