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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第35話 強さとハイテンション

「……うーん?」

 そう呟きながらアルチェムの言葉に首をひねる俺。

 

 ――ロゼ、近接戦に優れる。

 ――シャルロッテ、戦闘能力はロゼ級で、謎の知識を持つ。

 ――カリンカ、魔法が強力。

 ――アリーセ、チート級の薬師で、遠距離戦も可能。

 ――アーヴィング、普通に強い。

 

 ……あれ? 使節団の主要メンバーって、何気に全員強くないか? 聞いた話だと、ジークハルトさんたちも結構強いって話だし。

 さすがにスケジュール調整やら各種手配やらをしている事務士と呼ばれる人たちは、そこまで強いわけじゃないけど、まあ元々戦闘をする職業じゃないしな。

 

 もっとも、カリンカとアリーセは本来戦闘向きな感じじゃないんだけど、なんだかんだで戦闘能力が高いからなぁ。

 

 というわけで、俺はその結論を口にする。

「……主要メンバーは皆、高い能力を有している気がするな。主に戦闘面で」


「あ、やっぱり。それ、私たちが護衛する必要ある……? 使節団だけで事足りるんじゃないかな? っていうかむしろ、邪魔にすらなりそうな気が……」

 セレナが額に手を当てながらそんな事を言い、アルチェムが苦笑いをする。

 

 ……たしかに、護衛がいるかいらないかと言われたら、いらないな。

 もっとも――

「まあ……なんだ? 正直言ってアーヴィング閣下自体も相当な強さだと言うし、使節団の皆が強いのは、その事やソウヤの強さを考えれば当然だとも言えるだろう。故に、護衛なんて必要ないかもしれんが、だからといって誰も護衛につけないというのは、さすがに迎える側の人間――国の対応として、よろしくないからな」

 と、俺が思った事を口にするケイン。ま、普通に考えたらそうだよな。

 

「そんなわけで……俺たちは、護衛につく王都守備隊の代表としてアーヴィング閣下に挨拶に行くとしよう」

 そうセレナに向かって告げるケイン。……ん?

 

「あれ? アルチェムは違うのか?」

「ああ、義妹は守備隊は守備隊でも、戦闘要員ではないんだ」

 俺の問いかけに対し、ケインがそう答えてくる。

 

「イルシュバーン風に言うと……事務士兼査察士……といった所、です」

 アルチェムがそんな風に言ってくる。

 なるほど……要は事務的な部分と査察を兼ねた役割の要員って事か。

 

「ま、そういうわけだから、私たちはそろそろ行くね。――アーヴィング閣下は、まだお部屋に?」

「ええ、まだいると思いますよ」

 セレナの問いにアリーセがそう返すと、ケインとセレナは礼を述べてそのまま宿の奥へと歩いていく。

 

 その背中を見送った所で、

「ところで……ソウヤ様やアリーセ様は、どこかへ出かけるのですか……?」

 と、アルチェムがそう尋ねてきた。

 

「あー、えっと……。まあ、アルチェムには言ってもいいか」

「そうですね、むしろ詳しいかもしれませんし」

 俺とアリーセがそう言葉を紡ぐと、アルチェムは首をかしげながら言う。

「といいますと……?」


「カリンカ――討獣士ギルド本部の代表として来ている女性がいるんだが、その人とアリーセと俺の3人で、ちょっとばかしブラックマーケットを探して覗いてみようと思っていたんだよ。どんな所なのかと思ってな」

 そんな風にアルチェムに告げる俺。

 

「ああ……なるほど、そういう事ですか……。えっと……本来ならば、止めるべきなのでしょうが……」

 アルチェムはそう言うと口元に指を当て状態で、しばし考え込み、

「私も……守備隊も……ブラックマーケットの場所や入り方に関しては、把握しているわけではありませんので……ある意味、把握する好機だと言えなくもありませんね……」

 呟くようにそんな事を口にする。


 ふーむ……王都守備隊でもブラックマーケットの所在に関しては掴めていないみたいだな。

 もしかして、把握した上であえて黙認しているのでは……? なんて事も少し考えたのだが、どうやらそれはなさそうだ。


 なんて事を俺が考えているとアルチェムが、

「――わかりました。私も街の案内を兼ねて……同行させていただきます。もちろん、知っている範囲の情報は教えます……」

 俺とアリーセを交互に見てそう言ってきた。

 

「いいのですか?」

「はい……。皆さんの案内も、ブラックマーケットの調査も……どちらも、守備隊の仕事です。……という事にします」

 アリーセの問いかけにそう返し、クスッと笑うアルチェム。

 ふむ、いい考え方だな。


 ――とまあ、そんな感じで話がまとまった所に、ちょうど良くカリンカが現れる。

「おはよう! ……って、あれ? そちらは?」

 

「ああ、この人は王都守備隊の人で――といっても戦闘要員じゃないんだけど――街の案内とブラックマーケットの調査協力の双方を買って出てくれたアルチェムだ」

「あー、なるほど! 昨日、ソウヤさんが話していた人だね! っとと……討獣士ギルド、フェルトール大陸方面本部の本部長であるサギリナ・ユイラの義娘で、本部長代理のカリンカです。よろしくお願いいたしますね」

 俺の説明を聞き、カリンカがアルチェムを見てそう告げる。

 

 途中まで普段の――ギルド職員ではない時の口調だったな。と、思っていると、

「……なんだけど、今は本部長代理として仕事をしているわけじゃないから、こっちの感じでいかせてもらうね! 非常事態の時や獣王国側との会見、会議の時以外は休暇中って事でいいって言われたし!」

 なんて事を言うカリンカ。ふーむ、なるほど。そういう事か。

 っていうか、なんだか随分とテンション高くないか……?

 

「え、えーっと……。どちらでも構いません……よ?」

 アルチェムが若干引き気味にそう返す。

 

 う、うーん、一体全体カリンカに何があったんだ?

 と、疑問に思っていると、それがアリーセに伝わったのか、俺にだけ聞こえるような小声で説明してくる。

「あ、えっと……良くわからないですが、ルクストリアから遠く離れた場所で休暇を得た事で、仕事をしたくても出来ないために、逆に休暇に全力を出そうと考えてこうなったとか、シャルロッテさんが言っていました」


 ……なるほど。まあ、これはこれで悪くないので別にいいけどな。

 

                    ◆


「それにしてもこの宿、王宮みたいですよね」

 宿から出た所で、アリーセがそんな事を言う。

 

「ああ、それは俺も思った」

「だねぇ」

 俺とカリンカがアリーセの言葉に頷き、同意を示すと、

「ここですが……約100年前までは、本当に王宮の一部だったんです……」

 そう言ってくるアルチェム。


「え? そうなのか?」

「そうだったんですか?」

「あ、そうなの?」

 俺たちが同時にそんな疑問の言葉を返す。


「はい。王都の人口増加に伴う拡大によって……王宮が王都の端に来てしまった為、改めて王都の中心となる位置に作り直すべきだと、当時の獣王が決めて……新たに宮殿――いえ、獣王の意向によって、アカツキの建築様式と、この国古来の建築様式が融合した……今の城を築いたんです」

「なるほど、そうだったんですね。うーん……それにしても、アカツキの建築様式とこの国古来の建築様式の融合というのが、興味ありますね」

 アルチェムの説明を聞いたアリーセが、顎に手を当てながらそう言う。

 

「建築様式といえば……メルメディオは、この国古来の――王都の建築様式と大分違うよな。なんというか、メルメディオは、ルクストリアとルナルガントをあわせたような感じだったし。あれはなんでなんだろう?」

 俺は、ふと思った疑問を口にする。

 そう、メルメディオはアラビアっぽい雰囲気のするこの王都と違って、近代ヨーロッパって感じだったからな。


「あ、それはですね……昔、あの辺りは……アリアンベル女王国という名前の、別の国だったからです……。中世戦国時代に、かのクシフォス帝によって……この国の前身であるディンフロド王国共々滅ぼされましたが……後に起きた独立運動の結果、元ディンフロド王国領とアリアンベル女王国領が合わさってディンベル獣王国となりました……」

「へぇ……そういう経緯なのか。なるほど、別の国だったのなら納得だ」

 別の国であるのなら、建築様式がまったく別物でも何もおかしくはない。

 っていうか、相変わらずクシフォス帝は凄まじいな。


「さて、それじゃそろそろ行くか……って、まずはどこへ行けばいいんだ?」

 俺はそう言ってアルチェムの方を見る。

 それに続く形で、カリンカもまたアルチェムのほうを見て、そして言う。

「――何かアテはあるの?」

 

「あ、はい……。水路船のルートになっていない水路、およびその周辺が怪しいと王都守備隊では推測されています……」

「なるほど……。たしかにこの街は水路が張り巡らされている。水路側からしか入れないような場所があってもおかしくはないか」

 俺は、ふと昔プレイしたゲームで、そんな構造の街があるのを思い出し、そんな風に言う。


「はい……その通りです。それと……昨日、捕縛した月暈の徒(げつうんのと)――いえ、正確に言うなら……『依頼』を受けた人たちから得られた情報――ですね」


「依頼、ですか?」

 アリーセがそう短く言って首をかしげると、

「はい。……どうやら、口入屋(くちいれや)で受けた依頼だったようですね……。あの人たちが依頼を受けたという口入屋(くちいれや)に関しては、取り調べで既に判明しているので、そこを調べてみるのが良いかと……」

 と、アルチェムがそんな風に返してくる。

 

 たしか……口入屋(くちいれや)ってのは、日雇いや、短期の職業斡旋所みたいな物だと歴史の授業で習った記憶があるな。

 って事はつまり、昨夜の連中は、あくまでも金で雇われただけだって事か。

 もし捕まった時の事を考えたら、無関係の人間に金を掴ませてやらせた方が、色々と都合がいいっちゃいいからな。

 ――月暈の徒(げつうんのと)って奴らは、思ったよりも厄介そうだ。

 

「でしたら、まずはとりあえずそこへ行ってみます?」

「うん、そうだね。水路の方は多すぎて絞り込まないと厳しいし、私もそれが良いと思う」

 アリーセの提案に頷き、同意の言葉を発するカリンカ。

 

 ふむ……俺もそれに同意だな。

しばらくカリンカはこんなノリです……

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