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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第31話 月暈の徒

 アルチェムが声を大にして言葉を発するのを始めて見たな……

 

 なんて思っていると、

「ちょっ!? 声、大きい!」

 と、慌てたセレナが、これまた声を大にしながらアルチェムの口を塞ぐ。

 だが、既に見張りの様子をクレアボヤンスで視ており、特にこちらに気づいた様子はないので、俺はその事を伝える。


「まだ距離があるし、向こうは作業をしているから、少しくらいの物音なら気づかれないだろうが……アルチェム、気をつけてくれよ?」

 腰に手を当てながら首を左右に振り、そんな風にアルチェムに注意をするグレン。

 それに対してアルチェムは心底申し訳無さそうな表情で謝罪する。


「ちなみに……俺の転移は魔法じゃない」

「というと?」

「詳細は後で話すとして……手短に説明すると、俺の転移は『異能』だ。任意の対象――人や物問わずあらゆる対象を、任意の場所に飛ばしたり自身のもとへ引き寄せたり出来る。こんな風に……なっ」

 そう言いながら、グレンを数メートル転移させる。

 

「うお……っ……!」

 声を上げそうになるも、慌てて自分の手で口を塞ぐグレン。


「ふぃー、危なかったぜ。……しっかし、こいつはまたすげぇというかなんというか、転移を受けたのは始めてだってのもあるが、目に映っている物が突然変化するせいで一瞬焦るわ……」

「それはまあ……転移なんだからそうでしょうね」

 肩をすくめてみせるグレンに対し、やや呆れ気味に言うセレナ。

 

「それにしても異能……か。これはまた面白いな」

「……やはり、不思議な縁があるような気がします……」

 俺たちの会話を聞ていたケインとアルチェムが、そんな風に行ってくる。

 って……おや? 今までと比べて随分と落ち着いた反応だな。

 

「ん? 随分と落ち着いているが……どういう事だ?」

「……その、私も……異能を持っているんです」

 俺の疑問に対し、アルチェムがそう答えてくる。

 おおう、リンに続いて二人目だな。

 

「……と言っても、召喚とか転移とか……そういう強力なのではなくて……なんというか、たまに夢で未来の事が、少しだけ見えたり……心の中で思っている事を、紙などに絵として投影する事が出来るような……そんな程度の異能ですけど……」

 なんて事を言ってくるアルチェム。

 ふむ、ソートグラフィー……いわゆる念写って奴か。

 となると、夢の方はそれによって引き起こされる予知夢って感じか?

 

「そんな程度だなんて事はないって。さっきもアルシェンテの花を探すのに役に立ったし」

 アルチェムに対してそんな風に言葉を返すセレナ。

 それに合わせるようにして、ケインが「うむ」と頷き、

「そうだな。俺はアルシェンテの花がどういう物か知らんかったし」

 と、グレンが言った。

 

「ああ、俺も便利な異能だと思うぞ」

 グレンたちに続く形で俺もそう言うと、アルチェムは顔を赤らめる。

「そ、揃ってそんな風に言われると……て、照れくさいです……。そ、それはそうと、今は月暈の徒(げつうんのと)の方です」


 アルチェムが見張りの方を見る。

「ソウヤ様の転移で見張りを突破する……んですよね?」

 というアルチェムの問いに俺が頷くと、

「ソウヤが転移させてくれるなら、一気に制圧できそうだな」

 そうグレンが言い、それに対してケインとセレナが頷く。

 

「奇襲を仕掛けられるのなら、私とケイン、それからグレンの3人で十分だと思う」

「そうだな。ソウヤにはアルチェムの護衛を頼みたい」

 3人からそんな感じで言われたので、俺はアルチェムの護衛を引き受ける。

 

「よし、それじゃもう少し近づいたら一気に行くとしようぜ。――セレナ、先行してギリギリのラインで止まってくれ」

「任せて」

 グレンの指示に短くそう返すと、先に立って慎重に歩みを進めるセレナ。

 

 そのセレナを追うようにして俺たちも慎重に進んで行く。

 そろそろギリギリだろうか? と、そう思った所でセレナが腕を横に伸ばし、静止の合図をしてきた。ここが限界らしい。

 

 ふむ、当然といえば当然だが、この距離では声を発したらまずいな。

 というわけで、グレン、ケイン、セレナを交互に見る俺。

 すると、3人がそれぞれ頷いたので、順番にアスポートを使い、速やかに見張りの後方へと送り込んでやった。

 

「ぐっ!?」

「ぎっ!?」

「あうっ!?」


 短い悲鳴が3連続で響き、続けてドサッという倒れ込む音が、同じく3連続で響く。

 と同時に、グレンたちの姿がくっきりとする。どうやらステルス魔法の効果が切れたようだ。


「な、なんだお前ら!? 一体どこか――げはぁっ!?」

 グレンたちに気づき、フードを被った男が慌てて得物を構えようとするが、その前に意識を刈り取られ、見張りたち同様、地に倒れ伏す。

 

 そして、突然の奇襲に慌てふためいていた事もあり、月暈の徒(げつうんのと)と思しき集団は、抵抗らしい抵抗も出来ぬまま、グレンたちによってあっさりと沈黙させられた。


「うーん、3人とも結構強くないか? これなら瞬殺とまではいかないにしても、ダークウィングボアとやり合っても、勝てる気がするんだが……」

 何故持っていたのか良くわからない縄で、沈黙させた連中を縛り上げていくグレンたちを眺めながら、隣りにいるアルチェムにそんな言葉を投げかける俺。


「そうですね……勝てはします。でも……無傷で、とはいかないです……。残念ながら……」

 などという言葉を返してくるアルチェム。

 ……今の言い回し、まるで『結果を知っている』かのような言い回しだったな。


 俺はアルチェムの方に顔を向け、口を開く。

「アルチェム、それってもしかして、予知――」

「ふー、どうにか拘束出来たぜ。ソウヤ、すまんが俺はちょっとばかし守備隊を連れてくるから、あのふたりと一緒に奴らの見張りを頼む」

 俺が最後まで言葉を発するよりも先に、グレンがそんな事を言いながら近づいてきた。

 

「ん? ああ、わかった」

 そう言葉を返しつつ頷き、了承を示すと、

「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」

 と言って王都へ向かって勢いよく走り出すグレン。


 って、めちゃくちゃ走るの速いな!? あっという間に見えなくなったぞ……

 少しばかり驚きながらグレンの去った方を眺めていると、

「グレン様は、昔から……走るのが速かったんです……」

 と、アルチェムが俺の心の中を読んだかのように、そう言ってきた。


「たしかにグレンは幼少期の頃から速かったね……」

「ああ、特に逃げ足はピカイチだった」

 拘束が終わってこちらへとやってきたセレナとケインもまた、そんな事を言う。

 

「そうなのか……。――速いと言えば、ふたりも随分と拘束の手際がいいな。なにか理由があるのか?」

 俺は拘束された連中を見回しながら、疑問に思った事を口にする。

 

「理由というか……単純にこういうのに慣れてるから、かな? なにしろ私たちは、普段は王都守備隊として、王都や王城を守護し、治安を維持する役割を担っているし」

「そうだな。そのせいで拘束術に関しては、体に染み付いてしまっているのだろう。こういう時でも自然と体が動くんだ」

 セレナとケインがそんな風に言って返してくる。

 

 なるほど……どうやら、ケインたちは守備隊に所属しているようだ。

 つまり、グレンは仲間を呼びに行った感じか。

 だったら『仲間を連れてくる』と言えばいいものを……

 

 ん? いやまてよ? グレンだけ守備隊の人間じゃない可能性もあるな。

 その事を問いかけようとした所で、ガサッという音がする。

 

 なんだ? と思い、音のした方へ視線を向けると、インスペクション・アナライザーを装着し、フードを目深に被った見張りの1人が、縄を解いて逃げ出す所だった。

 縄抜けだけじゃなくて、気絶からの回復も早いな。

 

「「くっ!」」

 セレナとケインが見張りを追うべく走る。……ふむ。

 

「よっ、と」

 俺はアポートを使い、その逃げた見張りを引き寄せる。

 ……引き寄せてみて気づいたけど、随分と小柄だな。

 なんて事を思っていると、走るセレナとケインが、

「「へ?」」

 と、急停止しながら素っ頓狂な声を上げた。

 

「さっき、『自身のもとへ引き寄せたり出来る』と言っただろ?」

 俺はそう告げながら、そいつをサイコキネシスで軽く浮かせてみる。小柄なので上手く行きそうな気がする。

 

 ――程なくして、あっさりとそいつの身体が宙に浮いた感触が手に伝わってきた。よし!

 地に足が着いていない状態で動くには、浮遊魔法か翼が必要だからな。下手な拘束より強力だ。幸い、こいつは翼を持たない種族のようだしな。

 

 せっかくなので顔を拝むべく、そいつのゴーグル型のインスペクション・アナライザーとフードを外してみる。

 顕になったその顔は、ゴーグルとフードのせいで気づかなかったが、こいつ、地球でのクーよりちょっと上程度の年齢じゃないか? と、そう思わせるような少年だった。

 一瞬、マムート族かと思ったがその特徴は有していない。

 むしろ、セレナと同じく猫耳があった。……つまり、カヌーク族か。

 

 そんな事を思っていると、宙に浮かされた――というか俺が浮かしているカヌークの少年が懐から光る紋様の刻まれたペンダントを取り出し、かざす。

 ……って、この紋様、魔煌波生成回路じゃねぇかっ!

 

 それに気づいた時には、魔法が発動し、俺に対して電撃が放射される所だった。

 ヤバい――と思った所で、俺の服に付与された防御魔法を思い出し、そのまま踏みとどまる。

 

「ソウヤ様っ!?」

 慌てた様子で声を上げ、駆け寄ってくるアルチェム。


 直後、電撃が俺に命中に、俺の視界が真っ白になる。

 ……が、それだけだ。痛み1つない。


「ノーダメージだから大丈夫だ」

 そうアルチェムに対して告げると、アルチェムのみならず、カヌークの少年もまた、無言のまま驚きに満ちた表情を見せる。

 

 俺はこれ幸いとばかりに、カヌークの少年を見据え、

「――俺に攻撃が効くと思ったのか? 残念だったな、何か仕掛けてくる事なんざ予測済みだし、当然その対策も万全にしてある」

 と、言い放った。


 無論、魔法だったから回避せずに防御魔法任せで済んだものの、短剣とか投げられたらヤバかったので、対策が万全だというのは単なるハッタリだ。

 しかし、その一言で逃走を諦めたのか、カヌークの少年がダラリと身体を弛緩させ、抵抗しない事を示してきた。


 念の為、4人で拘束した連中の事を警戒をするも、カヌークの少年のように逃げようとする者はいなかった。

 ――程なくして、グレンが兵士の一団を連れて戻ってくる。

 そして、兵士の一団は手際よく月暈の徒(げつうんのと)と思しき連中を引っ立てると、そのまま王都へと連行していった。

 カヌークの少年もまた、完全に無抵抗のまま兵士に連行されていった。

 

 ふむ……。とりあえずこれで一段落ついたか。

 やれやれ、これでようやく王都に足を踏み入れられるな……

次回は、ようやく王都に辿り着きます。

……まあ、辿り着く前に少し会話が挟まる予定ですが。

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