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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第37話[Dual Site] 倉庫 <前編>

37話は37話ですが、間章を除くと正編(本編)初の複数視点です。

そのために[Dual Site]としました。

<Side:Souya>

 なにか良いヒントでもないかと思い、倉庫全体を見回す俺。

 すると、ふと気になる点が見つかる。


「ん? あそこ――倉庫の2階部分って言えばいいのか? そこん所にガラス窓が取り付けられているよな」

「あ、たしかにありますね。それと、手前の倉庫にも同じ位置にも。……もっとも、鉄製と思われる格子が外枠に嵌め込まれているので、開きそうにないですが」

 俺の見ている先――窓を同じく見ながら、そう言ってくるアリーセ。


「ふむ……。ちょっといけるか調べてみるか」

 俺は呟くようにそう言うと、慎重に1つ手前の倉庫へと近づく。

 

「その……何を……?」

 俺の行動に対し、疑問に首をかしげるアルチェム。

 

「ちょっとこっち側の倉庫からの窓から、向こう側の倉庫の中を――連中の動向を探れないかと思ってな」

 俺はそう言葉を返しつつ、扉を確かめる。

 すると、こちらの倉庫は長らく使われていないのか、扉の鍵が壊れかけており、強い力を加えれば壊せそうだった。

 

 とはいえ扉は鉄製なので、普通に体当たりした程度では難しいだろう。

 ――なので、別の力で押すとしよう。


「扉を吹き飛ばすから、念の為周囲を見張っておいてくれないか」

 俺は皆にそう告げる。

 

「あ、はい。わかりました」

「え……? 吹き飛ばす? ……え?」

「音を立てないように気をつけてねー」

 アリーセ、アルチェム、カリンカが順番に言葉を返してくる。

 アルチェムだけ疑問形だが、そこはまあ置いておこう。

 

 というわけで、サイコキネシスを扉に向かって実行。

 

 手応えは……十分。これは割と簡単に壊せそうだ。

 俺はサイコキネシスで勢いよく扉を押す。

 と、その直後、バンッ! という音と共に重い鉄の扉が、倉庫の中へとすっ飛んでいった。

 ……って! やばっ!


 このままだとすっ飛んでいった扉が壁にぶつかるか、床に倒れ込むかして音が響いてしまうので、即座に――今度は浮かせる要領でサイコキネシスを使い、飛んでいく扉を強引に止める俺。

「セ……セーフ。ちょっと強くやりすぎた……」

 そう呟きながら慎重にサイコキネシスでそれを動かし、近くの壁へと立て掛けた。

 

 これで大丈夫だな。

「――よし、上手くいったぞ。それじゃ、入るとしようか」

 

                    ◆


<Side:Arcem>

「……まさか、鉄の扉をこうも簡単に吹き飛ばすとは思いませんでした……。それも、異能……ですか?」

 倉庫に入った所で、私は開口一番、そんな事を問いかけます。


 あんな重い鉄の扉を吹き飛ばすなどとは思ってもいなかったので、さすがに驚きました……

 まあもっとも、驚いたのは私だけで、アリーセ様もカリンカ様もまったく動じなかったのですが……

 あ、もしかして見慣れているんでしょうか?

 

 そのような事を考えていると、

「ああ。物を浮かせたり、手を触れずに押したりする事が出来るんだ」

 などという説明を、ソウヤ様がしてきました。


「……それは、なかなか便利な力ですね……」

 私は顎に手を当てながら、そんな風に言葉を返します。

 というより、それ以外の言葉が出なかったというべきでしょうか。


 ……しかし、浮かせるとか押すとか、そのような言い方をされていましたが、正直……それで済ませてはいけないようなレベルである気がします……

 いえ……今更と言えば、今更なのかもしれませんが。

 

「んー、まあ便利といえば便利だな」

 まるで、どうという事もないと言わんばかりです……

 ……そして、

「――さて、上に行くには……?」

 そう呟くように言いながら、倉庫内を見回すソウヤ様。

 

 階段か梯子があるはずですが……

 と、同じく倉庫内を見回してみると……積み上げられた木箱に隠れる形で、壁際に階段がありました。

 

「あそこですね……」

 私が右手を伸ばして階段の方を指し示すと、ソウヤ様は、

「お、あそこか。よし、行ってみよう」

 そのように言いながら、階段の方へと向かいます。

 

 ……私たちはソウヤ様に続くようにして、階段を使って上の階へと移動します。

 ……それにしても、あの窓から見える範囲はたかが知れている気がするのですが、何か考えがあるのでしょうか……? 

 

                    ◆

 

<Side:Souya>

 アルチェムが発見した階段を登ると、すぐに件の窓があった。

 無論、外から見えた通り、開ける事は出来ない。

 が、別に開ける必要はないので、そこは別に問題ではない。むしろ開かない方が好都合だ。

 

「――良い感じに見えるな。ギリギリだがクレアボヤンスの透視可能範囲だ」

 クレアボヤンスを使いながら、呟くように言う俺。


 俺の視界には月暈の徒(げつうんのと)と思しき連中の姿が映っている。思ったよりも多いな。

 ……連中、何かを話しているようだが、音までは拾えないからなぁ……何か手はないか。

 ん? 待てよ? この距離なら転――いや、それは危険か。


「……クレアボヤンスというのは、遠見ではなかったのですか……?」

「ああ、遠くを見る以外にも、壁の向こう側を見る事も出来るんだよ。まあ、こっちは遠くを見るよりも有効な距離が短いんだけどな」

「……なるほど、そういう性質なのですか。短いとはいえ、それも便利ですね……」

 俺が疑問を尋ねてきたアルチェムそう説明していると、アリーセが考える仕草をしながら、

「すり抜けるといえば……ソウヤさんのアポートとアスポートは、壁を超えられるんですか?」

 そんな事を問いかけてきた。

 

「ん? あー、俺のアポートもアスポートも『転移先』や『転移対象』が目で捉えられていないと無理だ。……ただ、捉えてさえいればいけるから、穴が空いていたり、ガラス張りだったりすれば問題ないな」

 と、そう説明した所で意図に気づく。

「……って、まさかアリーセ、向こうに飛びたいと?」


「はい、その通りです。――私を向こう側へ飛ばしてください。様子を見てきます。……というか、元より誰かを飛ばすつもりだったのでは?」

 なんて事を言ってくるアリーセ。

 いやまあ、たしかに少しそう思ったのは事実だが、危険だからなぁ……

 

「あ、それなら私も。そのクレアボヤンスって力だと、何を話しているのかは分からないよね?」

 カリンカが挙手をしながら、クレアボヤンスに対する指摘をしてくる。

 ノリは


「……たしかに、声までは拾えないな」

「でしょ? だったら誰かが盗み聞きしに行かないとっ」

 俺の言葉にそう返してくるカリンカ。……まあ、それはそうだな。

 

「――わかった。だが、同時に複数人を転移させるのは無理だから順番にな」

 呆れ気味に俺が告げた直後、なにやらアルチェムが意を決したかのような表情で、

「……お待ち下さい。それでしたら……私がひとりで行きます。その方が見つかった時にも逃げやすいですし、そもそも……ブラックマーケットに関わる情報を見つけるのなら、私が一番詳しいと思いますから……」

 そんな風に言ってきた。

 

「ふーむ、たしかにそれは一理あるな……」

 正直、複数人を飛ばす意味は薄いからなぁ。

 あと、アルチェムの言う通り、諸々詳しい人間が行った方がいいのは間違いない。

 

「わかった。ここはアルチェムに任せるとしよう」

 そう結論づけた俺は、

「さっき言ったように、この窓……というか俺から見える所であれば、どこからでもすぐに引き戻す事が出来るから、もしバレた時は、なんとかして見える所まで来てくれ」

 そう説明すると、頷いたアルチェムをアスポートで向こう側の倉庫へと送り込む。


「……大丈夫でしょうか?」

 少し不安そうな表情で尋ねてくるアリーセ。


「――あれでも守備隊の人間だし、大丈夫だとは思うが……。まあ、もしもの時はフラッシュボトルでもアスポートするか」

 俺がそう答えると、アリーセは軽くパンッという音を立てて、左右の手のひらを合わせた。

「あ、それは良いですね。準備しておきます」


                    ◆


<Side:Arcem>

 一瞬にして、先程までいた倉庫からワープしてきてしまいました……

 振り向いてみると、窓の向こうにソウヤ様たちの姿が見えます。

 

 このソウヤ様の力は、とても素晴らしいですね……

 空間転移の力――もし私も手に入れられるのであれば、手に入れたいものです。

 

 なんて事を考えていると、階段の下から話し声が聴こえてきました。 

 ……今は詮無い事を考えている場合ではありませんね……。早速、動くとしましょう。


 私は《玄夜の黒衣》を使……おうとして思い留まりました。

 そう、魔法を使った瞬間に感知される可能性がありますからね……

 

 というわけで階段の方へと、慎重に……慎重に……音を立てずに近づいていきます。すると、

「――ボス、ここはすぐに引き払った方が良さそうだぜ。あのヤロウは、尾行されてねぇとか言ってやがったが、信用出来ねぇ」

「共和国製の魔法感知装置に反応はないから大丈夫だとは思うけど、念には念を入れておいた方が良いわね。途中までステルス魔法の類を使って追跡している可能性や、長距離から監視していた可能性はあるもの」

「うむ……。守備隊の者が帰ってすぐに、口入屋を出てしまうとは実に不用心と言わざるを得ない。おそらくその者は、あえてそのような言動をしたのであろう。確実に尾行か監視をされていたと考えるべきであろう」

 なんていう会話が聴こえてきました。

 ああ……やはり、魔法を使わずにおいて正解でした……

 

 ……それにしても……言っていた? どうして過去形なのでしょう?

 もしや、既にあの受付の人は立ち去ってしまった後なのでしょうか……?

数話ほど、視点が度々切り替わる方式になります。

ちなみにアルチェムはArcemです。Archemの脱字ではありませんよっ。

(もっとも、後者の綴りでもアルチェムと読めるには読めるのですが……)

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