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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第34話 翌日の予定と王都守備隊の3人

「エルザやナルセスたちだけど、大公宮の人たちのように、既にキメラにされてしまったと考えた方が良いかもしれないわね……」

 俺が頭に浮かんだ可能性を口にする前に、それを口にするシャルロッテ。

 諦めと苦々しさが混ざりあったような、そんな口調と表情で。

 

「……むぅ。あの者たち――特にエルザとナルセスに限ってそれはない……と、否定したい所ではあるが、ルナルガントの大公宮、ひいてはローディアス大陸全体の現状を考えると、残念ながら否定出来ぬ話であると言わざるを得ない」

 アーヴィングもまた、シャルロッテと同じような口調と表情で、そんな回りくどい言い回しをしながら答える。まるで否定出来る材料がないかを考えるも、結局否定する事が出来なかったと言わんばかりに。

 そして、それからしばしの間目を閉じた後、

「――こうなってくると、やはり我が国だけでの対処は難しいと言わざるを得ないな。獣王殿と話をして協力して事に当たる必要があるだろう」

 と、言葉を続けた。

 

「たしか、獣王陛下と会うのは明後日になったんですよね」

「うむ。……本当はもっと早く会えるはずだったのだが、先日の国境上空での交戦のせいで色々な手続きやら調整やらが増えてしまってね、どうしても時間がかかる。はぁ、やれやれ……政治というのはまったくもって面倒だね」

 アリーセの問いかけに対し、アーヴィングがため息まじりにそう答え、肩をすくめてみせる。

 ふーむ、政治的な問題か……。たしかに面倒そうだ。

 

「まあ、そこは仕方がありませんね。今の内に出来る事……というか、情報収集をしておくとしましょう。個人的には、ソウヤ殿が見つけたローディアス大陸へ渡る手段というのが気になりますが……」

 エルウィンがそんな事を言ってくる。まあ、そうだろうなぁ……


 とはいえ、この場でディアーナの事を言うのは少し躊躇がある。

 シャルロッテが秘密にしている事がわからない以上、どうしてもなぁ。

 まあ、今までの感じからすると、悪意があるようには全く見えないので、言っても大丈夫だとは思うんだが……


 あれこれ考えた末、俺はこう説明する事にした。

「あー、あれは星天の海蝕洞の近くにあるんだが……多用は無理だな。一度使うとしばらく使えないようでな。こっちからとあっちからでそれぞれ一度ずつ使っているから、少なくとも今日明日はどちらからも移動するのは無理だ」

 

 実際にはテレポータルにそんな制限はないのだが、『幽星の鏑矢』の方は多用が出来ないので、完全に嘘というわけでもない。

 ……って、そういえば、リンと普通に敬語を使わずに話していたせいか、エルウィンとも普通に敬語を使わずに話してしまっているな。まあ……今更か。

 

「なるほど……。となると、そちらは後回しですね。明日は空港をメインに話を聞いてみるとしましょう」

「お供するであります」

 エルウィンとクラリスはどうやら空港を中心に情報収集をするようだ。

 

「あ、私は当初の予定通り、ちょっとばかりデカブツを倒しに行ってくるわ」

「ん、興味があるからついていく」

 シャルロッテとロゼはデカブツ……要するに大型の害獣か? ともかく、そいつを倒しに行くらしい。


 ってか、勝てるのは確定事項なんだな。

 まあ、シャルロッテとロゼなら余程の奴じゃなきゃ負ける事はないだろうが。

 ……いや、むしろ余程の奴ですら倒すんじゃなかろうか……

 

「デカブツとやらに興味があるが、獣王と会うための準備をしないといけないので、あまり動けぬ……」

 アーヴィングが嫌そうな顔でそう告げてくる。準備とやらが面倒なのだろう。


「ちなみに、ソウヤは明日もどこか別の大陸へ?」

 シャルロッテが笑いながらそんな事を言ってくる。


「そんなに都合よく別の大陸に行けるかっての」 

 いやまあ、行こうと思えば行ける気はするが……とは、心の中だけで付け足しておく。


「俺は、さっき王都守備隊の人間から聞いたブラックマーケットについて調べてみようかと思っている。……あ、そうだ。アルチェムという名の王都守備隊の人間が尋ねてくるかもしれん。アリーセへのお礼で」

 俺は、アルチェムがお礼をしたいと言っていた事を思い出し、そうアリーセに告げる。


「え? 王都守備隊の方が、私にお礼……ですか? お礼を言われるような事をした記憶がありませんが……。というより、そのアルチェムさんという方には、お会いした事もないですよ?」

 キョトンとした顔で自身を指さしながら言うアリーセ。


「アリーセ自身っていうか、アリーセの薬だな。というのも、そのアルチェムという王都守備隊の人間が、ダーティガストとかいう害獣の毒を食らったらしくてな、俺がアリーセから貰った万能解毒薬を使ったんだ。そしたら、アルチェムからこんな凄い薬を作ったその人に、是非お礼がしたいって言われたんだよ」

 そう

「ああ、なるほど……そういう事ですか。でも、その凄い薬ってのは大げさですよ? あのくらいの薬なら簡単に作れますし。なので、お礼を言われる程の事ではないんですけど……不思議です」

 と、事も無げに言うアリーセ。

 なんというか……魔法薬に関しては、アリーセはチートだよなぁ。色んな意味で。

 

 そんな事を思っていると、何やら考え込んでいたカリンカが、

「なるほど、ブラックマーケットかぁ……」

 そう呟いた後、俺の方を見て問いかけてくる。

「それ、私も気になるから、一緒に行ってもいいかな?」

 

 ……そういえば、カリンカがずっとこの口調のままになっているけど、俺のいない間に何かあったんだろうか? まあ、後で聞けばいいか。

 

「ああ、別に構わないぞ」

 俺がそう言って頷くと、

「はい! 闇市ならではの素材がありそうなので、私も行きますっ!」

 勢いよく手を上げて言ってくるアリーセ。素材って……

 

「いや、中に入れるかは分からないんだが……。ってか、そもそもどこにあるのかも分からないし……」

「まあ、そこはがんばって探しましょう」

 俺の言葉に対して、ニコリと笑みを浮かべながらそんな風に返してくるアリーセ。

 

 随分とやる気満々だな……と思っていると、ロゼが近寄って耳打ちしてきた。

「……ん、アリーセはレアな薬の素材が手に入る可能性がある話を聞くと、そうなる。うん。私たちがアルミナの森に行った理由もそれ、うん」


 あー、そういう事か。なんであの時、アルミナの森になんて居たのかと思ってたけど、そんな理由だったのか。

 今更知る衝撃の事実! ……って程でもないが、まあとりあえず腑に落ちた。

 

                    ◆

 

 一夜明けて……

 俺とアリーセが、カリンカが来るのを宿のロビーで待っていると、グレンを除いた3人――ケイン、アルチェム、セレナが宿へとやってきた。

 

「おはようございます……」

「やっぱり、イルシュバーン使節団の一員だったんだね」

「そちらの女性は……アーヴィング閣下の娘――アリーセ殿だな。先程写真で見た」

 アルチェム、セレナ、ケインの順でそう話しかけてくる。


「万能解毒薬を作ったのが、そのアーヴィングの娘であるアリーセだぞ」

「あ、はい。私が作りました。粗末な作りの物ですが効果があってよかったです」

 俺の横に居たアリーセがそう答える。

 ……いやいや、粗末って事はないだろ、あれ。

 

「粗末なんて……とんでもないです。あれは、最上級クラスでした……。お陰であっという間に回復しましたし……」

「え? 最上級ですか? えーっと……そう言っていただけるのは、とても嬉しいですけど、あのくらいならそれなりの腕があれば、誰でも作れるでしょうし、私の作った物なんで、まだまだですよ。もっと真の最上級を目指さないとっ!」

 アルチェムに対しそんな風に返すと、グッと拳を握るアリーセ。

 

「「「………………」」」

 アリーセの言葉を聞いたアルチェムたちが絶句する。


 まあ、そうだろうな……。あれより更に上を作ろうとか言っているわけだし。

 うーむ……それにしても、アリーセの目指す真の最上級とやらは、一体全体どんな代物を想定しているのやら……って感じだな。


 なんて事を考えていると、しばらく沈黙していた3人が俺に近寄ってきた。

 そして、セレナが代表するかのように小声で問いかけてくる。

「……アリーセさんって、自分の腕が桁違いな事に気づいていない?」


「あ、ああ……多分――いや、間違いなく気づいていないな」

 俺がそんな風に答えると、

「……納得しました……」

「ソウヤの魔法にも驚かされたが、アリーセ殿も大概だな」

 アルチェムとケインが続けてそんな風に言ってくる。

 

「あの、どうかしましたか?」

「あ、いえ、その、お礼にいくら払えばいいかな、と……」

 アリーセの問いかけに、慌ててそんな嘘を言うセレナ。今の会話をごまかすにしても、もう少し他に言いようがあるのではないかと思わなくもないが、まあ出てこなかったのだろう。

 

「あ、なるほど。それでしたらお気になさらずに。あれのストックならまだ100本はありますし、むしろ持っていって欲しいくらいなので、お金なんていりませんよ。あ、もし良かったら1本……ああいえ、2本ずつどうですか?」

 なんて事をサラッと言うアリーセの発言に対し、思考がついていけなくなったのか、その場で硬直する3人。

 

 ……見事にフリーズしているな。

 と、そう思いつつしばらくすると、今度は油の切れた歯車の如き動きで俺の方に顔を向けてくる。……その動き、なんだか怖いぞ。っていうか、どうやったらそんな動きになるんだ。

 

「まあ、なんだ……? そういうものだと思ってくれ」

「あ、ああ……。し、しかし、さすがは武聖と呼ばれた人物の娘だけはあるな。方向性こそ違えど、とんでもないという点では同じだ」

 俺の言葉に対し、そんな風に言って納得するケイン。

 

「もしかして、イルシュバーンの使節団って、こんなとんでもない力を持つ人ばっかりだったり?」

 セレナが呆れ気味にそんな疑問の言葉を口にする。

 それに続く形で、アルチェムが、

「……さ、さすがに……そんな事はないと思います……。ないですよね……?」

 と、俺の方を見てそんな事を言った。

 

 ……はて? どうだろうか?

チートを横から見る主人公の図。いつもとは逆な感じです。


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