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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第1章 アルミナ編
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第9話 魔法とサイコキネシス

「……なんともまあ、懐かしい夢を見たもんだ」

 ベッドの中から宿の天井を見上げながら、そんな事を呟く俺。

 あんな夢を見たのは、寝る前に『あの日もそうだった』なんて事を考えていたせいかもしれない。

 

 ……それにしても、今思うと、あの後も色々あったんだよなぁ。

 蓮司や珠鈴から色々質問されるは、あそこの研究施設の破壊に付き合わされるは、本部に連れて行かれるはで、なかなかに大変な日だった。

 

 だがまあ……なんにせよ、あの日から日常と非日常が入れ替わったのは間違いない。

 って、そういやあの化け物を吹き飛ばした力――サイコキネシス――で、あれほどの質量のものを吹き飛ばしたのは、あの時一度限りだったな……

 

 一応、サイコキネシスで『なにかを押す』っていう事自体は、あれと同等レベルで可能だったから、敵の攻撃を押して止めるっていう形で、シールド代わりに使っていたりはしたけど、浮かせて吹き飛ばす、みたいな使い方は最後までガラスの破片くらいがせいぜいだったんだよなぁ。

 

 本部での話じゃ、サイキックの覚醒による暴走、暴発のようなものだ、と言っていたが……こっちに来てからは剣も飛ばせたし、あのアリジゴクみたいなのの甲殻をぶち抜いたりも出来たし、もしかしたら、今は、あの時と同等の力を発揮出来るようになっている可能性もある。

 

 ふむ、なにかいい感じに重さの物で試してみたい所だが……

 そう思いながら、ベッドから起き上がり、窓のカーテンを開ける。

 と、その直後、強烈な陽射しが降り注いできた。

「眩しっ!」

 俺は反射的に手で陽射しを遮る。……どうやら、この窓は思いっきり朝日の方角へと向いていたようだ。


 陽射しを避けるように壁際へと移動し、棚の上に立て掛けられている四角形と菱形が重なって描かれたパネルを手に取る。

 

 このパネル、見た目はただの模様があるパネルなのだが、実は時計だったりする。

 パネルのこの模様の部分をなぞると、その上にホログラムのような感じで数字が浮かび上がってくるという、なんとなく未来っぽさを感じる仕組みになっている。

 

 昨日、治療院で見た時計がアナログな針時計タイプだったので、そういう時計しかないのだろうと思っていたのだが、そんな事はなかったようだ。

 

 どういう原理なのかは、風呂やトイレと同様で良くわからないが、おそらく魔法的――術式的なものが組み込まれているのだろう。

 それはともかく、とりあえずそのパネル時計をテーブルの上に置き、模様の所を指でなぞる。

 すると、即座に『6:00』という現在時刻が宙に浮かんで表示された。もちろん、この世界特有の数字で、だが。

 

 昨日もそうだったが、どうやらディアーナが俺に施した全言語なんちゃらは、会話以外にも影響するみたいだな。

 

 と、それはともかく、朝飯にするにはまだちょっと早い時間だな。

 よし、なら朝飯の前に、ロゼの短剣で魔法が撃てるかどうか、試してみるとしよう。


                  ◆

 

 というわけで、町の外――北クスタバール街道を少し進んだ所から、線路を渡って荒野へと足を踏み入れる。 

 なぜこの荒野にやってきたかというと、宿にあったこの荒野の写真に、大きな岩が写っているのを見かけ、試し撃ちの対象によさそうだと思ったからだ。

 

 荒野に入って数分の所で、手頃な岩を発見した俺は、早速、次元鞄からロゼの短剣を取り出す。血で塗れていた部分は、宿を出る前に洗っておいたので、刀身はきれいだ。

 

 ま、なんというか……勝手に使わせてもらう事に関しては、洗ってきれいにしておいたので許して欲しい。

 と、当人のいない所でそんな謝罪を心の中でしつつ、例の本を取り出し、魔法の使い方について調べてみる。


 基本事項:魔法とは、魔煌波生成回路――生成とは言っているが、実際には魔煌波を調律、変化させる術式を自動的に構築するシステム。生成と呼ばれるのは、目に見えな大気機中の魔煌波が術式の影響で目に見える色となる為――を使う事で、術式毎に決められた『現象』を引き起こす物である。


 ……この辺は昨日読んだ別のページに書いてあったな。

 昨日読んだ所には、もっとあれこれと細かく書いてあったが、ここでは『詳しくは、~魔煌技術の章~ 魔法の項 参照』とだけ書かれており、省略されていた。

 まあそれはいいとして、使い方の詳細は……っと。

 

 1.武器タイプの魔煌具で魔法を使いたい場合は、手に持った状態で登録されている魔法の中から使いたい魔法を頭に思い浮かべ、精神を集中する。

 なお、1つしか登録されていない場合は、魔法を使おうと意識して精神を集中するだけで良い。

 

 2.魔煌具が所有者の思念を読み取り、使いたい魔法を認識すると、魔煌波生成回路が起動し、術式の構築に必要となる魔力を計測し、足りていれば自動的に魔法――所有者の求める現象を引き起こす為に、周囲の魔煌波を調律、変化させる術式の構築が開始されるので、そのまま精神を集中させて待つ。

 精神の集中が途切れてしまった場合や、魔煌波生成回路が起動地点から大きく動いたり、強い衝撃を受けたりした場合は、魔煌波の異常変化を防ぐ為に術式がキャンセルされるので、再度使いたい魔法を頭の中に思い浮かべ、精神を集中するところからやり直す事。


 3.術式の構築が終わると魔煌具全体が淡い光を放つので、あとは使いたい方向、地点、対象の中からいずれかをイメージし、魔法名を口にすれば発動する。

 魔煌具の中には、動作感知による発動機構が組み込まれている物もあり、その場合は魔法名を口にせず、魔煌具を掲げるか強く振るうだけでも発動する。

 なお、武器タイプの魔煌具は基本的に動作感知による発動機構が組み込まれている。


 ※補足:淡い光を放った後は発動待機状態となり、いつでも発動可能である。ただし、待機状態に入ってから数分が経過すると術式が自動崩壊してしまうので、1からやり直しとなる。

 なお、どれだけ待機状態を維持出来るかは魔法によって異なっているが、影響の範囲が広い物や、高い効力を持つ物ほど、維持出来る時間が短い傾向にある。

 ちなみに、魔法の中には発動先が固定されている物や、前述の方向、地点、対象の中で1つしか対応していない物もあり、これらはイメージの仕方を間違えると、処理が上手く行かずに術式が崩壊してしまい、やはり1からやり直しとなる。

 

 ……という感じらしい。

 動作感知による発動機構ってのはあれだな、相手に何の魔法を使うつもりなのかバレにくくする為、なんだろうな。


 って、そう言えば、この短剣にどんな魔法が登録されているのか分からないぞ……

 魔法を使おうと意識しただけでは使えない事から、登録されている魔法の数が2つ以上であるのは間違いない。

 

 さて、どうしたものか……と思いながら、本のページをめくると、一般的な魔法のリストが出てきた。

 魔煌波生成回路の色によって、相性の良い系統と悪い系統があるらしい。

 

「色……?」

 そう呟きながら埋め込まれている八角形の宝石の様な物――魔煌波生成回路を確認する。……エメラルドグリーンといった感じだな。本で調べて見るか。


 ……ふむ『玄』か『蒼』か『翠』から始まる名称の魔法が相性が良いようだ。

 というわけで、その系統の魔法リストを開き、とりあえず、上から順に頭に思い浮かべていってみる事にする。いわゆる、総当りって奴だ。


 ……

 …………

 ………………


 ――蒼雷の穿槍。


 ……反応なし。やれやれ、これも駄目か。

 玄は全滅で、蒼もリストにあるのは、あと2つだけだな。 

 

 ――蒼海の剛波。

 ――蒼空の翔翼。


 駄目だな、反応しない。これで玄に続いて蒼も全滅だ。

 残るは翠系統だけだが……まさか魔煌具にみえるだけで、実はただの短剣だったなんていうオチはないよな……

 

 ――翠天の旋風。

 ――翠風の衝鎚。

 ――翠風の裂刃。


 と、次の瞬間、刀身の付け根――グリップの少し上辺りに緑色の光点が現れたかと思うと、それがクネクネとした曲線を描きながら切っ先に向かって伸び始める。

 

「おっ?」

 これが魔煌生成回路って奴か? なんだか蛇の紋様みたいだな。

 などと思った直後、今度は短剣自体が淡い緑色の光を放ち始める。

 これが魔煌波に色がついている状態ってわけだな。たしかに生成しているようにも見える。

 しかし、この魔法は術式の構築とやらが随分と早いな。スピードを活かした戦い方をする人向けの物、って感じなのだろうか。


 ともあれ、これで準備は全て完了した。あとは撃つだけだ。近くの大岩に試し撃ちをしてみるとしよう。

 俺は岩に魔法が命中するようなイメージを頭の中で固めると、せっかくなので魔法の名前を口にして発動を試みる。

 

「《翠風の裂刃》!」


 直後、強烈な風の音と共に、三日月状の緑色の衝撃波が短剣から飛び出すようにして放たれ、目標となる大岩へと激突。その岩肌に、目で見てわかるほどの傷跡をつけた。


「おおっ! 格好いいなっ!」

 衝撃波に色がついているというのが何とも不思議な感じではあるが、むしろ色がついているからこそ、それが魔法の力によって生み出されたものである事が認識出来ると言えなくもない。

  

 それにしても、本当に誰にでも簡単に使えるんだな、この世界の魔法は。クシフォス博士はやはり偉大だというべきか……

 

 などと、どういう人物なのか良く知りもしないクシフォス博士に対し、心の中で敬意を表しつつ、今度は短剣をサイコキネシスで浮かせた状態で同じ事をやってみる。

 ただし、今回は魔法の名前を口にせず、単にサイコキネシスで短剣を振るってみた。


 と、先ほどと同じく三日月状の緑色の衝撃波が短剣から放たれ、大岩の傷跡が1つ増えた。

 どうやら、ビットのような使い方も出来なくはなさそうだ。もっとも、2つ以上登録されている魔煌具だと、複数での同時発動とかは難しそうだが。

 

 ……しかし、こうも簡単に攻撃魔法を使えるって事は、魔法に対する防御手段がないと、危険な気が……。いくらなんでも全て回避するってのは無理だろうし。


 そんな事を考えながら本をめくって行くと、防御魔法というのが記されたページへとたどり着いた。そのページの記述によると、服や装飾品などに防御魔法の術式を付与する事で、術式の強度に応じて攻撃魔法を防いだり、弱める事が出来らしい。


 こちらも、例のクシフォス博士が解読したという、古代の書物に載っていた技術がベースに使われているそうだ。クシフォス博士おそるべし。

 

 まあそれはともかく……要するに、RPGでいうところの魔法攻撃力と魔法防御力の関係みたいな感じか。魔法による攻撃に対する防御手段としては、魔法防御力の高い術式を服や装飾品に付与すればいい、というわけだな。

 

 また、この防御魔法は、魔法による攻撃だけではなく、物理的な攻撃も防いだり、威力を弱めるたりする事が出来るようだ。もっとも物理的な攻撃に対しての防御性能は、魔法に対しての防御性能と比べて、どうしても劣ってしまうようだが。

 

 ……ふむ。武器を持っている人はいても、鎧を着ている人はいなかったのは、この防御魔法という物が存在するから、って事か。

 うーむ……そうなると、なるべく早く防御魔法の術式とやらを付与してもらった方が良さそうだな。どこで付与して貰えるのかわからんが、アリーセなら知っているだろうし、聞いてみるか。

 

 というわけで、魔法の試し撃ちも概ね満足したので、町へ戻る事にする。

 ……そう思ったのだが、最後に魔法による傷の入った大岩を一瞥して、ふと思う。

 この岩、持ち上げられたりしないもんだろうか、と。

 

 もちろん、手で持ち上げるわけではなく、サイキック――サイコキネシスで、だ。

 以前、どっかの城で見た石垣に使われている100トン級の岩と同じくらいの大きさなので、重さもほぼ同じと考えていいだろう。

 その岩と密度の差が同じならば、という前提があるが、魔法を叩き込んだ跡を見る限りでは、少なくとも極端に密度が低いという事はなさそうだ。

 さて、それじゃあ――

 

「はっ!」

 掛け声とともに岩に精神を集中させ、岩を持ち上げるイメージを頭の中に思い浮かべる。……が、ピクリとも動かない。サイコキネシスが発動している感覚はあるので、単に重すぎて動かせないだけのようだ。やはり無理か……

 

 いや、まてよ? そもそも俺は持ち上げるよりも押し出す方が得意なわけだし、押し出してみたらどうだろうか……

 

「せいっ!」

 再び掛け声とともに岩に精神を集中させる。ここまではさっきと同じだが、今度は岩を押すイメージを頭の中に思い浮かべる。

 と、その直後、ズズッという重い物が引きずられるような音が聞こえてくる。

 

 いや違う。この音は、俺が岩を押している音だ。少しずつだが、目の前の岩が前へ前へと進んでいる。

 

「くっ……!」

 俺の額から汗が垂れる。

 お、押せるには……押せるが……こいつは……なかなか……キツ……イッ!

 

「ぐあ……っ!」

 全身に電撃が走ったかのような鋭い痛みを感じ、俺はサイコキネシスを中断する。

 というより、強制的に中断された。どうやらここが限界らしい。

 

「はぁ、はぁ……。さ、さすがに……重すぎ……たか……っ」

 俺は、片膝をついて息を整えながら、そう呟く。

 朝っぱらから限界まで全力疾走した気分だが、このレベルの物でも押せるようになっているという事がわかったので、よしとしよう。

 前は10トンくらいの物でこうなっていた事を考えると、サイコキネシスの性能は、大体10倍くらいになっているって感じだな。

 

 これなら、物理的な攻撃であれば、防御魔法がなくても、大体防ぐ事が出来そうだ。

 もちろん、攻撃魔法の類はこの力で防げるとは思えないので、やはり防御魔法はあった方が良いだろうけど。


 ……しっかし、疲れたな……。町へ戻るのは、少し休んでからにしよう……

魔法の使い方を説明する箇所が、ちょっと長かった気がします……

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