第32話 ディンベル獣王国・王都ベアステート
王都到着前に話を挟むと前回の後書きで書きましたが……
テンポが悪いのでカットしました(汗) いきなり王都からです!
兵士とのやり取りはグレンたちがいたお陰かあっさりと片付き、ようやく王都に足を踏み入れる事が出来た。
「――やれやれ、なんとか王都についたな」
俺はため息混じりにそう呟きつつ、周囲を見回す。
ふーむ……ディアーナの領域で、上から見下ろした時はさほど感じなかったけど、こうやって実際に足を踏み入れて見ると、凄くアラビアンな雰囲気がする街並みだな。
通りの端には城壁にあったのと同型の魔煌灯が配置されており、それなりに明るい。
それなり……というのは、等間隔に配置されているわけではないので、暗い所があったり、逆に過剰に明るい所があったりするためだ。
それにしても、この国では行灯型の魔煌灯が主流なのだろうか? どこもかしこもこの形状の魔煌灯ばかりだな。
などという割とどうでもいい事を考えていると、
「ところで、ソウヤはどこか宿のアテはあるの?」
と、セレナが尋ねてきた。
それに対し、俺は尋ね返す形で言葉を紡ぐ。
「ああ、先に来ている面々が『ホワイトランパート』って所に部屋を用意してくれているはずなんだが……どこにあるか知ってるか?」
「ホワイトランパートっていうと……駅前から城へと続く『テレジア通り』沿いにある王都で一番大きい宿だね」
「ここからだと、東廻り3番の水路船で一番近くまで行けるな。まだ動いているはずだし、俺たちもどうせ同じ水路船を使うから、案内するぜ」
セレナの言葉に続くようにして、グレンがそんな風に言ってくる。
「そうか? じゃあ、頼む」
俺はそう応じてグレンたちについていく。
ルクストリア程の広さではないが、このベアステートもかなり広いからな。案内してくれるのなら願ったり叶ったりというものだ。
――グレンたちとともに通りを歩いていくと、程なくして建物の合間を縫うようにして張り巡らされた水路が見えてきた。
そして、その水路に設けられた船着き場に、カンテラ型の魔煌灯が幌の支柱にぶら下げられる形で取り付けられた小型の船が待機しているのが視界に入る。
立て看板には『ミリシャ通り第2区 東3』と書かれているが、これがさっきグレンが言っていた東廻り3番の船を表しているんだろうか?
そう思っているとグレンが、
「お、ちょうど来ているな。あれに乗るぞ」
そう言ってきたので、間違っていなかったようだ。
そんなわけで船に乗ってしばらくすると、船頭より発船時間になった事がアナウンスされ、軽い振動音と共に船が動き出す。
小型とはいえ、夜に狭い水路を進むのは大変なんじゃなかろうかと思ったが、船の進む水路は、水路脇に設置されている魔煌灯により照らされており、思ったよりも明るかった。というより、魔煌灯がガイドライトになっている感じか。
これなら夜でも問題なく安全に航行出来るな。実際、結構な速度で進んでいるし。
「王都にはこういう感じの水路が幾つもあってな。東廻りと西廻り、合計8つのルートで水路船が運行されているんだ。だから、こいつを上手く使えば歩くよりも格段に素早く移動出来るぜ。結構遅くまでやってるしな」
と、グレンが説明してくる。
「なるほど、ルクストリアのトラムみたいなものか」
水路を進む船なので、むしろ地球のヴェネツィアのような感じだと言った方が正しいのかもしれないが、そう言ったところで通じないだろうし……
「トラム……ですか?」
「ああ、ルクストリアの主要な通りという通りに張り巡らされた併用軌道――道の一部に作られた鉄道用の軌道――を走る小型の鉄道だな。まあ、本数も多くて便利なんだが、路線が多すぎるというか……途中まで同じ経路を辿りながら、途中から異なる場所へと向かうっていうタイプが多くてな、慣れないと乗り間違えやすいという問題があるんだよ」
首を傾げて問いかけてくるアルチェムにそんな風に説明する俺。
なにしろ、日本の……東京の地下鉄よりも複雑だからなぁ、あれ。
「そんな所にまで鉄道が入り込んでいるあたり、さすがはイルシュバーンだな」
アルチェムへの説明を聞いていたグレンが、感心したような口調で言う。
「――鉄道と言えば、さっきの奴ら……月暈の徒と言ったか? あいつらは何故、線路を破壊しようなどと考えるんだ?」
「ああそうだった、その話をしないとな。よし、それじゃ改めて順を追って話すとするぜ」
俺の問いかけに対し、グレンはそう前置きをした後、コホンと咳払いをしてから、再び話し始める。
「まずは……だが、鉄道が出来れば人も物も大量に運べる。けど、そいつは逆を言うと、今まで馬車で街から街へと人や物を運んでいた人間の仕事を奪うって事でもあるだろ?」
「……それはまあ、たしかにそうだな。でも、そういうのって普通対策を先にするもんじゃないのか?」
「ああ、そうだな。当然だが対策はしている。個人に対しては鉄道関連の仕事を始めとした転職の斡旋を行っているし、商会に対しては、鉄道での物資輸送で割引を行うといった旨を伝えている。というか、そもそも普通の商会にとっては、鉄道は利点しかない」
グレンの代わりにそう答えるケイン。
「なら、問題ないような気がするんだが……。あ、いやまてよ……? 『普通の』商会って所が問題なのか?」
俺はそう言いながら腕を組んで考え込む。
「そうそう、そういう事。――この国の闇というか……いくら取り締まろうとしても無理だから、最早一種の黙認状態になってしまっているんだけど、ここベアステートには、あらゆる物が流れてくる『ブラックマーケット』っていうのがあってね、そこを取り仕切っている連中が商人連盟から離脱して、反抗しているってわけ」
頷き、ため息混じりにそう説明してくるセレナ。ブラックマーケット――つまり、闇市か。
ブラックマーケットの説明をしたセレナの言葉を引き継ぐように、グレンが言葉を紡ぐ。
「で、そのあらゆる物ってーのの中には、ヤバい性質を持つ魔法薬や薬草、それから盗品なんかも含まれてんだわ。だから、そういった物を取り扱っている連中にとっちゃ、国が管理する鉄道が物流の中心になると、ブラックマーケットへの商品輸送が難しくなるからな」
「なるほど、だから線路を破壊するという実力行使を取るってわけか。なんともわかりやすい話だな。……でもまてよ? 鉄道が出来たとしても、鉄道を使わずにそういった物を王都へ運び込む事は普通に出来るんじゃないか?」
納得した所で、新たな疑問が頭に浮かぶ。
そう、別に鉄道が出来たからといって、鉄道でした物資の輸送が許されなくなる、というわけではないからな。
「……今は行き交う馬車やレビバイクが多すぎて……王都に輸送されてくる物を、しっかり把握する事が出来ていないのが現状です……。ブラックマーケットを取り仕切る方たちは……その隙を突いて、王都に品物を持ち込んでいます……」
と、アルチェムが現状を説明してくる。
「ああ、そういう事か。鉄道が出来れば輸送の大半は鉄道が主流になり、馬車やレビバイクを使った輸送は今よりも格段に減る事で把握しやすくなる。つまり、怪しいものが王都へ入ってくるのを阻止しやすくなるってわけだな」
俺の言葉にアルチェムが頷く。
「はい、その通り……です」
「出来れば、それを足がかりにブラックマーケット自体を潰せればいいんだがな……」
ケインが肩をすくめながらため息混じりに言う。
ふむ……。こういった闇市の類っていうのは、あらゆる犯罪の温床となり得るし、王都の治安維持を担う者にとっては到底容認出来るものではないんだろうな。
まあ、個人的にはどういう所なのか少し興味があるが。
と、そんな事を考えていると、船頭のアナウンスが流れる。
「次は、テレジア通り第3区、テレジア通り第3区」
「おっと、着いたようだぜ。ホワイトランパートへ行くならここで下船だ」
グレンがそんな風に言ってきた。
思ったよりも早く着いたな。いや、この船が速いのか。
――船着き場に船が着岸し、俺が下船した所で、
「俺たちはこのまま乗っていくから、ここで一旦お別れだ」
そうグレンが言ってきた。
「……一旦?」
グレンの言葉に首を傾げると、グレンの代わりにケインが口を開く。
「ソウヤが『ホワイトランパートの宿泊者』であるのなら、すぐに再会する事になるだろう」
ふむ……。ケインがそう言ってくるという事は、グレンたちは、俺がイルシュバーン共和国の使節団の一員だと認識している……といった所か。
とすると、王都守備隊が使節団の護衛を請け負っていて、その護衛の中にグレンたちがいるとか、そんな感じなのだろう。
「なるほど? それじゃあ、また後日な」
「……はい。その時にお礼をさせていただきます……」
俺の言葉に対し、アルチェムがそう言って頭を下げる。
「ちなみに、ホワイトランパートだけど、そこの階段を登って通りに出たらすぐ右前方にあるよ。まあ、行けばわかると思う。目立つし」
なんていう説明をしてくるセレナ。
行けばわかるくらい目立っているのか……
4人に対して案内のお礼を言った所で、船が動き出す。
俺はそれを見送ると、通りへと繋がる階段を登っていく。
すると、セレナが先程言っていたように、階段を登りきってすぐに大きな通り――テレジア通りへと出た。
で、右前方だったよな……。って――
「でかっ!」
俺はあまりの光景に、そんな驚きの声を上げてしまった。
アラビアンナイトに出てきそうな、白亜の壁に囲まれた巨大な王宮――
王都の城壁と同じように、魔煌灯でライトアップされた宿『ホワイトランパート』は、そんなイメージだった。
王都ベアステートは、アラビアンナイト的な街並みをベースにしつつ、ヴェネツィアの街並みを混ぜたようなそんなイメージです。
なので、住人もアラビアンナイト的な服を着ている人が多いです。




