第30話 宵闇の鉄路に蠢く者たち
いつもより若干長めです。
……護民士の知り合いっていうと、クライヴやアルベルトだよなぁ……
まあ、もう1人長い名前の護民士とルクストリアで出会っているけど、知り合いって程じゃないしなぁ。
って……そういえば、アルミナの護民士は3人いるんだよな。
で、結婚報告とやらで不在だったアルミナの3人目の護民士の名前が、『サラ』だったような……? うーむ、もしかしてその人だったりするのだろうか。
その推測が正しいのか分からないが、とりあえず尋ねてみる事にする。
「なあ……そのサラさんって人だけど、もしかしてアルミナの街に駐在していたりしないか?」
「ん? ああ、その通りだが……もしかして、ソウヤはサラ義姉さんと知り合いなのか?」
と、そう返してくるケイン。ふむ、どうやら推測は正しかったようだ。
俺は首を横に振って否定を示すと、知っている理由を説明する。
「いや、サラさん自体とは面識がないんだが、アルミナに駐在している他の護民士――クライヴやアルベルトとは面識があってな。前に話を聞いた事があるんだよ」
正確に言うと、話を聞いたのはエステルからなのだが、説明が面倒になるのでそこは省いた。
「なるほど、そうでしたか……。なんだか不思議な縁を感じます……」
アルチェムが顎に手を当てながら、そんな風に言ってくる。
縁と言える程のものかというと、正直微妙な所だが、たしかに不思議というか……面白い繋がりではあるな。
――そんな会話をしながら歩いていくと、程なくして街を取り囲む城壁と、入口である城門が見えてきた。って、なんだか随分と明るいな……
そう思い、クレアボヤンスで見てみると、城壁の上に行灯を大きくしたような形の色とりどりの魔煌灯が並べられており、それによって城壁全体がライトアップされているというのがわかった。
……闇に浮かぶ色とりどりの壁、か。うーむ……なんとも幻想的だな。
いやまあ、ここはファンタジー世界なんだけどさ。
って、よく考えたら、城壁の上にしか光源がないのにどうやって城壁全体をライトアップしているんだ? 光源の位置と照射範囲的におかしいよなぁ、あれ。
……ま、まあ、ここはファンタジー世界だからな、うん。
――なんて事を心の中で呟きつつ、視界をそのまま横へ移動していく。
と、作りかけの線路と何か蠢く物が見えた。……うん?
俺はその線路の周囲で蠢く物に対し、視線を集中させてみる。
すると、蠢いていたのは人間たちだった。線路の周囲に集まって、なにやら作業をしているようだ。
「そういえば、王都まではルクストリアから線路が繋がっているんだったな」
俺が呟くようにそう言うと、グレンが感心したような表情で、
「ん? ああ、工事中の線路を見たのか。随分と良い視力を持ってんな」
なんて事を言ってきた。
「ああ、城壁の上にある魔煌灯も見えるぞ」
クレアボヤンスを使えばだがな、というのは心の中で付け足しておく。
「マジかよ!? すげぇな!」
「そうか? まあ、視力の事はさておき、この国の鉄道の状況について教えてくれ」
「んー、状況って言われても、大して話せる事はないな。ってのも、隣国――イルシュバーン共和国と違って、この国には鉄道路線は1つしかないからな。共和国の首都であるルクストリアから、あのベアステートまで繋がっている大陸横断鉄道だけだ」
と、そう言いながら王都の方に顔を向けるグレン。
「ふむ、たしかにここに来るまで線路の類は見かけなかったな」
正確には、ディアーナの領域で真上から見た範囲での話だが。
「うん。しかも、ベアステートとルクストリアを行き来するなら、飛行艇の方が早いし、正直今の鉄道はあまり利点がないんだよね。だから、国境のミルドボルデ駅から先は本数も減るし」
セレナがグレンの代わりにそんな風に言ってくる。
たしかにイルシュバーン側――アルミナがある南部方面の路線『イルシュバーン南方国境線』は、本数が少ないな。
「この国じゃ、ミルドボルデ、ベアステート間以外の移動は、徒歩か昔ながらの馬車に頼る必要があってな……正直、時代遅れと言わざるを得ない。まあ、それでも最近はレビバイクのお陰で、馬じゃなくてレビバイクが牽引するというか……荷車とレビバイクが一体化したタイプの物が増えたから、一昔前よりは大分マシになってるんだけどな」
「ふむ、なるほど……そういう事か。つまり、大規模な輸送手段を確保するために線路を――鉄道網を拡大しようとしているってわけだな」
グレンの説明を聞き、納得する俺。
まあ、せっかく鉄道があるわけだし、それを拡大しない理由はないよな。
「ああ。馬車やレビバイクと、鉄道とを比べたら、鉄道の方が圧倒的に多くの人や物を運べるからな。この国がより発展するためには、どうしても鉄道網の拡大が必要不可欠であり、急務だ」
「――そうだな。離れた街と街との間を、多くの人や物が簡単に行き交う事が出来るようになれば便利だし、それに合わせて色々と発展するのもたしかだな」
グレンの言葉にそう返すと、俺はそこで一度言葉を区切り、暗闇の中で苦労して作業をしている人々を、クレアボヤンスで眺めながら、
「けど……急務なのはわかるが、夜中に工事するんだったら、せめて照明の魔煌具くらい用意した方が良いんじゃないか? 暗い中で月明かりだけを頼りに作業をするとか、明らかに効率が悪いだろ」
そんな風に続きの言葉を紡ぐ。
と、その俺の言葉を聞き、グレンは「へ?」という素っ頓狂な声を上げた。
「……ん? 線路の周囲に人が集まって、なにか作業をしているみたいなんだが、あれは線路の敷設工事をしているんじゃないのか?」
クレアボヤンスを解除し、線路のある方を指さしながら問う。
「いや……さすがに夜中まで工事したりはしねぇはずだぞ? 日中だけ……だよな?」
グレンはそう言いながらケインの方を見る。
それに対してケインは、目を細めて俺の指さす方を見ながら、
「そうだな。よほど作業が遅延していたりしなければ夜に作業をするような事はないし、もし仮にする必要があるような場合は、さすがに照明の魔煌具ぐらいは用意するはずだ。……が、たしかに人影が見えるな……。照明の魔煌具なしに作業をしようとでもいうのか?」
と、答えて首をかしげた。
ふむ……良くわからないが、おそらく線路の敷設工事に、ケインかケインの家が関わっているのだろう。
「うーん、私の目じゃちょっと見えないから何とも言い難い部分はあるけど……でもさ、こんな暗い中で作業するっておかしくない?」
「……もしかして『月暈の徒』……ではないでしょうか?」
セレナの言葉に続くようにして、顎に手を当てながら推測を述べるアルチェム。
「「「っ!?」」」
弾かれたようにアルチェムの方へと顔を向けるグレンたち。
「月暈の徒?」
俺が疑問を口にすると、
「……新たな鉄道の建設に反対する人たち――主に以前は商人連盟に属していた人たちが中心となって作った、直接行動を是とする組織で……鉄道建設の妨害を、度々行っています……」
なんて事を言ってくるアルチェム。
「なるほど、要するに過激派か。どこにでもそういう奴らってのはいるもんなんだなぁ……。――で、すまん、商人連盟ってのはなんだ?」
再びアルチェムに問いかけると、アルチェムは、
「あ、そういえば……共和国には存在しませんでしたね……。簡単に言うと……商いをする人たちのためのギルド……みたいな感じです」
と、そんな風に説明してきた。
ふむなるほど、商人のギルドか。ある意味、名前そのままって感じだな。
「それで……なんだって商人たちの中に、そんな物騒な組織を作ろうだなんて思う奴が出てきたんだ?」
「あー、それに関しては順を追って話した方がいいな。……が、まずは先に奴らを止める」
俺の新たな疑問に対し、そう言ってくるグレン。たしかに話は後にするべきだな。
「で、具体的にはどうするんだ?」
「――慎重に間合いを詰めたら、一気に接近して無力化する。情報を得るためにも、なるべく殺さずに捕らえたいからな」
ケインの問いかけにそう返すグレン。
「なら、これだね。《玄夜の黒衣》!」
そう言い放ち、セレナが魔法を発動する。
直後、俺たちの姿が薄く……というか、ぼやけた感じになった。
なんだか良くわからないが、面白いな。
「へぇ、こんな魔法あったのか。これって、どういう効果なんだ?」
「あ、知らなかった? これは周囲と同化して発見されにくくする魔法でね、激しい動きをしない限りは解除されない上に、対象者同士はある程度見えるから便利なんだよ」
セレナが俺に対してそんな風に説明してくる。
なるほど、ステルス魔法といった所か。たしかに便利だな。
「まあ、街の外では便利だが、街中だとこの手の魔法への対策が施されている所が多いから、ほとんど役に立たなかったりするんだがな」
ケインがそう言って肩をすくめて見せると、セレナは肩を落としながらため息をつき、
「そうなんだよねぇー。この国だと割と使える街が多いけど、おそらく共和国なんかじゃ、どの街でも使った瞬間に解除されちゃうと思う。共和国ってその辺の魔法対策は世界一だし」
なんて事を言う。たしかにルクストリアなんかは、そういう魔法への対策は万全だったな。……あくまでも『魔法への』だけど。
「――ま、今回は街の外だから有用だな。って事で、慎重に接近するぞ」
というグレンの言葉に頷き、俺たちは線路へ向かって歩き出す。
そして、歩きながらクレアボヤンスを使って状況を確認すると、何人かがゴーグルのような物を着用し、周囲を警戒しているのが見えた。
「ゴーグルっぽい者を着用している奴が、周囲を警戒しているな。あれ、インスペクション・アナライザーの類かもしれないぞ」
室長やエステルの師であるアーデルハイトが使っていた物を思い出し、そうグレンたちに告げる。
「先程といい今といい、ソウヤは随分と夜目がきくようだな。……しかし、インスペクション・アナライザーか……厄介な物を持っているな。あまり近づきすぎると、見破られてしまうぞ」
「10メートルくらいまでは感知されないと思うけど、それ以上は厳しいかも」
ケインの言葉にそう返すセレナ。……その距離なら、アポートもアスポートもいけるな。
「奴らの懐まで踏み込めれば最良なんだけどなぁ……そう簡単にはいかねぇか」
そう呟くように言って、考え込むグレン。
ふむ……説明が面倒だが、アポートとアスポートについて話すか。
グレンたちなら問題ないだろう。
「だったら、ギリギリまで近づいたら、あとは俺の力で見張りの後方まで転移させよう。距離的にはいけるはずだ。……まあ、残念ながら俺自身は転移出来ないから、制圧はグレンたちに任せる事になるが……」
そう告げると、グレンたちは一斉に驚きの表情を見せる。
……まあ、そういう反応になるよな。分かってたさ。
というわけで、いつもどおりアポートとアスポートについて説明しようとした所で――
「て、転移魔法が使えるのですか!?」
今まで小さな声で話していたアルチェムが、始めて大きな声を上げた。
王都に辿り着きませんでした orz
伏線回収と各種説明の部分が、思ったよりも長くなってしまいました……
それと……次回は諸事情で、更新が1日遅れます!
なんとか1月31日に更新したかったのですが、どうやっても無理でした orz
なので、次回は2月1日の更新予定です。すいません……!