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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第36話 追跡

 ――昨夜の連中が、月暈の徒(げつうんのと)と接触したという口入屋(くちいれや)へとやってきた俺たち。

 これといって警戒されるような事はなく、至って普通な感じだ。


 ふむ……依頼を受けてこなすって形式だからか、討獣士ギルドに似ているな。

 討獣士ギルドとの違いは、張り出されている依頼が、基本的には害獣や魔獣との戦闘を伴わない仕事だという事か。

 基本的というのは、門番の代行や隣町までの物資運搬みたいな仕事もあるので、戦闘になる可能性がゼロではないからだ。実際、注意事項的な感じでそう書いてあるし。

 

「――ルクストリアでは見た事がないけど、どっかにあったりするのか?」

「口入屋はありませんが、これとほぼ同じ仕組みの事を役所で行っていますね。普通に役所に行って指定の窓口に相談すれば、色々と紹介してくれますよ」

「へぇ……そうなのか。共和国では民間じゃなくて公共なんだな」

「はい。というのも……共和国においては、『手配士』と呼ばれる国から正式に許可されている人でなければ、こういった単発型の仕事や短期型の仕事などの斡旋、および掲示を行えないと法律で決められているんですよ」

「ふむ、なるほど……」


 アリーセの説明を聞き、なかなか良くできていると思う俺。 

 役所が一種のアルバイト斡旋所みたいな感じになっているので、ちょうど良い仕事を探すのも楽だろうし、国が仲介する形なので、仕事内容や賃金でのトラブルも起きにくいはずだ。

 なにかあれば、国に介入されるわけだしな。

 まあ、そのあたりは『手配士』という人間が不正な判断をしない事が前提ではあるが、アーヴィングによってその手の人間は一掃されているらしいので、昔はともかく今は大丈夫だろう。


 しかし、ここ数日でフォーリアとディンベル、2つの国に訪れる事になったけど、その2国と比べてイルシュバーン共和国は色々と進んでいるよなぁ……。なんだって、こんなに差があるのだろうか? 


 てな事を考えていると、

「そのような依頼は張り出した覚えがありませんね」

 なんていうアルチェムの声が耳に入る。

 

 見ると、アルチェムがいつの間に受付の男性と話をしていた。

 どうやら直接問う事にしたようだが、いくらなんでも直球すぎるだろ……

 

「……そうですか。全ての人が、ここで依頼を受けたと言っているのですが……?」

「そう言われましても、記録がありませんので……。もっとも、ここでは依頼人が直接スカウトする場合がありますので、その類の可能性もありますが」

「そうですか……。では、不審な人物を見かけたりは……?」

「さて? 私の記憶にはありませんね。というより、ウチでは元より依頼人や仕事の内容などが不審であるかどうかというのは、見ておりません。受ける側の自己判断にお任せしております」


 ――そんな感じのやりとりを繰り返すアルチェムと受付の男性。

 仕事の内容について精査しないとか何とも雑だな。

 いや……これはむしろ、この口入屋自体が表の仕事だけではなく、裏の仕事の仲介役にもなっていると考えるべきなのかもしれない。

 自己判断と言い切ってしまえばそれまでだからな。そう、まさに今のように。

 

「――仕方ありませんね……。それでしたら……もし何か思い出した事がございましたら、守備隊の詰め所にご連絡いただけますでしょうか」

 アルチェムが、ため息とともにその言葉で会話を打ち切る。

 

「……駄目ですね。出直すとしましょう……」

 と、そう言って外へ出ていくアルチェム。

 

 後に続いて外に出た所で、カリンカがアルチェムに問いかける。

「えっと……真正面から聞いても、本当の事を言うとは思えないんだけど……?」


「……あ、はい、おっしゃる通りですね。なので、あれは……ただの仕込みです。皆様、ちょっとこちらへ……」

 アルチェムはカリンカにそう答えると、口入屋の脇の路地へと移動する。


「仕込み?」

 カリンカが首を傾げながら、路地へと移動。

 俺とアリーセもそれに続く。


「まずは、これを使います……」

 全員が路地に入った所で、アルチェムはそう言うなり、片手持ちの柄が短い鎌を左右の手にそれぞれ1本ずつ構え、魔法の発動準備開始する。

 って、アルチェムの得物は双鎌(そうれん)なのか。見た目の雰囲気に反して、なかなかアレだな。

 

 なんて感想を抱いていると、セレナが昨夜使っていた魔法――《玄夜の黒衣》が発動。

 一瞬にして俺たちの姿がぼやけ、そして薄くなった。

 

「ステルス魔法? もしかして――」

「……はい、裏へ回りましょう。裏口の位置は先程確認してあります……」

 なにかに気づいたカリンカと、それに頷き、そう告げるアルチェム。

 

 その言葉に従って口入屋(くちいれや)の裏手へと移動する俺たち。

 すると、程なくして先程の受付の男が裏口から周囲を確認しながら出て来る。

 

「先程の受付の方ですね。どこへ行くのでしょうか?」

「おそらくだけど、守備隊が口入屋(くちいれや)へ調査にやってきたって事を、月暈の徒(げつうんのと)の幹部に報告しに行くんじゃないかな」

 首をかしげるアリーセに対し、カリンカが答える。

 

「なるほど……。ですけど、それなら通信を使えば済む話なのでは?」

「……王都――というより、ディンベル獣王国は、イルシュバーン共和国と違って、まだそこまで通信機が普及しているわけではありません……。せいぜい、王城、守備隊の詰め所、駅、水路船の管理事務所……それから皆さんが泊まっている宿や大きな商会の商館くらいです」

 アリーセの新たな疑問に、今度はアルチェムが答える。

 

 さっきも思った事ではあるけど、魔煌技術や文明は共和国よりも遅れている感じだからなぁ、この国。

 いやまあ、だからこそ鉄道網の整備が最重要であると、この国のお偉いさん方は考えているんだろうけど。

 

 ――そんな事を思っている間にも、男は狭い裏路地を注意深く移動していく。


 しっかし、表の大通りと比べて裏側は随分と入り組んでるなぁ……

 右へ行ったり左へ行ったり、道がクネクネと曲がりすぎだろ、これ。

 脇道もやたらと多いし、何叉路だよ? と、突っ込みたくなるような所も幾つかあったし、まるで迷路の様な感じだ。

 

「表通りはまだいいけど、裏に入ると一気に複雑になるねぇ、この街」

 俺の思った事を口にするカリンカ。

 それに対しアルチェムが、

「……はい。――ですので、始めてきた方が裏に入り込むと……大体、迷います。私も、小さい頃は何度か迷いました……」

 なんて言葉を返す。……まあ、そうだろうなぁ。

 これは慣れるまで――いや、慣れても間違えそうだ。


「ですよねぇ……。あ、でも、どうしてこのような迷いやすい構造になっているんでしょう? 敵対勢力の攻撃を受けた時に、迎撃しやすくするためとかですかね?」

 アリーセがアルチェムにそう尋ねると、

「……いえ、先程話した通り……この街は、皆さんの泊まっている宿の位置から現在の位置へと、王の住まいを移す必要がある程、急速に……拡張に拡張を重ねました。そして……かつての人々が、好き勝手に建物や道、そして水路を作った結果、まさに迷路のような街になったというわけです……」

 と、説明してきた。ふーむ……なんとも単純明快な理由というか、良くある話だな。

 

 そんな会話をしながらも慎重に追跡していくと、外階段のある建物の角を曲がり、細い水路沿いの道に出た所で、男は立ち止まった。


 俺たちはその外階段のある建物に張り付く形で隠れながら、男のいる道を覗き込む。

 すると、道の端――水路の真上に、分厚い木の板で作られた簡素な橋が幾つも掛けられているのが見えた。

 そしてそれらは全て水路を渡った所にある、土壁造りの倉庫の扉へと繋がっているようだ。

 おそらくだが、船を倉庫に直接接岸させるために、こうなっているのだろう。


「ここが目的地なのでしょうか?」

 そうアリーセが小声で言った直後、男は橋を渡り、倉庫の扉をノックし始めた。


 クレアボヤンスを使い、視界を扉に近づけてみると、ノックの仕方に何やらリズムのようなものがあるのがわかった。

 ふむ……どうやら、合図的なもの――決められたノックの仕方があるみたいだな。

 程なくして扉が開かれ、その建物の中へと入っていく男。

 透視を併用して中を覗くが、俺たちがここまで追跡してきた男と、扉を開けたと思しき、フード付きのローブを身に纏い、ゴーグル――おそらくインスペクション・アナライザーだろう――を着用した、男だか女だか良くわからない奴しか見えなかった。……透視の併用だと距離がありすぎて、これ以上は無理か。

 もう少し近づければ……


「どうしましょう……? もう少し近づいてみますか?」

「……いえ、あの辺りに魔法感知の仕掛けが設置されている可能性が高いです。このまま先へ進むのは危険ですね……」

 アリーセの問いかけに対し、建物を観察しながらそんな風に言うアルチェム。


 たしかにそうなんだよなぁ……。あの慎重さからして、魔法対策がインスペクション・アナライザーだけだとは到底思えない。

 なので、倉庫に近づくのは危険なのだが、だからと言ってここに隠れているだけじゃ、なんの情報も得られないしなぁ……


 うーむ……と、考え込んでいると、 

「……元々、場所さえ突き止められれば良かったというか……この情報をもとに、制圧部隊を編成して踏み込むつもりでしたので、これで十分ではあるのですが……」

 そう言ってくるアルチェム。……ん?


「えっと……踏み込んで制圧するための情報収集としてはそうかもしれないけど、それだと私たちがブラックマーケットに関する情報を得られるまでに、時間がかかっちゃうような気がするんだけど? だって、踏み込んでから調査を始めるわけだし。あとそれから、踏み込んだ時点で隠蔽されてしまう可能性もあるよ?」

「あ……っ。そ、それは……たしかに……その通りですね」

 カリンカの問いかけに、アルチェムは額に手を当てながらそう返すと、一呼吸置いてから、

「ど、どうしましょう……?」

 と、困り顔で問いかけてきた。


 ……どうやらアルチェムは、カリンカに指摘された事に関して想定していなかったらしい。

 アルチェムって、鋭い所と抜けている所、両方があるよなぁ……


 とまあ、それはさておき……そうなるとあの倉庫にいる月暈の徒(げつうんのと)と思しき奴ら、もしくはあの倉庫自体からブラックマーケットの情報を得るために、制圧部隊が踏み込む以外のなんらかの方法を考えた方が良さそうだが……


 はてさて、どうしたものか――

再び登場のステルス魔法です。

ちなみにこの《玄夜の黒衣》ですが、姿が消えるだけではなく、音もある程度は抑えられます。

普通に歩くくらいの足音なら、ほぼ聴こえなくなります。

音が響く場所でなければ、ですが。

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