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サイキッカーの異世界調査録(サーベイレコード)  作者: TOMA
第1部 異世界グラスティアの異変 第3章 南方編
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第27話 思案と方針

 俺は次元鞄に手を突っ込み、例のピエロの格好をした人形タイプの魔法生物を引っ張り出す。

 

「ちょっ!? 何その死体!」

 驚き、後ずさる朔耶。

 あー、まあ……見た目は人間そのものなので、驚くのも無理はないか。

 

「違う、死体じゃない。これがそのルクストリアで遭遇した――正確に言うなら、シャルロッテを襲撃した人形タイプの魔法生物の残骸だ」

 朔耶に対し、そう告げる俺。


「実はこいつら、頃合いを見てエステルあたりに調査を頼もうと思って、倒した後に回収しておいたんだが……まあ、ルクストリアでその後色々あったせいで、すっかり忘れてた」

 そう俺が言うと、

「ふむふむー、これはなかなか良い感じに情報が得られそうですねー。これー、私の方で調べてみますねー」

 そう言いながら魔法生物の残骸に手を触れるディアーナ。

 と、その直後、残骸が光に包まれて消滅する。


「うーん……」

 その様子を眺めていた朔耶が、顎に手を当てて何やら唸っていた。……うん?

 

「……どうかしたのか?」

「あ、ううん、言葉を発しない人形って、まるで『竜の血盟』の人型オートマトンみたいだなぁって思って」

 俺が声をかけると、朔耶はそんな風に言ってきた。

 

「そうだな。まあ、奴らの生み出したオートマトンは、今の人形とは似ても似つかぬ物――例えるならロボットアニメに出てきそうなロボットって感じだったけどな」

 朔耶の言葉にそう返した所で、引っ掛かりを覚え、「ん?」と呟く俺。

 そして、そのまま思考を巡らせ始める。

 

 ……キメラ――冥界の悪霊、混沌界の邪獣……

 ……オートマトン――鬼哭界(きこくかい)の鬼神……

 

 ……ふむ。

 

「ソー兄? 急に黙り込んでどうしたのさ?」

「ソウヤさーん? どうかしましたかー?」


 朔耶とディアーナが、俺の顔を覗き込むような仕草で問いかけてくる。

 そのふたりに対し、今思った事をそのまま言葉にする。

「あ、いや……『竜の血盟』が生み出していたキメラやオートマトンって、異界の魔物たちとなんらかの繋がりがあるんじゃないかと思ってな」


「え? ……あー、そう言われると冥界で遭遇した大型キメラって、他の冥界の悪霊と似ている部分があったかも……。リンさんが同一視していたし」

「冥界にー、そのキメラという代物をー、生み出す施設があったんですよねー? だとしたらー、冥界の悪霊と称される魔物たちのー、細胞やらなにやらをー、使っていてもおかしくはないですねー」

 俺の言葉を聞いたふたりが、それぞれそんな事を言う。

 

「つまり……キメラファクターのベースになっているのは、『冥界の悪霊』や『混沌界の邪獣』……?」

 そう呟くように言った俺に、朔耶が続くように言葉を紡ぐ。

「もしそれが真実だったとしたら、オートマトンも鬼哭界の鬼神をもとにして生み出された可能性が高いね」


「ああ。……まあ、現時点では仮定――推理の域は出ないけどな」

 朔耶に向かって肩をすくめてみせた所で、

「そのへんも含めてー、少し調べてみましょうー。んんー、可能ならー、キメラファクターとやらの現物がー、あるといいのですがー」

 そう言って俺の方を見てくるディアーナ。

 ……たしかにそうだな。うーん、キメラファクターかぁ……

 

「もしかしたら……ですけど、エクスクリスの学院長が生成していた物を、事件の証拠品として室長が抑えているかもしれません。ルクストリアに戻ったら話をしてみて、もし確保しているようでしたら、どうにかして貰ってきます」

 例の事件の事後調査にも関わっているみたいだし、室長の性格からしたら、護民士に渡すであろう物以外にも、こっそりと確保していそうだけど……と思いつつ、ディアーナに告げる。

 

「ではー、それを期待して待っていますねー」

 ディアーナがそう言った所で、

「パパからオッケーされたですー」

「思いっきり驚かれたが、どうにかこうにか説明したぜ」

 という声が聴こえてきた。どうやらクーとリンが戻ってきたようだ。


「お、ご苦労さん。だったらとりあえず先にセルマを運んでしまおう」

 俺はそう言って、セルマに近づくとサイコキネシスを軽く使いながらその身体を持ち上げる。

 そして、クーの案内に従って伯爵邸の一室にセルマを運び込んだ。

 

「――よし、これでいいな」

「あとは任せるです!」


 静かに寝ているセルマを置いて部屋から出た所で、

「話はふたりから聞きました。まさか、ルナの古馴染みである貴方様が、女神ディアーナ様の使徒であらせられたとは……」

 なんていう声が通路の奥にある階段の方から聴こえてくる。

 当然といえば当然だが、その声は伯爵のものだ。

 うーん……朝と違って、言葉遣いが少し畏まったものになっているな……

 

 階段を降りて来た伯爵に対し、俺は畏まった話し方をする必要はない事を伝え、そのままディアーナの領域へと案内する。

 そして、アリーセたちの時と同じような事を話すついでに、ローディアス大陸で見聞きして来た事も伝えた。

 

「なるほど……。少しだけルナと公女殿下から話を聞いてはいたけれど、まさかローディアス大陸がそのような状況になっているとはね……。うーん……これは、さすがに別の大陸の話だからで済ませられる問題じゃないね」

 伯爵が腕を組んだまま、そう言って難しい顔をする。

 

「せめて、冥界の悪霊どもが自然に顕現してしまうような状況だけでも、どうにか出来ればいいのですが……。銀の王(しろがねのおう)計劃(けいかく)とやらは、偶然とはいえ私たちが冥界に乗り込んだ事で、遅延が生じたみたいですし」

 リンが丁寧な口調の方で額に手を当てて伯爵同様、難しい顔をする。


「そういえば、たしかにそんな事を話してたね」

 こちらを見てそう言ってくる朔耶に頷く俺。

「ああ。あの言葉を信じるならしばらく猶予がありそうだ」

 

「――ディアーナ様の次元なんとか結界とやらで、公都全てを覆ったりは出来ないものでしょうか?」

 リンがディアーナの方へと顔を向け、少しだけ期待を込めた感じで尋ねる。

 しかしそれに対し、ディアーナは申し訳なさそうな表情で答える。

「次元干渉阻害結界ですかー? 私が公都に(おもむ)けばー、結界を張る事自体は可能ですがー、さすがにそれをずっと維持し続けるのはー、難しいですねー」


 まあ、たしかにそうだろうなぁ……と思っていると、

「それでなのですが……ふと思った事があるです」

 と、呟くように言うクー。……ん? 思った事?

 

「思った事? それはなんだい?」

 この場にいる皆の代弁をするかのように問い返す伯爵。

 

「はいです。蒼夜さんと朔耶さんには公都の隠し通路で話をしたですが、符を使ってその結界を展開する事が出来るのではないかと思ったのです」

 頷き、そう答えるクーに、俺はその時の事を思い出しながら言う。

「そういえば、そんな事言っていたっけな。星天の海蝕洞の結界も干渉阻害だとかなんとか」


「その結界はー、どんな感じなんですかねー? ちょっと見てみましょうー」

 なんて事を言って目を瞑るディアーナ。

 ……そして、しばしの沈黙の後、目を開けて再び言葉を紡ぐ。

「なるほどー。私の使う物と比べてー、余計な部分がありますがー、たしかにこれは星霊術の構成ですねー。この形式だとー、通過する術式が必要そうですがー、そちらはどんな感じなのでしょうー?」


 なにやらあっさりと術式の構成を見破ったディアーナに対し、

「あ、それならこれです」

 と言って、俺はクーに代わって例の符――エンピリアルグラフを渡す。

 

「ふむふむー。こういう風にしているのですねー。なるほどなるほどー。要するにー、扉の鍵穴と鍵の要領なわけですかー。先程余計だと思った部分はー、あえてそうしてあったわけですねー。うーん……これはなかなか面白いですねー」

 繁々(しげしげ)とエンピリアルグラフを見ながら、そんな風に言ってくるディアーナ。


「えっと……? クーの言う通り、この符を使って次元干渉阻害結界の展開は可能そうなんですか?」

 俺がそう問いかけると、ディアーナは頷き、

「はいー。たしかにこれならー、次元干渉阻害結界をー、符で展開出来ますねー。もっともー、結界の展開範囲がー、どうしても狭くなってしまうのでー、公都のような広い場所をー、完全に結界で覆おうとするとー、かなりの数の符がー、必要になってしまいますがー」

 と、そう告げてきた。

 

「よかったのです! ……あ、でもどうやって公都全体を結界で覆う事が出来るだけの符を用意すればいいのか、わからないのです」

「ふふっ。ルナ、私が居るのを忘れてはいないかい? 私はこれでも伯爵だよ。符術士たちに話をして、量産するとしようじゃないか。ああもちろん、ディアーナ様の事を話すのは事が大きくなりすぎるから、上手く誤魔化してだけどね」

 悩むクーに対して、伯爵が笑いかけながらそう告げる。おお! さすがは伯爵!


「公都全体に貼るなら、私も手伝った方が良さそうだね! アルに乗れば屋根とか川とか簡単に飛び越せるし!」

「よーし、それなら私も護衛として行くぜ!」

 朔耶とリンがそう宣言する。朔耶の方はともかくとして、リン――公女が護衛ってのはどうなんだ……。っていうか、口調がいつものに戻ってるぞ。

 

「護衛はともかく……公女殿下が街――公都に()られれば、それだけで民衆が安心するという効果が得られるでしょうね。そしてその意義は決して小さくはありません」

 と、伯爵。リンの口調の変化に関しては特に気にしていないようだ。

 もしかして、さっき話しをしに言った時に地が出たか?


 ……っとと、そんな事はどうでもいいな。

 それより、たしかにリン――公女が公都にいるのといないのとでは、民衆の感情というか不安感は大分変わりそうだな。

 

「おう、そいつは大事だな! ――つーわけでソウヤ、すまねぇんだけど……エルウィンたちに、私は先に公都に戻っているって事を伝えておいてくれないか?」

「……しょうがないな。わかった、伝えておこう」

 リンに向かってそう返事をした所で、俺はふと気づく。


 よく考えたら俺以外の皆は、ルナルガントの方の対処に回るから、王都へ向かうのは俺ひとりになるんだな……と。

というわけで……ローディアス大陸への寄り道(?)は、一旦ここで一区切りとなります。

次回から、再び舞台はフェルトール大陸のディンベル獣王国へと戻ります。

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